インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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赤き瞳 Fifth Episode

「見つけた」

 

不意に、声が聞こえた。

聞き慣れて、凄く会いたくて、けど会いたくなかった人の声。

 

顔を上げると、私の大好きな人が立っていた。

 

「ラウラ……」

 

「さぁ、帰ろう」

 

手が、差し出された。

この手を取れば、私はまた誰かを傷つけてしまう。

私は首を振って、また俯く。

 

「どうしたんだ?もしかして、どこか痛いのか?」

 

優しい声。本当に、心配してくれてるんだ。

私なんかを、本気で………。

 

「帰ってよ。私は、もう誰とも会いたくない。

 

ダメなんだ。

 

私がいたら、皆が不幸になる。

私がいたら、皆が傷付く。

 

それなら、もう会わない方がお互い最善の選択でしょ?」

 

そうだ。私がいなければ、全て上手くいく。

きっとそうだ。そうに違いない。

 

「それは、本当にお前が思っている事か?」

 

今更何を言ってるの、そんなの、決まってるじゃん。

 

「思ってるよ!私がいたらダメなんだって、知ってたのに、知らないフリしてさ…………。本当に馬鹿みたい。私なんて、私なんていなければ良かった!」

 

言ってやった。これでもう、ラウラも帰ってくれるよね?

 

そう思っていた、そんな時。

 

パシンッ!

 

私の右頬を、柔らかな痛みが走る。

 

「違うだろ。

 

お前が何をしなければならないか、では無い。

お前が何をしたいのか。私はそれが聞きたいんだ」

 

なんなの?なんでラウラは、こんな簡単な事を聞くの?そんなの……。

 

「皆に会いたいに決まってるじゃん!」

 

私は、何を言っているんだろう。

違うよ。私はこんな事言いたいんじゃない。

 

「会いたいよ!皆に会いたい!

 

でも、私にそんな権利、無いよ………」

 

「権利だとか義務だとか、そんなものは関係ない。

 

お前が会いたいなら、皆は必ず答えてくれる。

 

というより、今は皆がお前の為に色々考えてるんだ。行ってやらないと可哀想だろ?」

 

少し苦笑交じりにラウラはそう言った。

 

皆が、私の為に?

 

「だから行こう。私達の学び舎に。

 

私達が帰る場所に」

 

どうしてだろう。あんなに硬く決意していた筈なのに、私は、こうも簡単にラウラの手を握ってしまう。

 

 

「うん!」

 

仕方ないよね。こんなに心配かけちゃったんだもん。

 

ちゃんと謝って、お礼言って、文化祭を楽しもう。

 

私は、今まで起きてきた悲劇から目を背け、目の前の娯楽に身を投じることにした。

 

これから起こる、更なる悲劇の足音に気付く事無く。

 

 

…………………………

 

 

「ね、ねぇラウラ。本当に大丈夫かな?急に入って、変な目で見られない?」

 

「そんな訳ないだろ。というか、何分そこでビクビクしているんだ?」

 

うわ、今明らかに呆れたって顔した。

だってしょうがないじゃん!皆にちゃんと会うのはこれが一ヶ月ぶりだし、それにあんな事した後なんだもん……。

 

「はぁ……。気持ちは分かるが、堂々としていれば大丈夫だ。私の時を思い出せ」

 

ラウラの時……………。

 

(「お前を私の嫁にする!」)

 

うん。これは堂々としている。けどねラウラ……。

 

「堂々とキスするのはどうかと思うよ?!」

 

「何を言う。あれが無ければ私達は付き合っていないんだぞ?」

 

それを言われると、弱い………。ん?いや待って。

 

「それ今関係ないよね?!」

 

「ばれたか」

 

ダメだ。ラウラ完全にふざけモードになってる……。

 

「とにかく飛び込んでみろ。それがお前のやり方だろう」

 

……そうだよね。弱気になってうじうじしたってしょうがないんだ。

 

「ありがとうラウラちょっとだけ勇気が湧いたよ」

 

