インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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いやーね。夏休み編なのにね


愛が故に

「いやぁ、いつ来ても賑わってるねぇ」

 

ステラの言葉通り、祭りに使われる神社の境内は、初詣の時よりも賑わっていた。

 

「篠ノ之神社の祭りは、毎年巫女の舞があるからな。確か小さい頃に箒がやりたがってたよな?」

 

一夏がそう言うと、箒は高台にある舞台を見て、まるで年端もいかない少女の様に目を輝かせる。

 

「あぁ、あの時はあの舞にただ憧れていたからな。

あの様に美しく、それでいて勇ましく舞えたらと思うと、心の底からワクワクするだろ?」

 

一夏に向かって笑顔で答える箒。その箒のとなりで、セシリアは興味深そうに箒に寄る。

 

「その舞とは、一体どの様なものなのですか?」

 

こちらもやや目を輝かせ問う。その言葉に箒は軽くウインクして答える。

 

「見てからのお楽しみだ」

 

普段は見せない茶目っ気に、その場にいる全員が少し驚く。だが、それ程までにこの舞を愛しているのだと言う事が分かっているから、全員がつられて笑顔になる。

 

「とにかく、舞までは時間がある。それまでは屋台を回ろう」

 

箒が先頭に立って歩く。ステラは歩きながら、辺りを見回していた。

 

「あら、ステラじゃない」

 

その時、ステラの背後から低めの女性の声が聞こえた。

 

ステラが振り返ると、そこには背の高い若い女性が立っていた。

 

「ん?あ、小夜子さん!」

 

ステラは嬉しそうな声を出して、小走りで駆け寄る。

 

「お久しぶりです!」

 

笑顔でそう言うステラに対し、小夜子は笑いながら答える。

 

「そうね。半年ぶりくらいかしら。ちょっと大人になったんじゃない?」

 

「もぉ、そんな事ないですよぉ///」

 

ステラはデレデレとしながら謙遜する。その姿に、ラウラは少し面白くなさそうな表情を浮かべていた。

それに気が付いたのか、そうでないのか。小夜子はラウラに視線を向けながらステラに、あの子は?と尋ねた。

 

「あのね、あの子はラウラって言って、その……私のね、恋人なの……えへっ///」

 

ステラは少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうに伝える。

 

「へぇ。カップル揃って白髪で可愛いなんて、お似合いじゃない」

 

小夜子はステラの前を通り過ぎ、ラウラの前に立つ。

 

「ラウラ、ね」

 

「っ?!」

 

小夜子の、全てを見通す様な目に、ラウラは後ずさった。

 

「そんなに身構えなくても別に取って食おうって訳じゃないわ」

 

いたずらっ子の様に笑う小夜子に、少し呆気にとられていた。

 

「そちらは?」

 

セシリアが手で小夜子を指して言うと、ステラは小夜子の隣に立った。

 

「冴島 小夜子さん。私がここに住み出してすぐに知り合った人で、心奏かなでっていうカフェのマスターなの」

 

「よろしくね」

 

ステラの紹介に、手をヒラヒラと振って応じる。

 

「あと、私の料理の先生なんだよ」

 

「「「えぇ?!」」」

 

一夏以外の三人は、その言葉に目を剥いて驚いた。

 

「ステラさんの、先生という事は……」

 

セシリアには、小夜子の料理がどれほどの物なのか、計り知れなかった。

 

「あまり過剰な言い方はやめなさい。私は別に料理自体を教えた訳じゃ無いんだから」

 

小夜子の放った言葉に、三人はさらに困惑する。

 

「ステラ、うちに来たばかりの頃、手伝い以外で料理する事があまり好きじゃなかったんだ」

 

一夏が横から説明を入れる。

驚く三人を他所に、一夏に続く様に小夜子も話を始める。

 

「皆、この子の故郷のことは?」

 

「知っていますわ」

 

小夜子の問い、セシリアが答える。

 

「そう。この子のいた星では、調理の際に使う肉類は全て人工のものだったらしいの。

だから、料理が命を頂くものという認識は無かったらしいの。だから私が、その事を悪では無いと教えて、奪ってしまった命なら、せめて最高の料理にして大好きな人の為に作りなさい、と教えたわけ。

 

少し話しすぎたわね。今から店を開けなきゃ行けないからもう帰るわね」

 

小夜子はそう言うと、神社とは反対の道へと向かう。

 

「あれ、でもお店はもう閉店のはずじゃ?」

 

