9-ed
「今度はちゃんと見つけてあげてくださいね」
そう言って、わたしは先輩達を送り出しました。その後ろ姿が見えなくなると、途端に張っていた緊張が解けていきます。
ふぅ…。
ため息をついて近くの壁に寄りかかると、窓の向こうでは夕陽に染まった校舎が中庭に紫色の影を落としていました。もうこの時間に、他の生徒の姿は見当たりません。
わたしはポケットからスマホを取り出して、着信履歴の一番上を選びます。コールが鳴るか鳴らないかなのうちに、相手の声が聞こえてきました。
『はーい、もしもし』
「…あ、電話に出るの早いですね」
スピーカーの向こうから、忍び笑いが聞こえてきます。
『そろそろ掛かってくる頃だと思ったからね』
「そうなんですね」
わたしは視線を校舎の中に戻します。
「いま先輩達が上に行きました」
『うん、お疲れ様。後は比企谷君次第だね』
「そうですね。でも…あの三人なら、多分大丈夫だと思います」
壁から背中を離して、背筋を伸ばします。
「あの…色々とありがとうございます。多分わたしだけじゃなにもできませんでした」
わたしは電話越しにお辞儀をしました。
『ううん、私も何もしてないよ。今があるのは、いろはちゃんが頑張ったからだよ』
「いえ、そんなこと……」
思わず胸の奥が熱くなりました。本当なら、わあわあ泣いて、誰かさんに慰めて欲しい気分です。
…でも、まだダメです。そうするにはまだ早いんです。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐いていきます。
「すみません。まだやることがあるので…」
『うん、そうだね。いってらっしゃい』
「はい。本当にありがとうございました。それじゃあ、また」
わたしはゆっくりと電話を切りました。最後にまたなんて言いましたけど、会うことはもうないとはずです。まあ、その方がいいんですけど。
廊下も階段も、全てがオレンジ色に染め上げられた校舎をぽつぽつと歩いて、わたしは奉仕部の部室まで戻りました。扉の前に立って、教室のプレートを見上げます。こうしていると、あの日のことが思い浮かびます。今も、部室の中から先輩の声が聞こえてくる……そんな気がします。まあ、実際には静かでなにも聞こえませんが、たぶんわたしの中でそれだけ衝撃的だったと思うんです。
それでも俺は、本物が欲しい。
その言葉は、私の心の中に蕩々と流れ込んできました。今まで私が築き上げてきたものを一瞬で崩すような、でも決して嫌じゃない。不思議な感覚。
ああ、とその時わたしは思いました。
これは良くないな、と。こういう台詞は良くない。しまった。たぶん、なんとしても、わたしはここに来るべきではありませんでした。ついつい胸の奥が熱く、キュッとなってしまいます。その台詞に触発され、わたしも、わたしの本物が欲しいと願ってしまいます。
というのは、つまり、どういうことかというと。
つまり……。
不意に、チャイムの音が廊下に響きました。
はっと我に返り、それから大きく深呼吸をします。
「……よし」
軽く握りこぶしを作って気合を入れて、扉に手をかけます。
「失礼しまーすっ」
いつも通り、元気で可愛くて、ちょっとだけあざとく……。
わたしは勢いよく扉を開けました。
今回で最終回になります。
途中、更新期間が空いてしまいましたが、今まで読んでくださった方、感想をくださった方、評価してくださった方、ありがとうございます。
色々と書きたい気持ちはあったのですが、話の組み立て方や表現の仕方など、自分の文章の拙さなどもあって「伝えたいことがきちんと書けていなかったな」というのが、書き終えてみての自分の感想になります。
反省としては、話の中でいくつか伏線を敷いたけれど、全然回収することができなかったということです。設定として頭の中で考えていても、文章にしようとするとおかしくなってしまって書くことができませんでした。その結果、モヤモヤの残る終わりになってしまったと思います。
いろはすの話も、もっと全体に織り混ぜて書きたいと思ったのですが、上手くまとめて書くことができず、最後に付け足すだけになってしまいました。
色々と予想しながら読んでくださった方には、はっきりとした答えを示せず、本当にすみませんでした。
頭の中のイメージを文章にするのは難しく、できる人は本当にすごいなと思います。 自分もそういうものをスラスラと書けるようになれたらと思います。
まだもう少し書きたいこともあるので、今回のSSも一つの結果として、自分でも納得できる話を書けるようにしていけれたらと思います。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。