ネギまに美遊兄と美遊を放り込んでみるだけの話(仮) 作:かにかまちゃーはん
学園長室での出来事から少しして、私はいま教室に向かって歩いている。
隣を一緒に歩くのは木乃香と明日菜。そして、先ほど新しい先生だと紹介されたネギ君と、あと、ネギ君の指導教員として呼ばれたしずな先生だ。女子生徒三人に10歳くらいの少年1人、そして女性教員というちょっと目立ちそうな組み合わせであるが、現在どのクラスもホームルーム中なのでこちらに視線を向ける生徒はいない。
しかし、もしもこの集団を見る人がいたらほぼ確実にこう思うだろうと思われるものはある。
空気が悪い。
そう、現在私たちは一言も喋らず若干ピリピリとした雰囲気の中歩いているのだ。さらに正しく言うのであれば、ピリピリした雰囲気を出しているのはネギ先生と明日菜である、と言うことも付け加えておこう。
なぜこんなにも2人がピリピリしているかと言うと……まあ語るまでもなく、担任交代とネギ先生の部屋の件を明日菜が気にしているからだ。そのせいで明日菜はネギ先生を睨んでいるし、ネギ先生は明日菜に怯えつつもちょっとむくれている。
この空気の中で話をする気にはならないのか木乃香は困ったように笑いながら2人を見ているだけだし、しずな先生も何を考えているかわからない笑顔でニコニコとしているだけである。
そんな中、私はなんとはなしにネギ先生を見ていたわけだが……ふと、気付く。
ネギ先生は、魔法使いだ。それもかなり魔力が高い。
魔法使い。
その単語だけ見ると、絵本かそれともゲームか漫画の話、つまりはフィクションだろうと思う人が多いだろう。一般的に魔法使いはいないということになっているし、魔法ももちろん無いと言われている。だが実際は、魔法も、魔法使いも実在しているのだ。
彼らは世界各地で活動、生活しているし、中には魔法使い達の作った集落や街も存在する。この麻帆良だってその一つだ。まあ麻帆良には魔法使い以外の、今目の前にいる明日菜や木乃香のような魔法を知らない人もいるわけではあるが。
そういうわけだから、この珍しい時期に先生として来た彼が魔法使いなのはまあ納得する。修行がどうとかいう話を学園長が言ってた気もするしそういうことなのだろう。いや、魔法使いの修行だからといってこの年齢の少年に教師をさせるというのはどうかと思うが。
しかし問題は、そうと知ってから見ると割合魔法使い関連のことがわかりやすいことだ。会った時から魔力を垂れ流しているしおそらくその魔力で身体強化もしているし、さっきから地味にクシャミをしそうになるたびに魔力が乱れているしで、彼は魔法を隠す気はあるのだろうかとちょっと思う。神秘の秘匿義務は全ての魔法使いが知るところであると聞いているし、当然ネギ先生もその辺りは分かっていると思うのだけど。それとも一応まだ魔法とわかる現象は起こしていないから良いのだろうか。それとも彼の魔力コントロールが甘いだけか。
「……あー、もう!やってらんない!」
そんな風にネギ先生のことについてつらつらと考えていたら、ついに明日菜が我慢の限界を迎えたのだろう。突然大声を出した。
そしてネギ先生の方に向き直り……
「あんたなんかと暮らすなんてお断りよ!!寝袋ででも暮らせばいいでしょ!じゃあ私先に行きますから、先生!!」
……そう言い切った明日菜は、ぽかんとしているネギ先生を尻目にずんずんと教室に向かって歩いていく。
私は変わらず困った顔をしている木乃香と顔を見合わせると、2人で軽く苦笑しながら先生達にぺこりと会釈をして後を追いかけるのであった。
◆
「むうううぅぅぅ……」
喉の奥から思わずそんな唸り声が出てしまう。
それほどまでに、今の僕は不機嫌だった。
なぜって、学園長室での一件から教室について授業をしている間も、あの神楽坂明日菜さんっていう人がずーーーーっと僕の方を怖い目で見ていたんだ。
そのせい……とは関係ないかもしれないけど、授業は失敗しちゃうし……
「はぁ……そりゃまぁ、ぼくも最初に失恋がどうとか言ったの悪かったのかもしれないけどさ……」
でも、あれだって占いの話をしていたから、良かれと思って言ったことだったんだ。女の人は占いが好きだっていうし。まああんまりいい結果ではなかったんだけど……
でもやっぱり思い出してみてもあんなに怒るほどじゃないと思う。失恋がどうとかは実はまだあんまりよく分からないけど、悪いことでも先に知ってたら頑張って避けられるかもしれないじゃないか!
