早く佐為の所へ行きたい………。
ヒカルは幼稚園が早く終わるように祈っていた。
「ヒカル、きょうはおそといかないの?」
幼馴染のあかりがヒカルに話しかける。
「うん。オレはいい」
「どうしたの?いつもおそとであそぶのに。おねつある?」
「ないよ。ただ考え事してるだけ」
「じゃあわたしもいっしょにかんがえてあげる!」
「おまえなぁ…」
ヒカルは鬱陶しいと思いつつ、園児相手に大人気ないことはできない。
元の世界だったら突っぱねてるだろうなぁと考えながら懐かしい姿の幼馴染と会話して時間をつぶすことにした。
「ヒカル君があかりちゃんと大人しくお話してる………」
先生の苦悩はしばらく続く。
「お昼寝とか拷問かよ………」
ヒカルの苦悩もしばらく続く―――かと思いきや体は幼児である。
割とすぐ寝ることになった。
やっと長かった幼稚園が終わり、バスで帰宅した。
「じーちゃんち行ってくる!」
母親にそう告げると急いで着替えて飛び出す。
いつもの騒がしい娘に戻った、そう美津子は安心する。
自宅から徒歩圏内の祖父の家だったが園児にはちょっときつい距離。
佐為に会いたい一心でダッシュで向かう。
「じーちゃん!お蔵見せて!」
「おお、ヒカル。遊びにきたのか?お蔵見たいのか。ちょっと待っとれ」
ヒカルの不躾な態度にも祖父の平八は孫可愛さに気にも留めない。
(じーちゃん見た目あまりかわんねぇなぁ)
お蔵の前でそんなことを考えていると鍵を持った平八が来る。
鍵を開け戸を開くと電話がかかってきた。
「ばーさんは今いなかったか。ヒカル、ちょっと電話でてくるからそこで待っとくんじゃぞ」
「うん」
平八がその場を離れるとチャンスとばかりにお蔵の梯子を上り探す。
そして目当てのものを見つける。
そこには埃をかぶっているが見慣れた例の碁盤。
緊張しながら袖で埃を落とす。
(お願いだ。神さま。これ以上わがままは言わない。会わせて)
埃を落として盤上を見ると―――。
「あった………」
虎次郎が吐いた血のシミ。
逆行する前は見えなかったシミが見える。
「~~~!!」
耐え切れず涙を流す。
「いるんだろ!?お願い出てきて!!佐為!!!」
『ヒカル!!!』
出てきたのはヒカルと同じで記憶のある佐為だった。
「オレの事っ、わかる?佐為、ごめんな!会えた!佐為に会えた!」
『ええ、わかりますとも。ずいぶん幼いですけど私の知っているヒカルです!』
「…なんか言いたいことたくさんあったのに、今は何も考えられねぇや…」
『ヒカル…』
会えた嬉しさで号泣して言葉にならない。
落ち着いて話がしたい、と帰ることにした。
「じゃあ佐為はあの時オレの部屋からじーちゃんちのお蔵にいたのか」
今、ヒカルは未来での自分の部屋、現在での物置部屋にいる。
ゆっくり佐為と話す場所がここしかなかったからである。
『はい。私の役目は終えたのだと、このまま消えてしまうのだと思っておりました。しかし気づいたらお蔵の碁盤の前にいました。まさか過去とは思いませんでしたが』
クスりと笑う佐為にヒカルも笑う。
『このままシミが見える者が現れるまでまた気が遠くなる長い年月を待つのか―――そう思っていたのに3日でヒカルが、まさか幼くなって現れるなんて。神の気まぐれか…ともかく感謝しています』
「オレも若返ってびっくりしてるよー」
たわいもない話。
それが二人には嬉しいことだった。
二度と会えるはずのなかった二人。
神からのプレゼントだと思うことにした。
そしてヒカルは決意する。
未来を変えると。
(佐為が消えるなんてあってなるもんか!絶対一生一緒にいるんだ!)
碁盤がないので二人は目隠し碁をしばらく楽しんだ。