ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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hisaoさん、歌舞伎rocksさん、誤字報告ありがとうございます。

それと感想返信が遅くてすみませぬ(´・ω・`)
全部読んでますので、どうぞ今後もこの作品を応援してくださいm(_ _)m


第61話【天輪】

“悪”とは何か。

 

悪とは害意であり、殺意であり、敵意である。

 

ではそれらはそも間違っているのか。“悪”であるならばと、否定されることしかないのだろうか。

 

否である。

 

子の命を救うため、無数の人間を殺戮する親がいたとしよう。彼以外にとってそれは紛れもなく“悪”であれ、彼にとってのそれは“善”である。

 

すなわち、“悪”とは“独善”である。

 

己の為だけに振るわれる意思。それこそが“悪意”である。

 

そこに対外的な意思は必要ない。必要なのはただ、定めた“己の善意”だけである。

 

ゆえにクリムゾンという男は、自らを独善者であると定める。

 

己の為以外には決して動かない。例え瀕死の人間が目の前で助けを求めても、それが見ず知らずの者ならばそれを嘲笑い虚仮にするのが己の本性だと考えている。

 

暴力で彩られた半生を過ごしてきた彼にとって、暴力はもはや彼が生きていく上で決して切り離せない根幹であるからだ。

 

しかし、いつの日からかそんな彼に例外が生じた。

 

それは妻を娶った時か、はたまた娘や息子が生まれた時か、それとも対等の視線で語れる友ができたときか。

 

レッドリボン軍に所属し数多の戦場を駆け抜けた男が成した行為は、紛れもなく地球の人間にとって“善”である。

 

十数年を総帥として過ごし変質したのか。否である。

 

彼の根幹はなにも揺らいでいない。害意を排斥し、殺意を鏖殺(おうさつ)し、敵意を駆逐する。その根幹はなにも揺らいではいない。

 

改めて言うが、“悪”とは“独善”である。己独りが善しとする為に向けられる意思は決して善などではないだろう。

 

だがクリムゾンにとって己と認識する範囲が広がったことは、果たして“悪”なのだろうか。

 

彼は言うだろう。我が身を害する者がいるのならば、有象無象の区別なく殲滅すると。その結果として、()()()()大多数の人間が救われただけだと。

 

全てを自分本意に動く、身勝手な悪にして最大の独善者。

 

それがレッドリボン軍総帥クリムゾンである。

 

そしてそのクリムゾンは、バビディの洗脳魔術に抗いながら()()()()()()を見ていた。

 

廃墟と化した街並み。

 

溢れる“死”の臭い。

 

止めどなく響く怨嗟の声。

 

それは未来を知ってしまった時よりこびりついた悪夢だった。

 

クリムゾンは、あの日から一度としてこの景色を見ない日はなかった。

 

それは短時間ながら予知能力を得たことによって焼き付いた悪夢の残滓。同じ景色を見ることができれば、なるほどクリムゾンの強靭な精神力がどこからもたらされたかを理解できるだろう。ワーカーホリックと化したのもやむを得ぬと。

 

叫ぶのだ。備えよ、と。内なる己が叫ぶのだ。彼らの無念を晴らさねばと。

 

死した仲間、死した友、死した妻、死した娘。

 

それらすべての()()()()()な目が訴えるのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()かと。

 

ゆえにクリムゾンは悪夢に立ち向かい続ける。この悪夢を、現実のモノとしないためにも。

 

『──解析が完了しました。洗脳に用いている魔術回線をハッキングします』

 

(……よし。ではこれより究極(アルティメット)化を開始する)

 

悪夢に君臨する魔王が命じる。それは、全なる王との戦いさえ見据えた小さな一歩だった。

 

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全世界で同時多発的に発生した、突如として蘇った死者による混乱。元の完全体セルとの違いは色程度のセルジュニアならぬセルシニアら数百体も蘇ったことは全世界に恐怖と衝撃を与えた。

 

誰もが最悪の事態を想像した。しかし、恐るべきことに彼ら蘇った死者はあっさりと鎮圧されつつあった。

 

「さあ者共! 我らが忠誠をクリムゾン総帥にお見せするときは今を置いて他にない! 逃げる者は我が剣の錆になると知れぇ!」

 

再生能力さえモノともせずに次々とセルシニアを切り伏せていくのはコルド大王その人である。彼は蘇ったフリーザ軍を一瞬で掌握すると、自らが招いた銀河のならず者さえ率いて戦いに赴いていた。

 

「しょうがないからお前らで憂さ晴らしだ!!」

 

17号は超化した状態で次々とセルシニアを撃滅させていく。どんなに優れた再生能力があろうとも、丸ごと焼き尽くされれば話は違う。

 

