ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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寝不足が続くと幻覚・幻聴ってほんとにあるんですよね。
夢と現実の境がわからなくなると言いますか。
あ、少なくとも四時間は寝てます。とりあえず動けるだけですけど。私はゾンビ。ヴァー


第8話【兄弟】

早々にスカウターを破壊され焦るラディッツは眼前の兵士を殴るも、それが大して効いていないことに戦慄する。

 

「くそっ! 一体どうなっているっ! ここは資源に乏しい辺境の惑星ではなかったのか!?」

 

「畳み掛けろ! ヤツを休ませるなっ!!」

 

今、ユンザビット高地で激戦が起こっていた。

 

宇宙から飛来した戦闘民族サイヤ人の生き残りラディッツ対レッドリボン軍の精鋭400人による戦いである。

 

10人前後で組まされた小隊が、指揮官の命令に従い全身を包むボディーアーマーに防御を任せて命知らずに突っ込んでいく。

 

このボディーアーマーは悟空の乗って来た丸型ポッドから回収されたものを参考に作られた、最新鋭の防護服である。

 

ドクターゲロによって量産体制を整えられたこの最新鋭の鎧は倍力機構こそ最低限ではあるものの、その防御力は今現在のピッコロによる全力攻撃にも対応できる優れものである。

 

「ヤツとて不死身ではない! アーマーの耐久値に問題が起きない限り休まず攻撃し続けろ!」

 

「ええい! いつまでまとわりついているつもりだっ!!」

 

気合いと共にエネルギー波を繰り出すラディッツ。それによって三人の兵士が吹き飛ばされるが、致命傷どころかまともにダメージを負わせることすらできていない。

 

ラディッツは、不死身のごとく倒しても倒しても起き上がる兵士達に段々とおぞましさを感じていた。

 

“これはなんなのだ”と。

 

簡単な作業のはずだった。

 

遥か昔、父親によって地球という辺境へ送り込まれた弟を回収し、星の地上げに協力させる。サイヤ人であるなら、兄である自分が力を見せつけてやればすぐに従うだろうと、そう考えていた。

 

しかし現実はどうだ。

 

ポッドは恐らく遠隔操作され、準備万端待ち構える兵士達に囲まれた。

 

自分に声をかけてきた男を人質にしようとするも、彼を護衛するように現れたナメック星人の戦闘力はラディッツを遥かに上回っている。

 

“自分よりも強い相手とは絶対に戦わない”。

 

それは無謀にも宇宙の帝王たるフリーザへと挑み、母を逃がすこともなく死なせた父親へのせめてもの反抗心だったと言っていいだろう。

 

そうして一時間以上は戦い続けただろうか。

 

ラディッツの心は、折られようとしていた。

 

「ぜえ……ぜえ……ぜえ……」

 

もはや声を出すことも億劫であった。

 

体力はとうに尽き、意地だけで立っている状態である。

 

また、ラディッツに繰り返し続けられる攻撃も実に厄介であった。

 

指揮官らは銃弾や爆弾の類いが効かないことを早々に見切ったか、あるいは物は試しでそれら重火器を使っただけなのか、ボディーアーマーの防御力にものを言わせて電撃による消耗作戦に踏み切ったのだ。

 

事前に用意された数百丁のテーザー銃。

 

ひとつひとつならばまだ耐えられたものの、それも一度に十を超えると話は違ってくる。

 

しかもこのテーザー銃は電流・電圧共に悟空を対象に実験開発した規格外の装置。

 

如何に屈強なサイヤ人であるラディッツといえど、消耗は免れなかった。

 

「……そろそろか」

 

「本当に俺の出番がなく終わるとはな」

 

クリムゾンとピッコロは、十キロほど離れた場所からモニター越しに戦いの様子を眺めていた。

 

ここまで来るのは長かったが、こうなってしまえばもはやラディッツには為す術がない。

 

「お、飛んで逃げるつもりだぞ。というより飛べたんだなあいつ。どうやらパニクって忘れていたか」

 

「ふん! 情けないヤツめ、俺が直々にとどめを刺してやる!」

 

