ガンダム Gのレコンギスタ リベラシオン   作:かはす

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大富豪ロマーニ(6)

 

 シエラ達と別れたあと、ノォトは「博物館」に向かった。モビルスーツ・コレクターで有名なロマーニのことだから、何かしら動かせるモビルスーツがあると踏んでの行動だった。道筋を頭でなぞりながらひた走る。身体の痛みはまったく感じなかった。

 ドームに入ると想像以上の光景に圧倒された。見たことのないモビルスーツが所狭しと並んでいる。どれも新品のように磨かれていて展示品そのもののようだから、すべて動かないものではないのかとにわかに不安になった。

 入り口からいちばん近くに立っている機体を見上げる。かたわらの看板には「ガルバルディ」と書かれていた。機種名だろう。オーソドックスな人型のフォルムは操縦しやすそうだと判断し、そばにあった移動式タラップを使ってコックピットまで昇る。

 人間でいう胸部、その左側にハッチはあった。脇にあるボタンがその開閉スイッチになっているようで、おそるおそる押してみた。確かな手応えのあと静かにハッチは開いた。電源は通っているらしい。ノォトは中をのぞき込んだ。

 まだなにものも光を放たないコックピット内は真っ暗で、ノォトの背後から射し込む外の明かりがうっすらと全体を浮かび上がらせるだけだ。ハッチの淵を手がかりに中へ潜り込み、シートに座る。手探りでなぞるコンソール周りも当時を再現しているらしく古めかしい。マニアにはたまらないのだろうと思うが、いざ使うとなれば面倒でしかなかった。手当たり次第に突起物を押す。どうにか起動ボタンを引き当てたようで目の前のコン・パネが立ち上がる。そこに浮かんだ表示を見てぎょっとする。

 

「レクテンそのままじゃないのか……!?」

 

 機体の全身図がCGで映し出されている。それは明らかにレクテンのもので、おそらくシステムはそのまま使っているのだろうと推測できた。画面上に現れる機能や数値は大してアテにならないと判断し、無視することにした。

 コックピット内に明かりがともり、この中が球体をしていることにいまさら気付いた。いくつかの壁面がカメラ映像を映し出す。頭部からの視点だとわかったが、真ん中だけぽっかりと開いている。ハッチを閉じるボタンを探し当てて操作し、ひとつながりの映像が完成した。

 フットペダルをゆっくり踏み込む。機体が微かに上下し、映像が前に進む。一歩、歩いたらしいと分かった。動かすだけならどうにか出来るかもしれない。

 これなら戦える。根拠のない自信は自惚れに変わり、ノォトを錯覚させた。

 マニュアルを呼び出す。基本的な動作はどんなモビルスーツも一緒だと思えた。その場で一通りの操縦方法を確認したあと、近くにあったビームライフルを手に持たせドームから出た。

 操縦桿を握る手が汗ばんでいることには気付かなかった。

 

***

 

 クラシックなモビルスーツが加勢に来たのも驚いたが、それに乗っているのがあの少年だということはもっと驚いた。リャンは接触回線が繋がったままのノォトに向かって「なんでお前、それに乗っているんだ!」と怒鳴った。

 

「なんでって……援護ですよ!」

「シロートに出来るのか!」

「引き金を引くだけなら出来ます!」

 

 そう言いながらがむしゃらにライフルを撃つ姿は危なげで、見ているこっちが冷や汗をかきそうだった。まず彼を落ち着かせることが先決だと判断し、リャンは自機をクラシックなモビルの前に割り込ませた。同時に後ろ手で銃身をつかみ、動きを封じる。

 

「でたらめにやっても意味はない! やるなら狙いを定めるんだ」

 

 しばし沈黙が続いた後、息を切らしながらノォトが呟くように言った。

 

「……すみません……わかりました」

「ふたりであの『角付き』をやる。牽制してくれればいい、出来るな?」

「やります」

 

 きっぱりと言い切った返答にもう大丈夫と安心し、リャンはノォトから離れた。「角付き」に突撃しながら、ノォトの乗っているクラシック・モビルスーツはなんという名前なのだろうとふと思った。

 