「それじゃあ「でもね…」ん?どうした」

 

扉を開けようとするラウラの袖を引っ張る。

 

「少しだけ緊張するから………手、握っててもいい?」

 

私の言葉を聞いたラウラは少し驚いて、すぐに微笑んだ。

 

「無論だ。ほら、行こう」

 

差し出された手を、私は今度こそしっかりと掴んだ。

 

「うん!」

 

そして私達は二人で教室の扉を開いた。

 

「「「「「おかえり!ステラ(ちゃん!)!」」」」」

 

教室に入った私を迎えたのは、宛ら本当の喫茶店の様に様変わりした教室と、温かい目をした一組の皆だった。けどなんでメイド服?

 

「ステラ。おかえり」

 

「ったく。おせぇんだよ」

 

「あぁ、全くだ」

 

「心配していましたのよ?」

 

「そうだよ。皆心配してたんだよ?」

 

「ステラが、帰って来ないんじゃって…」

 

「全く!アンタはいつもいつも!心配ばっかりさせてんじゃないわよ!」

 

私が聞き取れたのは、そこまでだった。

 

急に、泣き声がした。目頭が熱くなって、頬を涙が伝ったのを感じて、その声が自分の物だと初めて気がついた。

 

「あれ、私、なんで涙なんて…」

 

分からない。皆に会っただけで、こんな…。

 

「ステラちゃん、大丈夫?!」

 

「どこか痛いの?!」

 

「救急箱持ってこようか?!」

 

いや、違う。皆に会えたからなんだ。

 

それに気がついた私は、自然と笑顔になっていた。皆も釣られて笑顔になる。

 

そうだ。私はこんな日常が大好きだったんだ。だから、壊したくなくて、遠ざかって、触れない様に、けど違ったんだ。私はこんな日常が大好きで、守りたくて、けど私は壊す事しか出来なくて……。なんて考えてたけど、違ったんだ。

 

私なんかが守らなくても、この日常は続いていく。だから、もし私が暴走しそうになっても、私を止めてくれる人はここい沢山いるんだ。

 

大丈夫。私はここに居ても大丈夫。皆が大好きのままで、大丈夫なんだ。

 

「ステラ」

 

その時、私の後ろから声が聞こえた。いつもは厳しいけど、二人きりの時は沢山甘えさせてくれる、大好きな人。

 

「おかえり」

 

あぁ。そうだったんだ。私は、皆に会いたかったんだ。

 

皆に心配かけた分、それを吹き飛ばせるくらいの笑顔で言おう。

 

「皆、ただいま!」

 

もうこの温もりを、絶対に離さないと、私は決めた。

 

 

…………………………

 

 

「ねぇラウラ!次はあれ見ようよ!」

 

私はラウラの手を引いて、人が溢れた廊下をすり抜ける様に走る。

 

こんなに楽しいのはあの夏祭り以来で、私の心は凄く高鳴っていた。

 

「待てステラ。落ち着け!どの出店も逃げないぞ!」

 

腕を引かれるラウラが、慌てた様子で声をかける。けど、今日ばかりはどうか見逃して欲しい。だって、ここはこんなにキラキラしたもので溢れているんだ。ワクワクが止まらなくたって仕方ないよね。

 

「出店は逃げなくても時間は迫って来るんだよ?!私は今日全部の店を最大限に楽しんで遊び尽くすんだから!」

 

余裕がない訳じゃないけど、どこの店がどの時間帯に並ぶのかは内容や出来栄えを開始前にある程度確認して予想してる。だからとりあえず移動と僅かでも並ぶ時間を考えたら、店を楽しみながら回るならこの移動速度が最適だって言う事はもう計算してある。そう、ちゃんと考えたんだ。

 

「少し待ってくれ!もう少しで一組の出し物がアリーナで始まるんだ。それを見てからじゃダメか?」

 

「一組の出し物?メイド喫茶だけじゃないの?」

 

私何も聞いてないんだけどな……。

 

「いや、私も詳しくは聞いてないんだ。どうやら、お前へのサプライズらしいんだが、私は口を滑らせてしまいそうだからと教えて貰えなかった。軍人だから他の生徒よりはそう言ったことには自信があったのだがな……」

 

ラウラも知らない?それに私にサプライズって一体?