「待てピッコロ。あの程度なら彼らでなんとでもなる」

 

クリムゾンの言うとおり、飛び上がったラディッツは全身を投網のようなもので捕らえられていた。

 

しかも網は締め付け、ラディッツの全身を雁字搦めにすることで身動きすら取れなくしてしまう。

 

「ぐうぅ……!! ぐがあああああ!!!!」

 

ラディッツの焦燥感はどれほどだっただろう。

 

明らかに格下の連中を相手に無様に捕らえられたことは、彼のプライドをズタズタにしていた。

 

それでも動けないラディッツを相手に次々とテーザー銃が撃ち込まれ、皮膚を貫かずともその激しい電撃は容赦なくラディッツを消耗させる。

 

やがてラディッツが口から泡を吐いて気を失うと、待機していた拘束チームが手際よく網の上からラディッツへと麻酔を注射していく。

 

「ふむ、やはりさすがに気を失うと防御力は格段に下がるな」

 

「……えげつないな」

 

一方的に捕らわれの身となっていくラディッツを見て、まるで猛獣が哀れにも檻へと入れられていくようでピッコロは少しだけ物悲しい気持ちになった。

 

「総帥! 状況終了致しました!」

 

ジェットバイクに乗って報告にやってきた兵士の言葉を聞き、クリムゾンは立ち上がる。

 

「ご苦労。勇猛なる諸君らの活躍によって無事侵略型異星人を捕らえることができた。諸君らの奮闘に感謝する!」

 

「はっ!」

 

誇らしげに敬礼をする兵士が帰っていくのを見送り、クリムゾンはピッコロへと振り向く。

 

「さ、楽しい尋問タイムだ」

 

ピッコロはその嬉しそうな笑顔を見ながら義理の父親の恐ろしさを改めて実感した。

 

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薄暗い地下室。

 

そこで五体のすべてを拘束され、模型のように壁に拘束されたラディッツは目の前に現れたホロイメージの男を睨んでいた。

 

「お目にかかるのはこれで2度目だな。俺はクリムゾン。()()であるこの星で、レッドリボン軍という軍隊の総帥をしている」

 

「……ふん、下等種族が」

 

「その下等種族に無様に捕まりなにもできなくなっているのは、どこの誰かな。()()()()()()()

 

「……! きさま、どうやって俺の名前を!」

 

ラディッツは拘束を力任せに引きちぎろうとするが、びくともしない。どうやら相当強力な金属でできているらしい。

 

「無駄だよ。あの戦いで君の戦闘力を測らせてもらったが、君が大猿になっても拘束し続けられるだけの強度がある。まあ、そんなことになれば手足とさよならするだけだがね」

 

ラディッツは口を開けば相手に情報がいくだけだと可能な限り黙ることにした。

 

だがこれ幸いと言わんばかりにクリムゾンは口を開く。

 

「正直、こうして最初に来たのが君でよかった。万が一べジータやナッパだったならばこうして悠長に会話している余裕などないからな。さて、ラディッツくん。実は君と取引がしたい」

 

「……」

 

「盗聴を警戒しているのかな? 問題ない。君の壊れたスカウターは既に回収済みだし、それ以外に盗聴するための機械はついていなかった。だがそのことを咄嗟に判断できる辺り、君は思ったよりも頭が回るみたいだな。いや、そうでなくては生き残れなかった、ということか。お父上は残念だったな」

 

「……お前、本当に何者だ。まさかコルド大王や、クウラ様の関係者か」

 

ラディッツは冷や汗が流れるのをぬぐうこともできず、目の前の赤髪の男を注視する。

 

「はっはっは、まさか! 私がフリーザ一族と繋がりがあるなど過大評価もいいところだ。だがまあ、あながち関係ない話ではない。さきほど言った取引とは、つまるところフリーザ暗殺に協力してほしいという話なのだからね」

 

「ふん、期待して聞いてみれば馬鹿馬鹿しい。できるものかよ、そんなことが」

 

ラディッツは心底呆れたといった体でクリムゾンを見下す態度を取るが、いまだ冷や汗は乾かない。

 