嬉々としてセルシニアを葬るその姿を見て、同じく気功砲でセルシニアを丸ごと消し飛ばす戦法を取る天津飯は彼を下したグレイ少佐の実力を再評価していた。

 

「はっ! はっ! 各自レッドリボン軍やフリーザ軍と連携を取って足止めをするんだ! 動きさえ止めてしまえば後は我々がなんとかする!」

 

天津飯はそうして梁山泊の達人らやレッドリボン軍の陸戦部隊にセルシニアを足止めさえ、とどめの一撃を次々と加えていった。

 

「気円烈斬!!」

 

無数の気円斬によってセルシニアを切り裂くのは18号だ。

 

たなびく金髪をひるがえらせ、麗しき人造の姫は次々とセルシニアを切り裂く。

 

「いいよいいよ~、じゃんじゃん斬っちゃってね! スフィアちゃん、焼いちゃいなさい!」

 

ハイパーメタリック軍曹の頭部で仁王立ちしながら、21号がバラバラになって落ちてくるセルシニアらを、再生する前にスフィアで焼いていく。

 

21号を狙おうとするセルシニアもいたが、的確に反応するスフィアと連携したハイパーメタリック軍曹を前になす術がなかった。

 

「……そうだよなぁ、俺強いよなぁ」

 

セルシニアの顔面を殴り潰しながら、超サイヤ人2のターレスがぼやく。

 

ブロリーに敗れたとはいえ、彼の実力は地球上で指折り数えても早い段階で上がるほどの実力を備える。

 

……惜しむらくはその運のなさであろう。

 

そして、彼らセルシニアらを率いるはずのセルはどうなっていたかと言うと──ボッコボコにされていた。

 

「ぶるああああっ!?」

 

「はっはっは! どうしたそんなものか!」

 

「ぶぁ、馬ぁ鹿なっ!? この私が、こうも一方的に……!!」

 

ブロリーの拳によって、さながらバスケットボールにでもなったかのように跳ねるセル。しかしそれは自らの意思で跳ねているのではない。弾まされているのだ。その足をアブーラが掴まえることによって。

 

復活したセルのパワーは、確かに圧倒的なものだった。

 

かつて超サイヤ人3の悟空、超サイヤ人オリジンのラディッツ、超ナメック星人のピッコロを同時に相手取った時に近い戦闘力を備えているだろう。

 

だが、クリムゾンを吸収し究極体となった時ほどではない。彼が保持していた“悪の気”は殆どがスピリットロンダリング装置によって濾されてしまっているからだ。

 

その結果こそはすなわち、圧倒的暴力(ブロリー)による蹂躙に他ならない。

 

「ぐぉわっはあ……!」

 

武舞台に叩きつけられ、遂には背中の羽がひとつもげるセル。その様子を見ながら、上空でセルシニアを狙撃し続けていたクウラはなんとも言えない表情をしていた。

 

「くそぉ……! 究極体に、究極体になりさえすればぁ……!!」

 

『アホウめ、厄介になるのがわかっていてそれをやらせる馬鹿がどこにおる』

 

セルとて、何も最初から馬鹿正直に真正面からの戦いを挑んだわけではない。自身に備わった無数の超能力を用いて幾度となく絡め手を仕掛け、あわよくばブロリーの生体エキスを吸収してパワーアップを図ろうとしていた。

 

しかし、それらの絡め手はすべてアブーラの魔術によって防がれた。さらに言うのであれば、セルはもちろん再びクリムゾンを吸収しようとしていた。だが、それを目論んで動こうとした瞬間ブロリーは遊びなしの本気でセルを殺しに来たので、結果いいようにブロリーに蹂躙される有り様となっていた。

 

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無数の“悪の気”が集まったことによって生まれたサイケ鬼の変異した姿──ジャネンバ。

 

太った子供を思わせる無邪気な容姿とは裏腹に、その身から溢れる邪気によってもたらされた結界は地獄を変容させ、閻魔の館までも封印されたことによって生者と死者の法則が狂ってしまう原因となっている。

 

バーダックはどんどん大きくなっていくジャネンバの気を感知しながら、段々とそれに圧倒されるパイクーハンの気を感じて下を見る。

 

「やべえな、どんどん戦闘力がデカくなっていやがる……」

 

どうにか三割ほどを削ることができた閻魔の館を包む結界だが、まだ完全に破壊するには至らない。

 

バーダックは息を切らしながら埒の開かないこの作業にいい加減嫌気がさしていた。

 

『おいどうしたんじゃバーダック! 休んでる暇なんぞ……!!』

 

