ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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hisaoさん、誤字報告ありがとうございます。

なお今回のタイトルの意味を調べると本編がまた違った味わいになります(´・ω・`)


銀河最強決定戦編
第48話【蠢動(しゅんどう)


魔界。それは地上とは異なる場所であり、異空間でもある。

 

そんな宇宙において無数に存在する魔界のひとつにおいて、ひとりの女科学者がポッドの中に浮かぶ()()()()を起動しようとしていた。

 

薄水色の肌に、白い髪。人型種族としての特徴を備えた彼女だが、最も特徴的なのはその尖った“耳”だろう。

 

さらにその耳の先にあるモノ。その名をダークポタラという。界王神が持つ秘宝と逆のベクトルで作用する力を秘めたこのアイテムは、魔界王神でもある彼女にとって自らの身分を証明するものでもある。

 

魔界王神を就任することで初めて力を発揮できるこの耳飾りだが、現状彼女はこの耳飾りの力を使うつもりはなかった。

 

ゴポゴポと保存液が抜けていく音が響き、カプセルの中に納められていたひとりの男が目を開く。

 

「……問おう、貴女が俺のマスターか」

 

「ええ、そうよ。貴方の名はミラ。私の下僕よ」

 

「承知いたしました」

 

ポッドを出て即座にその場に跪くミラを見て、科学者であり魔界王神でもある女──トワは満足げな笑みを浮かべる。

 

「や、やった! 完全に起動した! ははっ! 私はとうとうドクターゲロを超えたぞ!!」

 

そんな彼女の後ろで喜ぶ太った男の姿がある。彼はかつてドクターゲロの助手であったが、機密保持を理由にクビになった男でもある。名をジョッシュといった。

 

そんな彼の醜く歪んだ笑顔を眺めて、トワは内心で蔑む。

 

そもそも彼自身が開発した技術は何一つなく、トワが彼を魔界へ誘ったのもドクターゲロの人造人間に関する技術を多少なりとて知っていたからに過ぎない。それとて、色々と足りなかったものはトワ自身が研究してミラを完成させたのだ。断じて、こんなデブがドクターゲロを超えたなどということはない。

 

「……ええ、貴方のおかげよジョッシュ。せっかくだから、ご褒美をあげるわ」

 

「ほ、本当ですか!!」

 

太った男、ジョッシュは艶然と微笑むトワの唇を見つめ、欲情しながら彼女からの褒美を期待する。あわよくば、一晩彼女を思うがままにしたいという期待を胸に秘めて。

 

「ええ、栄えある人造人間の犠牲者第一号にしてあげる。ミラ、この醜男を消して」

 

笑顔から一転、トワの顔が冷たく鋭い表情に変化すると共に、ジョッシュの顔が歓喜から絶望へと変わる。

 

「ま、待ってくださいっ! わわ、私が死ねば人造人間のメンテナンスが!」

 

「本当に貴方なんかが必要だと思っているの? 残念、もう用済みよ」

 

「い、いやだ! 死にたくな──ひぎゃあああああ!!!!」

 

ミラの手から放たれた赤い光線によって全身を消し飛ばされたジョッシュの魂は、哀れなことに今後も暗黒魔界のひとつでさ迷うであろう。後悔に苛まれながら。

 

「さあ、行くわよミラ。お兄様を取り戻しに」

 

「仰せのままに」

 

暗黒魔界を支配する神が、地上へと乗り出す準備を終えた瞬間だった。

 

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西の銀河にある辺境の星にて、とうとうスラッグの居所を掴んだコルド大王は彼との一騎討ちに挑んでいた。

 

「おのれコルド大王!! よくも俺の部下を!!」

 

「はっはっは! 役立たず共では貴様の盾にもなれんかったなあ!!」

 

すでにスラッグ軍は、コルドの率いてきたフリーザ軍とコルド自身によって壊滅していた。

 

コルドはかつてのクウラのように常に通常形態でいられるほどにパワーの制御を極め、さらには勇者の鎧と剣を装備することによってその戦闘力を大幅に上げていた。

 

──ザンッ!──

 

コルドの剣閃がスラッグの肩口を襲い、その太い腕を切り落とす。

 

