インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
ダメだ。勝てない。
「グッ!」
零落白夜も、トランザムも、ファングも効かない。
「ハァ!」
紅椿のスピードから繰り出される攻撃も躱される。
「私達が囮をするから、ラウラを助けてあげて!」
シャルロットのラピッドスイッチによって繰り出される攻撃も、効果が無い。
「山嵐!」
打鉄弐式最大の武器である山嵐すらも躱していく。あんなの、どうやって倒せばいいんだ?
「何ボーッとしてんだ一夏!」
弾が俺に叫ぶ。じゃあどうしろって言うんだ?こんな化け物、どうやって倒すんだよ。
「っ!」
その時、俺の頭に何かが駆け巡った。
それは無人機襲撃の時に感じた様な無機質な物や、今戦ってる
〈ギンギン!〉
その声は、皆に勇気を与えた。
〈ギラギラ!〉
その声は、皆に希望を与えた。
「一番星だァァァァァァ!」
海から飛び出したその光は、空中で弾けた。するとそこには光の翼を生やしたギンギラを纏ったステラがいた。
「皆、お待たせ!もう大丈夫!」
その顔は笑っていた。まるでこんな状況をなんでもないと蹴散らす様に。
「私が来た!」
その言葉が、俺達の心にもう一度火をつけた。
…………………………
ステラとラウラの復活。それはその場に居た全員と、司令室から見ていた千冬達にも希望を与えた。
「ステラ!」
簪が涙目になりながら抱き着いた。ステラはそれに驚きながらも、しっかりと微笑んで返した。
「おかえり!」
「うん、ただいま!」
二人は笑顔で挨拶を交わしながら、腕の中に居るラウラを見た。
「大丈夫なの?」
「うん。気絶してるだけみたい。体には打撲以外に外傷は無いし、内蔵とか脳にもダメージは無いみたい」
ステラの言葉に、全員が安堵した。だが、それと同時に
「状況は?」
「
「大方予想通りだね。それから?」
ステラと簪は、
「一夏と弾が最大出力で放った攻撃が、膜みたいな物でガードされた。今あれの突破口を模索してる所」
「膜?零落白夜が効かないって事は、少なくともシールドエネルギーじゃ無いって事か。あ、ラウラをお願い」
「いいけど、そう言えばその光の翼何?」
「ん?あ、これ?なんかセカンドシフトしたら武装欄にあったから使ってみた」
ステラは簪にラウラを預け、拳を引いて構えた。
「ギンギラ。やれる?」
『はい、いつでも』
ギンギラがステラに答えると、光の翼は更に光を強くした。それと同時に、肩の上に浮遊していたリングが正面に移動した。
「『サーマルキャノン!』」
ステラが拳を前に突き出すと、エネルギーがリングを伝って巨大なビームを発射した。
「………っ!」
「皆!突破口見つけた!」
「え?!本当?!」
「うん!でも、その為には一夏とセシリアの力が必要なの!」
ステラの言葉に、二人は驚いた様にステラの顔を見た。
「お、俺達?」
「そうだよ。私の機体にサーマルエナジーっていうエネルギーが使われてるっていうのは、前にも言ったよね。サーマルエナジーっていうのは、本来この星に無いものなの。数十年前に遠い宇宙から来たもの。そして私も、四年前にこの星に来た」
「え?それ、どういう事?」
鈴はステラの言葉の意味が分からずに聞き返す。
「そのままの意味だよ。私はこの星で生まれたんじゃない。簡単に言うと、私は………」
そう言ってステラは目を閉じる。ステラの心に迷いが生まれた。先程決めた筈の覚悟も、拒絶される恐怖心で掠れていく。でも、言わなければならない、ステラは目を開き、今まで隠していた秘密を打ち明ける。
「私は!宇宙人みたいな物なの!皆とは違うの!見た目は同じだし、言葉もなんでか分からないけど同じだけど、でも私は!〈関係無い〉、千冬、さん?」
その時、オープンチャンネルで千冬の声が全員の耳に届く。
〈お前がどの星で生まれていようが、私にとってお前は、かけがえのない家族だ。お前がなんと言おうが、それは変わらない〉
千冬の声は、戦闘中だと言うのにとても穏やかで、その声にステラは涙を一筋零した。
「いいの?私が、家族で居て、いいの?」
〈お前は、今まで私達に多くの者をくれた。お前のおかげで束は救われた。お前のおかげで私は過去と向き合えた。お前のおかげで一夏達は強くなれた。そして……お前に救われた人間はこれからももっと多くなる。大丈夫。誰がなんと言おうと、お前はお前だ〉
ステラの涙は、頬を伝ってギンギラの腕に落ちる。
『マスター。そして貴方には、救える人が目の前にいます。ならば、救いましょう。私達の持つ力で!』
「……そうだね。今は生まれなんて関係無い!とにかく、あの人を救う!」
ステラはそう言って
「私が一夏とセシリアにサーマルエナジーの力を渡す!その間皆は時間稼ぎを!」
「分かった!」
