そのままの君が好き。   作:花道

23 / 27
第二章 魔法
#21 君と歩む日々。


 

 

 

 11月5日。

 冬の厳しさが増してきたこの頃。

 陽乃に少しだけ変化があった。

 黒で統一されていた衣服に赤色が新たに加わった。

 赤のパーカーに黒のパンツとハイカット。

 微かな変化だが、確かな変化でもある。

 自然と笑うことも増えてきた。

 少しだけの勇気がそこにはある。

 風に揺れる髪の毛を軽く押さえながら歩いていく。

 吐き出された白い吐息は空気に溶けていく。

 ワイヤレスイヤホンは今日も音楽を届けてくれる。

 悴んだ掌を軽く擦り合わせ、ポケットに収める。

 手を繋ぐ親子。

 寄り添うカップル。

 待ち合わせ場所まであと少し。

 もうすぐ君に逢える。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 掌に缶コーヒーの温もりを感じながら、陽乃は待ち合わせ場所に到着した。

 息を吐き、缶コーヒーをふくみ、苦味を感じながら飲み込む。

 あの頃とは違い、陽乃に声をかける人はいない。

 〝降り続けていた雨〟は止んだ。

 もう降らないと言い切りたい。

 その根拠は顔にある。

 落ち込んだ表情はもう存在しない。

 笑えることも増えてきた。

 歩みは止まったが、まだ新たな方向へ歩き出した。

 捨てた希望にも、少しずつ向き合える日が増えてきた。

 情熱を燃やしていたあの頃には、きっともう戻れない。

 すれ違いを繰り返してきた妹とも向き合えた。

 そして、君と再会できたこと。

 彩りのなかった日々に確かな彩りが今はある。

 だから、〝雨〟はもう止んだと言い切りたい。

 華奢な体に冬の風が通り過ぎる。

 その風に体が少し震える。

 瞼が自然と落ちる。

 忘れられない君との日々。

 たったニヶ月足らずの小さな思い出たち。

 遠のく足音。

 近づく足音。

 聞こえづらい会話。

 笑い声。

 いつの間にか音楽は止まっていた。

 そのことに気づいて、スマートフォンを取り出す。

 掌に広がる冷たさ。

 不意に飛び込んでくる時刻。

 19時27分。

 君はまだ来ない。

 空気をまた吐き出す。

 音楽は流さず、スマートフォンをポケットにしまう。

 イヤホンを外すと、町の喧騒が大きくなった。

 見上げると、猫背の君が歩いていた。

 寒さからくる猫背じゃなく、生粋の猫背。

 それでも周りの人達と比べたら、少しだけ背が高い。

 陽乃と目があっても、歩く速度は変わらない。

 ゆっくりと近づいてくる。

 ニヶ月経っても君は全く変わらない。

 でも、その変わらない姿勢は嫌いじゃない。

 そんな君に居心地の良さを感じて、恋までしている。

 手を繋ぐ親子、寄り添うカップル、仕事終わりのサラリーマン、大声で笑いあう高校生。

 そして、君。

 多種多様な彩りが広がっている。

 

「……待たせましたか?」

「ううん、わたしも今来たところだよ」

 

 君は少しだけ笑う。

 

「行きますか」

「そうだね」

「なに食べます?」

「寒いからあったかいのがいいな」

「じゃあラーメン……しゃぶしゃぶでも食べに行きますか」

「ラーメンでもいいけど」

「……美味いところ知ってますよ」

「任せるよ。全部君に」

 

 

 

 

  第ニ章 魔法

 

 

 

 

  #21 君と歩む日々。

 

 

 




第二章スタートです。
三年かけてまだ第二章です。
相変わらず短い文章でごめんね。
長い文章は書けないんだ。
このスタイルで完結まで頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。