逆行したTSヒカルは頑張ります   作:アキラ天狗

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10.いつの間にか

アキラの問題発言から1ヶ月。

院生試験を受ける直前になってヒカルは何故か塔矢家にいた。

 

 

―――どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりは5月の終わり。

 

それは囲碁教室ラストの日。

教室には殆どが定年退職後の人ばかりで、小1のヒカルとあかりは皆の孫の様に可愛がられている。

ヒカルが院生試験を受ける事、もう教室でのレベルアップは難しい事を白川が皆に説明をし、”囲碁教室の孫”の片割れが辞めるという事で簡単な送別会をやっていた。

「ヒカル君なら絶対受かるわ!」

「ボウズなら大丈夫だ!頑張って来い!」

「寂しくなるわねぇ~」

皆口々にヒカルに別れの挨拶をする。

相変わらず男の子に間違えられているがヒカルが気にする素振りもなく「皆ありがとう!時々遊びにくるね!」と挨拶を返す。

 

皆からもらったお菓子類を手にしたヒカルはホクホク顔であかりと一緒に囲碁教室を後にし、数歩進んだ所で声をかけられる。

 

「進藤くん!」

「あれ、塔矢じゃん」

「とーやくんだ。こんにちはー!」

「こんにちは!」

「ちは~」

 

隣にいるあかりにワンテンポ遅れて挨拶するところがアキラらしいと思いつつ挨拶をする。

 

「どうしたんだよ塔矢。何か用?」

「もう、ヒカルったら。せっかくとーやくんが来てくれたのに。どうしたの?」

 

ヒカルのそっけない態度に少しうろたえたが、あかりが笑顔で聞いてくれたので安心するアキラ。

同年代で友達と呼べる子がいなかったアキラは二人と仲良くなりたいと思っていた。

それは囲碁友達がヒカルしかいないあかりも同じである。

ヒカルはアキラと出会うのが早すぎたと肩を落としていた。

 

「(また塔矢に「逃げるな!」とか「ふざけるな!」とか言われるのか…)」

『ヒカル、そうとは限りませんよ?今回はヒカルが失礼な事を言っていないので塔矢も友好的ですし』

「(その節はご迷惑をおかけしました)」

『あの時の牙を剥いた塔矢に噛み付かれました』

「(だからごめんって!)」

『ふふふ…』

 

百面相のヒカルを見て不思議そうな顔をしているアキラとあかりに気付き咳払いをしてアキラの用件を聞くヒカル。

 

「二人のことをお父さんにお話したら、ぜひおうちにつれてきなさいって!もしよかったら院生しけんまえにボクのおうちに来ない?」

「塔矢んち?」

「とーやめいじんのおうち!?わたし行きたい!」

あかりが即答しているが悩むヒカル。

 

「(う~ん…今のうちに名人に会うのもなぁ…また他の人の人生狂わせ…)」

『行~き~た~い!!!あの者の所でしょう!?行きたいです!!!』

「どわぁ!!!」

 

突然大声を出して耳をふさいだヒカルにアキラとあかりがびっくりして見つめる。

 

「だいじょうぶ?進藤くん?」

「ヒカル!?」

「あー…うん。へーき。じゃあ今度塔矢んち行くよ」

「!ほんとう!?よかった!こんどの金よう日とかどうかな?緒方さんっていう人が車出してくれるんだ!」

「(げ、緒方さん!?苦手なんだよなー)あー、アリガト。駅前まで行けばいいかな。学校終わってからだから3時くらいになるけど」

「うん!3時にえきで!…今日はあいてない?このまえのところでうたない?」

「わたしはいいよ~!」

『私もいいですよ♪』

「………」

 

アキラとあかり(と佐為)に引きずられる様に囲碁サロンに連れて行かれるヒカルだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りは何故か居合わせた緒方に送ってもらうヒカルとあかり。

「駅まで来るの面倒だろう?」

との緒方の申し出により、金曜は家まで迎えに来てもらうことになった。

家を知られたら押しかけて来るんじゃないかと思い知られたくなかったのだが、あかりが道順をすべて説明するので無駄に終わる。

前回と違い、友好的な塔矢門下だから大丈夫だろうと己に言い聞かせる。

ヒカルは寝るまで佐為と打ち、気持ちを静めようとする。

 

「なんか…前回とは全く違う事になってるんだが」

『楽しみですねぇヒカル♪』

「…まぁ佐為が楽しそうならいいか」

『♪』

 

嬉しそうな佐為を見てヒカルも笑顔になる。

佐為のために―――今世でヒカルが望んでいる事だ。

佐為がこの世界で名を残す―――。

そのための布石は沢山打ってきた。

ヒカルは佐為が消える事を最も恐れている。

そのせいか、どんなに暑くても寝るときは佐為にくっついたままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ヒカルは悪夢を見た。

そう、佐為が消えたあの日の夢だ。

 

「…佐為!」

 

泣きながら飛び起きる。

そしてすぐ愛しき人物を探す。

 

『…ちゃんといますよ。大丈夫、ヒカル…』

「佐為…佐為………」

『消えません。ヒカルを置いて消えませんよ。大丈夫、あの者と会っても、打ったとしても消えたりしません』

「…ホント?嘘ついたら怒るからな…」

『本当ですよ。大丈夫…』

 

抱きついて離さないヒカルの頭を撫でる。

ヒカルは時々こうして不安定になる。

そして佐為に撫でてもらうと安心するのか、すぐ眠りにつく。

 

 

『(ごめんなさいヒカル。前は挨拶もできず消えてしまいました…。でも今回は消えたりしません。絶対、ヒカルの傍から離れません。愛しきヒカ…)』

 