数馬はファングの出力を暴走するギリギリまで上げて
「クソが!俺もそっちが良かったぜ!」
弾は愚痴を言いながらGNソードⅡを構えて
「行くわよォ!」
鈴は龍咆を撃ちながら双天牙月を振りかぶる。
「私が攻撃を捌くから、皆は気にせず戦って!」
簪は山嵐の砲門を解放し、いつでも放てる状態にした。
「参る!」
箒は雨月と空裂を構えながら
四人が四人に出来る事をしている。その最中にステラは、準備を進めていた。
「一夏、セシリア。二人とも私の前に来て」
二人はステラの言葉に従い、ステラの前に行った。
「力を渡すって、どうやるんだ?」
「拡張領域を利用して擬似的にギンギラと二人の機体のエネルギー回路を繋げる。白式は零落白夜を強化して、ブルーティアーズは無人機襲撃事件の時の力だよ」
「あの時の、力………ティアーズとスターライトmkIIIの併用ですの?」
セシリアの問いに、ステラは頷いて肯定した。
「最悪の場合は弾と数馬、鈴にも同じ事をする。でも、正直ゴスペルの学習能力を考えると一発で決めたい。やれる?」
「当然ですわ!」
「やんなきゃ、皆を守れねぇ。俺もやるぞ!」
セシリアも一夏も、覚悟を決めた。いや、既に決めていた。
「なら、行くよ!ギンギラ!」
『分かりました。エネルギー回路、接続開始』
ギンギラの腕部装甲が白式とブルーティアーズに触れる。すると、そこから金色の線が機体の装甲に沿って描かれる。
『接続完了。擬似サーマルエナジー回路、精製完了』
「一夏!セシリア!内側に芽生えた力を感じて!」
((力………))
二人は目を閉じる。すると、体の底から湧き出る力を感じる。二人はそれを感じ取り、目を開く。
バアァァァァァンッ!
その時、二人の機体から光が爆ぜる様に発せられた。
「ウオォォォ!」
一夏は叫ぶ。すると青く光っていた雪片弐型のエネルギーの刃が、金色に光り輝く。
「ハアァァァ!」
セシリアも叫ぶ。すると髪は銀色に染まり、それと同時にビットも動き出す。セシリアはスターライトMkIIIで狙いを定め、引き金に指をかける。
「ギンギラ!私達も!」
『はい!』
「『バランスブレイク!』」
ステラとギンギラもまた叫ぶ。その叫びと共にギンギラから膨大な光が溢れ出し、ステラとギンギラの内に眠る力が、どんどん高まっていく。そしてステラの瞳は、真紅に染まった。
「二人とも、行くよ!」
ステラの掛け声と共に、一夏とステラがスラスターを吹かし、セシリアは引き金を引いた。
「ウゥオラァァァァ!」
「シャラァァァ!」
「……っ?!」
それをギリギリ躱した
「ハァ!」
セシリアが引き金を引くのと同時に、ビットとスターライトMkIIIから大出力のビームが放たれた。
「……っ!」
「……っっっ!」
「シフト、スピード!」
「トランザム!」
辺りにその声が木霊した。それと同時に空中で衝突を繰り返していた光の中に、紅蓮の光が混ざる。
「シャラァ!」
トランザムを使った弾とダブルオーが、GNソードⅡを振り、鱗を切り裂いた。それを危機と感じ、
「逃がさない!」
それと同時にステラはディスティニーソードを収納し、フリーダムカノンを出現させた。
「『フルバースト!』」
二人の掛け声と共に、四つの砲門からビームが放たれる。そして、高速移動を使用できない者は、そのタイミングを逃さず自身の武器を最大で放つ。
「山嵐!」
簪は残していたミサイルの半分を。
「龍咆!」
鈴は最大出力の龍咆を。
「ティアーズ!」
セシリアは一時的に使える様になっているフレキシブルで追尾するビームを。
「ファング!」
数馬はファングの能力で生まれたビームの刃をブーメランの様にして作った投擲武器を。
「ハァ!」
箒は空裂から発せられるビームの刃を。
全員の攻撃が命中し、
「今だ、一夏!」
「あぁ!零落………いや、金色白夜!」
一夏は金色に光り輝く雪片弐型を構えて、
「ウオォォォォ!」
一夏の叫びと共に振り下ろされた雪片弐型は、
「もう一回!トランザム!」
「限界まで行くぞ!ファング!」
「行くよギンギラ!」
『はい!マスター!』
その時、限界以上の速度で、それぞれの力を持って、弾と数馬、そしてステラが攻撃を仕掛けた。その攻撃を弾く為に、
「いっけぇぇぇ!一夏ァァァ!」
「これで、終わりだァァァァァァ!」
一夏の振り下ろした雪片弐型が、エネルギーの膜を斬り裂いた。
「っ!見つけた!」
一夏は操縦者とコアを見つけると、両方を抜き取って急速でその場を離脱した。
「ッッッッッッ!」
コアを抜かれ、本能だけが残された鉄塊は、その場でもがき苦しむ。
「ごめんね」
ステラは一言呟くと、サーマルキャノンでそれを吹き飛ばした。
「皆、ありがとう……………私達の、勝ちだァァァ!」
ステラの声は、激戦を終えた海上に響き渡った。
「銀の福音」戦、長かったァァァァ……