ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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過去編。セルによって滅ぼされた時間軸。


第41話【退廃】

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荒れ果てた西の都。そこにあるのは明確な“死”であり“滅び”である。

 

そんな、人類の絶えた地球の一角にて激しい戦闘が行われていた。

 

「はあっ!」

 

ターコイズの肌にオレンジ色の長髪。素肌にまとったコート、頭にまいた黒いバンダナ。首から下げた複数の装飾品が目立つ、どこか海賊のような格好をした男──ボージャックは、目の前の緑の肌に斑を浮かべた黒い甲殻を纏った異形──セルを相手に果敢に攻めかかっていた。

 

「おのれぇ! 化け物がっ!」

 

「ぬるい、ぬるいぞ! どうした、もっと攻めてこい!」

 

煽るセルは自身に迫るエネルギー弾を無造作に弾きながら、先程まで対峙していた他の連中よりもボージャックが数段上にあることを認識して笑みをこぼす。

 

セルは思い出す。孫悟飯との激しいかめはめ波の撃ち合いの末──勝ったときのことを。

 

あれからその場にいた戦士らを皆殺しにし、地球を新たに産み出したセルジュニアによって破壊し尽くしたセルは、その後の目的を失ってしばし途方に暮れた。

 

もはや広い銀河に自分以上の存在はいないと自負できてしまっただけに、やることを見失ってしまったのだ。

 

それから10年、セルはカプセルコーポレーション跡地から発見したコンピューターとドクターゲロの研究所地下のコンピューターを合わせて復活させた。

 

それからはわずかに残っていた人類を捕らえ、自身の楽しみの為に人造人間製造の実験を繰り返した。

 

ほとんどが死んでしまったが、唯一生き残った女にセルは人造人間21号の名を与えて飼うことにした。

 

彼女はことのほか優秀で、バラバラになった残骸から人造人間16号を改修復活までして見せたほどだった。

 

だがそれだけである。彼女自身のパワーも確かに()()()()ではあったが、とてもセルの満足が行くものではない。

 

そこへやってきたのが、かつての孫悟飯との戦いにおける巨大なエネルギーに興味を引かれやってきたボージャック一味であった。

 

バラけて地球を調査していた一味の一人であるモヒカン頭に口髭を生やした男──ビドーを捕らえたセルは、彼を尋問しボージャック一味ことヘラー一族について知った。

 

かつて、銀河を荒らし回ったヘラー一族の首魁にして最強の男ボージャック。彼は東西南北の銀河を順に破壊し尽くさんと企み、それを事前に察した界王達によって銀河の果てにある星に封印されたのだという。

 

ビドーのエナジーを吸い付くし、つかの間の()()を終えたセルが次に狙ったのは何を隠そうボージャックその人であった。

 

ビドーがやられたことを察したボージャックは一味を集めてセルの奇襲に備えていたが、それらが意味を為すことはなかった。

 

セルジュニアらに襲われたからである。

 

セルによって余興とばかりに生み出されたセルジュニアら数体は、圧倒的な実力差でもってボージャックらを追い詰めた。

 

しかもセルジュニアらはセル自身がパワーアップしていたこともあり、あっという間にボージャック以外の全員を捕らえてしまう。

 

そうして強制的にセルと一対一の戦いに持ち込まれたボージャックであったが、その実力差はいかんともし難く、徐々に追い詰められつつあった。

 

「ぬおぁ!」

 

肘、膝と連続でセルに叩きつけるボージャック。一撃ごとに渾身の力が込められたそれはコートを弾けさせ、ボージャックはボロキレと化したそれを吹き飛ばすように体内のエナジーを高め一気に()()する。

 

「……ほう。これは嬉しいサプライズだな」

 

明らかに跳ね上がったボージャックの戦闘力を前にしてニヤリと口角を歪めるセル。

 

「ほざけっ! さっきのようにはいかんぞ!!」

 

髪の色を赤に、体色を黄緑に変色させたボージャックは隆起した筋肉を誇示するように両腕を広げて構える。

 

「はあぁぁぁっーー!!」

 

両腕に溜めたエナジーを球状にすると、ボージャックは続けざまに連続でエネルギー弾をセルへと発射する。

 

「ぬおぉっ……!!!」

 

真正面から身構えていたセルは次々と命中するそれに打たれ続け、目に見えてセルは追い詰められていく。

 

「はっはっはっはっ! どうした化け物! さっきまでの威勢はどうしたのだっ!!」

 

エネルギー弾を発射しながら哄笑するボージャック。

 