 

「とにかく行こう。さっきまでのペースで行けば余裕を持って着ける筈だ」

 

今度はラウラが私の手を引く。これなんか、デートみたいだな。

 

なんか、少しだけ懐かしく感じる。

 

夏は皆で沢山遊んだ。

 

海や山や、プールや遊園地。そして、夏祭り……。

 

「?どうしたステラ。もう着いたぞ」

 

「ほえ?あ、あぁ、ごめんね」

 

うん。今はこんな暗い事考えても仕方がない。

 

せっかく皆が私の為に色々してくれてるんだ。私が楽しまなきゃ、失礼だよね。

 

「ううん。なんでもないよ」

 

「そうか。っと、もう始まるようだ」

 

一体なんなんだろう。楽しみだな。

 

〈お待たせしました!皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます!〉

 

この声、薫子さん?え、一組の出し物じゃ?

 

「どうやら、一組以外の協力者もいるらしいな」

 

ラウラが納得したように言うけど、一体なんなの?

 

〈これより、一年生専用機持ちによるバンド演奏を披露したいと思います!

 

さぁ皆の衆!準備はいいかぁぁぁぁぁ!〉

 

なんかテンションが一気に上がった?!

 

〈それではメンバー紹介から!〉

 

その言葉と共に、ステージの一部分に照明が当たる。って、えぇ?!

 

「まずは、冷静沈着なキーボード!更識 簪!」

 

コールと共に大声援が起きる。ていうか簪が出るなんて…。

 

こういうノリ苦手そうなのに。

 

〈続いて、荒ぶる龍の如きドラマー!鳳 鈴音!〉

 

またもや大声援。ていうか今のところ一組の要素がゼロなんだけど?!

 

〈お次は!ハードボイルドなアコースティックギター!御手洗 数馬!〉

 

声援のタイプがまた変わった。まさに黄色い声援って感じの物に。

 

〈しかし彼には交際中の相手がいるのでファンの皆さんはご了承ください〉

 

あ、一気に空気が重くなった。

 

〈さぁまだまだ行くぞ!やりたいことを貫くべーシスト!五反田 弾!〉

 

まさか弾まで…。

 

〈バンドとしては異色のバイオリニスト!セシリア・オルコット!〉

 

セシリアまで?!っていうかバンドでバイオリンって、普通そういうの大きいライブの時とかにオーケストラとコラボするとかそういうときの奴じゃ…。

 

〈これまた異色の三味線奏者!篠ノ之 箒!〉

 

もはやバンドで滅多に出ない奴が来たよ!いや確かにそういうバンドは居るけど!

 

〈そして遂にメインボーカル!シャルロット・デュノア!〉

 

シャルがボーカル?!

 

〈さらにもう一人!この学園の中で数少ない突っ込み役!織斑 一夏!〉

 

えぇ?!一夏も?!ていうか紹介文が一人だけおかしくない?

 

ていうか、バンドにしては人数凄いな。

 

「えーっと、今紹介された織斑 一夏です。多分今、バンドの割には人数多くないかとか思った人がいると思うんですけど」

 

エスパーかな?

 

「これには訳があって………元々このバンド演奏は、俺達の、落ち込んで不登校になってた友人を励ます為にしようって事で出来たんです。

 

そいつは、人一倍頑張り屋で、自分の事より常に相手のことを考えてる様な奴なんです。そのお陰で救われた人も、この会場にはいると思います。

そいつは、俺達にとって一番星そのものみたいな奴で、迷ってしまった時、辛い思いをした時に、誰よりも真っ先に輝いて、俺達の行く末を照らしてくれます。

けど、俺達はそれに甘えて、そいつが傷ついて、心をすり減らしている事に、気が付いてやれてなかったんです。

 

