ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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ふまるさん、hisaoさん、誤字報告ありがとうございます!

いつも楽しく読んでいただいてありがとうございます。
みなさんからの評価・お気に入り登録・感想、どれも非常に励みになっております。
これからもドラゴンボールRをよろしくお願いします。

魔王のムスメとかいう実に私好みなお嬢さんがいらっしゃるようなんですが、絶対VRとかやれないんだろうなぁという寂寥感にも似た気持ちと一緒に今日もエロ画像を探します(´・ω・`)

余談ですが【勇者のくせに生意気だ】ってタイトル聞いて「エロ同人みてえなタイトルだな」って思った人は絶対一定数いると思う。


第39話【胎動】

ベジータは今、これまでの人生で思っても見なかった瞬間に立ち会っていた。

 

自身の子供の誕生である。

 

「……」

 

無言で腕を組み、分娩室の前で待機しているベジータ。そんなベジータの様子を、微笑ましそうにブルマの両親が見つめている。

 

「不安かね」

 

ブリーフ博士がそんな彼に優しく問いかける。

 

しかめっつらだったベジータは一瞬躊躇うような表情をするも、やがて諦めたかのように力無く答えた。

 

「……ああ。かつては宇宙最強を自負したこの俺が、こんなにも自分を頼りなく感じる日が来ようとはな」

 

開いた掌を見つめ、ベジータは数年前を思い出す。

 

ブルマと出会い、紆余曲折あって彼女を愛したベジータ。

 

生まれてはじめて抱く自分以外への愛情は、ベジータを悩ませた。

 

悪として、勝手気ままに生きてきた。

 

逆らう者は皆殺しにし、フリーザに敬意を払いつつもいつかは殺してやることを誓って生きてきた。

 

……ところが、プライドを捨てたことが彼の全てを変えた。

 

勝つために悪い意味で手段を選ばなくなった。楽をすることを覚えた。自分を超える存在が現れることを恐れた。

 

保身が身に付き、気がつけば最も見下していたはずの同族に敗北した。

 

果ては力を制限されての捕虜生活である。

 

これにはさすがのベジータも参った。

 

じわじわと心を折られかねない生活。知識を収集することでそれに耐えるのも限界だった。

 

“いっそ死んでしまおうか”。そう考えたことも一度では利かない。

 

だが、最後に残ったちっぽけなプライドがそれを許さなかった。

 

サイヤ人としてでも、王としてでもない。ただのベジータとしてのプライドが、座して死ぬことを許さなかった。

 

そしてそんなとき、ブルマに出会った。我が儘で自分勝手でこちらの都合をまるで考えようともしない女。だが彼女を見ていてベジータは気づいた。彼女は自分自身だったのだと。

 

気がつけば彼女のことが頭から離れなくなっていた。

 

ギニュー特戦隊という圧倒的強者を前に、ベジータは必死になってブルマを助けに向かった。そのとき初めてベジータはブルマへの愛情を自覚し、安らぎを得た。

 

ただ穏やかに過ごす日々の心地よさが自身を戦士としてダメにしていくのを感じるも、それも悪くないと考えていた頃だ。

 

ブルマが妊娠した。

 

考えてみればもっともな話だ。日がな一日寝てることもあるようなふたりにとって、子供が出来ることなど遅いか早いかの違いしかなかった。

 

ベジータは当然産むものだと思った。しかしブルマは違った。ベジータが子供を重荷に感じるなら、その子を堕胎すると言い放ったのだ。

 

確かに彼女の言うとおり、ただ宿っただけの命に自我などない。ましてやかつて星ごと数多の命を奪ってきたベジータである。殺すだけならばそこに躊躇などないだろう。

 

だがそれが自分の血を引く者だと知ったとき、ベジータはひどく動揺した。ブルマを前にして何も言えず、しばらく固まってしまったほどに。

 

結局、ベジータはブルマが子供を生むことを認めた。そうするとまるでベジータがその返事しかしないことを知っていたかのように、ブルマは微笑んだ。見とれてしまう、惚れ惚れとした笑みだった。

 

それからも大変だった。ただでさえわがままなブルマが妊娠による不安からこれまで以上に騒ぎ立てるのだ。ベジータとて、何度キレそうになったかわからない。

 

しかし彼は耐えた。ブルマもまた、不安や不満をぶつける度にどこかベジータを傷つけていることを自覚しそれを謝った。

 

そんなことを何度も繰り返し、気がつけばあっという間に生まれる時が迫っていた。

 

ベジータは思う。自分はこのまま、弱いままでいいのだろうかと。

 

もはや戦闘民族サイヤ人としての誇りなどない。だが、父親としてならどうだ。夫としてならどうだ。ベジータとしてならどうだというのだ。

 