「とどめだっーー!」

 

空中でよろつくセルへと向かって特大のエネルギー弾を撃ち込むボージャック。爆煙が晴れた先には、片腕を肘から先より吹き飛ばされたセルがいた。

 

「はっはっはっはっは! 無様なモノだな!」

 

「ち、ちくしょっー! こんな、こんなことがっ……!!」

 

欠けた腕を押さえ呻くセルに対し、笑い声をあげ続けるボージャック。

 

しかし彼が笑えているのもほんのわずかな間だった。

 

「……なーんちゃって」

 

「なにっ!?」

 

()()をやめたセルは即座に失った部位を再生すると、ボージャックに向き直る。

 

「やれやれ、傲慢な性格をしたヤツというのはすぐに馬鹿笑いをあげるのだな。だが、少しは楽しめたぞ」

 

言うなりセルは伸縮自在の尻尾によってボージャックの腹を貫く。

 

驚愕のままに大ダメージを負ったボージャックは、苦しげに呻きながら目の前の存在を睨み付ける。

 

「ごふっ……! お、おのれぇ……! この俺が、貴様のようなわけのわからない輩に……!!」

 

「ふふふ……! 実に威勢がいいな。よし、いいことを考えたぞ」

 

セルは一息に尻尾を引き抜くが、ボージャックは消耗したエナジーに加えてダメージを負った体であるために満足に立ち上がることもできない。

 

「ボージャックと言ったな。なかなかに楽しめた礼だ。惜しむらくは、貴様の実力があと数段上であればもっと楽しめたのだがな? ふっはっはっはっは!」

 

セルは徐に尻尾の先端を大きく口のように開く。ボージャックはそれを見て最悪の可能性が過りどうにか抵抗しようとするが身動きが取れない。

 

「さあ! 私の一部となって生きるがいい!」

 

「や、やめろぉ……!!」

 

手下の前で無惨に飲み込まれていくボージャック。

 

その光景を、ザンギャ、ブージン、ゴクアの三人の手下が震えながら見ていた。

 

「……ふむ。思った以上にパワーアップできないな。何か違った要素が必要なのかもしれん」

 

セルは吸収したボージャックの能力を精査しながら無造作に三人のヘラー一族へと近づいていく。

 

「あ……ああ……!」

 

ザンギャはゆるいオレンジ色の髪を怯えから揺らす。仮に相手が人間型の生き物であれば媚を売って生き残ることもできたであろうが、残念ながらどんな手段も彼女が生き残るには不足していた。

 

「お願い……! なんでも、なんでもするから!」

 

それでも懇願せずにはいられない。一片の慈悲を期待して。こんな結末は嫌だと否定したくて。

 

──しかしセルは生殖行為を必要としない。ゆえに彼女が“女”であることはなんの強みでもない。

 

そして無情にも、彼女の願いはセルの尻尾が彼女の胸に突き刺さったことで裏切られた。

 

「それは実に献身的な申し出だな。では遠慮なく、貴様のエナジーを吸い付くさせてもらおう」

 

「こ……! か、かはっ……!」

 

「ひ、ひいっ!」

 

「嫌だっ! こんな死に方は嫌だあ!」

 

あっという間に中身を溶かされ、皮も残さずエナジーを吸い付くされたザンギャを見て、ターバンを巻いた小柄なブージンが怯え、剣を携えたゴクアがセルジュニアの拘束から抜け出そうともがく。

 

「慌てるな、諸君らも残さず吸い付くしてやるからな」

 

──彼の食事が終わった後、そこには人の形に落ちた服だけが残った。

 

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それから更に時間が経った。

 

セルは人造人間21号にタイムマシンの研究をさせていた。いよいよこの宇宙に興味がなくなれば、過去へと跳んで手ずから強者を育てるためである。

 

あれからも引き続き地球を拠点としたセルだったが、彼は特別宇宙を蹂躙したりはしなかった。しかしそれは彼が感知できる全銀河において、彼以上の強者がいなくなってしまったことが大きい。

 

一度だけ大きな気を感じたことがあったが、なんらかの事故にでもあったのかそれはすぐに消えてしまった。

 

セルは退屈だった。どれだけ強くなっても、それを試す相手すらいない現状においては彼を楽しませるものは存在しなかったからだ。

 

数度、21号によってかつての完全体ほどにパワーアップさせた人造人間16号を相手に戦ってみたが、それさえももはや片腕で制圧できるほどの強さを手にいれてしまった。

 

そんなある日のことだった。地球に、二人の異邦人がやってきたのだ。

 

