え、ペースが早い? いやこんなもんですよ(´・ω・`)。o O(ネムイ……)
第7話【宙船】
第23回天下一武道会が終わってから一年。
クリムゾンはとある用事からパオズ山にある孫悟空の自宅を訪れていた。
今日クリムゾンがわざわざ僻地にあるここを訪ねたのは、悟空の妻であるチチから相談を受けたからだ。
「はっはっは、悟空くんは相変わらず修行漬けの日々ですか。あの敗けがよっぽど堪えたみたいですね。体を鈍らせていないようでなによりです」
「よくねえだよ! 悟空さったらピッコロさに負けたのが悔しくて悔しくてずぅ~~~っと修行ばっかりしててオラのことほとんど構ってくれねえ!」
「おや、それはいけない。彼が浮気するとは思えませんが、あまり奥さんを放っておくのもよくないですね。いいでしょう、それに関して私が手を打ちましょう」
「ほんとだか? やっぱりクリムゾンさんは頼りになるべなぁ♪」
まだ美少女の域を出ないほどに若いチチとの会話は、確かな潤いをクリムゾンに与えていた。とはいえ別に彼女をくどくのが目的ではない。それは作品が違う。
クリムゾンが悟空にここまで協力的なのは、以前にもあったようにいずれやってくる大きな災いへの当て馬もとい対抗策としての役割を期待している部分が大きい。ドクターゲロの人造人間も研究が進んでいるが、未だに悟空やピッコロといった達人の頂点には敵わないからだ。
「ありがとうございます。ですが、有事の際には是非悟空くんの協力をお願いしたい」
「任せるだよ! 悟空さの唯一の自慢が腕っぷしだべ♪ ……といっても、悟空さより強い宇宙人がやってくるかもしれないって、ホントだべか?」
「確証は得ています。問題は、それが
「オッス、クリムゾンのあんちゃん! 来てたのか!」
足音で帰宅はわかっていたが、自宅の扉をあけて悟空が帰宅した。
クリムゾンは悟空がより強くなるための協力を惜しまず行っていた。ひとまず彼に収入を与えようと、名目上テスターといった形で彼ぐらいにしか使えないようなトレーニング器具を渡して定期的に報告をあげてもらっている。
だが、チチから牛魔王の莫大な財産があると聞いたときは拍子抜けしたものだった。
とはいえ、悟空に名目上とはいえ仕事をさせている形になるので、今度父親になるのも合わせて示しがつくとして大層感謝されていたが。
「……妊婦を放置してする修行は楽しかっただか?」
「は、はは。
悟空は刺のあるチチの剣幕に怯みながらも、クリムゾンが来てくれるのを楽しみにしていた。毎回彼が提供してくれるトレーニング器具は遊びの要素もあり、またライバルであるピッコロも同じトレーニング器具を使っているので競争心も煽られるのだ。
「でもこれも一応仕事だぞぉ。あ、クリムゾンのあんちゃん、これ書いといたぞ」
「ああ、いつも助かります。……失礼ですけど、悟空くんって別に頭が悪いわけではないんですよね」
「ああ、勉強は亀仙人のじっちゃんに目一杯やらされたかんな。オラ、数学はあんまり得意じゃねえけど一応一通りの勉強ならできっぞ」
「……あなたのような性格の人間に勉強を教えた武天老師様を私は心底尊敬しますよ」
「おう、亀仙人のじっちゃんはすげえぞ!」
我がことを褒められたかのように快活に笑う悟空を見て、クリムゾンはこんな風に平和な日々が今後も続けばいいと思う。
だがどれだけ彼が平穏を望んでも、いずれ敵はやってくるのだ。
ならばレッドリボン軍総帥として、その時に向かってクリムゾンには備える義務がある。
「……そういえば、この間チチさんと興味深い話をしていましたね。なんでも、小さい頃の悟空さんは大層凶暴だったとか」
「あー、話してただな! 頭を打ってから人が変わったんだったべか?」
「オラも覚えてるわけじゃないんだけどな。オラを育ててくれたじっちゃんが言うにはとても手に負えなかったらしいぞ」
「……なるほど」
これに関して、クリムゾンはブルマから本人には絶対言わない約束でもうひとつ重大な情報を聞いていた。
悟空の大猿化のことである。
以前知った通り、過去の天下一武道会において悟空は大猿の化け物となり、会場を滅茶苦茶に破壊した。
そして、彼自身が無意識のうちに育ての親である孫悟飯を殺したのだということも、悟空自身の言葉からブルマらは知ってしまったらしい。
理性を失う化け物になってしまったがゆえに悟空本人に責任はないのだろうが、以前ピッコロ大魔王との戦いに備えて協力してもらった占い婆の元へ一同が向かった際、同行した悟空は死んだ孫悟飯老人と再会したらしい。
そのときに再会を泣いて喜んでいるのを見て、悟空が変身できることを知っている面々は余計に何も言えなくなってしまったらしい。
クリムゾンからすれば死人と会えるなど荒唐無稽に思える話だったが、なんでもその占い婆という老女は
正直その話を聞いたとき、クリムゾンの脳裏に父親であるレッド総帥のことが思い浮かばなかったと言えば嘘になる。
だが、会って話をして何になるというのか、ともクリムゾンは考える。
殺されかけ、殺す決心をした。それだけのことだと自分を納得させ、思考を切り替えたクリムゾンは再び悟空へと話しかける。
「そうです。そのときに言っていた、悟空さんが乗っていたという空から降ってきた乗り物というのを、是非見せてほしいのですが……」
「ああ、あれか。別にいいけど、どうすんだあんなもん?」