 向こうも素人が乗っていると気付いたのだろう。ノォトのモビルスーツに狙いを定め突進してくる。

 リャンはスラスターを拭かしながらその前に立ちふさがり、ビームサーベルで斬り上げる。「角付き」はジャンプして回避するが、その頭上をビームがかすめる。ノォトの援護射撃は思ったより精度がいい。それにレプリカといえどいっぱしのモビルスーツ、その武器も本物のようだ。

 そんなものを個人で所有しているロマーニとはなんなのかという疑問はとりあえず保留にして、リャンは眼前に舞い戻ってきたジャハナムの頭部にサーベルを押し当てる。ゴツンという音のあとでトリガーを引く。ゼロ距離で発振されたビームはジャハナムの頭部を融かし、金属の蒸発する音を響かせた。

 崩れるように「角付き」は倒れ、視界から消えた。真下になったその巨体から、ノーマルスーツが飛び出した。ジャハナムやレクテンとの対比で小人のように見えるその姿は、しかしリャンに違和感を抱かせた。ほどなくしてその理由に気付く。

 

「あの男じゃ……ない!?」

 

 バイザーを上げた顔面蒼白の男は若く、スピーカーでやかましくがなり立てていたあの男とはまったくの別人であった。

 やられた――。そう思ったとき、ロマーニ邸の二階、西の窓側で爆発が起きた。

 

***

 

 突然のことに頭が真っ白になりながらも、とにかく少女を守らなくてはならないという思考だけは働いた。シエラはかばうようにラビを抱きしめ、背中で爆風と瓦礫を受け止めた。熱と痛みが交互に襲ってくる。つらくて目も開けられない。苦痛に悶えながら、腕の中の少女だけは放すまいと必死に抱き続けた。 

 やがて爆発の勢いはおさまり、シエラは目を開けて周りを見渡した。あたり一面に煙が舞い、壁があった場所にはぽっかりと空洞が開いている。腕の中のラビを見やる。けがや火傷のあとはどこにも見られず、ひとまず無事のようだ。すこしきつく抱きしめすぎたようで、けほけほと咳をしている。とっさに腕をほどく。

 

「ごめん、だいじょうぶ?」

「うん……ありがとう、お姉ちゃん」

 

 ほっとしたのもつかの間、人の気配を察した。シエラは振り向き壁を見る。

 男が立っていた。

 

「運がいい。ちょうどここにいたとはな」

 

 にたにたと笑う男が口を開けると、ねばりついた糸を引いて気持ち悪かった。先ほどのスピーカーで怒鳴っていた声だとわかると、シエラは身構えた。

 どうすればいい。一瞬のうちにあれこれ考えをめぐらせていると、思考がとつぜん中断した。

 たちまち全身から力が抜け糸の切れた人形のように崩れ落ちる。視界がぼんやりとかすみだし、目の前にいるラビの顔すらよく見えなくなる。

 

「にげ……て」

 

 どうにか絞り出した声は自分でもうまく聞き取れない。ラビはおろおろしているだけだ。足音が近づいてくる。男は――シエラを通り過ぎ、ラビの腕をつかんだ。

 

「来てもらうぞ、おとなしくしろよ。暴れられて落ちたらたまらんからな」

 

 必死に抵抗するラビも大人相手ではどうしようもない。男はラビを抱きかかえるとそのまま壁の穴から外へ飛び出した。彼が背中に装備していた推進装置(ランドムーバー)から伸びる白煙を目で追いながら、シエラは少しでも身体を動かそうとした。

 ちがう。その子は関係ない――。そんな言葉を最後に浮かべ、シエラの意識は途絶えた。

 

*** 

 

 少女はもう抵抗をやめ、されるがままにしている。思ったより利口そうだと思いつつ、ジーダックはドーム状の建物まで飛んだ。「博物館」を通り過ぎ、もうひとつのドームに近づいたところでその外壁にまだ残っていた手榴弾を投げる。爆発が穴を開け、その中に入る。目当てのものを見つけ、その前に降り立つ。

 

「ついでだ。こいつをもらおう」

 

