ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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Deenaさん、時計かるたさん、誤字報告ありがとうございました。

個人的に次回予告書くときはスクライドのアレ流してます(´・ω・`)デケデケデケデケ


第54話【英雄】

ヤコンの自爆程度で武舞台はビクともしなかったが、バリア装置が展開された影響から念のため点検が行われることとなった。

 

再び工兵部隊がRR-04を装着し数百人同時に飛行しながら一斉点検を行う。その際異常が見つかれば、すぐに修繕班が向かい対処する手筈だ。

 

そうしている間に控え室にいる面々は、これまでの勝負を振り返りながら仲のいい面子はお互いに今後の闘いに向けて意見を交換しあうなどしている。あまり戦いに関係ない意見が大半だが。

 

「頑張ってね、16号♪ 私の(カタキ)を討ってね!」

 

拳を握りしめて鼓舞する21号に笑顔で応援された16号だが、その視界には彼女の後ろから無表情でこちらを見るクリムゾンの姿が捉えられている。

 

殺気すら出していないにも関わらず、その視線がまるで首を落とす寸前の処刑人に見えて、ヴォミットは感じるはずの無い寒気を感じとっていた。

 

「ハ、ハハ! ま、まあそれなりに頑張るよ」

 

下手なことを言えばまた“ぶるああああ”となりかねないクリムゾンに気を使いながら21号との会話を楽しむ16号。存在しないはずの胃がキリキリと痛む気がした。

 

かたやその側では、隣の冷戦を見ないことにしたクリリンが悟空に絡んでいた。

 

「なあ悟空、切り札ってなんだよ。俺とお前の仲なんだし、教えてくれたっていいだろぉ?」

 

どこかじゃれるように悟空の首に腕をかけるクリリン。悟空はそんな親友に困ったような表情で対応する。

 

「ん~、いや教えられるもんじゃねえんだよ。オラもなんて呼んでいいかわっかんねえしな」

 

「なんだそれ? まさかぶっつけ本番かよ」

 

「ああ、たぶんそうなる」

 

悟空を心配するクリリンだったが、返事する自信に満ちた表情からそれは杞憂だと悟る。

 

すると、そんな和やかな雰囲気が気に障ったのかひとりの男が近づいてきた。ボージャックである。

 

「随分と仲がいいことだな。甘ちゃん同士、せいぜい譲り合って勝ち残ってこい。最後に勝つのはこの俺だからな」

 

「……なんだぁ、お前」

 

侮蔑の視線を隠そうともしないボージャックを相手にイラつきながら睨み付けるクリリン。しかしそんな彼の肩を、細い美しい手が掴んで止めた。

 

「やめときな、クリリン。こんなところで暴れたら迷惑だろ」

 

「あ、ああ、うん! ごめんね、おっかない雰囲気出しちゃって」

 

クリリンを止めたのは、淡い金髪が特徴的な美女18号である。近接戦闘があまり得意でなかった彼女は、レッドリボン軍に泊まりがけでトレーニングをしに来たクリリンから格闘の手解きを受けており、少しだけ親しい関係を結んでいる。なおクリリンは彼女に一目惚れしていた。

 

「別に。それより次、試合だろ。精々頑張りな」

 

「おう! そりゃもう張り切っちゃうさ! 秒殺だぜ!!」

 

あからさまなクリリンの様子に周囲から生暖かい視線が送られる。悟空でさえ親友の恋路に気を使い、思わず彼の気持ちを代弁しようとした悟飯の口を塞いでいた。

 

……それを見つめるクリリンの対戦相手であるブージンは、この後どれほどに残酷な目に遭わせてから殺してやろうかと考え微笑していた。

 

 

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クリリンと18号の出会いは、大会開催の三ヶ月前に遡る。

 

界王拳を完成させたクリリンは、その力に慣れるためレッドリボン軍のデンジャールームを選んだ。そこで、クリリンは天使と出会ったのだ。

 

蹴りを、突きを、虚空へ向かって遠慮なく振るう18号。汗を流すその姿に、クリリンは見惚れた。宙を舞う汗の滴がまるで彼女をより輝かせているように見えて、そこから目が離せなくなった。