たしかにフリーザはラディッツが倒した。囚われたクウラもまた自身と同じように力を制限され、かつて自分を前に啖呵を切ったクリムゾンはコルド大王を従えた。

 

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そう考えたベジータの脳裏を、無惨に殺されるブルマと子供の姿が浮かんだ。

 

そんなことは耐えられなかった。かつて無情に殺戮の日々を送った彼が、生まれて初めて誰かを守る力が欲しいと願った。

 

だからこそ、ベジータの心は決まっていた。

 

(()()が生まれたならば、俺は今一度戦士に戻ろう。二度と負けない為にもな)

 

それは静かな決意だった。

 

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生まれた子供はトランクスと名付けられた。

 

抱き締めたその頼りない重さを、ベジータは生涯忘れることがないだろうと考えた。

 

今ベジータは、レッドリボン軍特設訓練場にいた。

 

クリムゾンからあるとんでもない事実を聞いたからである。

 

それは頭に付けられた緊箍児をどうにか外してもらえないか、クリムゾンに嘆願しに行った際に知ったことだった。

 

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執務室でモニター6つを相手に事務処理をするクリムゾン。何かの修行かと思わせるほどに超高速で複数のキーボードを叩き書類を作っている。

 

そんな彼の元に珍しい来客があった。ベジータである。

 

「……その装置を外したい?」

 

「ああ、頼む」

 

どこか不遜ではあったが、頭を下げるベジータのそれがもはや懇願に近い形であることにクリムゾンは気づいた。

 

だからこそ、クリムゾンはベジータに真実を告げることにした。

 

「ずいぶんと勿体ないことを考えるんだな」

 

「なに?」

 

「その装置は確かにお前の戦闘力を抑制する。だが同時に、使い方によっては潜在能力を大きく引き出すことを可能とするんだぞ?」

 

意地の悪い笑顔にベジータは固まる。

 

クリムゾンは語った。いずれ訪れる災厄に備えが必要だと。その為には圧倒的な力を持った戦士達の力がいると。

 

そこでクリムゾンは自らが認めた相手にのみ緊箍児を与えてきたのだという。名前を変えてもそれは性能が違うだけで、どれにも共通しているのがその人物の潜在能力を引き出すことができる装置であるということ。

 

「確かにお前のそれはバージョンが古い。戦闘力を調整することもできないし、禁則条件も厳しい。ましてやトレーニングなんぞすれば、簡単な運動だけで全身に激痛が走るだろう。……だがそれを乗り越え、お前が本当の意味で戦闘力をコントロールできた際にはそれは自然と外れるように出来ている。どうやらその様子では、さすがのお前も気づかなかったようだな、ベジータ」

 

笑みを浮かべて言いのけるクリムゾンにベジータはひどく複雑な感情が向くが、今重要なのはそんなことではない。

 

“強くなれる”。

 

ただその一点にあった。

 

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クリムゾンから緊箍児の本当の力を聞いたベジータは、その日から厳しい修行を己に課していた。

 

かつてとは勝手も違う低い戦闘力で、激痛に喘ぎながら基礎の基礎から鍛え直した。

 

気のコントロールも本能的なレベルではなく、もっと根本から意識を変えその力を捉えることに集約し、わからないことがあれば恥も外聞も捨てピッコロやラディッツに聞きに行った。あまりの態度の変わりようにラディッツなどは特に驚いていたが。

 

しかしベジータはひとつだけ怪訝なことがあった。クリムゾンが言っていた“いずれ訪れる災厄である”。それを聞いてベジータは真っ先に破壊神ビルスのことが浮かび、そのことを告げた。

 

破壊神ビルス。この宇宙に君臨するフリーザ以上の絶対強者であり、文字通り破壊の化身でもある。

 

しかし、それを聞いたクリムゾンは曖昧な笑みを浮かべるだけでそれを否定した。

 

そして修行を開始する直前、クリムゾンはベジータに“破壊神の領域に至れるか”と聞いた。それに対してベジータは“無論”と答えた。

 

ベジータは、クリムゾンがいずれ破壊神とも対峙するのでは。そう思わずにはいられなかった。

 

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日の光が届かないほどに奥まった洞窟に、クウラはいた。

 

湿気とわずかな生き物の気配を感じながら、彼は己の精神を研ぎ澄ます。

 

一瞬彼の周囲を気が渦巻くが、それらはすぐに雲散霧消した。

 

(……まだだ。この程度ではあのサイヤ人には、孫悟空には届かん……!)

