ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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昨日はこちらの急な都合で更新が遅れて申し訳なかったです。

hisaoさん、あるすとろめりあ改さん、骸骨王さん、甘党万歳さん、誤字報告ありがとうございます。


第74話【龍拳】

静かに対峙する二人。変身を解いているというのに、互いに漂う緊張感は僅かも劣っていない。

 

知っているのだ。変身という過程を経ずとも、互いに必殺の技をまだ持っていることを。

 

そしてその緊張感は、見るもの全てに伝わっていた。

 

「……動きませんね」

 

「ああ」

 

ゼノは先ほどのやり取りに続き、悟空と父親であるベジータを見ながら桃白々に問いかける。

 

彼らはまるで嵐の前の凪いだ海を見るような気持ちで二人を見つめていた。

 

──先に動いたのは、やはり悟空だった。

 

右肘を前に出しての真っ正面からの特攻。一見無防備に見えたそれだが、ベジータは悟空の狙いに気づいていた。

 

悟空が己の右肘でベジータの顔面を捉えんとした刹那、ベジータは急激に体を沈め後ろ手に体を支える。

 

弓が力を溜めるように、跳ね上がったベジータの両足が悟空を強襲するが悟空は動じない。

 

瞬間移動によって跳ねたベジータよりも低空に滑り込むと全力での横蹴りをベジータの腰部(ようぶ)へと繰り出す。

 

しかしベジータは悟空の横蹴りを受けたにも拘わらずその体をふわりと浮かせて回転しながら着地する。

 

「なんと……!」

 

「これは……」

 

その様子を見た亀仙人と桃白々が驚愕するが、ふたりの戦いは続いている。

 

今度はベジータが仕掛け、悟空はそれを体を固めて受け止めようとする。

 

しかし仕掛けてきたベジータの拳はいつの間にか掌へと変わり、組んだ悟空の腕を掴むと重心を狂わせその場で一回転させてしまう。

 

「おっわ……!」

 

悟空は持ち前の反射神経で逆立ちとなるが、両腕を強制的に塞がれた悟空の肝臓へとベジータの一本拳がめり込む。

 

「ごぅっ……!」

 

激痛に喘ぐ悟空。しかし痛みを気合いで堪えた悟空は逆立ちのままベジータへと無数の蹴撃をお見舞いする。

 

ベジータはそれらをなんなく捌くが、あろうことか悟空は自身の体勢を維持することを諦め両腕でベジータの足首を掴んでしまう。

 

「ぐっ……!」

 

万力のような力が込められた悟空の握力にたじろぐベジータ。悟空はそのまま体勢を入れ替えるようにして足でベジータの頭を掴み回転し始める。

 

数度の回転を経て、空中へと投げ出されたベジータ。とはいえ舞空術を制限したわけではないベジータは数度の回転を経てすぐに体勢を立て直す。

 

だが悟空が欲しかったのはその僅かな時間だった。

 

「波っ!!」

 

ベジータがしっかりと悟空を捉えた時には、眼前にかめはめ波が迫っていた。

 

直撃間違いなしの距離。が、あろうことかベジータはこれを受け止めると自身の気を込めて雲散霧消させてしまう。

 

「あれは俺の……!!」

 

天津飯が自身の技をアレンジして使われたことに驚く。しかし驚いたのは彼だけではなかった。

 

「だっ!!」

 

悟空はかめはめ波を撃った直後から気を溜め、一瞬で巨大なエネルギー球を形成したのである。

 

「スーパーノヴァか!」

 

歓喜の声をあげるクウラ。最大級の溜めを僅かな時間で行ったこともそうだが、なにより高熱の小型太陽と化したスーパーノヴァは先ほどのように即座に無力化するというわけにはいかないのだ。

 

「ふん!」

 

ベジータは鼻で笑うと、自身の右手を垂直に曲げ掌から破壊の光球を作り出す。

 

「ビッグバンアタック!!」

 

ビッグバンアタックとスーパーノヴァ。二つの破壊球はパワーが落ちているにも拘わらずカッチン鋼を砕きエネルギーの嵐を産み出す。

 

「ばっ!」

 

悟空が自身の右腕を突きだし、純粋な気を放出してエネルギーの嵐を吹き飛ばす。

 

──瞬間。悟空の頭上からベジータの踵が強襲しその頭蓋を砕かんとするが、穿たれたはずの悟空の姿は蜃気楼のように揺らぎ姿を消す。

 

消えたはずの悟空は真横から現れベジータへと飛び蹴りをお見舞いするが、ベジータもまたその姿をかき消す。

 

それを追うように悟空が真下から肘を突き上げ、頭上でスレッジハンマーを繰り出したベジータと相打ちとなる。

 

互いの攻撃を相殺する形になった二人は再び距離を取るも、すぐに接近し激しく打撃の応酬を繰り返す。

 

ベジータの拳が悟空の肋を打ち、悟空の手刀がベジータの蹴りを迎撃する。

 

悟空の膝蹴りとベジータの膝蹴りが無数に繰り出されお互いに威力を相殺しあう睨み合いが発生する。

 

空中を行き交う花火のごとき炸裂音。その衝撃波だけで通常ならば地面がめくれあがるのを、バリアの範囲を拡大したクリムゾン、ビルス、ウィスの三人が防ぐ。

 

「かぁ……めぇ……はぁ……めぇ……!!」

 

悟空が全身の気を両掌の一点に集中させ激しいスパークを生む。

 

「ギャリック……!!!!」

 

ベジータが同じく全身の気を右腕一本に集中させ、さながら砲弾を装填した砲口を向けるかのようにエネルギーを渦巻きながら悟空へと向ける。

 