だから今日は、その時間を取り戻す為に、この曲をそいつに………。

 

俺達の一番星に送ります!」

 

ダメだ。これは、泣いちゃうな。

 

「ステラ」

 

ふいに、肩を抱き寄せられた。

 

「私があの場に入れられなかったのは、きっと涙で目の前が見えなくなるなんて事を、防ぐ為だったんだろうな」

 

そして、私の目頭の涙を指で拭った。

 

「しっかりと見て、聴こう。お前の為の歌だ」

 

「うん!」

 

そこからは夢の様な時間だった。

 

一夏が意外と歌が上手かったり、シャルロットの綺麗な声も凄く心地よかった。

 

数馬と弾がラップ調の曲を歌ってたのはビックリしたけど。

 

でも、本当に楽しかった。

 

遊びに来てた蘭ちゃんと蓮さん、厳さん達とも沢山お喋りして、あの日以来会ってなかった小夜子さんとも話した。

 

箒のお父さんが来てたのには驚いたけど。

確か要人保護プログラムで日本中を転々としているって前に聞いたんだけど、まぁ束さんが手を回したんだと思う。

 

「にしても、今日は本当に楽しかったよ。皆ありがとう」

 

もうすぐ文化祭は終わる。私の知り合いの皆はギリギリまで遊んで帰るらしいから、また後で会いに行こう。けど、今は皆だ。

 

「お前が楽しめたんなら、俺達の目的は達成だな」

 

数馬が優しく語り掛けてくる。

 

「実はバンド演奏を最初に提案したのはシャルロットなんだ」

 

「えぇ?!そうなの?!」

 

シャルロットが………。なんか、意外だな。

 

「うん。昔からこういうのに憧れてたってのもあるけど一番は、思いを伝えるのに、音楽なんかいいんじゃないかなって思って」

 

「そっか。ちゃんと伝わったよ。皆の思い。凄く嬉しかった」

 

「それなら良かった。そういえば、束さんからこれ預かってたんだ」

 

一夏はそう言いながら、私にアタッシュケースを渡した。

 

「何これ?」

 

私は開きながら一夏に聞いた。

 

「お前の大事な相棒だよ」

 

その言葉を聞いて、アタッシュケースの中身を見る。するとそこには、一つのゴーグルが収まっていた。

 

「これって……」

 

『お久しぶりです。マスター』

 

そうだった。私、もう戦いたくなくて、ギンギラを束さんに預けたんだった。

 

「……ごめんね、ギンギラ」

 

『謝る必要はありません。マスターは心のままでいればいいんです』

 

そっか。私、こんなにも多くのものから目を背けてたんだ。

 

これからは、ちゃんと向き合おう。

これからは、ちゃんと前を見て歩いていこう。

 

皆がいれば、もう怖くない。

 

そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の外れにある大きな広場で、爆発が起こった。

 

「っ!総員警戒態勢!」

 

とっさにラウラが叫ぶ。

それと同時に、その場に居た全員がISを身に纏った。

 

「くっ、まだ学園には一般人も残っている!人命優先だ!戦闘はなるべく避け、防衛に専念しろ!」

 

ラウラの言葉と共に、皆はぞれぞれ散っていった。

私も、まずは爆発のあったポイントに向った。

 

「………これって」

 

そこには、地面にクレーターげ出来ていて、その中心あたりにブースターの様な物が落ちていた。

 

「まさか、誰かがISで侵入したの?!」

 

『その可能性は否定仕切れません。しかし、それよりも大きな問題があります』

 

そう言ったギンギラが、周囲のマップを開く。

 

「嘘でしょ?!」

 

『いえ。再三にわたり学園のレーダーのデータと照会しましたが、反応はどんどん増えています』

 

マップに映っていたのは無登録のISのコアの反応だ。10や20じゃない。もっと、それこそ百を超える無人機の軍団がこの学園に迫っている。

 

このままじゃ、皆が危ない!

