ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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実は構想を練ってからはほぼ勢いで書くのが私の執筆スタイル(´・ω・`)
なので原型とはかけ離れていったりすることが多々あるのですが、今回最も優先しているのは自分が楽しめること。クリムゾンという戦闘力のインフレについていけない主人公だからこそやれることを徹底的に書いていきたいです。

そして皆さん評価やお気に入りありがとうございます。承認欲求高いのでとても励みになります。けなされるとあっという間に凹みますが(´・ω・`)(苦笑)

それと感想に返す余裕がなくてすいません。今はとりあえず全力で書くことに集中している状態です。

それでは本編をどうぞ。


第9話【懊悩】

ラディッツの襲撃(?)から一夜が開け、彼がレッドリボン軍へ所属することは正式に通達された。

 

これに関しては概ね好意的に受け入れられた。

 

なぜか。

 

それは件のラディッツ襲撃と同じ状況をシミュレーションし、すでに何度も演習を行っていたからであり、場合によっては彼を味方に引き込むことをクリムゾン自ら公言していたからであった。

 

またラディッツ自身がいくら強大な力を持っているとしても、レッドリボン軍の兵士らからすれば電撃を無効化して流し返してくるピッコロや、ダメージを負っても嬉々として向かってくる悟空と比較すれば幾分大人しいという印象だったのもある。

 

比較対象というのは大切なのだ。

 

そして今回の結果によってクリムゾンは確信する。()()()()()だと。

 

戦闘力にして推定1億という、まさしくけた違いの力を持つフリーザをしても今回の流れは読めなかっただろう。

 

否、問題であると認識すらしていないに違いない。

 

事実、スカウターを通じて連日フリーザ軍の情報を抜き出しているというのに事態に気が付いている様子すらないのだから。

 

それなり以上に強固なプロテクトであったが、地球の天才三人がかりで突破されてしまってはそれも形無しだろう。

 

ちなみにクリムゾンがラディッツの詳細なプロフィールや、彼の父親であるバーダックのことを知っているのもこの為であった。

 

クリムゾンの最大の武器が“知っている”ことである。ならば、それを最大限に活かすのは常に相手の先へ先へと行動することだ。

 

そしてその結果のひとつであるラディッツは今、食堂で振る舞われる料理に感動していた。

 

「……久しぶりにまともな食事にありつけた」

 

「よく食べるな。だがどこか品がいい。ラディッツ、お前本当にサイヤ人か?」

 

「まるでサイヤ人の食事を見てきたような言い様だな。……いや、そういえばカカロットを知っているんだったか。おい、俺は協力すると言ったんだ。ヤツと会わせてもらおう」

 

散々に食べたラディッツは粗野な見た目とは裏腹に、きちんと食べ残しなく料理を平らげていた。

 

また独特ではあったがテーブルマナーらしきものも身に付けており、そのスマートさをクリムゾンは意外に思う。

 

「会わせてやるのはやぶさかではないがしばらくは無理だぞ。少し特殊な場所に行っているからな」

 

「……俺を騙すつもりか」

 

にわかに殺気立つラディッツ。目の前にピッコロがいても迷わずクリムゾンへ殺意を向ける辺り、自白剤の影響もあったのだろうが本当に家族への愛情のようなものを自覚したらしい。

 

「騙すつもりなどないさ。ラディッツ、お前は界王という存在を知っているか?」

 

「カイオウ? いや、知らんがそいつがどうしたと言うのだ」

 

「悟空は今その人物のところへ修行に行っている。ちなみに、行く前の時点で彼の戦闘力は2500。お前より数段高みにいる」

 

「……そうか、それは何よりだ」

 

「悔しがらないんだな」

 

「俺はサイヤ人としては異端でな。あまり強さに拘っちゃいない。お前が興味津々で見ていたテーブルマナーも、政治的な駆け引きの際に覚えたものだ」

 

そう言って、ラディッツは自身の長い来歴を語った。

 

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幼い日、星を侵略するフリーザ軍の下級戦士として派遣されていたラディッツは、突然の両親の死と故郷の消滅を聞かされた。

 

巨大隕石の衝突による惑星べジータの消滅。それに伴い、()()その殆どが集まっていたサイヤ人はわずかな生き残りを除いて絶滅したという報せだった。

 

ラディッツは、目の前が真っ暗になる気分に陥った。実際に気を失ってしまったらしい。

 

彼が目を覚ますと、会ったこともないフリーザ直々に話がしたいと呼び出された。

 