「波!!!」

 

「砲!!!」

 

奇しくも同じだけのエネルギーが込められた両者の光線は激しい衝撃波を生みながらも勢いをまるで減衰することなくぶつかり続ける。

 

星を完全消滅させる以上の威力を撃ち合った二人だが、消耗の色はない。

 

ベジータはリング状の光線を悟空へ向けて発射すると、それを手で操り悟空を襲わせる。

 

悟空は最初回避に徹していたがそれが難しいとわかると至近距離で迎撃せんと拳を構える。

 

それがいけなかった。

 

悟空がリング状の光線を殴ると、それは柔軟に変形し悟空の腕を捕らえ、同じように残ったリング状の光線も悟空の四肢を捕らえ空中で行動不能に陥らせる。

 

「はああぁぁぁっーー!」

 

必殺の勢いを込めた拳を構え、無防備な悟空へと近づくベジータ。絶体絶命、ではない。悟空は笑っていた。

 

「うおりゃあああああ!!」

 

ベジータの制御下にあるはずの拘束光線は悟空の馬鹿力によって無理矢理方向転換を行わされると、突っ込んできたベジータとぶつかり合い砕け散る。

 

一瞬の怯み。それを見逃さない悟空はベジータの下半身を抱え、地上へと勢いよく飛んでいく。

 

──ここに来て、悟空のパワーが圧倒的であることを確信したベジータが先に切り札を出した。

 

「……~~~~っ!!」

 

それは一瞬だった。確実に拘束され、死に体であるはずのベジータから放たれた正拳突きは悟空の拘束を振りほどくどころか悟空のみを地上へと勢いよく飛ばす。

 

地面へ強く打ち付けられた悟空だが、ダメージはそっちではない。今の一撃が悟空から呼吸を奪っていた。

 

“因果”。亀仙人の“極みの一撃”を独自に昇華させたそれの本質は、あくまでカウンターである。

 

だが通常のカウンターと違うのは、ベジータの“因果”は亀仙人のそれと同じく相手の攻撃が打撃でなくとも使用可能であるという点である。ベジータは急速な落下エネルギーを利用し、悟空の肺腑を強かに打ち据えていた。

 

おまけに気を流し込まれ肺が動かない。そこで悟空は自身の脇腹を殴り、自ら肋を折る。

 

「がっ……! ごほっ、がはっ!」

 

ダメージは大きい。呼吸ひとつで全身に激痛が走る。が、呼吸は出来るようになった。

 

「へへっ……」

 

悟空は己が一気に不利になったことを悟る。が、笑みは止まない。先に追い詰めたのは、あくまで自分であるからだ。ならば、その優位は揺るがない。

 

「次の“因果”は今までのとは違う。俺の意志全てを乗せた無敵の一撃だ。防ぐこと、避けること。どちらも叶わぬと知れ」

 

構えるベジータ。彼は言っているのだ、“死にたくなければ敗けを認めろ”と。

 

「ぐっ……! へへ、やなこった!!」

 

強がりであり、誰かが本来であれば止めるべきであろう。しかしベジータを応援する家族がそうであるように、悟空を応援する者もまた彼の勝利を疑っていない。

 

悟空は今のベジータの宣言を聞いていたにも拘わらず、愚直に構えを取る。

 

「今から放つのが、オラにとっても最後の技だ。言っておくが、こいつも防げねえし避けることはできねえ」

 

「望むところだ!!」

 

向き合う両者。見守る者全てに緊張が走る。

 

悟空は一歩目を駆け出し、二歩で空を踏み込み、三歩で音を置き去りにする。

 

「龍拳!!!!!!」

 

まるで悟空の全身を守るように、赤い鱗をもった神龍によく似た龍が形成される。気によって擬似的に構成された龍は大きく吠えながら、ベジータへと向かっていく。

 

ベジータはその偉容を見て、“避けることも防ぐこともできない”と断言されたのを理解した。

 

迫るにつれて、空間すら歪める赤龍。ベジータは静かに──すべての気を爆発させ目の前の龍へと叩きつけた。

 

「因果!!!!!!」

 

時の異次元空間を構成する亜空間にヒビが入り、それを即座にクリムゾンが補修する。

 

ビルスが漏れでたエネルギーを自身の破壊の力によって相殺し、ウィスが限定的な時戻しによって許容をオーバーしたエネルギーを相殺していく。

 

やがて光が精神と時の部屋を包み、かつて武舞台があった場所が見えてきた。

 

そこには何も残っていないかに思えたが、確かに立つ一人の影があった。影はその手を高々と掲げると、目の前に倒れた無二の敵へと向かって倒れこんだ……。

 

 

 




どうも、これまでこの作品を読んでいただいてありがとうございます。
未来を垣間見たドラゴンボールのオリキャラが、原作世界観をこれでもかと引っ掻き回していく姿は痛快でありながら一部では不快な部分もあったと思います。
けれどこのクリムゾンというキャラが投じた一石は、私がこれまでドラゴンボールを見て読んで観てきた様々な思いでもありました。
波紋もあったと思います。嫌悪する部分もあったと思います。けれど、この作品を書くことで自分が成長できたのも確かでした。
今後もこのお話は続きますが、本編は実は次回が最終回です。そしてその最終回は、明日投稿します。
今後は様々なキャラクターの視点で外伝的なお話を適時投稿していきますので、どうぞもうしばらくお付き合いください。それでは、また別の作品でお会いしましょう。

次回予告

光陰矢のごとし。
月日が経つのをあっという間に感じるのは、年齢(とし)を重ねたからだろうか。
次回【不屈】。絶望も理不尽も問題ではない。私がいるのだからな。

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