ヒカルは多忙になる。
平日はもちろん幼稚園。あかりと毎日打っている。
火曜は研究会に参加、土曜は囲碁教室。
平八とも時間が合えば打っている。
それ以外、ほとんど佐為と打っていた。
そんな生活が約2年続き、ついにヒカルは小学生になった。
「森下
ヒカルの言葉に一同騒然である。
それぞれが「小学1年生で院生か、最年少記録更新か」と口にする。
研究会で誰一人としてヒカルが落ちると思っていない。
それほどヒカルの才能に皆将来を楽しみにしているのだ。
「ヒカル君が院生か…。オレも受けようかな…」
11歳になった冴木も迷っていた。
5歳も年下の子に棋力は完全に負けている。
でもその持ち前の優しさからか、悔しさはあってもそれ以上にヒカルを尊敬していた。
そんな冴木の囲碁の姿勢に森下も大丈夫だと太鼓判を押す。
そうして7月期の院生試験を二人は受ける事になった。
「佐為は本当に凄い。なにより碁がキレイなんだよな」
『そうですか?ふふふ、ヒカルに褒めていただいて嬉しいです♪』
「塔矢も言ってたよな。美しい碁。見ていて感動する」
『ヒカル…』
小学生になり、一人部屋をもらったヒカルはそこで寝るまでずっと佐為と打っている。
囲碁ばかりする娘を美津子は心配しているが、この世界ではプロになるという布石を打っている。
二度目の小学生だからか成績もそんなに悪くないヒカルはあまり美津子にとやかく言われないでいた。
『ヒカル、あなたの碁も美しいですよ』
「オレの碁が?ホント?佐為にそう言ってもらえるとなんか照れるな…」
『本当です。だって私の弟子ですもん♪』
「プッ、笑わせんなよ~!」
『ふふふ』
「ヒカル~!何騒いでるの~!お風呂入るわよ~!」
笑いあっていると一階からヒカルを呼ぶ声がする。
今までヒカルは毎日美津子と風呂に入っていた。
前の世界でもそうだったが、ヒカルは成長が大器晩成型でありとにかく小さい。
だがそろそろ一人でゆっくりと入りたいとヒカルは考えていた。
「お母さん、オレ今日から一人で入る」
「…え?」
「もう小学生だしそろそろ一人で何でもできないと」
…と、階段を下りながら美津子に伝える。
2年ほど前、囲碁にはまりだしてからヒカルは母親である美津子に甘えなくなった。
突然大人しくなり当時は困惑したが、手のつけられないくらいお転婆だった娘がおしとやかになったのだと思いさほど気にしなかった。
だが唯一甘えていたのがお風呂である。
大人しい娘と一緒に入るお風呂は美津子の楽しみでもあった。
「そ…そう?何かあったら言いなさいね。先に入る?」
「うん。シャワーに手が届かなかったら呼ぶね」
「ふふ、行ってらっしゃい」
笑顔で見送ったが、その後肩を落として夫である正夫に「ヒカルが甘えてくれなくなった」と愚痴りに行くのであった。
前世から勝手知ったる風呂場。
だがサイズが全く違う。ヒカルのサイズが。
今のヒカルは平均身長よりはるかに小さい103センチメートル。
気合を入れて脱衣所に向かう。
『ヒカル!頑張って下さい!』
「おう!………んじゃいつも通り目隠ししてね」
『え?ヒカル?どうしてですか?』
佐為は過去に戻ってきてからお風呂の時間は目隠しをしていた。
ヒカルが美津子と入っていたからである。
前は一緒に湯船につかる(もちろん佐為は服を着ていたが気分的に)間柄だったから今回もそうしようと考えていた。
『……?ヒカル?』
不満そうにするヒカルに佐為は自分が何か仕出かしてしまったのかと慌てる。
「佐為のスケベ」
まるで背後にガーンという文字が入ったかの様な衝撃を佐為は食らった。
『わ…私が助平ですと…!?何故です!?以前は一緒に入ってたじゃないですか!』
「…オマエ、まさかこの2年間気づかなかったのか…?」
『何がです!?は!?まさか…』
「…(やっと気づいたのか…)」
ため息をつくヒカル。だが次の佐為のセリフに―――
『私が男の子のお風呂を除く不埒なヤツだと思ってたんですかー!?』
―――おもわずずっこけてしまう。
確かに外見は男の子だ。
完全に以前のヒカルがただ小さくなっただけなのだ。
だがいくら何でも2年気づいていなかったのかとヒカルに怒りがフツフツと沸いてきた。
「佐為。言わなかったのは悪いと思う。でもな…さすがに2年近く経ってるんだ…。いい加減気づけ!オレは女なんだぞ!!!」
『……………え?』
幸い、ヒカルの怒号はテレビをつけた部屋にいる両親には聞こえていなかった。
『ヒッ、ヒカルが女の子~~~!!?』
もし佐為が生きていたのならその叫びはご近所中に響き渡っていたであろう。
顔を真っ青にしていたかと思うと突然赤くなる。
『すみませんヒカル!