怯えながら待機するラディッツに、フリーザは言った。

 

『やあラディッツ。君の父親は僕に逆らったから殺したんだ。驚いたかな? けどね。僕としてはただでさえ優秀な兵隊のサイヤ人達が絶滅してしまって手が足りない現状、これ以上無闇に部下を減らしたくはない。……さて、それを知った上で質問なんだ。君も、僕に逆らうのかな?』

 

ラディッツは眼前でほんのわずかに戦闘力をむき出しにしたフリーザを見て失禁し、絶望した。

 

“勝てるはずがない。こんな化け物に親父は何故逆らったのか”と。

 

このときのラディッツはまだバーダックが唯一フリーザに反逆したのだとは知らなかった。だが知っていても彼の選択は変わらなかっただろう。

 

ラディッツはフリーザに平伏した。まだ幼さの残る彼にとって、生きたいと願うならそれしかなかったからだ。

 

その日から、彼の辛酸を舐める日々が始まった。

 

ある日、同じ生き残りであるサイヤ人のべジータとナッパと出会った。

 

ラディッツは喜んだ。まだ自分にも仲間がいると。

 

だがそれは勘違いだった。

 

べジータにとって、ラディッツは顔を覚える必要すらない下級戦士。それもまだ一人前にすらなっていないような。

 

その認識はナッパも同じだった。

 

彼らは言った。

 

『ラディッツ、死にたくなければ俺の前をうろちょろするなよ』

 

『お前、フリーザ様に土下座しながら殺さないでくれって言ったんだってな。よぉし、今日からお前は“弱虫”ラディッツだ! お似合いだぜ、ガッハッハッハッハ!』

 

遥か格上のふたりに意味もなく半殺しにされながら、ラディッツは悔しくて泣いた。

 

それからもずっとそうだった。

 

ラディッツが彼らと星を侵略すれば、早く終わりすぎた戦いに満足いかなかったのかナッパがサイバイマンをけしかけてきたこともあった。

 

土地の状態によりけり強さの変わるサイバイマンだが、その戦闘力はフリーザ軍でも上級戦士に匹敵する。戦闘力にして最低でも1000以上の化け物だ。

 

当時のラディッツはパワーこそ互角ではあったものの、強酸によって全身を焼かれ生死の境をさ迷うはめになった。

 

そこで死ななかったのは、まだ役に立つだろうとべジータがメディカルポッドに入れてくれたからだったが、それでその後の扱いが変わるわけでもなかった。

 

そんな日々を繰り返して、ようやくラディッツの戦闘力がサイバイマンを上回るようになると、ナッパも彼をいたぶるのに飽きたのか相手にしなくなっていった。

 

いくらか落ち着いた日々を送ることができるようになったラディッツは、強くなるよりも星を侵略するための政略を学んだ。

 

データを漁り、侵略先の星で文化を学び、それを次の侵略へと活かしていくラディッツ。

 

脅迫と実益を対価に星の地上げを進める彼はいつしかフリーザが直々に顔を覚えるようになるほどだった。

 

ラディッツからすれば今のやり方は以前の力任せのやり方よりもよほど確実であり、それによってラディッツは着実にフリーザ軍における立場を固めていった。

 

そんな矢先だ。

 

ラディッツは偶然、いや必然的な出会いを果たした。

 

ダックという名の、鳥に似た顔をした宇宙人である。

 

フリーザ軍においてさして珍しくもない元王族だという彼は、フリーザ軍に故郷を滅ぼされてからはその処理能力の高さからデータ資料の整理を任されていた。

 

まめにデータ資料の閲覧申請をしに来るラディッツとは、その時まではせいぜい顔見知りと言える程度の関係だったが、あるときラディッツは彼がぼそりとフリーザへの不満を口にするのを聞いてしまった。

 

それが誘いだったとは後で知ったが、ともあれ二人はそれをきっかけに情報を交換するようになっていった。

 

ダックが求めたのは、生きた情報。彼が整理する資料は言うなれば古い情報であり、すべてコトが済んでからの出来事になる。

 

40年以上の長い年月をひたすらに同じ場所で過ごしてきた彼は、生の情報に飢えていた。

 

そしてある日ラディッツはふとした思い付きから、宇宙の情勢などを話す代わりに彼から表には出せない様々な資料を借りる機会を得た。

 

例えば、それはフリーザの変身能力であったりだとか。

 

例えば、フリーザの背後にはそれ以上の力をもった父親がいるだとか。

 