 

10分ほど見ていただろうか。クリリンは、自身もまた達人であるがゆえに彼女の格闘の拙さに気づくことができた。

 

性能任せとでもいうのか、どこか自分のパワーに置いていかれている感覚を覚えたのだ。

 

だが見惚れるほど美しい彼女に、ましてや女性とまともに話したことのないクリリンは話すきっかけが掴めず百面相をしながら戸惑っていた。

 

「……いい加減見られてるのウザったいんだけど、何か用なのおっさん?」

 

汗をタオルで拭きながら、18号が振り向く。スポーツウェアに浮いた珠の汗が、汗で張り付いたシャツが、クリリンの煩悩を刺激し彼を悩ませる。

 

しかしここを逃せば自分は不審者で終わってしまう。そう覚悟を決めたクリリンは、自分の得意分野で話題を振ることにした。格闘である。

 

「えっと、まずは見惚れててごめん。さっきから見てたんだけど、なんだかその、苦戦しているようだったから助けになれたらって、その、えっと、うん、思ったんだ、はい」

 

しどろもどろである。18号はわけがわからないといった風になりつつも、自分の内側にあるモヤモヤが少しでも晴れればとクリリンに質問する。表情は変わらなかったが、彼女は彼女なりに悩んでいた。

 

「……あんたなら何とかできるの?」

 

そんな風に素直に尋ねることができたのは、彼女が永久エネルギー炉の出力以上に体を動かしていた影響で肉体的な疲労が溜まっていたのと、クリリンの純朴な態度ゆえだろう。

 

クリリンも、格闘でのことなら誰よりも詳しい自信があった。ゆえに、さきほどから見ていた18号の欠点をはっきりと認識している。

 

「そうだな、もう少し見てみないとわからない部分もあると思うけど、六割くらいなら動きを把握できたからそれなりには教えられると思う」

 

「へえ……それじゃちょっと遊ぼうよ。あたしが勝ったらあんたは何でも言うことを聞く。負けたら……思い付かないから好きにしな。それじゃ、行くよ!」

 

「いいっ!? ちょちょちょちょちょっ!!」

 

一方的な宣言に困惑するクリリンだが、彼女は止まるつもりなどなかった。

 

「はあっ!!」

 

「ぐあっ……!」

 

正面から来た拳を、クリリンは咄嗟に腕を交差させて防ぐ。圧倒的なパワーだが、どうにか界王拳の限定発動が間に合っていた。

 

「なに、それ?」

 

「え、これかい? これは界王拳って言って──どおわっ!?」

 

説明を始めたクリリンの隙を突くように、18号の長い蹴り足が鼻先を掠める。クリリンは自身の異様に低い鼻に助けられたと思いながら、全身に界王拳を励起させ18号を迎え撃つ。

 

「はっ!」

 

「てやぁ!」

 

激しい打撃。その威力は以前戦ったセルジュニアよりは劣るものの、鋭く細かい打撃はそれだけでダメージを蓄積させる。

 

18号は勝ちを確信する。ついでに目の前のハゲが奴隷として自分の小間使いとしてせっせと働く姿も想像して、しばらく楽ができると笑う。

 

だが彼女は気づいていなかった。わずか10分で彼女の動きを六割見抜いていたクリリンが、ほんの数分の応酬で彼女の動きを全て見切っていたなどとは。

 

「よっと!」

 

「え!?」

 

無造作に繰り出された拳を掴んだクリリンは、彼女の打ち込んできた運動エネルギーを利用してくるりと半回転させる。

 

驚いた彼女は無防備に脳天から叩きつけられそうになるが、クリリンはそんな彼女をさらに半回転させ横抱きに抱き抱える。いわゆる、お姫様抱っこの体勢であった。

 

「大体悪いところはわかったよ。とりあえず一ヶ月くらいかけて悪いクセを直していこうか」

 

ニカリと笑うクリリンの笑顔に、18号は照れてしまう。しかも気がつけば彼女はお姫様抱っこ中である。羞恥心が増し、彼女は慌ててクリリンから降りようともがく。

 

