院生試験合格を決め森下家で宴会があった次の日、ヒカルとあかりは塔矢家にいた。
「ヒカルもアキラくんも、ほんとうにおめでとう!」
「ありがと、あかり」
「ありがとうあかりちゃん!」
今日は塔矢家で『アキラ&ヒカル院生合格おめでとうパーティー』が行われている。
昨日に引き続いての宴会で、ヒカルと佐為はウキウキしながら参加していた。
見た目は6才児とはいえ精神年齢は16歳になるヒカルも明子自信作の料理を楽しんでいる。
楽しむ子どもたちを見て佐為も微笑む。
「アキラー、一人だと危ないからオレと一緒に棋院行こう!進藤クンも一緒にどうだい?」
「芦原さんありがと。でも駅も違うし、一人で大丈夫だよ。最寄り駅まではじーちゃんが送ってくれるし」
人懐っこい笑顔で芦原がヒカルも誘うが、ヒカルはそれを断った。
なんせ中身は16歳。
13歳の芦原は年下に見える。
子ども扱いされるのはちょっと切なかった。
宴会はしばらく続く。
その場をこっそり抜け出したヒカルは縁側に座り庭を眺めていた。
「(今日は研究会なさそうだなー。塔矢先生までずーっと門下の人とアキラの話してるし)」
『そうですねぇ。残念ですが、皆さん嬉しいんですよ。行洋殿もアキラを自慢したいのでしょうし』
「(……わかるんだけど気持ちの整理が追いついてない。あの塔矢先生の威厳どこいった)」
『普段はこの様な感じなのかもしれませんよ。私達が知らないだけで』
「(うーん…。確かに、前は…塔矢との付き合いは薄かったもんなぁ。塔矢はライバルでアキラは友だち…か)」
佐為と話しつつ、前世での事をふと考えるヒカル。
自分が居なくなった世界はどうなったのか。
世界そのものが時間の巻き戻りをしているのか、それとも…。
ヒカルは考える事をやめた。
今ここに佐為がいる事実、それだけでいいと。
「(佐為、オレ、今がすごく楽しい。オマエが居てくれる。でもごめんな。本気で打たせてあげれない)」
今はまだ、佐為に本気で打たせてあげれない事に罪悪感を覚えているヒカル。
佐為が今行洋と対局した場合、勝つのは佐為であろう。
それくらい強い佐為に打たせてあげれない。
『何を言ってるんですか。私だって今すごく楽しいんですよ。ヒカルがいて、ヒカルと対局できる。ヒカルと楽しいことを共有できる。それがどんなに幸せなことか』
その言葉を聞いてヒカルは微笑む。
「(オレも幸せだよ)」
床についていたヒカルの手の上に自身の手を重ねる佐為。
もう言葉はいらなかった。
今が幸せならそれでいい。
お互いの熱を感じ合い、また庭を眺める。
―――ずっと、一緒に。
ただ一つの願い。
宴会は夜まで続いた。
「あれ、アキラ?」
「アキラくんだー!こんなとこでどうしたの?」
「ヒカル、あかりちゃん?」
宴会から数日後、囲碁教室に向かうあかりをヒカルが送って行く途中でアキラに出会った。
実はアキラも囲碁教室へ向かう途中で、今日が最終日。
本来は後1年は続けるつもりだったが院生試験に合格したので辞める事になった。
アキラが通っている囲碁教室と白川囲碁教室は少し近かったらしい。
「(アキラが通ってる囲碁教室か…。なーんか気になるな…)」
『もしかして、加賀がいるんじゃありませんか?ほら、以前言っていたじゃありませんか。アキラと囲碁教室が一緒で手加減して打たれたって』
「(あ!そっか!加賀だ!加賀がアキラ…塔矢に手加減されるんだ!)」
『それで加賀は…塔矢の事を嫌いになるんでしたね』
「(う~ん…。もう手加減して打ったりしたんだろうか…。アキラが嫌われるのは避けたいな…)」
『ヒカル、アキラについていきませんか?最後との事ですし、大丈夫でしょう』
「(そうだな。気になるし)アキラ、オレついてっていーか?」
「え…いいけど…あかりちゃんは?」
「わたしならだいじょーぶだよ!ほら、もう教室見えるし。帰りはみんなで帰ろうよ!」
「そうだな。あかりそっちで待っとけよ。どっちが遅くなっても迎え行くから」