“代替わり”によってコルド大王と変わらぬほどの大きさに成長したスラッグだったが、未だ成長過程にあるその肉体は彼と戦うには若すぎた。

 

「そらそらそらっ! 早く再生せんと間に合わんぞっ!!」

 

「ぐううう……!!」

 

若きスラッグは必死にエナジーを高め防御力を上げるが、コルドの装備は不壊金属とも呼ばれるカッチン鋼を鍛えた勇者の剣である。それを前にただ耐久力をあげたところで、なんの意味もない。

 

遂にスラッグは四肢を全て切り落とされ、ダルマのごとき状態となって地面へと横たわる。

 

「おのれ……! 時間が、時間さえあれば貴様なんぞぉ……!!!」

 

「残念だが、もはや貴様の寿命は尽きたのだ。大人しくワシの土産となるがよい!!」

 

怨嗟の声をあげるスラッグへ、その首を跳ねようと剣を振り下ろすコルド。

 

しかし剣閃は、横合いから突如襲ってきた緑色のエネルギー弾によって防がれた。

 

「何奴だ!!」

 

剣を構えスラッグから距離を取り、コルド大王は闖入者へと誰何の声をあげる。

 

「……フッフッフ、そこの男は俺が預かろう。バビディ様への“土産”としてな」

 

「ヘラー一族だと!? 馬鹿な、どうやって封印を解いたというのだ!!」

 

コルド大王は自らと対する者の姿を見て驚きの声をあげる。

 

ターコイズの肌にオレンジ色の長髪。素肌にまとったコート、頭にまいた黒いバンダナ。首から下げた複数の装飾品が目立つ、どこか海賊のような格好をした男。

 

彼の名はボージャック。その額には“M”の文字が踊っていた。

 

(むう……!  こやつ、ワシよりも強い……!)

 

ボージャックの強さを見抜いたコルド大王の行動は早かった。彼は腰に下げたポーチからレッドリボン軍製の特殊閃光手榴弾を取り出すと、持っている4個をすべてボージャックへと投げつけた。

 

迎撃するボージャックだが、途端に辺り一帯を眩い閃光が襲う。視界を潰されたボージャックは奇襲を警戒し身構えるが、どれだけ経っても攻撃が来ない。

 

気がつけば、コルド大王は宇宙船に乗って逃亡していた。

 

「勇者ともあろうものが逃げの一手とは、さすがに読めなかったな。だがまあいい、土産は残されたのだしな」

 

「き、きさまは一体……?」

 

血を吐き、瀕死の重傷ながらスラッグは事態がまるで好転していないことに気づく。

 

「誇りに思え、貴様を栄えあるバビディ様の忠実な僕へと変えてもらう」

 

そう言って笑うボージャックの後ろから、ひとりの魔導師が瞬間移動で現れる。黄土色の肌をした小柄な体に、頭部と眼球が大きくローブとマントを纏った彼の顔には、ひどく嫌らしい笑みが浮かんでいた。

 

「ちぇ、アイツも僕ちゃんの手下にしようと思ったのに。まあいいや、そこの緑のヤツだけでも」

 

宇宙の辺境で、邪悪の胎動が始まっていた。

 

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『たったたた、たた大変じゃ~~~~!!!』

 

慌てた様子で地球にいる悟空へテレパシーを送ってきたのは界王。彼の慌てふためく声を急に聞かされた悟空は、驚いて喉に食事を詰まらせる。

 

「んんっ!! んぐぐぐ……ぷはあっ!! 界王様、びっくりさせねえでくれよ!」

 

突然叫び出した夫に驚くこともなく、冷静に水を差し出すチチからコップを受け取り飲み干す悟空。

 

「ふう~、一体どうしたんだよ界王様。まあ落ち着けって」

 

朗らかに笑う悟空の様子を見て触覚を揺らしヤキモキする界王。彼の明るさは救いではあるが、焦る界王には逆効果である。

 

『これが落ち着いとる場合かっ!! いいか、よく聞けよ悟空。その昔銀河を荒らし回ったヘラー一族という連中が「チチ、このエビフライうめえな!」話を聞かんかっ!!』

 