赤面して慌てる佐為がおかしくてヒカルの怒りが消えていく。
「もーいいよ。まあ外見は以前とかわんないし。とりあえず、目隠ししてくれる?」
『はっはい、もちろんです!』
佐為が目隠ししたのを見て思わず「プッ」と笑ってしまうヒカルだったが、早めに入浴しようと服を脱ぐ。
(あれ、いつも服脱ぐ時には何も感じなかったけど、なんか今ものすごく恥ずかしいぞ)
そんなヒカルもしばらく赤面が続いていた。
そして早めにシャワーをあびる。
『(ヒカルが
脱衣所で赤面した頬を押さえて混乱する佐為。
毎日手をつないで寝ている事を思い出しまた一段と赤面する。
『(いや、ヒカルはまだ6歳。子ども。何も動揺する事では―――)』
『そうですね!はい!ヒカルのぷろぽおず、受け取りました!』
以前自分が言った言葉を思い出し、ついに頭をかかえて丸まってしまう。
『(あの時のヒカルはすごく動揺していて…ただ照れているだけだと思っていたが…私が余計な事を言って…)』
そこまで考え、佐為は思考が停止する。
もう余計な事は考えまい、そう自分に言い聞かせた。
お風呂上りのヒカルと一局打つ。
『ヒカル、強くなりましたね。院生試験ヒカルが受けてみませんか?』
「いや、オレは佐為みたいに手加減して打てないし…。言ったじゃん。オレはいいの。佐為に打ってほしいの」
『…同じです』
「え?」
『私もヒカルと一緒で、皆にヒカルの碁を見てほしいんです』
佐為の言葉に困った顔をするヒカル。
『そうだ、いんたぁねっとで打ったらどうです?』
その提案に少し考えるが却下である。
「この時代のインターネットはまだそんなに普及してない。まだネット碁ができる時代じゃないんだ。ネットカフェもないんじゃないかな」
『そうですか…』
「もう少し大人になってからだな。ひとまず院生試験頑張ろうぜ」
『わかりました!それまで頑張ってもっと強くなりましょうね!』
「お~!」
片手を挙げて笑うヒカルに佐為は見惚れた。
女と意識してヒカルを見ると完全に女の子にしか見えない。
多分それは佐為がヒカルを意識した瞬間である。
今までは気にしていなかったが、よく見るとヒカルは可愛い。
一見普通の男の子だが、美少女である。
残念な言葉遣いとラフな格好で完全に世間には間違えられているが。
「そういえばなんでランドセルの色で気づかなかったんだよ」
『あまり気にしていませんでした…』
「(囲碁馬鹿だから…)」
『聞こえてますよ』
部屋の電気を消し、布団に入る。
「佐為、寒い。湯たんぽ」
『…はいはい』
毎日の事だが、ヒカルは佐為にくっついて寝ている。
それは冬でも夏でも関係なく。
佐為は今はまだ照れているが『可愛い』とだけで治まっている。
そしてヒカルを女の子として多少意識をしてしまった佐為にとって、今後地獄になっていくであろう。
一方、ヒカルはこの2年で自分が女の子という自覚がやっとできてきた。
言葉遣いはこの先このままであろうが、意識は変わってきた。
そして自分が佐為が好きだと自覚し始めていた。
(こんなにも佐為に依存している。佐為がいないとダメだ)
佐為が消えてしまわないか不安でくっついて寝てしまう。
(優しい佐為。ずっとそばにいて。願わくば、佐為も同じ気持ちであります様に…)
甘々です。
2年後の入学式直後くらいです。
ついに佐為が性別に気づきました。
遅すぎです。2年ですよ。
そしてヒカル小さすぎです。
お母さんに甘えなくなったけどその分佐為に甘えまくってます。