「うん!じゃああとでね~!」
笑顔で去っていくあかりを見送るヒカルとアキラ(+佐為)。
戸惑いながらもアキラは一緒に行くと言ってくれたヒカルの行動が嬉しかった。
付き添いが教室の先生によって認められ、ヒカルはアキラの傍にいた。
椅子に座っているからあまり辺りを見渡せず、立っている佐為に加賀がいるか探してもらう。
『あ、それらしき目つきのやからがこちらに来ますよ』
「(それらしき目つきて…。あ、来た。おお、ミニ加賀だ…)」
『目つきは悪いですがこの頃は可愛いですねぇ』
「(だから撫でるな!)」
前世とのギャップからか、加賀を撫でる佐為。
もうそれはヒカルにとって爆笑モノなのだが、なんとかこらえる。
「おう塔矢。こっちのちびっこいのは?」
「こんにちは加賀さん。進藤ヒカルくん。ボクとおなじ1年生でいっしょに院生しけんうかったんだよ」
「進藤ヒカルだ!よろしく加賀サン?」
「…院生?マジか…」
チビ扱いされたのが悔しかったヒカルだが大人気ないことはせず挨拶をする。
加賀は目の前のちびっこ達が院生試験に受かった事に驚愕していた。
アキラが受けるとは聞いていたが、まだ合格したとは聞いていなかった。
そしてヒカルの存在も知らなかった。
少し悔しい思いもしたが、加賀にとってこの時のアキラはライバルであり目標であり可愛い後輩。
複雑な表情をしたが、すぐ笑顔になる。
「すげーな、オマエら。院生受かるなんてよ。………これで親父も塔矢には勝てない事を納得するだろ」
加賀の最後の呟きは誰にも聞こえなかった。
その後仲良くなった3人は和気藹々で対局を楽しんだ。
「(これで詰碁集バラバラルートは回避できたな)」
『ハイ♪…しかし、加賀もこの頃はずいぶん素直だったんですねぇ…』
「(塔矢に見下されたって思ってたんだろうしなぁ。囲碁続けるのかな?)」
『それはわかりませんが…加賀の未来が明るいといいですね』
「(そうだな…)」
加賀の小学校が隣区だと知ったヒカルは今後も会う約束をする。
前世において加賀は恩人だから少しでも恩返しがしたかった。
会う事で恩が返せるとは思えなかったがヒカルは加賀に会いたかった。
まるで弟が兄を慕う様に―――。
教室が終わり、皆に挨拶を済ませたアキラとヒカルはあかりが待つ教室へ向かう。
あかりの方は教室がすでに終わっていて一人ぽつんとベンチにいた。
「遅くなった!ごめん!」
「ううん。そんなにまってないよ。10分くらいだよ」
そんなあかりは碁会所の皆がくれたのか、お菓子やジュースを口にしていた。
羨ましがったヒカルにあかりは「いっぱいあるから」と2人にわける。
しばらく3人はお菓子とジュースで駄弁り会を催していたが、事務仕事を終えて帰宅しようとしていた白川に見つかりまだいたのかと怒られた。
ヒカルとあかりでアキラを駅まで送り別れた後は二人で帰路につく。
「あかり、帰ったら打とうぜ!なんかすっげーあかりと打ちたい」
「うん!わたしもヒカルとうちたい!」
囲碁部を思い出す。
加賀・筒井・ヒカルで出た冬季大会。
三谷・筒井・ヒカルで出た夏季大会。
もう出る事は叶わないけれど、大切な思い出。
その思い出の中にいたあかりと佐為がヒカルにとって癒しになる。
前世とは異なる未来へ。
佐為とずっと一緒に。
ヒカルは笑顔で歩き出した。
遅くなりました。13話です。
うまく書けず、書いては消してを繰り返しました…。
加賀がグレないルート確保です。
余談ですが、前世でアキラがわざと加賀に負けるのはこれから半年後という設定です。
アキラが囲碁教室を辞めたから加賀が実質トップになったのでグレません。
囲碁を続けるのか将棋を始めるのか、それは今後書いていきます。
あかりちゃんの影が薄いのは気のせいです。
あかりちゃんの変わらない笑顔はヒカルの支えになってます。
うまく書けてませんがあかりちゃんがいなかったらヒカルは佐為に依存しすぎてどこか変だったと思います。
そして…ラブコメ難しいですね…。