ステラの問いに、小夜子は少しだけ振り返って答える。

 

「少し、古い友人と会う約束があってね」

 

小夜子はそれだけ言うと、ニコリと笑い立ち去った。

 

 

…………………………

 

 

カランカラン…

 

「いらっしゃいませ…と言っても、時間外だし客でも無いわね」

 

レトロな雰囲気の店に、女性の声が谺響する。

 

「久しぶりだな、小夜子」

 

開かれた扉から、少し低い女性の声が聞こえる。

 

「えぇ、そうね。あなたから集まりたいと連絡を貰った時は驚いたわ」

 

小夜子は、扉の方を向きながら、古い友の名を呼ぶ。

 

「千冬」

 

そこに立つのは、いつものスーツを着込んだ千冬だった。

 

「コーヒーでいい?」

 

「あぁ、頼む」

 

千冬はゆっくりと席に着き、一枚の写真を取り出した。

 

「懐かしいな、あの頃が」

 

そこに写っていたのは、千冬達の物理学部のメンバーとISスーツを着た20人の女性達だ。

 

「………私は、あなた達を許した訳じゃないわ」

 

小夜子は、ステラ達には見せなかった、まるで仇を見る様な目で千冬を見る。

 

「待て小夜子!私を恨むのはいい!だが、束は悪くない!」

 

千冬は席を立ち、そう言った。

 

「………初期型のIS、そのテストパイロット。

私達は、あなた達の盾や爆弾になる為にその役目を引き受けた訳じゃ無いわ」

 

淡々と語る小夜子に、千冬は少したじろぐ。

だが、千冬も負けじと声を張って答える。

 

「確かに、お前達を危険に晒してしまった。だが、私はお前達の事を大切にして「20人も死んだのよ?!」

――――小夜子、それは……」

 

千冬の言葉を遮り、小夜子が18つのネックレスを手に持って叫んだ。

 

「あの日、あの場所で!

あなたを守って2人死んだ!

デストロの攻撃を受けて11人死んだ!

 

 

 

――そして、奴を倒す為に、7人が自爆した……」

 

小夜子は、そのネックレスを、そっとテーブルに置いた。

 

「皆、死ぬ前に笑っていた。

後はお願い、だとか……絶対に勝ってね、とか……」

 

小夜子の目の端に涙が溜まる。

千冬はそれに気が付き、目を見開く。

 

「私は許せない。

皆を殺したデストロが許せない。

皆を見殺しにしたあなた達が許せない。

 

 

 

――――そして何より、皆の犠牲を無駄にした、私が許せない……」

 

「小夜子……」

 

最後に零した言葉が、明かりが付いている店内に、影を落とした。

千冬はそう感じていた。

 

「小夜子……私は!」

 

ドカァァァァァンッ!

 

千冬が何かを伝えようとしたその時、爆音が響き、窓ガラスが揺れた。

 

「「っ?!」」

 

二人は即座に反応して店外へと出た。

 

「あっちは、篠ノ之神社の方角か?!」

 

千冬はその顔を驚愕の色に染め、小夜子は焦燥に駆られていた。

 

「祭りがあってる!あそこにはステラ達もいるわ!」

 

「なんだと?!クソッ!偶然とは思えん!」

 

千冬は舌打ちをしながら店を飛び出した。

 

「お前は避難していろ!私は様子を見て来る!」

 

トリガーを握り締めた千冬が、後ろを振り向きながら叫ぶ。

そして返事を待たずに、ステラ達がいるであろう場所へと駆ける。

 

「っ、私は………」

 

小夜子は、唇を噛み締めながらテーブルに置かれたネックレスを睨んだ。

 

 

…………………………

 

 

数分前、祭り会場。

 

「いやー、楽しかったね。舞も綺麗だったし」

 

ステラは少し崩れた木造の建物

―――旧篠ノ之神社の縁側に腰掛けていた。

 

「あぁ、そうだな。まさか箒が出るとは思わなかったが」

 

隣に座るラウラが答える。

祭りでは色々とあった。

 

急に休みが出て、人手が足りないからと、ステラ達が巫女のバイトをしたり、射的でセシリアが景品を獲りすぎたり、これまた人が足りないからと、箒が舞に出たり…

 

「今日は本当に楽しかったよ。あとはここで皆と花火を見るだけなんだけど、みんな遅いなぁ」

 

ステラは足をぶらつかせ、そう呟く。

 

「………なるほど。全員、人混みで中々進めないらしい」

 