「本当にそうかな? ではどうして君は、たかだか戦闘力50にも満たない兵士達によって拘束されたのだ」

 

「あれで全員が戦闘力50だと……? 冗談にもほどがあるぜ」

 

「冗談ではないさ。ま、もっとも彼らが着用していたボディーアーマーは最大で戦闘力3000の攻撃にも耐えられるようにできている。君がいくら殴ろうがエナジーショットを放とうがびくともしなかったのはそれが原因だ」

 

「そういうことか……!」

 

「そうだ。そして、電撃はエナジーアーツ共通の弱点でもある。サイヤ人のタフネスを想定して悟空くん、ああ君にわかりやすく言えばカカロットに協力してもらったからな。いやはやそれにしても、普通の生物ならば喋るどころか間違いなく死んでいるんだがな。サイヤ人の肉体とは不思議なものだ」

 

顎に手を当ててラディッツを観察するクリムゾンだったが、ラディッツの耳に入った言葉は到底聞き逃せるものではなかった。

 

「きっさまぁ! カカロットに何をしたぁ!」

 

本来であれば、ラディッツ自身これほど感情的になることはない。だが、唯一生き残った肉親がまるで人体実験の材料に使われたようなことを言われて、何故だか黙っている気になれなかった。

 

クリムゾンは事前に打っておいた自白剤がよく作用してくれてるとほくそ笑むのを堪えねばならなかったが。

 

「無事だ。ただしまだ、という言葉がつくがね。彼が無事家族に会えるかは、これからの君の態度次第というわけだ」

 

クリムゾンは嘘を言ってはいない。

 

悟空がいないのは確かだが、それは悟空が修行に向かったからだ。彼が向かったのはあの世の一角にあるという宇宙を統べる界王の元。神から閻魔へと話が行き、悟空の類い希な格闘の才能が認められ特別に界王の元へと向かうことが半年ほど前に許可されたのだ。

 

神から界王の元へと向かうための蛇の道は百万キロもあると聞いているので、悟空をしても未だたどり着くことすらできていないだろうとクリムゾンは思っている。

 

そして界王の元から無事に戻ってこれるかはまだわからないし、家族というのは他でもない妻であるチチと今年四歳になる孫悟飯のことである。

 

そしてラディッツの回答次第では修行を短縮してもらって悟空に戻ってきてもらわねばならない。今現在の仮想敵であるべジータとナッパはそれほどの強敵であるからだ。

 

「……わかった。だが本当にフリーザを殺すことができるのか? ヤツの戦闘力は──」

 

「──推定1億。地球人どころか、サイヤ人でも到底勝てそうにない力の差だな」

 

「なに……!? いや、そうか。やはりヤツの本当の実力はそれほどに……くっ、親父が勝てないはずだぜ」

 

ここまでクリムゾンがフリーザ軍の内情を知ることができているのには理由がある。

 

それは、フリーザ軍が想定外とした情報戦による結果だ。

 

三年前、クリムゾンは悟空が乗って来たとされる丸型ポッド、正式名称アタックボールから異星文明による高度な装備を複数手に入れていた。

 

まずひとつ目が、レッドリボン軍の兵士らが着用していたボディーアーマーの原型だ。

 

これの強度がすさまじく、試しに機械で無理矢理引っ張ってみたところ際限なく伸びていくうえに、対艦ミサイルの直撃でも無傷だったのだから。

 

次にクリムゾンが狂喜乱舞したのは、ご存じスカウターである。

 

()()()という極めて複雑な概念を数値化し、所有者にわかりやすい形で眼前の標的の危険度を示してくれる装置。

 

思わず嬉しくなって周囲の人間を測定したクリムゾンだったが、途中であることに気付いて即座にそれを止めた。

 

スカウターと呼ばれていることが判明したその装置は、その処理のすべてをスカウターのみで行っているわけではない。

 

戦闘力とは大雑把に言ってしまえば、筋力、耐久力、速力といった要素を数値化したものである。

 

だがそれらには当然付加要素もつく。

 

例えば強靭なボディーアーマーを纏っていたならば。

 

例えば超強力かつ反動の少ない銃を持っていたならば。

 