 立ち尽くしていたクアッジのコックピットを開け中に乗り込む。基本的なシステムはユニバーサルスタンダードであるようで、難なく起動することが出来た。

 補助シートを引っ張り出し、そこに少女を座らせる。

 

「おとなしく座っていろよ」

「……」

 

 少女はなにも答えない。

 ジーダックは機体を前進させ、ドームを突き破るように思い切りジャンプした。クアッジは飛び出し、加速をつけた機体は一気に戦闘地帯まで飛ぶ。

 悪くない性能のようだ。にやりと笑ったジーダックはすこし興奮していた。

 

***

 

「じゃあ、こいつは囮ってことですか?」

「わざわざスピーカーでがなり立てたのも、姿をさらしたのもおれたちの目を引きつけるためだろう。おれたちが「角付き」に気を取られている間に、単身で潜入しシエラを狙う。さっきの爆発もそういうことだ」

 

 横たわるジャハナムを囲んでノォトとリャンはそう話していた。乗っていたパイロットはその場から離れ、味方に回収されていた。

 してやられたと思った。気付いたときにはもう敵の術中で、おそらくシエラに接触されてしまったと感じた。

 二度目に起こった爆発の後、空を飛ぶ人影が見えた。あの男だろうと推測できたが、その脇になにかを抱えていた気がするために下手な手出しはできなかった。

 

「ヤツはドームに入っていった。エフラグでも奪うつもりだ」

「人質を取られて何もできないなんて……!?」

 

 ノォトは接近する機影に気がつく。ドームから出てきた機体はクアッジだった。

 

「ヤツめ、モビルスーツを……!」

「止めます!」

「やめろ!」

 

 ノォトは突進してくる機体に接触しようとした。動きを止めるくらいはできるかとガルバルディの両手を広げて待ち構えたが、クアッジはその手を払い突き飛ばす。ふたりの間をかきわけてクアッジはアメリア軍に合流し、エフラグに載せられた機体はそのまま戦場から離脱していった。他の機体も順次撤退し、あとには死体さながらの警護モビルスーツの山と、立ち尽くす二機のモビルスーツだけが残された。

 

***

 

「……ラビが?」

 

 屋敷に戻ったノォトは、応接間で横になっているシエラからそう告げられたとき、驚きを隠せなかった。言葉を発した彼女自身もその事実を受け入れるのがつらいようで、その表情は暗かった。

 敵の狙いはシエラのはずだ。なんで無関係な少女をさらっていったのかと訝しんだ。

 

「間違えた、ってことかしら」

 

 シエラの腕に巻かれた包帯を取り替えながらドナが言う。彼女もまた沈んでいる。

 

「……どちらにせよ、このままにはしておけないわ」

「そうだ! 娘は取り返してもらうぞ、絶対にだ! それができないようなら宇宙になぞ連れて行けん!」

 

 ひとり鼻息の荒いロマーニが、ものすごい形相で全員をにらみつける。はじめに感じた優男といった雰囲気はすっかり剥がれ落ち、今にも誰かの首でも絞めそうな剣幕だ。

 ノォトは悔やんでいた。自分がふたりと離れなければこんなことにはならなかったのではないか。自分に力があると思い込んだ末の身勝手な行動。すべてが裏目に出てしまったと痛感し、落ち込むだけだった。

 

「おい、お前」

 

 とつぜん声を掛けられたものだから、ノォトは反応が遅れた。顔を上げるとロマーニが鬼のような形相をこちらに向けている。

 

「わたしのモビルスーツを勝手に動かしておいて、娘もあのモビルスーツも奪われおって。……許さんぞ」

「すみませんでした。ラビだけでも必ず……」

「お前に約束できるのか! ただの若造のくせに」

「……」

 

 それ以上反論することができなかった。

 もう何も考えたくはないという気分を抱いたまま、ノォトは黙って応接室をあとにした。行く当てはなかったが、とにかくその場から逃げたかった。

 廊下に出てすこし歩くと裏庭が目に入った。ラビと三人でボール遊びをした陽光射し込む庭は、それが幻だったかのように薄暗くさみしげな空間でしかなかった。

 

 

 

 

――第三話「スタート・アップ」に続く

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