インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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海上の激戦 Twelfth Episode

「トランザム!」

 

「ファング!」

 

「零落白夜!」

 

三人は、自分に出せる最大の力で福音(ゴスペル)へと迫る。

 

(フィリップ。俺は理性を保ったままで、どのくらい戦える)

 

(『それは君次第だ。大きな力を望めば、それ程リスクが高まる』)

 

(要するに、なるべく前衛に偏らない方が良いという事か)

 

数馬はファングで強化されたスピードとパワーを駆使して、福音(ゴスペル)へと攻撃を仕掛ける。だがそれらは全て受け止められるか受け流されるかで、まともなダメージが入らない。

 

(だが、それは奴に躱す余裕が無くなったと考えれば状況は段々と此方に傾いていると思える)

 

「一夏と弾は俺の合図で指定したポイントに全速力で攻撃を仕掛けろ!」

 

「「おう!」」

 

一夏と弾の応答を得ると、数馬は腕部から光の刃を出現させそれを引き抜いて投げた。

光の刃が何かを追うように飛行し始め、やがて一定の場所を囲んで飛行し始めた。

 

「そこに奴がいる!紫電が走った時が奴の出現のタイミングだ!」

 

数馬の言葉の数秒後、それは現れた。

 

「今だ!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

「シャラァァァ!」

 

一夏と弾は二方向から攻撃を仕掛けた。

 

「…………っ?!」

 

福音(ゴスペル)は現れると、二人からの攻撃の回避を始めたが、時は既に遅かった。

 

「くらえ!」

 

一夏の零落白夜が福音(ゴスペル)の右腕に命中し、弾のGNソード||の斬撃が左翼に命中した。だが

 

「…」

 

「えっ?!なんで!」

 

「今の、最大威力なんだぞ?!」

 

一夏と弾の刃は装甲の上に張られた膜の様な物に阻まれて止まった。福音(ゴスペル)にとっても予想外なのか、福音(ゴスペル)は少し戸惑った様な様子を見せた。だがすぐに切り替えて反撃に転じた。

 

ドゴンッ!

 

「っ?!グアァ!」

 

まず福音(ゴスペル)は右側に居た一夏を回し蹴りで蹴り飛ばして近くの島の森に叩き込んだ。

 

ギュンッ!

 

「ゴハッ!」

 

そして左側に居た弾の腹部にゼロ距離でビームを放ち、島の崖に激突させた。

 

「お、おいおい!ンなのありかよ!」

 

「あの膜、シールドエネルギーじゃねぇのか?」

 

「計算外だ。ここまでの力があるとはな」

 

弾は落ちてきた細かい岩を退かしながら苛立たしげに言った。そして一夏は、自身にのしかかる木と絡みつく草等を払いながら困惑した。

 

「数馬!大丈夫?!」

 

「「一夏!」」

 

「弾!エネルギー残量は?!」

 

「なんか俺だけ心配され方のベクトルが違くね?!」

 

シャルロットは数馬の傍に寄り、鈴と箒は一夏の元へ最高速で寄った。そして簪は弾の近くに寄りながらデータリンクを開いた。

 

「皆さん!来ますわ!」

 

それぞれが心配な者の所に寄っていると、セシリアがGNスナイパーライフルを構えながら言った。

 

「ラウラ!ステラは!」

 

「ダメだ!見つからない!どうして………どうして見つからない!」

 

ラウラは泣きそうな声で叫ぶ。だが、その声は突然止み、ラウラは静かに立ち上がった。

 

「そうだ。お前が悪いんだ。お前がステラを落としたんだ」

 

ラウラの声は酷く冷たくなり、その目はかつて一夏を見ていたそれより、遥かに冷え切っていた。

 

「お前が!ステラを傷付けたんだ!」

 

瞬間、ラウラは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って福音(ゴスペル)に迫った。

 

「お前がぁぁぁぁ!」

 

ラウラの攻撃は、まさに獣の様だった。怒り狂い、憎しみに溺れた姿は、ステラの暴走すら甘いと思わせる程だった。

 