「バカ! さっさと下ろせ……!」

 

「あ! ご、ごめん!!」

 

慌てて彼女を立たせるクリリン。心底申し訳なさそうに謝る自分より背の低いおっさんの謝罪がおかしくて、18号は笑った。

 

「ふふ……! あはははははっ……!!」

 

「ど、どうしたんだい!? 俺、なにかおかしいことをしたかい!?」

 

「あっはっはっはっはっは!」

 

キラリと光るハゲ頭。18号の爆笑は、しばらくしてやってきた17号がからかってくるまで続いた。

 

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点検の済んだ武舞台はついでとばかりに細かい修繕も済まされ、はた目には新品と変わらぬ状態へと戻っていた。

 

『さあ激闘が続く銀河最強決定戦!! 続いてはスーパーコップクリリン選手対ヘラー一族の魔術師ブージン選手です!!』

 

アナウンサーの声に従うように武舞台中央のエレベーターが迫り出す。そこから、お互いに同じ程度の身長をしたクリリンとブージンが出てくる。

 

「ほほほ……!! せいぜい痛ぶって殺してあげますよ!!」

 

「やってみろ!」

 

開始(はじ)めいッッ!!』

 

開始宣言と同時に、先手を打ったのはブージンだった。両手から時折見える程度の細さをもった“赤い糸”を繰り出し、突っ込んできたクリリンを捕らえようとする。

 

「気円斬!」

 

しかしクリムゾンと組手を交わした際にその技を知っていたクリリンは、自身に触れる前に糸を全て切断。さらには出現させた気円斬をブージン目掛けて投げつける。

 

「くっ!」

 

皮一枚の距離でどうにか躱したブージン。しかしその間に界王拳を発動したクリリンは、すでにブージンの懐まで潜り込んでいる。

 

「そらぁ!!」

 

「ごっ!?」

 

腹部への強烈な一撃。ブージンは受け身を取ることも出来ず空中へと飛んでいく。クリリンは界王拳発動中の独特な風切り音を発しながら空を舞うブージンを追い越すと、その背中へ強烈な肘鉄を食らわせ武舞台へとめり込ませた。

 

「が、がはっ……!」

 

血を吐き少しの間痙攣したブージンは、すぐに動かなくなった。

 

『ブージン選手戦闘不能と見なします! クリリン選手の勝利です!!』

 

「っしゃ!」

 

小さくガッツポーズを取るクリリン。彼の目標は親友と勝負し、このまま勝ち越すこと。現在彼と悟空の戦績は、クリリンが勝ち越していた。

 

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虹の道を作りながら空を駆けるバイク。異様な光景である筈のそれは、()()()を観に行った子供達からすれば夢が現実に現れたに等しい光景である。

 

枝角が特徴的なホーンライダーのバイク、バトルアントラーには幾つかの特殊機能が搭載されているが、これはその機能のひとつである。その名も“レインボーロード”。

 

虹色に輝くレインボーロードは、気を物質化する研究を進めていたクリムゾンが引退前のドクターゲロと共にパワードスーツの装備に組み込めやしないかと共同開発した試作機能でもある。

 

アスファルト程度の強度しか持たせられず持続時間も短かったが、バトルアントラーの新機能に搭載する分には、派手な見た目という特徴からも十分と言えた。

 

なおホーンライダー劇場版において、ホーンライダーが単身暗黒総統イグサーの空中城塞へと突入するシーンで初お披露目となったレインボーロードだが、同日発売のDXバトルアントラーが即日完売となるほどの影響力を見せた。

 

閑話休題。

 

レインボーロードによって空中の武舞台へと到着したホーンライダー。誰もラピュタと呼んでくれないことにひっそりショックを受けているクリムゾンがいたが、フォローするのは妻のみである。

 

「やれやれ、俺の相手は“道化”か。あのナメック星人やサイヤ人の誰かと戦うのを楽しみにしていたんだがな」

 

すでに到着していたボージャックが露骨にギニューを嘲りながら睥睨する。

 

