ていうかKindle版4巻までしかないんだけど、え、これってもしかしてそういう……?
完全に消滅した武舞台。次の試合をどうするかと話し合いがもたれようとした時、ひとりの男が動いた。界王神である。
「先程のモノより小さいサイズの舞台でしたら私が作れますが……」
どこか遠慮するように告げる界王神だったが、その言葉を即座にラディッツが拾い凄まじい速度で近寄っていく。
「
「い、いえ! 素晴らしい戦いを見せていただいた私からのせめてものお礼ですから……」
すっかりクリムゾンの側近が定着したラディッツはそのまま界王神を巧みに持ち上げ、半ば嫌がらせだったリザーバー枠から外すという条件でまさかのカッチン鋼による武舞台を創らせることに成功する。そのサイズ、直径二キロ。作り終えた界王神がぶっ倒れたのは言うまでもないことである。
これには流石のビルスも呆れていたが、さりげなくブルー将軍が差し入れのスイーツを追加させることで余計な追及を逃れている。素晴らしいまでの連携だった。
こうして二時間ほどの休憩時間が挟まれた後、再び戦いの火蓋は切られたのである。
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材質がカッチン鋼へと変わったことにより黒鉄色へと変わった武舞台。反重力装置は設営が間に合わなかったので現在はクリムゾンが念動力で浮かせている。しかもクリムゾンはこの機会に界王神の能力を身に付けんと、先程見た光景をプロトに解析させていた。
「疲れないのか?」
「この程度ならば問題ない」
真の実力を引き出したクリムゾンとプロトにしてみれば、超能力を数百単位で並列展開することすら可能であるため、規模が大きいとはいえこの程度は問題ない。なので武舞台を囲むバリアも現在クリムゾンが肩代わりしていた。
「便利だな。予算が抑えられる」
手元で仕事をしながらクリムゾンと同じく特別観客室で武舞台を眺めるラディッツ。すでに変身は解いており、火傷もナメック星人の医療班によって治療済みであった。
「確かに私は万能だが、願望器になるつもりはないぞ」
「わかっている。願いを叶えるにはそれに等しい苦難を乗り越えねば意味がない、とでも言うんだろう」
「そういうことだ」
レッドリボン軍が管理するドラゴンボールは名目上誰でも使うことができる。しかし、そこに至るには厳しい関門がいくつも備えられているのだ。
ひとつ、ナメック星人の謎かけに全て答えられること。
ひとつ、レッドリボン軍が選抜した戦士と一対一で戦い勝利すること。
ひとつ、総帥との問答で願いを認められること。
厳しい条件であるが、この条件を全て満たした者が実は存在する。ミスターサタンである。彼は妻の病を治す為に試練へと挑み、一度は挫折した。しかしそんな彼を見かねて数人が彼と共に試練へと挑み、見事達成することが出来たのだ。
人望。得難きそれを持つ彼のことを、クリムゾンは密かに気に入っていた。
そしてクリムゾンが過去へと想いを馳せている内に、武舞台へと上がった
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圧倒的な身長差こそあれ、ピッコロは決してクリリンを前に油断してはいなかった。
超サイヤ人ユナイトへと覚醒する前の悟空と戦い勝っている姿を目にしたピッコロからすれば、クリリンは紛れもない
「お前と戦うのも久しぶりだな。俺も随分強くなった、悟空のようにはいかんぞ?」
「知ってるよ。今度は俺が勝つからな!」
対峙する両者。緊迫した空気が武舞台を支配する。
『
アナウンサーの掛け声に従い両者がかける。先攻はピッコロだった。
「魔貫光殺砲!!」
いきなりの大技がクリリンを襲う。しかしクリリンは超速で迫るそれを前にして慌てることさえしない。
「気円陣!!」
