ついに院生試験を受ける日になった。
今世では平八の説得もあり、美津子はヒカルが進もうとしている道を理解し応援している。
囲碁をし出してからは我侭も言わず学校の成績も悪くないヒカルに対して、院生試験の料金を出すことに抵抗がない。
ヒカルと美津子は日本棋院の中へ入って行く。
「進藤君だね。どうぞ、こちらです」
日本棋院に着き、受付にて案内してもらう。
案内された先から対局室が見え、院生が打っていた。
「(懐かしいな。前もこんな感じだったね)」
『そうですね!前はヒカルが緊張して…』
「(恥ずかしいからやめて)」
赤面して佐為をジト目見るヒカル。
それをクスクス笑う佐為。
またこんな日がくるとは思わなかった二人。
ヒカルもワクワクしていた。
「(塔矢はまだ来てねーみたいだな)」
『こら、塔矢じゃなくてアキラ、でしょ。確かにまだ見当たりませんね』
「(うへぇ…。まだ慣れねーや…。申請順かな?まぁ後で会うだろ)」
『そうですね。まずは私達が受からないといけませんね』
「(佐為、頑張って)」
『はい♪』
「今日はお疲れ様でした。詳しい案内は資料を…」
対局室とは別の方向から懐かしい声が聞こえてきた。
「(篠田
『この頃も先生だったのですね!懐かしいです!』
そして、その懐かしい声と一緒に馴染みのある声もした。
『「あ」』
「あ!ヒカル君!オレ受かったぜ!!!」
「わっわあああっ」
そこにいたのは笑顔の冴木。
受かった喜びでヒカルを抱き上げてくるんと一回りする。
目尻に涙を浮かべ喜ぶ冴木にヒカルも「良かった!」と喜んだ。
「次はヒカル君だね。キミなら絶対受かるから、一緒に行こうな!」
「うん。絶対受かるよ!あ、この後塔…じゃない、アキラも来るんだ。塔矢名人の息子だけどわかる?そろそろ来ると思うんで、もし会えたら受けてる最中だって伝えてくれない?」
「うんいいけど…。塔矢アキラと知り合いだったんだ?」
「成り行きでね。友達になったんだ」
「ふーん。まあ頑張って!行ってらっしゃい!」
「行ってきます♪」
篠田に案内され、試験場へ向かう。
冴木が受かった事で気合も入る。
ヒカルと佐為まるでシンクロしているかの様に「よーし」と腕まくりをしていた。
篠田が座り、促されヒカルと美津子も座る。
前回と違い今回は院生受験に必要な書類はあらかじめ提出していた。
推薦者はもちろん森下。
「ヒカル、お母さん応援してるから。頑張るのよ!」
「うん!絶対受かるから見てて!」
ヒカルも自分が打つ姿を美津子に見てもらう事で、真剣さをアピールしていた。
「さて進藤ヒカルく…いえ、進藤ヒカルさんですね。棋譜は見せていただきました。森下九段門下という事で間違いないですね?」
「はい」
「君は6歳という年齢にも関わらず、熟練された様な素晴らしい棋力です。どうぞ、置石は3子で、今から打ちましょう」
「はい!(佐為!行くぞ!)」
『ええ!行きましょう!』
ついに試験が始まった。
佐為は前世の若獅子戦の時のヒカルくらいの棋力で打つ。
気負いもなく、ヒカルはあらかじめ胡坐をかいているため失礼もしない。
今回提出した棋譜は森下・白川・都築と打ったもの。
篠田はヒカルの棋譜を見て、これを6歳の子どもが打ったという事実に驚いた。
もちろん置石はあったが、内容はとても鮮麗されたものであり、つい最近まで園児だったヒカルが打ったものにはとても見えなかった。
見た目はアウトドア好きなボーイッシュな女の子。
だが、対局となると雰囲気がガラリと変わる。
正確に言うと、見た目はそのまま小1女子(見た目男子だが)だがその場の空気が変わるのだ。
まるで高段者、例えるならタイトルホルダーが
とても小1女子が出すものではない。
そして―――。
「キミは素敵な碁を打つね」
篠田が発した突然の言葉にヒカルは「え?」と聞き返す。
「棋力も間違いなく高い。来月から来なさい」
「!やったあ!!」