 

クウラは先日感じた悟空の気を思いだし、彼もまた己と同じ領域に足を踏み込んでいることを理解した。

 

莫大な気を出力するのではなく、己の(うち)へと呼び掛けるようにして差し向ける高等技法。

 

クウラにとってこれを補助するためにあるといっても過言ではない戦闘力制御装置の存在は、今では無くてはならないものであった。

 

(だがこんなものに頼ったままではダメだ。いずれはコレを使わずともヤツと同じ領域へ至れるようにする必要がある。……ふっ、この俺が“修行”などという下らない行為に身を費やすとはな)

 

内心でそう思いつつも、クウラの顔には笑みが浮かんでいた。

 

戦闘力の上限を100万程度に抑えられてはいても、自身の潜在能力が日々引き出され巨大化していくのを感じるからだ。

 

このまま膨れ上がった戦闘力を順次コントロールしていけば、いずれは“神”の領域にさえ至れるやもしれない。

 

それはクウラにとって、弟でありながら自分以上の潜在能力を持つフリーザへの意趣返しでもあった。

 

(そのためには今の肉体ではダメだな。他の形態への変身を応用した“戦闘形態”でも足りないだろう。もっと、根本的に肉体構造を進化させる必要がある)

 

クウラの有する切り札である()()()()()()()()。あれはその実、他のパワーを抑制する為の形態を応用しただけに過ぎない。全身に現れる各形態の特徴がそれを示している。

 

あの状態は、フルパワーによって陥る激しい消耗を外側から押さえつけることで、本来であれば体へと大きく負担をかける通常形態のフルパワーを過不足なく発揮する為の姿であるからだ。

 

しかしそれではまるで足りない。今のパワーで同じことをしようとすれば、抑制形態の鎧は呆気なく砕けクウラの体もまたバラバラになってしまうだろう。

 

しかしその先に至る為のヒントは、皮肉にも既に弟が示していた。

 

(フリーザは、たった一ヶ月で自分の力を大きく引き出した。あれでヤツの体が完全であれば、さらなるパワーアップさえ可能であったに違いない)

 

クウラは脳裏にフリーザの黄金へと変わった拳足を思い出す。

 

肉体の末端が変化しただけであれほどに劇的なパワーアップを遂げたのだ。であるならば、それを全身に及ぼせば扱えるパワーが増えるのは自明の理。

 

そしてそれを思い描いたとき、クウラは自身の脳裏から黄金の姿へと変わった弟の姿を消す。

 

「……ふん。フリーザと同じ姿になるなど我慢ならんが、体色程度は工夫して変化させればよいか。そうだな、この俺に相応しい色。“白金”がよかろう」

 

さりげなくフリーザよりも上等な色を選択する辺りこの兄も兄である。

 

クウラは不意に時計を見る。そろそろ修行の時間の終わりであった。今日はこの後ターレスと組手である。

 

 

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一方、豊かな森のなかで巨大な熊を枕に眠る男の姿がある。

 

ターレスである。

 

一見して悟空とそっくりな彼は時折思い出したかのようにレッドリボン軍に顔を出す以外はこうして豊かな自然のなかで過ごすことも多かった。

 

ちなみに今日はクウラとの組手の予定であるが、すっぽかす気満々である。

 

この森に来ているのは、あるとき山火事を消し止めて以来森の動物達から慕われてしまったのがきっかけだ。彼の横には小型のドラゴンであるハイヤードラゴンが眠っている。

 

すると、不意にターレスの上を大柄な影が遮った。

 

「……ん? 誰だお前」

 

「……気にするな。ただ散歩の最中に寄っただけだ」

 

そう言ってターレスの対面に巨漢が座った。オレンジ色のモヒカンヘアーと、黄緑色のアーマーが特徴的である。

 

なぜかアーマーの胸元が削られているが、ターレスは特別気にすることはなかった。

 

それからしばらくの時間を、お互いは無言で過ごした。

 

ターレスは気も感じない目の前の相手を警戒したが、自然や動物と触れあうのを心底楽しげにする彼に邪気がないことを察すると、警戒する素振りさえ見せずに再び寝転がった。

 

──やがて日も暮れかかった頃。不意にモヒカンの巨漢からアラームのような音が鳴ると、彼は立ち上がり未だ寝ぼけたターレスを見下ろして告げた。

 

「クリムゾンに伝えろ。災厄が迫っていると」

 

「なにっ!?」

 

それだけを告げ、ようやく戦士としての顔に戻ったターレスを置き去りに()()()()()()()は飛び去った。

 

 




愛の戦士ベジータ誕生。このベジータは言うまでもありませんが親バカです(笑)

そしてプラチナクウラへのフラグが立ちました(´・ω・`)
歌舞伎rocksさん、色の予想お見事です(笑)

でもって登場人造人間16号。彼と彼女がどういう立場なのかは次回以降いよいよ始まる人造人間編に好ご期待。

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