「ダメだラウラ!冷静さを欠いて勝てる相手では無い!」

 

「………っ!」

 

だが、それでも圧倒的な実力差を埋めるには足らず、福音(ゴスペル)はその攻撃を悠々と躱し、ラウラの背中に大量のビームを撃ち込んだ。

 

「グアァァァァ!」

 

そのダメージにシュヴァルツェア・レーゲンは強制的に解除され、ラウラは重力に抗う術を無くして海へと落下していく。

 

「ラウラ!」

 

箒は紅椿の最高速を出してラウラの下に回り込もうとした。だがそれを許す程福音(ゴスペル)は甘くは無かった。

 

「くっ!邪魔だ!」

 

箒の振るった刃は空を切り、その隙に福音(ゴスペル)は箒の横腹を蹴った。

 

「ガハッ!」

 

箒はその衝撃でよろめく。普段ならその隙は僅かな一瞬。だが、ラウラが海に落ちるには、充分過ぎる時間だった。

 

「ラウラァァァァ!」

 

簪の悲鳴と共に、ラウラは海へと落ちた。

 

 

…………………………

 

 

「あれ、ここは?」

 

ステラが目を開くと、そこは真っ白な空間だった。

 

『マスター』

 

「ん?ギンギラ?」

 

振り返るとそこには、本来のVSの姿のギンギラが立っていた。

 

「ここはどこ?私、戦いに戻らなきゃ!」

 

ステラの目に、赤い光が宿りかけた。だがその時。

 

「「ステラ」」

 

「っ?!」

 

ギンギラの後ろから、桃色の髪の男と、ステラと同じ白髪の女が現れた。その姿に、ステラは信じられずに手を口にあてた。

 

「お父、さん?お母さん?」

 

「あぁ、そうだぜ」

 

「そうよ、ステラ」

 

二人はステラの父親と母親。ブレンとティキだった。

 

「お父さん!お母さん!」

 

ステラは二人の元へ走り、抱き着いた。

 

「よく頑張ったな。ステラ」

 

「えぇ、本当に」

 

そんなステラを撫でて、微笑みながら語りかける。

 

「でも、なんでいるの?二人ともEDN-3rdにいるんじゃ」

 

「あぁ、そうだな。だから、魂だけこっちに飛ばしたんだよ」

 

ステラの疑問に、ブレンはウインクをしながら答えた。ステラはそれに一瞬納得したが、次にその表情は驚愕に染まった。

 

「はぁ?!いや、どういう事?!」

 

「もう、ブレン。その言い方だとステラが困惑しちゃうでしょ?」

 

「え?あー、悪い悪い」

 

ブレンは少し笑いながら謝る。その姿にステラとティキはため息をついた。

 

「全く………。とにかく今は説明していられる時間は無いわ。貴方に伝えたい事があるの」

 

「伝えたい、事?」

 

ティキの言葉に、ステラは首を傾げた。そんなステラを微笑ましそうに見つめて、ティキは話を始めた。

 

「あのね。ステラは、一人で頑張り過ぎよ。もっと友達の力も信頼してあげて?」

 

「え?私は信じてるよ?!」

 

「確かに信じてる。でも、お前は心の中で守らなきゃいけないって思ってる。もっと周りに目を向けて、一緒に苦難を乗り越えろ」

 

「でも!私は皆より戦いの経験もあるし、機体の性能だって上なんだよ?!私が守ってあげなきゃ「馬鹿野郎!」キャッ?!」

 

ステラが焦った様に言う中、ブレンがステラに頭突きをした。

 

「お前、そんなに強いか?」

 

「え?」

 

ブレンの言葉に、ステラは間抜けな声を出した。

 

「あのな、お前は小さい時に俺達に二人はすごく強い!って言ってたけどな。俺達は、一人だと実はそんなに強くねぇんだよ」

 

ブレンの語り方は、まるで昔話でもするかの様な口振りだった。その口は微笑み、目は慈愛に満ちていた。

 

「そうよ。私達は一人じゃ戦えない。分かりやすく言うと、エクスサーマルレゾナンスは一人じゃ使えないでしょ?」

 

