「神さま!お願いだ!はじめにもどして!」
「アイツと会った一番はじめに時間をもどして!!」
うわああああああああああああああ
その後、記憶がない。
気がついたら朝だった。
「ヒカルー、そろそろ起きなさーい!遅れちゃうわよー!」
母親の声に体を起こす。
(いつの間に寝たんだろう…)
そう思いながらヒカルは体を起こす。
「………ん?」
(何でお母さん達の部屋で寝てんのオレ。)
辺りを見渡し、またもや違和感。
―――部屋が広い。
そんな訳ないか、と立ち上がり、その目線の低さに息を呑む。
「なななななっなんっ!何だコレ!」
天井が高い!ドアがでかい!
そう心で叫びながらふと鏡台が目に入る。
「…………………………なんじゃこりゃああああ!!!」
一際大きな声で叫んで鏡に駆け寄る。
そこに映っていたのは幼き日の自分であった。
「ヒカル、何大きな声出してるの」
部屋に入ってきた母親を見てまたもやヒカルは驚く。
「お母さん……若返った……」
「何言ってるの。どこで覚えてきたの?そんな言葉」
自分の知っている母親はもうすぐ40代だったはずだ。
だが目の前にいるのは明らかにそれより若い。
そんな戸惑っているヒカルを「寝ぼけているのね」と勘違いしたヒカルの母―――美津子は優しく微笑み抱き上げる。
「わっえっはぁ!?」
中学3年男子である自分を母親が持ち上げている。
あまりの事にヒカルは絶句してしまった。
そして着替えさせられた。
幼稚園の制服に。
(オレ、もしかして過去にきた?)
目線の低さ。若い母親。何より鏡に映る幼い自分。
母親が用意してくれた朝ごはんを食べながら考える。
どうしてこうなったんだろう。
―――――アイツと会った一番はじめに時間をもどして!!
あの後の記憶がない。
という事は、もしかして神さまが願いを聞いてくれた?
ちょっと戻しすぎな気もするが。
ヒカルは無言で、眉間にしわを寄せて考える。
カレンダーを見ると1991年5月。
それはヒカルの記憶から10年前の日付である。
(オレはまだ4歳という事か。理解してきた。幽霊といたせいかな、だんだんと冷静になれてきたぞ)
ちょっとやそっとじゃ驚かないぞと自負する。
さっき叫んだのは気のせいだ。うん。
食事を終えるとトイレに行きたくなった。
一人でトイレに向かうヒカルに美津子は唖然としたが、ヒカルにとっては当たり前の行動である。
ドアノブを背伸びしながら開け、常備されているであろう踏み台に乗って下半身を出す。
そして自分の股間を見て―――。
「ないいいいいいいいいいいいいい!!!!」
本日二度目の絶叫である。
「ヒカル!?どうしたの!?」
母親が慌てて駆け寄る。
トイレを開けるとお尻を出したまま踏み台にのって固まっているヒカルの姿。
「ああ、補助具がないのね」
と、子供用の補助トイレを棚から出し設置してヒカルを座らせる。
「ほら、出しちゃいなさい」
自分を見ても疑問に思わない母親。
(神さま…こんなサプライズいらねぇよ……)
制服がズボンだったので気づかなかった。
あるべきものがなく困惑しながらトイレを済ませ、うな垂れながら玄関に向かう。
(何でオレ女になってるんだよ………)
バスのお迎えが来た。
帰ってきたらじーちゃんちに行って佐為と会うんだ。
そう決意してとりあえず幼稚園に行くことにした。
そんな娘を見て美津子は驚いていた。
朝寝ぼけて騒いでいたところまではいい。
だがその後。
いつも朝から騒がしい娘がおとなしく着替え、眉間にしわを寄せながら朝食をとり、そしてトイレで叫んだかと思うと幼稚園バスに乗る前に「先生おはようございます」と丁寧に挨拶をしたのだ。
「大丈夫かしらあの子…体調悪くなければいいんだけど…」
おとなしく行ったのだからよしとしよう。
そう考え、洗濯物を干しに向かった。
もう一人驚いていた人物がいる。
幼稚園の先生だ。
(あのヒカル君が、いつも「おっはよーせんせー!」と元気よくバスに乗り込むヒカル君が丁寧に挨拶して歩いてバスに乗った…)
その日のヒカルはとてもおとなしかったので、皆から熱があるのでは?と心配されるのであった。
ついに投稿してしまいました。