しかしギニューはそれを気にすることなくサングラスを外すと、バトルアントラーへとサングラスを収納しボージャックと向き合う。簡易AIを搭載されたバトルアントラーがそんなギニューに気を使うように離れていった。

 

「道化で結構。今の俺はただのギニューだ」

 

ギニューが自身の戦闘力を解放する。その思った以上の圧力に、知れずボージャックの口に笑みが浮かぶ。

 

「……思ったよりは楽しめそうだ。すぐにくたばるんじゃないぞ!」

 

「望むところだ!」

 

対峙するふたりの殺気に、彼らを挟む空間が“ぐにゃり”と捻れたような錯覚を覚える。

 

開始(はじ)めいッッ!!』

 

先攻はギニュー。低く沈みこむように体を深く倒し、低空飛行さながらにボージャックの右足を狙う。

 

「こざかしいわっ!」

 

ボージャックはそんなギニューを迎え撃たんとポケットに手を入れたまま蹴りを放つ。

 

爪先がギニューの顔面を襲うかと思われたが、ギニューは寸前のところで急ブレーキ。タイミングを外したボージャックの蹴り足を抱え込みそのまま足首を捻り折ろうとする。

 

「雑魚が!」

 

しかしボージャックは固定されかけた足首を筋力で外し、横に回転することでギニューの動きまでも封じてしまう。

 

「まずい……!」

 

クリリンはそれがギニューとボージャックの間に広がる絶望的な力の差を表していることに気づき、思わずかつての敵であるギニューを心配する。

 

案の定、ギニューは空中で無防備にボージャックの一撃を受けてしまう。

 

「ぐあっ!?」

 

無慈悲に武舞台へと転がっていくギニュー。彼が今着ているバトルジャケットはレッドリボン軍によって改良を受けたタイプであり、絶大な防護力を誇る代物だ。しかしそれも今は砕け、ギニューはアンダーシャツのみを纏った状態となってしまう。

 

「その程度の戦闘力でいくら頑張っても、俺には勝てない」

 

ボージャックの告げたその言葉は、悲しいほどに事実だった。桃白々の下で修行を積み、かつてとはケタ違いの実力を手にしたギニュー。戦闘力にして一億を超えているであろう実力を有する彼だったが、今となってはその数値も虚しいものである。

 

「はぁ!!」

 

「ぐあああああっっ!!」

 

ボージャックの攻撃は止まない。かろうじて立ってきたギニューを一方的に打ちのめし、それでいて彼がすぐには死なない程度にいたぶっている。

 

まるでボロクズのようになって武舞台へと転がるギニュー。

 

ものの一分に満たない時間で、ギニューは満身創痍となっていた。あちこちの骨が砕け、わずかに動こうとするだけでも激痛が走る。

 

“参った”。

 

その一言を言えばすぐに楽になるのは理解していた。ギニューは自分自身でも格上を相手によく戦ったと納得させようとして──不意に聞こえた子供達の声が彼の全身を叩いた。

 

「ほう? 根性だけはあるようだな」

 

「……!」

 

気づけばギニューは立っていた。とうにダメージは限界を超え、裂傷、擦過傷、打撲、骨折と、挙げていけば枚挙にいとまがない。

 

立ち上がったギニューに向けて、子供達の声援はますます大きくなる。この会場に来ている子供の声だけではない。聞こえるはずがない、世界中の声援が間違いなくギニューを支えていた。

 

「だが……これで終わりだ!!」

 

ボージャックが変身する。エメラルドの肌に赤い髪となり、羽織っていたコートが溢れたエネルギーに耐えきれず弾け飛ぶ。

 

その手に現れた緑色のエネルギー弾が直撃すれば、如何にかつてのフリーザに匹敵するほどの実力を手にしたギニューであっても絶命は免れないだろう。

 

しかしギニューは冷静になっていた。死を恐れていないのではない。子供達に気づかされたのだ。自らに隠された、本当の“力”に。

 

「死ねぇっ!!」

 

緑光がギニューへと迫る。その瞬間、ギニューは叫んだ。

 

「チェーーーーーーンジ!!!!