「黙ってろじじい! ちっ、パイクーハンの野郎エラそうなこと言っておいてなんてザマだ!」

 

言いながらバーダックは自身の切り札を用意する。

 

かつて気まぐれに地上を見た際目にした息子の超パワー。彼はそれを見て以降、ならば自分にもできるはずだと鍛えモノにしていた。

 

気を高め、身を屈めるようにして内側から自身の潜在パワーを全て引き出す。

 

「うあああああああああああああっっーーーー!!!!」

 

ほとばしる黄金。閻魔大王は結界越しにその姿を目の当たりにし、あの世全てが震えるかのような巨大なパワーに戦慄する。

 

『こ、これがバーダックの切り札か……!!』

 

「はあああああああああああああっっーーーー!!!!」

 

長く大きく伸びた金髪。隆起した筋肉。あの世に行ってからも纏い続ける旧式のバトルジャケット。

 

超サイヤ人3へと変身を遂げたバーダックが降臨していた。

 

「引き際を見誤りやがって、死ぬなよパイクーハン!!」

 

バーダックは流星の如き輝きを纏いながら超速でジャネンバに向かって突撃する。

 

「おりゃああっ!!」

 

上空から過剰に勢いをつけた一撃がジャネンバの黄色い巨体をまるでゴムマリのように弾ませその場から離れさせる。

 

「おう、生きてるかパイクーハン」

 

「な、なんとかな。だがバーダック、お前でもひとりでは無理だ。あれはまだ自分のパワーを持て余している、いずれ誰も手がつけられなくなるぞ……!」

 

パイクーハンは最初苦戦が見えた時点でその場から離脱し、応援を求めようと考えた。

 

オリブーやアークアといったあの世の達人らを引き連れれば倒せるだろうと。

 

しかしパイクーハンの思惑とは裏腹に、ジャネンバは空間転移によって自身の巨大な手足で一方的に彼を攻撃。その上戦えば戦うほどにその戦闘力を上昇させるジャネンバによって、あわやパイクーハンは消滅一歩手前にまで至ってしまっていた。

 

「……確かにヤベえが、だからってここで俺が引き下がるわけにいくかよ。ま、ちょっと試してみたいこともあるしな。オメエはさっさと逃げな!」

 

「くっ……! せめて俺が応援を連れてくるまでは耐えろ! いいな、絶対に殺されるなよ! お前を倒すのは俺なんだからな!!」

 

叫びつつパイクーハンは現状で出せる限りの速度で遠ざかっていく。その姿を気配で感じながらバーダックは苦笑すると、改めて構えを取って巨大な肥満児のごときジャネンバを見上げて不敵に笑った。

 

「そら、こっちから行くぞ!」

 

足元の結界を剥がしながらバーダックが跳ぶ。迎え撃とうとするジャネンバだったが、その前にバーダックの口が開いた。

 

「動くなデブ!」

 

「ジャネ……!!」

 

自覚がなかったと言わんばかりにショックを受けた表情をするジャネンバ。

 

バーダックは動きを止めたジャネンバへ向けてスピリット・オブ・サイヤンの発展系であるライオットジャベリンを叩き込む。

 

「このまま畳み掛ける……! ウラァッッ!!」

 

バーダックはそのまま殴る拳に大量の気を纏わせ、次々とジャネンバを打ちすえる。

 

「とどめだァァッ!」

 

激しい連打によって空中へ浮いたジャネンバへ向けて、満を持してバーダックのスピリット・オブ・サイヤンが放たれジャネンバの顔面が太った肉体にめりこむようにして埋まっていく。

 

もがき痙攣するジャネンバ。力尽きたように腕をだらけさせたその姿に、バーダックは一息吐こうとし──その戦闘力が些かも衰えていないことに気づく。

 

「くっ……!!」

 

再びバーダックが構えるのと、潰れた肉塊が一ヶ所に凝縮され始まるのは同時だった。

 

圧縮され、精錬されていく戦闘力。やがて肉がギチギチと無理矢理詰め込まれるように集まりきると、それらは再び肉体を形成し藤色と朱色を基調としたどこか鎧を纏った鬼を思わせる姿のジャネンバが再臨する。

 

「ギイ……! ギガガガガガガガガガガガガァッッ!!!!」

 

響き渡る叫び声。バーダックはその一挙手一投足をも見逃さぬよう身構え、自分から仕掛けた。

 

「ハァッ!」

 

下段から前蹴りをすると見せかけてからの、強烈な膝蹴りがジャネンバの側頭部へと炸裂する。ジャネンバは一瞬よろけた様子を見せるが、すぐに邪悪な笑みを浮かべてその体を無数のブロック状に崩して消えていく。