ラウラは、スマホを操作しながら答えた。

 

「………ねぇラウラ」

 

「どうした?」

 

普段とは違うステラと声色。

赤く染った頬と、不自然に擦り合わせる足。

 

「トイレか?」

 

「違うよ!///」

 

ラウラは見当違いの解釈をし、ステラが仕方ないといった雰囲気で、震えながら言う。

 

「キス、しよ?///」

 

「…………え」

 

ステラの言葉を聞いたラウラは、完全にフリーズし、そして直後にステラと同じ様に頬を赤く染めた。

 

「なっ?!お前、何を?!///」

 

二人にとって、これが初めてのキスではない。

ラウラが初めてステラに告白したあの日、ラウラはステラへの不意打ちのキスで、互いにファーストキスを終わらせていた。

 

「ど、どうしたんだ?いつも、そういう事はお前から来ないでは無いか」

 

ラウラは混乱している。ステラが言ってくれた事は嬉しいのだが、唐突すぎたのだ。

 

「別に、なんか、こうやって浴衣で、お祭りで、二人しかいないって、少女漫画じゃキスの定番だよ?」

 

ステラは口早にそう言った。

 

「………するか?」

 

「………したい」

 

二人は、言葉を短く切り、お互いに向き合った。

そして声を出さずに、ゆっくりと顔を、それぞれ愛しいと思うその顔へと近付ける。

 

「ステラ様」

 

不意に、声が聞こえた。

 

「「っ?!」」

 

二人は同時に、その方を見た。

ラウラにとって、初めて聞くその声。

しかしステラにとってその声は、とても聞き慣れた声だった。

 

「ク、クロエさん?!」

 

声の主は、クロエだった。クロエは静かにステラへと歩み寄る。

 

「あ、こここ、これは、その、ていうか束さんは?!///」

 

ステラは人に見られた恥ずかしさからか、頬を先程以上に赤らめていた。

 

「ステラ、彼女は?」

 

ラウラは困惑気味にステラにそう聞いた。

ステラは少し落ち着いたのか、普段通りの声で答えた。

 

「あ、ラウラはまだ会った事無かったね。この人はクロエさん。私の大切な家族!」

 

そう言ったステラは心底嬉しそうで、そしてそれを聞いたラウラは、ハッとした様な表情になった。

 

「そうか。それでは私も名乗ろう。私は「知っています」、え?」

 

ラウラの声を遮り、クロエはステラの知らぬ低めの声でそう言った。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍のIS部隊、シュバルツェア・ハーゼの隊長にして、ドイツの国家代表候補生。愛用機はシュバルツェア・レーゲン」

 

「よ、よく知っているな」

 

ラウラの顔に、警戒の色が浮かぶ。

 

「そして、ドイツの研究施設で作られた試験管ベイビー」

 

「っ!貴様、それを何処で!」

 

ラウラの警戒レベルは、戦闘待機にまで登り詰めた。

 

「ある方から教えて頂きました。

まぁ、そうでなくても、同族というのは不思議とお互いをそうだと認識し合うものです」

 

クロエが放った言葉に、ステラもラウラも、思考が混乱で満たされる。

 

「私も同じ研究で作られました。まぁ、あなたと比べれば失敗作もいい所です」

 

クロエは淡々と語る。

 

「以前はその事を思い、悔しさや虚しさに襲われていました。ですが、それもあの日に、終わりました」

 

段々と早口になるクロエ。ラウラは警戒を解かず、ステラは理解不能な状況に完全に呑まれていた。

 

「ステラ様が私の元に現れて、私の家族になって……

 

――――私は、それだけで十分でした。それなのに……」

 

クロエの纏う雰囲気が、一瞬で変わった。

 

「それなのにあなたは!私からステラ様まで奪った!

軍で認められただけで良かったじゃないですか!

どうしてあなたは!私から何もかも奪うのですか!」

 

「ク、クロエ、さん?ど、どうしたの?」

 

ステラは、クロエの心が見えなかった。

そしてラウラは、一つの答えに辿り着いた。

 

「お前も、ステラを愛していたのか?」

 

クロエが、ラウラを睨みつける。

 

「私、も?ふざけているのですか?」

 

感情が熱を帯び、炎を吹き上げる。

 

「私が……私の方が先に、ステラ様を愛していた!

あなたがドイツで、軍の駒として生きていた頃から、私はステラ様を愛していた!

私を愛してくれないステラ様なんて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――死んでしまえ




(話が)どーんどーん重くーなーる♪

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