ガンダム Gのレコンギスタ リベラシオン   作:かはす

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邂逅
邂逅(1)


 

「海賊だってのか!」

 

 鳴り響く警告音(アラート)をかき消すように、グレイグ・ドットは怒鳴った。スクリーンの前で慌ただしくコン・パネを叩いている管制官の元へ向かうため床を蹴る。体はふわりと浮き、減速することなく一直線にシートまで飛んだ。

 

「観測係はそう言ってます! モビルスーツが、ドクロ頭をしているとか……!」

 

 シートごと振り向かせた管制官はひどく慌てた表情をしていて、それがよけいグレイグの癇に障った。

 

「ふざけやがって……」

「映像出します!」

 

 コン・パネに外部カメラの映像が映し出される。ミノフスキー粒子の干渉で粗くなった画像でも、見覚えないモビルスーツが三機、編隊を組んでクラウン(こちら)に向かっているのがわかる。グレイグは先頭の一機に目をやった。

 モビルスーツは確かにドクロのような顔をしていた。ホッケーマスクのようでもある。宇宙空間で目立つ黄色いボディは流線型で、レクテンやアメリア軍のグリモアとも異なるシルエットをしていた。グレイグは正体不明の機体がキャピタル・タワーに接近してくる理由というものを考え、ひとつの可能性を思いついた。

 

「おい! お前の仲間か!」

 

 振り向き、ドアの脇に座る少女に尋ねた。赤い髪の少女は反抗的な目を向けるだけで、答えようとはしない。身動き一つ取らないのは後ろ手に縛られているからだ。

 

「答えろ! お前を連れ戻しに来たんじゃないのか!」

「……ならここが真っ先に狙われるかもね」

 

 少女がぼそりとつぶやく。

 

「モビルスーツを出したほうがいいんじゃない?」

 

 不敵に笑う少女の頬をひっぱたきたい衝動に駆られたが、直後に入室してきた制服姿を見て踏みとどまった。

 

「どういう状況です? キャプテン」

「ドナ大尉! 海賊だ、さっさと迎撃に出ろ!」

 

 八つ当たりの意味も含めていつも以上に大きな声を出し、グレイグはドナ・サン・ゼッダに指示を出した。軍人らしいベリーショートの金髪が特徴的な女性だ。

 ドナは少女のシートに手を添えながらコン・パネをのぞき込み、状況を把握する。早く行け、というグレイグの命令には返答として敬礼をした彼女だが、そのまますぐ退出することはせずにかたわらの少女に話しかける。

 

「大丈夫よ。あなたはわたしたちが守る」

 

 シートから這うように動き、いま少女の肩を撫でた手は、子をあやす母親のように優しいものだった。少女の強張った肩も抵抗することなく身をゆだねている。

 ほんの少し、少女の肩が震えた気がした。

 

「やられないよう祈っていてね、自分のためにも」

 

 少女は何も言わず、首を縦に振っただけだった。

 

***

 

「レクテン三機、出ます!」

 

 管制官の報告のあと、クラウンが揺れた。最下部の無蓋クラウンからモビルスーツが離脱したのだ。足下から上ってきたモニター顔のモビルスーツ【レクテン】は、三機ともビームライフルとシールドを構えて海賊のマシーンに突進していった。

 バーニアの噴射が光の筋となって伸びていく。

 海賊機も加速をかけ、レクテンと衝突するまでに接近した先頭の一機がライフルを振り下ろす。

 正しい使い方ではない。だが銃身だけで数百キロになるその質量は、スピードも伴って圧倒的なハンマーに変貌する。とっさにレクテンはシールドを構えるが、銃身は吸い込まれるようにめりこむ。シールドは火花を上げながらひしゃげ、レクテンもそれを放棄せざるをえなかった。

 

「ングッ……!」

 

 コックピットに座るドナは呻いた。耳をつんざくほどの金属が擦れ会う音と、脳をわしづかみされて前後に揺さぶられたような衝撃は胃液を逆流させ、口の中に酸っぱいものが広がるのが分かった。

 相手は正規軍ではない。戦い方からそう感じたドナは、敵がどう動くか予測つかないことが怖いと感じた。

 

「キャピタル・タワーを破壊することはやってはいけないのだから、ビームライフルを撃つとは思えない……が、海賊にタブーはあるのか!?」

 

 そうひとりごちるだけだ。それでもケーブルを傷つけるようなことがあってはならないために、まずはキャピタル・タワーから距離を置かないといけない。フットレバーを踏み込む。上方向にレクテンを加速させた。

 

「距離を取れば戦えるか!」

 

 下になった海賊マシーンにビームライフルを連射する。キャピタル・タワーを背にすればビームが当たることはないために、有利な状況である。緑色の光線は槍のように直線上に伸びていったが、それが海賊機に当たることはなかった。

 敵も味方も動いている。まぐれ当たりは期待できない。

 海賊のマシーンは体勢を立て直し、バックパックから短いグリップを抜き出した。棒状のビームを発振させたそれは一般的なビームサーベルではなく、作業用のビームトーチだ。キャピタル・テリトリィでも破断・溶接作業に使われるものである。

 ドナもコンソール上の武器スロットルから「サーベル」の項目を選択する。レクテンはそのコマンドに従ってビームサーベルを抜き、発振させる。

 複雑な動作が必要になるモビルスーツの操縦は、ある程度プログラミング化されている。瞬間的な判断を迫られるパイロットにとって、操作でもたつく一瞬のスキが命取りになることがあるためだ。誤動作による事故を防ぐ意味でもこの時代(リギルドセンチュリー)のモビルスーツは特にオートメーション化が進んでいた。