「いやなに、珍しいものを集めるのが趣味でしてね。もしかしたら宇宙船かもしれない、なんて思うと燃えるじゃないですか」
そう言ってクリムゾンは、もし本当にそれが宇宙船なら悟空の強さも納得できると考えていた。
すでに過去流された血を用いて悟空の遺伝子を調べたドクターゲロにいわく、悟空の遺伝子構成は地球人のそれとはまったく別物らしい。
クリムゾンは尻尾や変身の特徴から彼を獣人の先祖帰りと見なしていたが、ドクターゲロいわくそんなものでは説明がつかないほどだったとのことだ。
“無尽蔵の生命力を持ち、ダメージを負う度に強くなっていく細胞など見たことがない”と。
それはピッコロにも言えた。彼の細胞もまた人外ではあったが、ドクターゲロはここで魔族のルーツを異星人ではないかと結論付けていた。
ピッコロはともかく、大多数の他の魔族が明らかに地球上の環境に適していない体質をしているのを考えれば、その可能性は十分にあるだろうとも。
その日よりクリムゾンは世界各地にある“空から落ちてきた遺物”に関する情報を調べさせ、少しでも可能性があるなら部下を率いて捜索した。
そして、極寒の北の荒野にて、偶然とんでもない発見をしたのである。
実在する宇宙船だ。
ユンザビット高地に遺棄されていたその宇宙船は、一見してまるで粘土で細工したかのような質感を持ち合わせていた。年代測定をしたところ、少なくとも数百年前の代物だそうだ。
俄然、興味がわいたクリムゾンは
宇宙船を見たピッコロが、突然涙を流したのである。
理由を聞いたが、ピッコロは「わからない……だがこれを見ているとまるでこの世にひとりぼっちになってしまった……そんな気がしたのだ……」とだけ呟き、それからずっと黙っていた。
しばしそうしていると、突如としてクリムゾンらレッドリボン軍調査隊の前にひとりの人物が現れた。
神の付き人、ミスターポポである。
ミスターポポが言うには、かつて泣いていた幼い神を拾ってきたのは自分だという。恐らくピッコロが泣いたのは、魂の奥底にある古い記憶が刺激された結果だろうとも。
それからはドクターゲロと、どこからか宇宙船のことを知って興味をもったブルマが共同で宇宙船の解析を進めた。
どうやら神が話せるという奇妙な言語で動くらしく、その宇宙船としての性能は現存するあらゆる宇宙船よりも遥かに上だった。
一度ミスターポポに協力してもらい飛んでみたが、木星まで一瞬で到達してしまったのだ。
そしてその時クリムゾンは考えた。
もしや悟空も宇宙人なのでは、と。であるならば、彼もまた乗って来た宇宙船があるはずだと。
以前チチと話していたではないか。
“自分は空から落ちてきた乗り物に乗っていたらしい”と。
クリムゾンは悟空の性格が変わっただけで本来は彼が一種の生体兵器であった可能性まで考慮した。
なにせ満月の晩に大猿に変身し、暴れるだけで大半のモノが破壊できる。子供のうちは大して警戒されないから拾って育てられる可能性もあるだろう。後は大人になるまでじっと潜伏していればいい。本来であれば。
そこまで考え、クリムゾンはさすがに荒唐無稽だと思ったが、それでも彼が宇宙人かもしれないという可能性は捨てきれなかった。
そこで、今回の訪問のついでに宇宙船の所在を確認することになったわけだ。
「お、あったあった!」
悟空の先導に従い、パオズ山の一角へとやってきたクリムゾン。不自然に窪んだ場所の中心に、すっかり生い茂った木や葉っぱに包まれた丸形のポッドが鎮座している。
「ありがとう、悟空くん。回収は専門のチームに任せるから、今日はいったん帰ることにするよ」
「そうか? チチの飯食っていけばいいのに、うめえぞ」
「ありがたい申し出だがお断りするよ。また今度食べさせてくれ」
そう言って一度悟空の家まで戻ると、チチへと簡単な挨拶を交わしてクリムゾンはハイパージェットでレッドリボン軍本部へと戻っていく。
「……私だ。宇宙船を発見した。許可は取ってあるから、明朝回収チームを向かわせてくれ。外観を見ただけだが、ナメック星のモノより性能は上かもしれん。ああそれと、麻酔銃を撃ち込んでも構わないからドクターゲロを休ませろ。あのジイさん、一度興味を持つと倒れるまで止めないからな」
映像通信でブラック補佐に指示しながら、クリムゾンは流れが今自分にあるのを感じてほくそ笑む。
未来に先んじて力を得るきっかけを手にしたと確信して。
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それから更に、3年の月日が経った。
地球に降り立ったサイヤ人ラディッツは、ポッドが開いた瞬間一様に同じ格好をした兵士数百人に囲まれていた。
「ようこそ、星の彼方から来た客人。ご用件を聞こうか?」
真紅のマントを翻し、クリムゾンは笑顔でラディッツへと問いかけた。
ラディッツ「地球とかいう辺境に弟を迎えに来たらフル装備の兵隊に囲まれていた件」
ということで、一気に話を進めました。というのも、ここで冗長に天下一武道会の結果やらピッコロや悟空の修行パートやらをやるのがこの小説の目的ではないからです。
バトルも散々ドラゴンボールCのときにやりましたので。
再度言いますが、この物語の主人公はレッドリボン軍総帥クリムゾンです。
彼が人間としてどうやって絶望的な力の持ち主達に立ち向かっていくか。そのための物語ですので。
あ、別に変なこと言われたわけではないです。ただの熱い主張です、はい(´・ω・`)