前方に展開した気円斬をさながら盾のようにして魔貫光殺砲を上方に逸らすと、クリリンが一度低く身構える。
「来るかっ……!!」
「界王拳!!」
クリリンの全身を赤いオーラが包み、風切り音を鳴らして一気にピッコロへと肉薄する。
「かあっ!」
それに呼応するようにピッコロもまた白いオーラで全身を包むと、巨体を活かした長大な蹴りを飛び込んできたクリリンへと向けて振るう。
横凪ぎの蹴りがクリリンの低い鼻先を掠める。鼻血さえ出すことなく無防備なピッコロの背後を取ったかと思われたクリリンだったが、ピッコロは驚くことに蹴りと同時に腕の関節を前後逆に入れ替え後ろ向きにクリリンを殴り飛ばす。
「なんつー反則な体してやがる!」
「腕を伸ばす技の応用だ!」
首も前後逆にしていたピッコロは笑顔で振り返りながら関節を元に戻すと、今度も自分の番であると言わんばかりに連続で気弾を発射しながらクリリンを追い詰めていった。
「ぐっ、くそ……!」
千を超える気弾はクリリンに身動きすることすら許さない。
「ここまで来れば、次が何かはわかるな?」
ニヒルに笑ったピッコロが両腕を交差する。
「やばい……!」
「魔空包囲弾!!」
生まれる大爆発。爆縮によって一点集中されたエネルギーがクリリンを焼いていく──かに思えた。
「うおああああああああっ!!」
「出たかっ……!!」
クリリンを包み込む赤い炎のごときオーラに赤い雷光が重なる。
「極限界王拳だ、こっからはもう止まらないぞぉ!!」
赤雷を迸らせ、クリリンがピッコロへと突進する。ピッコロは左腕を手前に、右腕を腰だめに、それぞれ両手を鉤状にして構えクリリンを迎え撃つ。
「ウワタァ! カァ! ダダダダダダダッッ!!」
ピッコロの蹴りが、手刀が、連続で振るわれる。
「でりゃあ! だあ! うりゃりゃりゃりゃりゃ!」
対するクリリンも身長差をものともせず、振るわれるピッコロの手足の末端を撃墜していく。
「ヌグッ……!!」
数十の攻防の末、ピッコロの攻撃が外に弾かれた隙を突いて鳩尾へとクリリンの中段突きが決まる。
「巨体と戦う上で末端を狙うのは基本とはいえ、ああも綺麗に決まるのはすごいな」
「たしかに。それと今のクリリン、どんどんパワーが上がっていっているがあれはどういう理屈だ?」
ラディッツが口にした言葉にクリムゾンはしばし考える様子を見せた後、自らの言葉を紡ぎだす。
「……クリリンは悟空から受け継いだ界王拳を独自に精錬させ、その性質さえも進化させた。それがあの極限界王拳だ」
言いながらクリムゾンは小さな人形を手元に作り出す。
「界王拳という技は、強力だが反面諸刃の剣でもある。肉体の限界を無視してパワー、スピード、タフネスといったモノが宣言通り乗算で跳ねあがるからだ」
クリムゾンは人形に気を通し、徐々に浸透させひび割れを起こし砕いてしまう。
「これを克服するには肉体の強度そのものを上げるしかないのだが……クリリンは地球人だ。いくら鍛えたところで限界はある。ではどうするか、その答えがこれだ」
クリムゾンは再び人形を作り出すと、今度はそれに気を直接通さず鎧のように纏わせる。
「今のクリリンがやっているのはな。こうして纏った気の鎧にのみ界王拳を通しているのさ。こうすることで肉体への負担は減るが、同時に体を動かしつつ気の鎧を制御し、それに界王拳を寸分の狂いなくかけ続けなければならん。言うなれば全力疾走しながら両手で別々の針穴に糸を通し続けるような芸当だ。私ならプロトにそれを任せることで戦闘行動も可能だが、クリリンはそれを単独で成し遂げているのだ。ヤツもまた、紛れもない怪物よ」
さらに言うのであればクリリンの界王拳に限界はない。五十倍だろうが。百倍だろうが。クリリンの集中力が尽きぬ限り永遠に上昇し続ける。これこそがクリリンを悟空に勝利させた要因であり、ピッコロをも追い詰める必勝の力と言えた。
「グハアッ!!」