ひとりは白いモヒカン頭に紫の肌をした小柄な少年のような男。もうひとりは、長い白髪に齢を感じさせる皺を重ねた桃色の肌をした老人。

 

「……ひどく荒れ果てた星ですね。ここが地球ですか」

 

「こんな辺境の星にあの“魔人ブウ”が封印されているというのですか」

 

セルは進化した聴力によって遥か遠くから二人の声を聞くと、あえて彼らに友好的に近づいた。

 

“地球は過去に災厄が訪れて人間が滅んでしまった”と伝えて。

 

自身の気の性質をコントロールすることなど容易いセルは、界王神の目すらも欺き彼らに協力することにした。界王神はセルの魂を見通せなかったことにやや違和感を抱いたが、魔人ブウに関心を寄せていた為にそれほどそのことを気にしなかった。

 

──それが後程命取りになることも気づかずに。

 

セルは21号と16号を秘密基地に待機させたまま、界王神らと行動を共にした。

 

地上にほとんど何もなかったことが幸いしてか、魔人ブウという古の災厄を甦らせようとする邪悪な魔導師バビディの宇宙船はすぐに見つかった。

 

というのも、セル自身はそれが地球へやってきたことに気づいていたからである。なにか企んでいたのは知っていたが、それが自分を楽しませるものだと薄々察していたセルは黙って見過ごしていたのだ。

 

正面突破を提案したセルは、まず暗黒魔界の帝王だというダーブラと戦った。

 

かつての自分と互角の強さを持つ相手だったが、唾を吐くことで相手を石化させるという能力以外は大したものではなかったのであっさりと倒してしまった。……殺さなかったのは後程その能力を吸収することで取り込もうと考えたからである。

 

他にも何匹か雑魚が現れたが、セルの敵ではなかった。

 

やがて魔人ブウを封印する血管が浮いた玉のような場所にたどり着くと、それの前に子供のような口調で叫ぶ小さな魔導師バビディがいた。

 

彼は言った。

 

「あと少しで魔人ブウ復活のエネルギーが貯まるのに~!」

 

と。

 

そこでセルは魔人ブウが封印されている玉へと手を添え、エネルギーを注いでやることにした。

 

慌てた界王神が止めようとしたが、すでに用がなくなっていたので付き人のキビトという老人ごとセルは殺した。

 

そうして満を持しての復活を遂げた魔人ブウだったが、セルにとって厄介だったのはその不死性のみであった。

 

粉微塵になっても復活する魔人ブウに辟易したセルは、相手のエネルギーを吸収する“赤い糸の結界”を張って身動きを封じると、魔封波によってその身を封印した。

 

気で完全に消滅させてもよかったのだが、それではこの先も続く生涯において楽しみがなくなってしまう。

 

手加減せずとも早々死なない魔人ブウは、いまやセルにとって手軽な暇潰しと化してしまったのだ。

 

その後、セルはいよいよ宇宙へと進出した。いくつかの星々を渡り歩き、気に入らないものがあれば破壊した。

 

ツフル人の遺産も、幻魔神ヒルデガーンも、どれも彼の敵にはなりえなかった。

 

やがてセルは“宇宙のすべてを知る”ズノーという存在の元へとたどり着く。

 

そこでズノーを脅してセルは驚愕の事実を知った。

 

自身の細胞のオリジナルとなった人間がいること。その人間が地球人としては最高レベルの人造人間適性を持つこと。自身がどれだけ強者を取り込んでも一定しかパワーアップできないのは、その男の細胞が足りないこと。

 

セルは飽くなき闘争本能によってより強くなることを常に望んでいた。

 

しかし自身が究極のパワーアップを遂げる為に必要な相手はすでに死んでいるという。

 

そこでセルは思い出した。ずっと以前に研究させていたタイムマシンの存在を。

 

それによってセルは跳ぶ。己のルーツが生きている世界へと。果てしない野望を乗せて。

 

 

 

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つーことでセル編完!(嘘です!)

ボージャックとセルのくだりは一部スーパーメタルクウラ伝参考にしました。というか書いてたらそうなってたでございます(´・ω・`)

あのセルがどこから来たのかはこういうことでした。このセル、悟飯に勝ってからも強くなり続けてえらいことになってます。でもって界王神を先に殺せたり、ブロリーが事故死してたりと地味にラッキーだったり。なおズノーから界王神と破壊神の秘密を知って後悔してる模様。

次回はいよいよセルゲーム。ちょっくら短く感じるかもですが、たぶん後数回で人造人間編は終わるかもです。

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