 もちろんマニュアル操作がないわけではない。あらゆる状況を想定し、その都度必要な対策が取られるようでなければ、機械仕掛けのものは怖い。

 トーチを振りかぶりながら加速をかけてくる海賊機。ドナは自機の胸元でサーベルを構え、敵の斬撃に対抗する。

 ビーム同士――その周囲に発生しているミノフスキー・フィールド――が干渉し合い、プラズマを発生させながら揺らぎあってお互いを打ち消した。まばゆいスパークの向こうで敵機の胴体がガラ空きになったのが見え、ドナは右のコントロール・レバーのトリガーを引いた。レクテンの右手から放たれたビームが敵の左肩をかすめた。だがそれで敵の勢いが殺がれることはない。敵機はこちらに突撃してきて、視界いっぱいにドクロ頭が広がる。

 

「グッ……!」

 

 気押されて対応が遅れた。距離を取ろうとする前に敵の間合いに入ってしまった。ビームトーチの真っ赤な光が、明らかな殺意を伴ったウェーブとなってレクテンの左腕を切り落とす。

 コックピット全体を揺さぶられているような衝撃がドナを襲う。意識しなければ胃袋の中のものが出てきそうな感覚が気持ち悪い。喉までこみあげてきた不快感を無理矢理呑み込み、目だけは敵機からそらすまいと開け続けた。

 

「……この……黄色いドクロがぁー!」

 

 残った右腕に構えているビームライフルを、眼前にある敵機の頭に突き刺す。銃身はホッケーマスクを凹ませ、変形したライフルは爆発した。体勢を崩した敵機から距離を取るためにフットレバーを踏み込み、再度機体を上昇させる。真下になった海賊マシーンはこちらを追うことなく、味方と合流するために後退した。

 先ほどよりは控えめな衝撃がコックピットを揺さぶる。機体になにかがぶつかったようだ。なにごとか思う前に「隊長!」と叫ぶ接触回線が入った。

 右後ろに別のレクテンが映っている。部下のひとり、アレクセイ伍長の機体であった。

 

「ご無事ですか」

「ああ……問題はない。……取り付かれてしまったか……」

 

 クラウンを見つめる。真ん中のクラウンはコンテナなどを積んだ貨物クラウンになっている。今そこには、先ほどまで戦闘していたのとは別の海賊機が取り付いていた。こうなってはもはや手出しが出来ない。キャピタル・タワーに傷をつけることは絶対的なタブーであった。

 

「フォトン・バッテリーを渡せば、これ以上の攻撃はしないとの通信が入っています」

「なめられたもの……」

 

 ドナ達モビルスーツ隊は静観するしかない。余計な動きは海賊を刺激することになり、今はクラウンを人質に取られているも同然だからだ。

 

「あいつら……どこのもんでしょうね」

 

 アレクセイが口を開く。

 

「アメリアじゃないわね。ゴンドワン……でもなさそう。あれ、作業用を改造したものよ。ほんとの海賊かしら」

「やめてくださいよ。あんなん増えたら、やってられませんぜ」

「あ……待って」

 

 運転席から光が放たれた。ミノフスキー粒子により通信が途絶された状況では有用な光信号だ。「上空から接近するものあり」という内容が、光の点滅により示された。

 

「上……!?」

 

 アレクセイが戸惑いながらつぶやく。ドナもケーブルの先を見上げた。

 なにかが降りてくるのが見えた。

 

***

 

「今度はなんだってんだ!」

 

 運転室で観測した限り、それがモビルスーツであることは確かであった。だがそのフォルムは明らかに海賊機と異なっている。当然レクテンでもない。次第に大きくなってくるその外観はあからさまに洗練されていた。

 一見すると冗談にすら思える、モビルスーツ大ほどの翼。それがスラスターの機能を有しているらしいことがわかれば、今度は頭部に目線が移った。鬼のそれを想起させる二本角に、あからさまに人間を模した一対の眼。記号めいた特徴を堂々と誇示しているようなそのモビルスーツは、グレイグにある単語を想定させた。

 

「G系か……!?」

 

 薔薇の設計図に記された機体の中でも、さらに高性能なモビルスーツのカテゴリーをそう呼ぶことは知っていた。キャピタル・アーミィも以前、G系の機種を鹵獲したことがあり、それをもとに開発された試作機のテスト記録を読んだことがあるためだ。

 接近してくる機体はまさにそのカテゴリーだと感じた。だが今の彼にしてみれば、その機体がなんであるかはどうでもよかった。現状の問題はそれが敵であるのか味方であるのかということで、後者である可能性は限りなく低いことだった。

 G系は運転席をのぞき込むように降りてきた。人の目をそのまま模したようなツイン・アイが鈍い光を放つ。グレイグも管制官も、少女ですらもその冷たい光にすくんだ。その目は何かを探しているように、クラウンの中をじっと見つめ続けていた。

 誰も動けなかった。その機体が並のモビルスーツではないと推定されることから、迂闊な行動はクラウンを危険に晒すだけだと皆が判断していた。

 どれくらいの時間それが続いていたのか、グレイグにはわからない。だがG系は結局何もせず、すっとクラウンから離れていった。

 G系は天使か悪魔のような翼を大きく開きながら、吸い込まれるようにまっすぐ眼下の地球へ降りていった。

 スラスターの青白い帯だけが、クラウンの真下に伸びていった。

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