そう思うとやっぱりムカムカしてきて。
クラス名簿を取り出して明日菜さんのところにツノを書いて「オニ!」なんて書き込んでみると、すこしスッキリした感じがした。
そうしてラクガキした名簿を眺めてみると、幾人か印象に残ってる人の中にも、特によく覚えている人のうちの1人が目に入る。
長い綺麗な黒髪に鳶色の目をした、笑顔の怖いあの人。名前は……
「えっと……衛宮美遊さん、かぁ」
衛宮美遊さん。ぼくが泊まる予定の明日菜さん達の部屋のルームメイト……らしい。けど、なんだか話を横で聞いていた感じだとあんまり部屋に戻ってないように聞こえた。
名簿の写真とか、あと実際に見てみた感じだと真面目そうな人だなと思ったんだけど、もしかして不良さんなんだろうか?
もしそうなら先生としてお話をしないといけないけど……
「むぅ……やっぱりちょっと怖いなぁ……」
脳裏に浮かぶのは、あの後ろに鬼か悪魔でも見えそうな真っ黒な笑顔。あれは怖い。本当に怖い。
あの時以外は立ち姿なんかも凛としてかっこよくて、すごい綺麗な人だなって感じがしたんだけど。やっぱり、最初に見たあの笑顔は強烈だった。あの人は怒らせちゃいけない人だ。
うーむと唸りながら再度名簿に視線を落とす。このクラス名簿はしずな先生から受け取ったもので、これにはクラス全員の顔と名前、そしてところどころ一言コメントがついている。このコメントを書いたのはタカミチ……高畑先生らしいからきっとぼくに対するアドバイスとか、その生徒について覚えておくべきことなんだろう。
で。
そのコメント、衛宮美遊さんのところには「困ったときはエヴァか彼女の兄に相談してみなさい」と書いてある。同じようなことがエヴァンジェリンさんという人のところにも書いてあるので、エヴァって人はエヴァンジェリンさんのことなんだろう。
つまり、困ったときはエヴァンジェリンさんという人か、もしくは衛宮美遊さんのお兄さんに相談してみたら良い、ということなんだろう。
でも。
「相談……かぁ……」
ぶっちゃけ怖い。
いや、美遊さん本人にではないんだけど、それでもその関係者の人に相談するっていうのは怖い。
しかしタカミチがこう書くということはそうした方が良いのだろう。
いやでもやっぱり怖いし……
そんなことをずっとうんうんと唸りながら考えていると。
目の前を、本の山が歩いていた。
「えっ」
思わずそんな声が漏れる。
本の山が動くなんて、魔法だろうか。
しかし、この麻帆良に魔法使いがいるというのはなんとなく聞いてるけど、同時に一般人も多くいると聞いているし、一般人に魔法がバレちゃいけないなんてのは常識だ。
だったらあんなすぐにバレそうな魔法を使うものなのだろうか。
そう思いながらもよく見てみると、本の山ではなく、本の山を持った人だ。それも、ウチのクラスの生徒。名簿で確認してみたところ名前は宮崎のどかさん。
気づいてから改めて見てみると、宮崎さんは本を山のように持って歩いているわけだけど、でもその動きはどうもスムーズっていうわけじゃなくて、どこかふらついていて危なっかしい。すぐにでも転げてしまいそうな感じがある。
ここは英国紳士としてあんなに大変そうなものを放っておくことはできないし、そもそもそうでなくてもあれは手伝った方が良さそうだなぁとぼくは急いで立ち上がって、近寄ろうとする。
した、そのとき。
「きゃっ!」
本の山が、崩れた。
「--危ない!!!」
声に出した瞬間には、体が動き出していた。杖を封じた布を急いでほどき、風の魔法で宮崎さんが転げた下にクッションを作る。
でも、それは一瞬しか保たないから、魔力での身体強化を最大にして、走る。
--間に合え!
思いながら飛び込んで。
ドン、と、伸ばした腕に何かが落ちてくる衝撃の直後。スザザザザ、という音と一緒に、体が地面を思いっきり擦る。痛い。
「っつう〜〜〜……」
その痛みを呻くことで我慢しながら、腕の中を見る。そこには、目を回した宮崎さんがいた。
どうやら、間に合ったみたいだ。
「ほっ……えっと、大丈夫?宮崎さ……」
良かったと安堵のため息を吐いて、目を回す宮崎さんに声をかけようと視線を上げた、そのとき。
「あ……あんた……」
目の前に。
先程の光景を見たのだろう。呆然と目を丸くした、明日菜さんと。
「……はぁ〜〜〜〜〜……」
何故か思いっきり頭を抑える、美遊さんがいた。
遅くなってすみません!
筆が乗るときと乗らないときの差が激しいんです許してください何でもしますから!