 

「ギンギラ!一夏達に連絡!私が反応の正体を探るから、皆は学園に侵入した敵をお願いって!」

 

『了解しました』

 

私はディスティニーウィングを展開して反応が一箇所に密集しているポイントに飛ぶ。

 

そしてポイントに到着した私は、あたりを見渡す。

 

「何も、無い?」

 

そこは一面が海面で、ISの機影すら確認できなかった。

 

「どういう事?」

 

その時、真下から何かが迫ってきている気配がした。

 

『マスター!下です!急速で接近するコアの反応を探知!!』

 

「了解!」

 

私は横移動でその場から離れる。すると、海面から通常のISより一回りほど大きい人型のロボットが現れた。

 

「うっそでしょ?!」

 

私は100メートルほど距離を置き、その全体像を確認する。

 

『マスター。あの機体から複数のコアの反応を感知。恐らくあの中に複数のコアが使用されています』

 

一つの機体に複数のコア?そんなことが出来るのって束さんか、または……。

 

「デストロ・デマイド………」

 

『っ!マスター!敵が動きます!』

 

ギンギラがそう言うのと同時に、敵機がスラスターを吹かせて私の元に迫る。

 

「っ?!」

 

速い。久しぶりだけど、はじめから飛ばさなきゃまずいね。

 

「行くよギンギラ!」

 

『はい!』

 

一気に行くよ!

 

「『リミットブレイク!シフト、スピード!パワー!』」

 

私は一瞬で敵機の背後に回りこみ、拳を脳天に振り下ろす。

 

しかしそれはいとも簡単に回避される。まるでこっちの動きを知っているかの様に。

 

「くっ、ディスティニーソード!」

 

手元に現れたグリップを掴み、折りたたまれていた刀身を展開してエネルギーが刃を作る出す。

 

「はぁ!」

 

私はディスティニーソードで最低限の動きで斬りかかる。

 

今度は数回攻撃があたり、敵機の装甲に傷を入れる。

 

「ねぇギンギラ。そろそろ分かった?」

 

『えぇ。やはりあの機体からは生体反応は確認されません。あれは無人機です』

 

やっぱりそうか。それじゃあ遠慮はいらないね。

 

「ギンギラ。あの技を試そう」

 

『了解しました。威力計算はこちらで行います』

 

「ありがとう。放てる様になったら教えて」

 

私は再び無人機に斬りかかるけど、さっきより回避される頻度が上がっている。やっぱり、私の攻撃を知っているんだ。

 

なら、敵の知らない攻撃を使えばいい。

 

「はぁっ!」

 

けどまだダメだ。ギンギラの計算が終わるまでは、使えない。

 

「ザァッ!」

 

回し蹴りで相手を弾き飛ばすと、ようやくそれは終わる。

 

『お待たしました。いつでも撃てます!』

 

「オーケー!フリーダムキャノン!」

 

私の両腰に砲身が形成される。私はそれに手を沿え、更にリングユニットを銃口の前に配置する。

 

「『デュアルサーマルキャノン!』」

 

私達の掛け声と共に、二つの砲身から膨大な量のエネルギーがあふれ出す。そしてそれはリングを通る事で更に威力を増し、凄まじいエネルギーの奔流となって無人機を襲う。

 

そして無人機は軋む音を立てながらそれに飲み込まれた。

 

「………逃げられた、よね」

 

『えぇ。これで学園に迫る脅威の内、一つを排除しました。しかし、まだ終わっていません』

 

そうだ。他の反応もあったんだ。それも、今回みたいに一つに集まった物でも、複数の無人機だとしても、どっち道脅威に変わりはない。

 

「とにかく急ごう。学園に侵入したかもしれない敵の捜索は?」

 

『現在、一夏さんと箒さんが行っています』

 

一夏と箒ならよほどの事がない限りは大丈夫かな。

 

とにかく、私達は速く学園に戻らなきゃ。

 

「飛ばすよ、ギンギラ!」

 

『はい、マスター』

 

 

…………………………

 

 

ステラが強化無人機を相手にしている間に、学園には100を超える無人機が迫っていた。

 

〈学園内に居る専用機所有者、教員に通達!