カッチン鋼の武舞台へと叩きつけられるピッコロ。しかしクリリンは止まれない。止まれば界王拳が解除されるのもあるが、なによりピッコロをこの程度で倒せたと思っていないからだ。
案の定、空中から膝蹴りをお見舞いしたクリリンをピッコロは危なげなく回避する。
「激烈光弾!!」
ピッコロ最大威力の技が超至近距離で炸裂する。さすがのクリリンも吹き飛ぶが、まだ極限界王拳は解除されていなかった。
「ヌオオオオオアアアアア!!!」
ピッコロは畳み掛けるように空中を飛ぶクリリンを追いかける。しかしそれこそがクリリンの狙いだった。
「極限元気玉ぁ!!」
「ぐはあっ!?」
自らの極限界王拳と組み合わせた元気玉を、ピッコロの一撃と交差するようにしてクリリンがその胴体へと叩きつける。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「ぐああああああああああっ!!」
激しく稲光を起こしながら、クリリンはピッコロを地面に叩きつけたまま空中を滑っていく。
やがて武舞台の端へたどり着いたクリリンが界王拳を解くと、ピッコロは力無く横たわっていた。
『勝者!! クリリン選手!!』
かつて敗北した相手に勝ったクリリンは、誇らしげに胸を張るのだった。
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敗北した息子の治療を自ら済ませたクリムゾンは、レッドリボン軍本部にある地下牢へとやって来ていた。
戦闘力を著しく制限させる効果のあるその空間には、同色の肌をした集団が集められていた。ヘラー一族である。
「……情けない話だ。かつて銀河に名を馳せたヘラー一族が、ことごとく洗脳され操り人形になっていたとはな」
クリムゾンからの説明を聞き、首魁であるボージャックが独りごちる。彼は心臓に大穴を空けられたものの、ナメック星人の治療により回復した後はこの地下牢で拘束されていた。
彼らが洗脳を解かれたのはつい先程の話だ。それまではバビディが死んだ反動によって生きた屍のごとく放心状態にあったのだが、クリムゾンによって洗脳を解かれた彼らは一様に項垂れていた。目の前にしたクリムゾンとの実力差もそうだが、なによりも為すがままに操られていたという事実が彼らを打ちのめしていたのだ。
「運がいいと思っておけ。もし貴様らが我欲で地球を侵略しようとしていたのならば、すでに貴様らは粉微塵になって死んでいる。今後の人生を楽しめとは言わん。だが、願わくば私の手を煩わせるなよ……?」
皮膚の下を無数の寄生虫が蠢くような名状しがたい悪寒を残し、全員を心胆寒からしめたクリムゾンはその場を離れていった。
「ザンギャ、お前はまだ勝ち残っていただろう。やるのか?」
「……まさか。形だけ舞台に上がって適当なタイミングで降参しますわ。洗脳されているわけでもないのに、わざわざ命を捨てに行くつもりはありませんもの」
クリムゾンが完全に離れたのを悟ると、一斉に力を抜く一同。ボージャックの問いかけに答えたザンギャの回答は本心であり、武舞台に上がろうとしているのもあくまで最低限の礼儀を果たそうとしているに過ぎない。それはひとえにクリムゾンを恐怖しているからでもあった。
「──ねえ、じゃあよかったら僕と代わらないかい?」
そこにいつの間にか現れた男の姿を見て、一同が戦慄する。
足元に底知れぬ穴が口を開けたような吐き気を催す浮遊感。
破壊神ビルスが、牢を
切ない気持ちになったから、恋愛小説が書きたいです(´・ω・`)
それでは次回予告
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誰もが認める偉大なる英雄。
誰もが知らぬ君臨せし“神”。
絶対無敵の最高位神。今そのベールが明かされる。
次回【闘神】。その強さは、あらゆる常識をも破壊する。