「ヒカル!おめでとう!!」
受かった事でヒカルと美津子は手を合わせて喜ぶ。
ここで美津子はヒカルが天才なんだと改めて思う。
自分の娘が、たったの6歳の娘がとても大きく見えた。
試験場から出ると、そこにはアキラと明子がいた。
「ヒカル!…うかったみたいだね?」
「おう!受かったぜ!次はアキラ、頑張れよ!」
「…!うん!!」
「あ、冴木さんって人に会った?オレの兄弟子なんだけど」
「あったよ。ヒカルが今うけてるっておしえてくれたんだ。もうおわったからさきにかえるって言ってたよ」
「そっかー。オレも研修部屋見学したら先に帰るから、後で連絡くれよ。まあアキラなら大丈夫だろうけど」
「…うん。きんちょうしてるけど、ヒカルがおうえんしてくれてるからがんばる」
緊張した面持ちだが、笑顔で答えるアキラ。
腕を組んで「大丈夫!」と笑顔でアキラに太鼓判を押すヒカル。
それを微笑ましそうに見る母親達。
そしてアキラは試験場へ―――。
研修部屋に案内され、説明を受けるヒカルと美津子。
だがヒカルは部屋にいる人物達を見て驚いていた。
(見知った顔がいない―――)
それは当たり前のこと。
前世でヒカルが院生になったのは中学1年生の時。
それよりも6年も前なのだ。
当時院生で最年長だった伊角もまだ院生にはなっていなかった。
(…なんだか寂しいな)
和谷や伊角に会いたい、そんな気持ちが芽生える。
ヒカルはそんな感情を押し殺す。
佐為のために生きると決めた。
佐為さえ喜べば、それでいい。
少し寂しそうな顔をするヒカルに佐為は気付いた。
何も言わず、傍に立って頭をなでる。
笑顔の佐為を見たヒカルはニコッと笑って検討しているグループに混じったりした。
「キミ、もしかして進藤クン?」
ふとそんな声が聞こえ、発した方向を見る。
「(あれ、この人もしかして…)」
『塔矢門下の…芦原さんでしたか』
「アキラから聞いてるよ~!キミ強いんだってねぇ!あ、俺芦原って言うんだ。アキラの兄弟子だよ。よろしくね!」
「進藤ヒカルです。よろしくお願いします」
院生の皆にも挨拶を済ませて帰路につく。
美津子に褒められながら手をつないで歩くのは少し恥ずかしかったヒカルだが、前世で散々迷惑をかけた負い目があるためか大人しくしている。
ちなみに反対側の手は不自然にならない程度に佐為の着物の袖を掴んでいる。
「(佐為、お疲れ様。来月から楽しみだな)」
『ええ、そうですね♪以前のメンバーは見当たりませんでしたが知っている顔がちらほらいましたし、本当に楽しみです♪』
「(芦原さんとか、若獅子戦の時の村上さんとか。う~!楽しみ!)」
笑顔で歩くヒカル。
佐為がいて、アキラがいて、毎日が目まぐるしい。
だけど、それはとても充実した日々。
忙しいけれど、佐為に大好きな碁を打たせてあげることができる。
手加減した碁だけれども、それは徐々に解消できる。
ああ、佐為。
オマエがいてとても楽しい。
佐為も楽しい?
憑いたのがオレで本当に良かった?
オレは佐為が憑いてくれてとても嬉しい。
神さま、どうかこの幸せを壊さないで下さい。
帰宅後、しばらくしてアキラから合格したとの電話があった。
今回受けた3人全員が受かり、来月からヒカル・アキラ・冴木が院生メンバーに加わる。
その日の夜は森下の家に呼ばれ、宴会が行われた。
もちろん主役は冴木とヒカル。
ヒカルは佐為の碁を褒めてもらえて得意気にしていた。
「(佐為、明日は塔矢名人の研究会行って報告しような)」
『はい♪』
楽しい日々は続いて行く。
大丈夫。
この世界の佐為は消えない。
ヒカルは自身に言い聞かせる様に、手に持っているジュースが入ったグラスを見つめた。
アキラの棋力はまだ院生2組より少し低いくらいで考えています。
試験に受かったのは6歳という年齢でこれだけ打てる事と、名人の推薦があったからです。
ちなみにアキラは棋譜の1枚にヒカルとの対局を書いて提出しました。