「そうだけど、それは今関係「あるぜ」、え?」

 

ステラの言葉を遮り、ブレンは静かに言った。

 

「俺達一人一人の力はそれぞれに違う。だから弱点だって皆違うんだ。だから互いが互いにその弱点を補い合う。それが仲間……いや、友達だろ?」

 

ブレンの言葉に、ステラの目に涙が浮かぶ。

 

「でも私、皆と違う星で生まれて、力だってたまたま落ちたのが束さんのラボだったから手に入っただけで、私なんか皆とは友達になんて!」

 

「………じゃあ、お前と皆は何だ?」

 

「え?どういう事?」

 

度重なる疑問に、ステラの頭は混乱していた。

 

「支え合って、助け合って、背中を預けて、笑い合って、泣き合って、言い合って、でもすぐに仲直りして……これが友達じゃ無いなら、なんなんだ?」

 

「っ!」

 

もうステラには、声を出す余裕は無かった。それからステラが声の代わりに漏らしたのは、涙と嗚咽だけだった。

 

「私、私!皆と友達でいたい!生まれなんて関係無く、一緒にいたい!」

 

「そうだ、それでいい」

 

「ステラ。迷ったら、立ち止まってもいいのよ?」

 

「私!もう誰も失いたくないって思って!あの子を守れなかった日から、ずっと!」

 

ステラは泣きながら叫ぶ。その脳裏には、ステラがEDN-3rdで過ごした日々の記憶が鮮明に映し出されていた。

 

「お前は、一つだけ間違えてる」

 

「一つだけ?違う、私は沢山間違えた。だからあの子も死んだの!」

 

「死んでねぇよ」

 

「…………え?」

 

ステラは伏せていた顔を上げて、キョトンとした。

 

「あの子は死んでない。それを伝える前にお前がどっかに行っちまって、伝える暇は無かったけどな」

 

「そんな!あの子はお腹を貫かれたんだよ?!」

 

「その後に、数台のハーモナイザーを使って彼女の再生治療を行ったのよ。意識ももうじき回復するわ」

 

ティキの言葉に、ステラは更に涙を流した。その涙は、先程の涙とは根本から違っていた。

 

「良かった…………良かった!死んで無かった!」

 

ステラは顔を手で覆った。その端からは涙が絶えず溢れ、ステラの頬を濡らしていた。

 

「ステラ。あの子が助けられた様に、貴方には助けられる子がいる」

 

「その子はきっと放っておけば死んじまう。助けるか?」

 

「うん!あったりまえじゃん!」

 

ステラが顔を上げると、そこに悲しみや絶望は無く、満開の花の様に輝く笑顔があった。

 

「おう。行ってこい!」

 

「頑張ってね。でも、時にはしっかり休むこと」

 

「うん!行ってきます!」

 

ステラはそう言って二人の間を通り抜けると、ギンギラのコックピットへと飛び乗った。するとギンギラは閃光を放ち、ISの姿へと変わった。

 

「ギンギラ!ステラの事、頼んだぜ!」

 

『分かっています。ブレン!』

 

ブレンとギンギラは拳をぶつける。それが合図だったかの様に、ギンギラは飛び立った。

 

光はやがて青く染まり、光を抜けると海の中だった。

 

「っ!ラウラ!」

 

ステラは海に沈むラウラを受け止めてバリアでラウラを包むと、全速力で浮上した。

 

「ギンギン!」

 

海面がどんどん近付く。その度に海上で行われる激戦を肌で感じる。

 

「ギラギラ!」

 

ステラは笑う。それは気が狂った訳でも、何かが面白かった訳でも無い。では何故か。

 

「一番星だァァァァァァ!」

 

ヒーローは、どんな時にでも笑って誰かを助ける。その言葉を教えてくれた友達がいるから。

 

「皆、お待たせ!もう大丈夫!」

 

ステラは海を抜けて、空へと昇る。

 

「何でかって?」

 

ラウラを両手で抱え、とびきりの笑顔で叫んだ。

 

「私が来た!」




なんか、久しぶりにステラを書いた気がする…

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