 

直撃する緑光。エネルギーの奔流によってその場に爆炎が起こるが、ボージャックは厳しい眼差しでそちらを見つめている。

 

その様子を控え室で見ていた悟飯が怒りも露に乱入しようとするのを悟空とピッコロが抑える中、アナウンサーは気まずい思いを隠せぬままに勝利宣言をしようとする。

 

『しょ、勝者! ボー……! 「まだ戦いは終わっていない!!」 な、なんですと!?』

 

ボージャックの制止にアナウンサーが見ると、そこには変わらず炎があった。しかし炎は収まるどころかどんどんと勢いを増し、やがてそれは一羽の鳥を象る。

 

「まさに不死鳥、か……遂に掴んだなギニュー」

 

これまで無言でモニターを睨んでいた桃白々が舞い上がる炎を不死鳥に例える。

 

そうして炎そのものである不死鳥は甲高く一声鳴くと、その炎を圧縮するように体を縮めていく。炎が収まった先には、ダメージの一切無いギニューが立っていた。

 

「……確実な手応えはあったはず。貴様、いったい何をした?」

 

詰問しながらも、ボージャックはさらに連続でエネルギー弾を発射する。

 

それらひとつひとつは確実にギニューへと命中する。圧倒的な威力でその身を傷つけ、先ほどまでのギニューなら腕が千切れるような威力である()()

 

しかし驚くことに、ギニューの体は着弾する側から炎と化しボージャックのエネルギー弾を無力化吸収してしまう。

 

「なんだとっ!?」

 

思わず驚愕するボージャック。すでに放った残りのエネルギー弾も同じく無力化吸収されていく。

 

「礼を言う。お前のおかげで、俺はさらに強くなれた……!!」

 

ギニューは拳に力を込め、炎となった自身をさらに高める。

 

「でやあああああああああっっっ!!!!」

 

ギニューが無事だった理由。それは、彼の持つ秘技“チェンジ光線”にあった。

 

この光線は当たった相手と問答無用で自身の肉体を入れ替える効果があり、かつてギニューはセル襲来時にこの能力を用いて事態を収拾させんと考えたことがあった。

 

しかし後にクリムゾンと話す機会があったギニューは、その判断が間違っていたことを知る。セル自身がチェンジ光線をすでに身に付けており、下手に発動しようものなら無効化された上に元の体に戻れなくなり死んでしまう可能性さえあったとまで言われた。

 

それは衝撃だった。ギニューにとって、チェンジ光線は絶対の切り札であったからだ。かつて忠義を誓ったフリーザにのみは仕掛けようと考えなかったにせよ、それでも彼にとって確実な格上殺しと言える技だったのだ。

 

それが効かない相手がいる。そのことが、ギニューの方向性を決めた。

 

彼は桃白々と同じく、天地自然の声を聞くことができるようになっていた。だがそれだけだ。それを自らの力とし、あまつさえ戦いに用いるには彼の技量であっても未熟に過ぎた。

 

だからギニューは伝え聞いた元気玉の要領で、自らを鼓舞する声援を聞くことはできないかと修行したのだ。意思なきモノと同調することが無理ならば、自らを鼓舞する声に同調すればあるいはと。

 

そしてギニューはこの一年、ひたすらそれのみに邁進してきた。朝も夜もなく、自らを呼ぶ声を求め続けた。

 

そんな一見無意味な修行が形を為したのは、ついさっきだった。

 

今の彼はもはやギニューであってギニューでない。無数の声援によって在り方を定めた彼は、一時的ではあるがその肉体は一種のエネルギー生命体と化し、チェンジ光線に当たった相手のエネルギーそのものを自らの肉体とすることができる。それはすなわち、相手のエネルギーではもはやダメージを負わないという特性を得たということである。一対一という条件付きはあるが、今のギニューはまさしく無敵と言えた。

 

そして彼が得たのは、なにも無敵の肉体だけではない。

 

「はああああああああっっ!!」

 

ギニューが吠える。彼の気合いと共に、側頭部から生えた黒い角が成長していく。さながら水牛のように、雄々しく立派な角がギニューの頭に現れていた。

 