突然思考が停止する佐為。

自分は今何を考えていたのだと。

 

―――愛しきヒカル。

 

そこまで考えて佐為は口を押さえる。

この少女に対して自分は何を考えたのかと。

そして今の体勢は胸にくっついたまま寝るヒカルの頭を撫でている自分。

 

 

 

『(………ああ、私は…)』

 

 

 

自分の我侭を文句言いつつもちゃんと聞いてくれる。

毎日打ってくれている。

人生を…いただいた。

 

佐為は自分の気持ちに気付いた。

 

 

 

『(いつの間にか…ヒカルの事を…愛していたんですね………)』

 

 

 

自分の腕の中で眠るヒカル。

その寝顔はとても穏やか。

 

『私が…ヒカルを穏やかにさせてる…と、自惚れても良いのでしょうか』

 

佐為の呟きは闇夜に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神さま!お願いだ!

 

はじめにもどして!

 

アイツと会った一番はじめに時間をもどして!!

 

 

 

そうか…オレは…気付くのが遅すぎたんだ。

アイツが消えて、初めてその気持ちに気付いたんだ。

佐為。愛おしい佐為。

お願い、消えないで。

 

 

あったかい…。

あ…オレ、佐為の腕の中で寝てたんだっけ…。

佐為…。

 

 

 

 

 

夜が更ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして金曜日。

学校から帰り、準備を済ませる。

あかりもヒカルの家に待機している。

 

「(緒方さん苦手なんだよなぁ…)」

『前回胸を掴まれて怒鳴られましたからねぇ…』

「(今回やったらセクハラだぜ!訴えるぞ…)」

『(セクハラとは何でしょう…)』

 

待機していると緒方とアキラが家に来た。

緒方が美津子に挨拶をしている間、アキラに連れられて緒方の車に乗り込む。

楽しそうなアキラとあかりにヒカルは苦笑してしまう。

精神年齢が違うからか、どうも弟や妹にしか見えないのだ。

見た目はヒカルが一番年下なのだが。

 

 

後部座席で子ども3人、ワイワイと話してるとあっという間に塔矢邸。

 

「わぁ、とーやくんのおうちおっきい!」

「そっかなぁ。こっちだよ!」

「慌てんなって、塔矢。緒方さん送ってくれてありがとー!おじゃましまーす」

 

はしゃいでいるアキラを見て緒方は微笑む。

普段は大人しい子どもなのだが、同年代の友達ができた事が嬉しいのか、年相応なはしゃぎぶりである。

そして見た目が幼児のヒカルが一番落ち着いていた。

不思議な光景だな、と思いながら緒方は車を駐車場へ持っていった。

 

 

「おとうさん!進藤くんと藤崎さん、来たよ!」

「あらあら、アキラさん。そんなに二人を引っ張って来なくても…。ごめんなさいね。どうぞ、こちらへ」

 

アキラの母・明子に案内され、塔矢邸の研究会が行われている部屋へ向かう。

 

 

「よく来たね。アキラの父の行洋と言う者だ。よろしく、進藤くん、藤崎さん」

「よろしくお願いします。進藤ヒカルです」

「藤崎あかりです!お願いします!」

 

あかりは目の前にいるのが名人で、とても緊張している。

ヒカルの服の裾を握って落ち着こうと頑張っているがしばらくはこのままだった。

 

 

「アキラが毎日君たちの事を話すんだ。是非アキラと友達になってやってほしい」

「おっ、おとうさん!」

行洋の言葉に照れるアキラだったが、あかりの「え、もう友達でしょ?」という言葉にさらに照れてしまう。

 

「君たちの実力が是非知りたい。なんせ囲碁馬鹿なものでね。アキラがこんなに夢中になる子は初めてなんだ。アキラを夢中にさせる君たちと打ってみたい」

「わ…わたしなんて…弱いですし…」

「あかりは弱くねーよ。まだ覚えて2年じゃん。それにあかりと打ってると楽しくなるんだよなぁ」

「そうそう!藤崎さんはすごいよ!ボクすっごく楽しかったもの」

「それは楽しみだ。さ、打とう」

 

「その前に!」

 

突然の言葉に、声が聞こえた方向を見ると、手にお盆を持った明子がいた。

「おやつのお時間ですもの。先に糖分取っておかないと♪」

出されたものはケーキだった。

 

「あなた、囲碁もいいですけど、少しは子どもたちの事も考えて下さいね?」

「…む…」

 

視線の先には笑顔でケーキを選ぶ子どもたち。

ここは明子に中押し負けだな、と思い行洋は自分も糖分を摂取することにした。

 

 

 

 

 

『(塔矢行洋…また打てる。ヒカルの年齢的に違和感無い様に打つが…。ふふ、楽しみです)』

 

行洋との第2戦を控え、佐為は笑う。

それを見てヒカルは安心する。

 

 

(大丈夫、佐為が消える時の様な、あの慌て様じゃない。消えない)

 

 

ヒカルは目を閉じ、祈る。

 

 

(神さま。どうか連れて行かないで。オレと佐為を離さないで)

 

 

 





セリフばっかですみません(´・ω・`)
アキラ君はやっぱり猪突猛進です。

白川先生はヒカルが教室の皆に男の子扱いされていることに気付いていません。
という設定です。
その方が面白いからです。

そしてついに佐為が自覚しました。
相手は6歳女児です。
犯罪です。
中身は16歳だからセーフ?
女の子と気付いて約1ヶ月。
やはりアウトー!

しかし話が進まなくてすみません…。

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