話が長くなりそうなのを悟った悟空はひとまず腹ごしらえをしようと考えたのだが、そのことがさらに界王を怒らせてしまう。

 

『待て界王。俺が話を聞こう』

 

「あり? クリムゾンのあんちゃんか?」

 

『そうだ。やかましい声が聞こえてきたんでな』

 

テレパシーによって界王と悟空の会話に割り込んだのはクリムゾンであった。

 

界王はようやくまともに話が聞いてもらえるかと安心するのもつかの間、クリムゾンの状況を見て固まる。

 

『ま、真っ昼間からなにしとんじゃお主は!?』

 

『営んでいた。そもそも今日俺は休日だ。何をしていようと自由だろう』

 

『いやせめて奥方の方だけでも隠してもらえるとワシとしては刺激が強いというかなんというか……』

 

『見るな、ぶっ飛ばすぞ』

 

『いやあの、ワシ界王じゃよ? 偉いんじゃよ?』

 

『知るか。さっさと用件を話せ』

 

にべなく断ぜられた界王は渋々会話を再開する。なぜ自分が報告するような形になっているのだろうと考えながら。

 

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話を聞き終えたクリムゾンはさっさと界王とのテレパシーを切ると、冷蔵庫から瓶ビールを取りだし指で栓を抜くと、一息に半分ほど呷る。

 

「……ヘラー一族のボージャックか」

 

界王からのテレパシーによれば、かつて銀河を荒らし回った荒くれ者らしい。セルの記憶で知ってはいたが、封印が解かれたというのがクリムゾンの気になる部分であった。

 

だがそれを聞いたクリムゾンの正直な感想は“それがどうした”であった。

 

現状、地球の戦力は過剰どころではないほどに充実している。

 

油断するつもりなど微塵もないが、セル化した自分を初めとして、サイヤ人だけでもラディッツ、悟空、ベジータ、ターレスの四人。ナメック星人は最強のピッコロを筆頭に数人がレッドリボン軍の医療班として勤務しており全員が回復術を使うことができる。

 

また人造人間においては、今回の件を糧に14号を量産化することが決定した。まだ書類上での話ではあるが、予算は今後の武闘大会を当てにしている。

 

他にも非常時の戦力として17号、18号、21号がいる。中でも21号は普段研究員としてレッドリボン軍に勤めており、引退したドクターゲロの跡を継ぐ形になっている。

 

そして人造人間16号。セルとクリムゾンが一体化した今、最強の人造人間として君臨していた。その驚異の能力を公開するのはまだ先になるが、現状で彼を正攻法で倒せる戦士が存在しないことは確かである。

 

そこまで考えて、クリムゾンはあることを思い出し再び界王へとテレパシーを繋ぐ。

 

『おい、界王』

 

『ぬわ~! お、おどかすなクリムゾン。というかお主、今どうやってわしに繋いだんじゃ……?』

 

『無線と同じでチャンネルを合わせただけだ。無防備にテレパシーを送ってきているようだから今後は気を付けろ。そちらは一応“あの世”だったか?』

 

『いやまあそうなんじゃけど相変わらずとんでもないのう……。で、わざわざもう一度わしに話しかけて何の用事じゃ』

 

『大したことじゃない、界王神に会わせてくれ。“魔人ブウ”のことで話があるとな』

 

大事(おおごと)じゃろが~~~~!!!』

 

クリムゾンは横で眠るバイオレットの頬を撫でながら、自身の体内に回収した魔人ブウ入りのカプセルについて想いを馳せるのであった。

 




ミラに関しては、公式設定がほとんど見当たら無かったので勝手に色々付けさせていただきました。あの見た目的に没設定な気がするんですよね~。
あ、トワの素材はそこまでスゴくないです。サイヤ人とかもちょびっとは使ってますけど。まあ集められて毛とかですので。ち○この毛ではないです(このネタわかるヒトはいるだろうか(笑))
でもあいつ魔族(?)なのにどの辺が人造人間なんだろう……
あ、ちなみにクリムゾンは松葉崩ししてました(´・ω・`)
では次回予告です。


訪れた宇宙の管理者。
迎えるは辺境の魔王。
そして魔王は、大王へと命を下す。
次回【号令】。全宇宙の、強者に告げる。

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