またその全身を、バトルジャケットによく似た黄金の鎧が包む。エネルギー生命と化した彼にとって、身を守る鎧さえ創造することが可能であるのだ。

 

そんな彼の元へ、不意にサングラスが飛んでくる。見れば、バトルアントラーがヘッドライトを明滅させてギニューを鼓舞している。

 

「そうだ、そうだったな……おい、ボージャックといったな」

 

「……そうとも。この俺こそはヘラー一族の首魁、ボージャック様よ」

 

「では聞け、俺の名をもう一度名乗らせてもらおう!」

 

言って、ギニューは天高く飛び上がる。ボージャックはやや呆れながらも油断はしていない。どうやってギニューを倒すか。それだけに思考を集中させていた。

 

「金の鎧に正義を乗せて! 灯せ! 悪への赤信号! ホーンライダー・グレートモード!!! 定刻破って只今参上!!」

 

空中でポーズを決めるギニューもといホーンライダー・グレートモード。その後ろにはバトルアントラーが色つきの煙玉と花びらを仕込んだかんしゃく玉を打ち上げ、文字通り演出に花を添えている。

 

「ふん! エネルギー弾が効かないなら、素手で殴り殺してやる!!」

 

「無駄だ!」

 

ボージャックが凄まじい勢いで殴りかかるが、炎と化したホーンライダーに攻撃は通じない。もはや一度吸収されたボージャックのエネルギーでは、例え素手であってもホーンライダー・グレートモードを傷つけることは叶わない。

 

「とぁっ!!」

 

「ふおぁ!?」

 

ホーンライダーの一撃が、ボージャックの鳩尾を深く抉る。まさかの威力にボージャックは戸惑うが、攻撃は一撃では終わらない。

 

「そりゃそりゃそりゃそりゃっ!!」

 

グレートモードとなったホーンライダーのもう一つの能力。それが、気の硬質化である。これによって今のホーンライダーの拳はカッチン鋼に匹敵する強度を誇る。さらにはホーンライダーはボージャックの僅かな力みから全身にある弱所を的確に打ち据えている。それがボージャックから冷静さを奪い、ホーンライダーに勝機を与えていくのだ。

 

「ぐはぁっ!!」

 

大きく殴り飛ばされるボージャック。ダメージは見た目ほどではないものの、彼の心は紅蓮の怒りで支配される。

 

「おのれぇ……! この俺が、貴様のような道化に……!!」

 

両手に最大級のエネルギーを溜め、ホーンライダーへと走り出すボージャック。

 

ギニューは、己の右拳に全エネルギーを集中させる。

 

──ギンッ!──

 

硬質なモノ同士がぶつかったような、甲高い金属音が響く。

 

ホーンライダーは膝を突き、角は元に戻り黄金の鎧も消えてしまっていた。気絶こそしていないものの、その表情は優れない。

 

「……ホーンライダーか。見、事だ……」

 

ごぷりと、口から血を吐きボージャックが倒れる。彼の心臓にあたる部分には、拳サイズの大穴が空いていた。

 

『ホーンライダーの勝利です!!!』

 

アナウンサーの声と共に爆発するような歓声が響く。

 

ホーンライダーは無理矢理立ち上がると、勝利を示す為にその腕を掲げるのであった。




ブージンがウーロンの人だと今さら気づいてびびった。たしかにそうだわ。

そして嫌味な悪役にするつもりだったのに、最後の一言でボージャックがいいヤツみたいになってしまった。これも乾巧ってヤツのせいなんだ(´・ω・`)

気がつけばいつものように5000文字前後のはずが、今回8000を超えてしまった罠。疲れました。でもホーンライダーがこんなに書いて楽しいとは思わなかった(笑)
今回彼にぶちこんだネタ全部わかる人、是非飲みに行こう(笑)

では次回予告です。
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黄金と白金。互いに認めあいながらも、譲れないものがある。
勝利と敗北。それは衝突の果てに必ず公平に分けられる結末。
次回【好敵】。さあ、その可能性を見せてみろ。

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