例えば、父親であるバーダックの死に様の真相だとか。

 

“いつかフリーザでさえ倒して見せる”。そう言ったべジータの顔が思い付き、ラディッツは笑った。

 

フリーザの戦闘力はある程度以上彼に近しいものならば誰もが知っている。

 

53万。けた違いに高い数値であるが、べジータが大猿となれば18万。幼い頃から激戦を潜り抜けてきた彼からすれば、決していずれ届かない数値ではないとも言える。

 

だが、フリーザは変身能力を有しているという。それも自身のパワーを抑える為に使っているのだと。

 

とすれば、フリーザはあのけた違いの戦闘力からさらにパワーアップすることになる。そのとき必要なのは果たしてべジータ何人分なのだろうか。

 

ラディッツは嗤った。悲しさで、悔しさで、諦観で。

 

なにが戦闘民族か。なにが強戦士かと。

 

あのフリーザを前にすればどんなに強い戦士も勝てないのだと。

 

だから自分の父親も無惨に死ぬことになったのだと。

 

そうして一通り嗤った後、ラディッツは怖くなった。

 

これまでは心のどこかで、“べジータならばいずれフリーザを倒せるかもしれない”くらいには思っていた。

 

だが現実はどうだ。自分達サイヤ人は何も見えていなかった。これではまるで道化ではないかと。

 

……それから数年。気がつけば、ラディッツは生き汚くなっていた。

 

絶対に死なない。死にたくない。

 

死にたくないという考えに特別な理由はなかったが、ラディッツはその為ならばどんな卑劣な手段であろうと平気で行うようになった。

 

わずかばかりにあった反骨心も潰えてしまったラディッツは、次第にダックとも疎遠になっていった。

 

そうして怠惰な日常を続けていたある日。ダックから遺書が届いた。

 

フリーザ軍にとって不利なデータを残してきた自分はこれから殺されると。

 

だがせめて唯一の友人に、以前見つけた意外な事実を届けてやりたいと。

 

そこにあったのは、ラディッツの弟であるカカロットが生きているという情報だった。

 

死の直前送られてきた友人の言葉だったが、それだけではラディッツの心に響かなかった。

 

むしろ自分の代わりに矢面に立たせられる人間が出来たと、ほくそ笑んだほどだ。

 

しかしその認識は、実際にラディッツが地球へやってきたことで裏切られることになる。

 

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「……今も別に俺は、ダックの仇を討ってやろうだとか、親父の無念を晴らしたいだとか思っているわけじゃない。変わらず、ただ生き残りたいだけさ」

 

ラディッツは目の前に運ばれるビールの大ジョッキを次々平らげ、顔を赤くしながらも話し続けた。

 

「その割りには分の悪い賭けに乗ったんじゃないか? もしかしたら私と共に歩む道は、地獄への片道切符かもしれないぞ」

 

クリムゾンの笑顔の問いかけにラディッツもまた笑顔で答える。

 

「俺の歩む道はとうに地獄さ。それに俺はこういった勘は鋭くてな。あんたがフリーザに敗けている姿がとてもじゃないが想像できない。第一あれだけのことを知っていて、なおかつフリーザを暗殺するだなんて言えるヤツがいるものかよ。あるんだろ、なにかが。今はそれがわかっているだけで十分だ」

 

酒が彼の口を軽くしているのかもしれない。自白剤がきっかけだったとはいえ、すでに抜けているだろうか。

 

「ま、そういうことだから()()()()ダックの仇と親父の無念を晴らすことになるかもしれない。今は、それで十分だろう」

 

「そうだな、先は長い。私も()()()()フリーザを殺す日を楽しみに待つとするさ」

 

「クククッ……」

 

「フフフッ……」

 

「「ハッハッハッハッハッハ!!」」

 

男達は笑う。先の不安をかき消すように。悪党として誇らしげに、高らかに。

 

……余談だが、食堂で身の上話をしたラディッツは周囲からの暖かい態度にしばらく困惑することになる。

 

 




ちなみにチビラディッツはべジータとではなく、名もないフリーザ軍兵士と共に行動していたという設定です。

ダックに関しては『ダック コブラ』でググると幸せになれるかも
(´・ω・`)キサマノジャクテンハ、ココダー!
まあ、元ネタです。

本当は今回もうちょっと修行とかそういったシーンに割り振ろうかと思ったんですが気がついたらラディッツ回になってました。シリアスな千葉さんヴォイスって素敵ですよね。

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