例えば何か乗り物に乗っていたならば。

 

それらすべてを複合的に判断するには膨大なデータが必要である。

 

クリムゾンは試しにもう一度、今度は一般の兵士をフル装備の状態と裸の状態で測定してみた。

 

結果は前者の方が戦闘力10。後者が3だった。

 

そしてクリムゾンの想像通り、スカウターには通信装置が内蔵されていた。

 

光よりも早く異次元を進む粒子によって通信を交わしているらしいスカウターは、いずこかに保管されたデータベースから必要に応じてデータを取りだし判断しているらしい。

 

そして通信をしているということは、スカウターの送受信履歴を調査すれば盗聴や盗撮も可能ということだ。

 

そこでクリムゾンはドクターゲロとブルマに協力を打診し、スカウターが参照元にしているデータベースへのハッキングを行った。

 

もちろん、一朝一夕にはいかなかった。

 

いかに天才である二人といえど、遥か上を行く科学力をもったスカウターのデータベースへのハッキングなど不可能かと、クリムゾンが思い始めた頃。

 

ブルマに応援として呼ばれたひとりの少年によって事態は劇的に進んだ。

 

則巻ターボと名乗った宙を浮く少年は話を聞くと「面白そうですね」と言ってスカウターを初見で分解。

 

これにはさすがのドクターゲロも引きつっていたが、その後ふたりと協力してあっさりと異次元空間に封印されていたスカウターのデータベースへとハッキングを済ませてしまった。

 

ちなみにその際スカウターはデータベースから情報を引き出すための端末として改造されてしまったのだが、悪いからと有り合わせの部品で同じものをターボ君が作り出したときはさすがのクリムゾンも引きつった笑いを浮かべるしかできなかった。

 

何はともあれ、反則のような人物の手伝いにより作業は予定よりも早く進んだ。

 

それによって逆にスカウターの利用者を盗聴することが可能となったレッドリボン軍は、地球にカカロットがいることを知ったラディッツの襲来を知り、数年をかけて軍を鍛え上げ準備してきたのである。

 

どうやってラディッツに勝ったのかを説明し終えたクリムゾンはホロイメージを消し、扉を開けピッコロと共にラディッツの目の前までやってきた。

 

クリムゾンは手元のリモコンでラディッツを拘束から解放する。

 

「私が勝つためなら手段を選ばないのを理解できたかな? さて、それでは協力してもらおう。私の計画に」

 

拘束を解除されたとはいえ、未だ場所は薄暗い地下室であり、目の前のクリムゾンは護衛を引き連れている。

 

ラディッツは正直目の前の男のいいように進んでいるのが気に入らなかったが、同時にあのフリーザをも手玉に取ることができるとするなら目の前の男のような人物だと確信した。

 

「……ふっ、フリーザが帝王ならお前はさしずめ魔王だぜ。いいだろう、協力してやる。全宇宙一の強戦士である、サイヤ人のラディッツ様がな」

 

それはラディッツにとっての誇り。戦闘民族として、偉大な父親の息子としての。

 

そして強さを価値とするのはなにもラディッツだけではない。クリムゾンもまた、誰よりも強さを欲する男だった。

 

「歓迎しようラディッツくん。ようこそ、レッドリボン軍へ」

 

真紅のマントをはためかせる男が、ひとりの戦士を従えた。

 

そのことが運命をどう変えるのか。未来への道のりは、未だ遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということでラディッツくん陥落(´・ω・`)

彼ってあのサイヤ人の息子とは思えないくらい生き汚いんですよね。何がなんでも生き残ろうとする姿は、きっと取り残されてから歪んでいった姿だと思われ。自白剤でちょっぴり素直になれました。よかったねラディッツくん(ゲス顔)

とはいえ問題はここから。ラディッツくんが協力的になったとはいえ不確定要素の塊であるべジータとナッパが残っているのです。

そして原作よりも早く界王様の元へと向かった悟空は果たしてべジータ襲来に間に合うのか。

絶望の未来を覆すための大きな一歩が今踏み出されました。
今後も好ご期待(´・ω・`)♪

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