これより学園敷地内におけるISの自由使用を解禁する!

 

いいか、防衛が今回の任務だ。最低限の戦闘で、死傷者を出さず、必ず生きてこの局面を乗り越えろ!〉

 

学園内に響く千冬の声。あるものには希望を与え、あるものは戦意を高めていた。

 

「ったく。相変わらず無茶な要求しやがる」

 

弾はそう言いながらGNスナイパーライフルで敵を屋上から狙い撃っていた。だが、それでも敵は一向に減らず、前線で戦う友の事を考える。

 

(死ぬなよ、お前ら)

 

弾は尚も黙々と敵を撃墜し続ける。

 

 

 

「はぁぁ!」

 

覇気の篭った声とともに大振りな武器が振り下ろされる。それは敵を叩きつけ、海へと落下させる。

 

「ったく、なんなのよこの量は!」

 

鈴は苛立ちの声を上げながらも、的確に敵を倒していく。だが、それでも減らない。それどころか増え続ける敵に危機感を覚えていた。

 

 

 

「数馬!こっちに敵が迫ってる!指示を!」

 

シャルロットの叫びに答えるように、オープンチャンネルで数馬の声が響く。

 

〈シャルロットは敵をポイントFに敵を出来るだけ陽動。山田先生はそのポイントでクアッド・ファランクスで敵を殲滅。溢れた奴をラウラが頼む〉

 

「「「了解(です)!」」」

 

数馬の声に答える面々。その数馬はというと、楯無共に作戦室で敵の位置等を確認しつつ、それぞれが受け持つ仲間へ指示を飛ばしていた。

 

「これだけの数、一体どこから?」

 

楯無がそう呟くと、数馬は視線を常にマップやそれぞれの機体の損傷具合等を確認しながら答えた。

 

「考えても仕方がないだろう。それよりあの人はまだか?」

 

「いえ、もう準備は終わっているわ。後は、皆を対比させればいいだけよ」

 

「分かった」

 

数馬はそう言うと、今まで三人にしか開いてなかったチャンネルを戦闘中のISに繋ぐ。

 

「総員退避!こちらの大技を放つ!巻き込まれたくなければ敵を抑えながら今すぐそこを離れろ!」

 

数馬の指示聞いた全員が、一斉に退避し、それを追おうとする者を弾と、別ポイントに居るセシリアと簪が迎撃する。

 

そして、弾がいる屋上に、杖の様な物を持った一人の男が現れた。

 

「お疲れ様です、弾君」

 

「うっす、学園長」

 

学園長と呼ばれた壮年の男、轡木 十蔵は穏やかな笑顔で弾と挨拶を交わした。

 

「そんじゃ一発頼みます」

 

弾はそう言って、屋上から出て行く。

 

「戦いに身を投じるのは、もう何年ぶりになるだろうか」

 

先程の表情とは打って変わって、その目はまるで幾千もの戦場をかけた戦士の様であった。

 

「トリガーオン」

 

手に持つ杖を前に突き出すと、その体は光に包まれ、次の瞬間には灰色のマントを纏った老戦士がそこにはいた。

 

「美しき花々を散らし、私の生徒達に危害を加えたその罪、万死に値する」

 

老戦士は低い声で、静かにそう告げる。

 

「貴様ら木偶人形がここに踏み入る権利などない事を、そのない頭と心に刻み込め」

 

そして、僅かに光を放ち始めた杖を掲げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の杖(オルガノン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉と共に、無人機は一つ残らず切り裂かれていた。

 

「うわ、やっば」

 

実はちょっと興味があって戻ってきて見ていた弾は、ついそんな声を漏らしてしまっていた。

 

「あんだけやって、学校には一切当てないって、逆にどうなってんだよ」

 

その声に反応し振り返った十蔵の顔は先程の穏やかな物に戻っていた。




轡木さんを強くしたかっただけ

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