火曜日。
ついに研究会に行く日になった。
棋院までは平八が送っていく。
「(やっとこの日がきたな!)」
『はい♪力をせぇぶ、力をせぇぶ…』
前日にヒカルと色々打ち合わせをし、研究会へ向かう。
案内された先では森下・冴木・都築がいた。
「(わっ、冴木さん若い!まだ9歳か!)」
『森下
「(ホントだ!笑ってしまう…)」
そんな笑っているヒカルを見て白川はこの子は大物になる、と考えていた。
「じゃあヒカル君、ご挨拶してもらえるかな?」
「はーい。進藤ヒカルです。4歳です。好きな食べ物はラーメン!よろしくお願いします!」
無邪気な笑顔で自己紹介をする。
「(ふふふ、ちゃんと4歳児に見えるだろ)」
『…そうですね(14歳の時とかわらない…)』
佐為は言葉を飲み込んだ。
「ヒカル君か。俺は森下だ。白川君から聞いている。さっそく打とうか」
『はい!対局対局♪』
「(佐為~、手加減して打てよ~)森下せんせー、お願いします!」
森下との一局が始まった。
「キミは本当にテレビと新聞で碁を覚えたのかい?」
3子を置いての指導碁の途中、森下はヒカルに尋ねる。
「うん。テレビでやってて、すごく面白そうで、オレもやりたくてずっと頭の中でやってたんだ。でも一人じゃつまんないからじーちゃんとこないだ初めて打ったんだ。そしたらじーちゃん碁盤買ってくれて、おうちで今打ってるんだー!」
その言葉に白川以外が驚愕する。
つい最近まで碁石に触ったこともない幼児が、ここまで打てる事実に。
「どうでしょう森下
「3回目!?キミ天才だ!毎週ウチで勉強しなさい!」
「いいの!?やったー!!」
『やったー!!』
研究会に毎週参加が決定した事で小躍りして喜ぶ佐為。
それを見てヒカルも喜ぶ。
「(まだオレが4歳だから突然強くは打てないけど、どんどん打とうぜ!佐為!)」
『はい♪また碁がこんなに打てる。なんと嬉しい事か…』
「(佐為…)」
前回は自分ばかり優先して佐為に打たせず、そして消してしまった。
そんな後悔がヒカルに圧し掛かる。
「(佐為。オマエは本因坊だ。本因坊佐為。目指すぞ!)」
『ヒカル』
『(―――ヒカルはこんなに私の事を考えてくれている。だけど私は?ヒカルに何をしてあげれる?)』
ヒカルの人生を奪ってしまった。
佐為は考えてしまう。
ヒカルにすべてを託して自分は成仏したのではないのか。
だけどその後のヒカルはどうなったのか。
その事を佐為は詳しく聞いていなかった。
『(ヒカル。私はヒカルのために打ちます。ヒカルの笑顔が絶えない様に)』
佐為は決意する。
ヒカルが望むなら。
ヒカルのためだけに。
佐為にとってヒカルは自分の全てなのだから。
もう二度と、ヒカルを悲しませたくない。
帰りは白川に送ってもらい、今回の研究会は終わった。
『ヒカル、私はヒカルに何をしてあげれますか?』
そんな唐突な質問にヒカルは頭の上にクエスチョンマークがついている。
『私はヒカルの人生をもらっています。でも私はあげれるものがない。私はヒカルに何かしてあげたい!』
前回は我侭ばかり言ってヒカルを困らせていた。
そして今回は自分に全て打たせてくれる。
そんなヒカルにお礼がしたい。
「なんだ、そんな事か。オレだって佐為の人生もらってんだからおあいこじゃん!」
『ヒカルは生きています!死んだ人間が…ヒカルの人生を狂わせてしまう…』
「まだそんな事考えてたのか?大丈夫、他のヤツに見えなくても佐為は生きてるよ」
そう言うと佐為に抱きつく。
「佐為あったかい。冬は湯たんぽだな」
『ヒカル…』
「まーだ困った顔してら。わかった!じゃあ絶対オレの前から消えない事!………オレの願いはそれだけだ」
泣きそうな笑顔で佐為を見るヒカル。
佐為は知らない。
前回、ヒカルが佐為に会いたくて大泣きした事を。
秀策縁の地を巡った事は聞いていたが、大泣きして佐為を求めた事は知らなかった。
『わかりました。ずっと一緒です。神が許す限り、ヒカルと一緒にいます』
「神さまだってオレが死ぬまで許可するさ!だってオレ達、また会えたんだ!二度と会わせる気がないなら、過去になんてこねーよ!」
『そうですね!はい!ヒカルのぷろぽおず、受け取りました!』
「…は?プ…プロポーズ!!?なんでそんな言葉知って…!てかそんな意味で言ったんじゃねぇよ!」
『顔を真っ赤にしちゃって…ヒカル可愛い!!』
「佐為のばかー!もうっ、打つぞ!」
その場をごまかすために碁盤を広げる。
『(ありがとうヒカル。ヒカルの人生、いただきます)』
佐為は吹っ切れる。
この身はないけれど、ヒカルのために。
ヒカルは自分と佐為のセリフに困惑していた。
プロポーズのつもりはなかった。
だが傍から見たら完全にプロポーズである。
赤面はまだ治まらない。
(確かに一生そばにいてほしいけど、男同士でそんな事…ってオレ女じゃん!)
混乱したまま打った碁はとても酷いものとなった。
『からかってすみません…』
「いや、オレが考え事してたのが悪い…」
「『………』」
気まずいまま一日が終わった。
ヒカルのプロポーズです。
赤面モノのいちゃいちゃぶりです。
明日から違う部署での仕事が始まるので、更新が遅くなると思います…。