 

「ナメんなッ!」

 

だがバーダックはジャネンバが完全に崩れ去る前に至近距離でのライオットジャベリンを叩き込み、移動先のジャネンバが全身から煙を上げてバーダックの後ろに現れる。

 

「そぉら!」

 

再びバーダックがジャネンバへ突っ込むが、今度はジャネンバがその腕を異常な長さに伸ばしてバーダックの喉を掴まえると、そのまま彼の体を彼方にある変形した針山地獄へと叩き込む。

 

「ニィ……!」

 

ジャネンバは戻した腕をニギニギと握り感触を確かめると、飛ぼうとしてふと自分の足元に落ちている小さなこん棒に気づく。

 

ジャネンバは不意にそれを持ち上げると、こん棒に大量の“悪の気”を流し込み真っ赤な長剣へと変じさせ──それをバーダックがいる針山地獄へと向けて無造作に振るった。

 

まるで空間そのものを切断せんばかりの斬撃が針山を次々に襲い、崩壊させていく。

 

さして時間を置かず、崩れ落ちる針山。しかし、そこにバーダックはいなかった。自力で脱出したのではない。彼に肩を貸す、かつて共に戦った仲間が彼を引きずり出していたのだ。

 

「まったく、相変わらずいっつもボロボロだなテメーはよ!」

 

「ほんと、地獄に来ても変わんないねアンタは!」

 

バーダックに肩を貸し、走るのは水色のバトルジャケットに身を包んだトーマ。そしてその隣を、桃色のアンダースーツに申し訳程度のバトルジャケットを纏いセリパが走っている。どちらの臀部にも尻尾が生えており、それは彼らがサイヤ人である何よりの力強い証明として揺れていた。

 

「お、お前ら、なんだってこんな場所に……」

 

息も絶え絶えなバーダックが彼らに訪ねるが、そこへ更に禿頭で額に三本傷のある無口な大男トテッポと、肥満体型のパンブーキンが合流する。

 

「久々のバーダックチーム集合だな! まったく、相手があんな化け物じゃなきゃ全員で仕掛けたんだけどよ!」

 

「……」

 

バーダックを囲む四人は、かつてフリーザによる謀略で葬られたバーダックチームの面々であった。すでに転生を待つ身であった筈の彼らがなぜ記憶を取り戻し、バーダックの危機に現れることができた理由は閻魔にさえわからない。

 

だがバーダックにはそんなことは関係なかった。かつて己が不甲斐なかったがゆえにみすみす死なせた面々が自分を助けてくれた。それだけで、尽きた力が再び蘇ってくるのを感じていた。

 

「あんた!」

 

「……ギネ、だと!?」

 

「ああやっぱりボロボロだった! みんな、とりあえずこの先に隠れられそうな場所を見つけたから、ひとまずはそこで──」

 

彼女が話すことができたのはそこまでだった。追い付いたジャネンバが突如としてギネの真後ろでブロック状になった肉体を再構成させ、その腹部にエネルギー弾を押し付けようとしていたからだ。

 

死者が再び死ぬということは、その魂の消滅を意味する。バーダックは目の前で愛する女が殺されかねない事実に手を伸ばすがそれは届きそうにない。

 

──しかし、邪悪な笑みを浮かべたジャネンバを突如として紫色の怪光線が襲い、エネルギー弾を霧散させた。

 

「フフ、どうやらかなり面白いことになっているみたいですね」

 

そこに現れた姿を見て、一同に戦慄が走る。

 

その姿は白と紫を基調とし、どこか子供を思わせる体格をしていた。

 

だがバーダックは知っている。()にかつて自分が挑んだのは、とんでもない無謀だったことを。

 

「フリーザ……!!」

 

バーダックの血を吐くような言葉が、頭上に天使の輪を乗せたフリーザへと轟いた。

 

 




蘇る死者という名の体のいいサンドバッグ……!!
まああっさり倒してますけど、こいつらあの世のジャネンバ倒さないと無制限に復活してくるんですよねっていう罠。個人的に今回はハイパーメタリック軍曹の頭上で胸張ってるスカーレットちゃんがお気に入り。
そして後半ではバーダック大活躍。悟空とベジータの戦闘シーンを混ぜた感じになりました。でもってバーダックチーム&ギネ。復活した理由? こまけえこたあいいんだよ!
さあ、次回予告だ!

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復活の帝王。その存在がもたらすのは、破滅か。
反逆の戦士。その決意がもたらすのは、新生か。
次回【黄金】。あの世で轟け、帝王の哄笑。

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