そのままの君が好き。   作:花道

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♯19 約束。

 

 

 

 傷だらけの春が終わる。

 心を曝け出すことはとても恥ずかしいことだ。

 今まで隠してきた想いを陽乃は今日、初めて口にした。

 ずっと大好きで、大嫌いだった。

 その自由を捨てようとしている雪乃に苛立ちを覚えたこともあった。

 たくさん後悔した。

 たくさん嘘をついた。

 でも、もうそんなことはどうでもいい。

 野に咲いた名も知らない花が揺れている。

 雪乃の背中に回した手が熱い。

 この瞬間を永遠に結んでほしい。

 どんな時ももう忘れない。

 どんな時ももうなくさない。

 どんな時ももう偽らない。

 さよならだけの人生じゃないから。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 穏やかな笑顔があった。

 風に揺れながら踊る髪の黒。

 その後ろ姿が綺麗で陽乃は思わず見惚れてしまった。

 

「姉さん、今日は逢えてよかった」

 

 歩きながら、雪乃はそう呟いた。

 陽乃はその言葉を聞いて、頬が熱くなった。

 この選択はきっと間違いじゃない。

 逃げ出したことは後悔している。

 押し付けたことえの罪悪感もある。

 でもこれからまた楽しい日々を2人で過ごしたい。

 これが愛だとはまだ大胆に叫ぶことはできない。

 でもいつか。

 いつの日かきっと。

 もっと大きな声で大好きだと言う。

 必ず言う。

 

「ねぇ」

 

 言葉を繋ぎながら、振り返る雪乃。

 

「わたし、多分比企谷くんに惹かれてた」

「……」

「ううん、わたしだけじゃない。きっと由比ヶ浜さんや一色さんも、彼に惹かれていたと思う」

「……、」

「でも、彼が選んだのはわたしたちじゃなかった。彼は姉さんを選んだの。ぼろぼろになって、行き場も失って、光を絶たれて、昔に戻った姉さんを……選んだの」

 

 風に髪の毛が舞う。

 2人の間に風が通り過ぎる。

 

「雪乃ちゃん」

「後悔をしたつもりじゃないけど、なんて言うのかしらね? この感情は。嫉妬じゃないし、悔しさでもない」

 

 笑みを浮かべたまま、雪乃は小さく呟いた。

 

「彼への同情……かしら?」

「同情……?」

「えぇ、同情。だって昔の姉さんに戻ったってことは、比企谷くんはお爺ちゃんみたいに手を焼くってことになるんだもの」

 

 その笑顔は雪乃がまだ小学生の時によく見た笑顔。

 いたずら的で、どこか色気があって、歳不相応の笑顔が年相応の笑顔に変わっていた。

 

「……昔のわたし」

「……もう姉さんはあの人に縛られて生きる必要はないわ」

「雪乃……ちゃん……?」

「幸せになってね、姉さん。わたしも頑張るから」

 

 そう言い切ると、雪乃は陽乃を抱きしめた。

 頬が触れる。

 呼吸が止まる。

 痛みはもう消えた。

 傷は消えないままでいい。

 もう誰にも偽ることはない。

 もう追いかける日々は終わる。

 これからは貴女の隣を歩く。

 雪乃はそう思いながら、強く背中に手を回す。

 だから。

 だから……。

 

「また逢いましょう。姉さん」

 

 再会の約束をする。

 もう二度と間違わないように。

 もう二度と道を(たが)わないように。

 

「うん」

「2人でお爺ちゃんのお墓参りにも行きましょう」

「……うん」

「またアイスクリームを2人で食べましょう」

「そうだね」

「姉さん。わたしもずっと大好きだったよ」

「うん、知ってる」

 

 正解はわからない。

 最善策なんてもっとわからない。

 でも、だけど。

 この選択はきっと間違いじゃなかった。

 たくさんの間違いと、後悔と嘘を重ねてきた。

 だから、この答えだけはどうか間違いじゃないようにと、神様に願う。

 この関係をずっと強く結んでくれますように、と強く願う。

 あの時、こうしていれば。

 あの時に戻れれば。

 だけど、あの頃には決して戻れない

 だから、進むしかない。

 さよならだけの人生じゃないから。

 

 

「これからまたよろしくね、雪乃ちゃん」

「えぇ、よろしく、姉さん」

 

 

 抱き合ったまま、2人はその言葉を残して、離れる。

 この未来(さき)が見えないなんて当たり前だ。

 だってこの未来(さき)はこれから2人で作っていくものだから。

 昔みたいに手を繋ぐことはもうない。

 でもまた2人で出かけることくらいならできる。

 それを幸せと呼ばずになんと呼ぶのだろう。

 もうこの手を離さない。

 もう二度と離すことはない。

 

 

 

  ♯19 約束。

 

 

 

 

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