そのままの君が好き。   作:花道

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#24 魔法/1

 

 

 

 

 悴んだ手をズボンのポケットに突っ込みながら、信号が変わるのを待つ。

 そんな比企谷の前に立つ一色いろは。

 高校生の時とは違い、服装は随分とおとなしくなった。

 身長179cmの比企谷と比較しても、いろはの身長は高校生の時からあまり変わっていないように思える。

 そう考えると、自分の身長も高校生の時と比べたら少し伸びたんだなということが改めて実感できる。

 一瞬の追憶。

 いろはの後ろ姿を見ていると、高校生の時の記憶が蘇ってくる。

 いろいろあったなと、少しだけ思う。

 

 

 白い息は、頼りなく、空気に溶けていく。

 

 

 遅れてやってきた少しだけの青春に思いを馳せる。

 あの時のみんなは元気にやっているだろうか。

 それほど時間は経っていないのに、あの部室の光景が懐かしく感じる。

 信号が青に変わる。

 群衆が動き出す。

 白い息は、変わらず空気に溶けていく。

 いろはが歩みを再開する。

 その背中を追って比企谷も歩き出す。

 

 

 ーーー早く帰れたらいいな……。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 ラーメンを食べ終え、帰路に着く。

 生意気な後輩は変わらず先頭を歩いている。

 頬を撫でるような冷気は容赦無く体温を奪っていく。

 歩く速度はあの時と多分変わらないのに、一歩一歩進むたびにいろはとの距離が縮まっていく。

 その事に気づいて、歩幅を少し狭くする。

 そういえば人の歩幅に合わせて歩くようになったのは、陽乃と再開してからだったような気がする。

 あの時は陽乃の体力の低下に驚いた記憶がある。

 あの時に比べたら、今はそれなりに健康になったと思う。

 ゆるい幸せが続いてると思う。

 いろはといるのに、気づけば陽乃の事を考えていた。

 少しだけの変化。

 だが確実に何かが変わり始めていた。

 人を好きになる。

 そんな事は訪れないと思っていた。

 なのに、陽乃がいなくても頭の片隅にはいつも陽乃がいる。

 再開は雨の中だった。

 共同生活はすぐに終わるものだと思っていた。

 でもまだ二人の生活は続いている。

 あの家に陽乃がいるのが当たり前になりつつある。

 

 

 何かが変わり始めている。

 

 あの時の感情はなんだ?

 憧れていた?

 好きだった?

 どちらも違う。

 嫉妬にも近い感情だったかもしれない。

 どれだけ必死に追いかけても、手を伸ばしても、叫んでも、陽乃には届かない。

 誰かが付けた評価に疑いすら覚えなかった。

 現実の陽乃を見ていなかった。

 だけど今は違う。

 いつかは終わる魔法の中にいるような。

 今のこの感情は一体なんだ?

 

 

「ーーーい? 先輩?」

 

 

 下から覗き込むようにいろはがこちらを見つめていた。

 

「……、」

「大丈夫ですか? ラーメン美味しくなかったですか?」

「悪い、少しぼーっとしてた。ラーメン美味かったよ。じゃ帰るわ」

「……そうですね。付き合ってくれてありがとうございました。また行きましょうね」

「おう」

「あと、」

 

 じっとこちらを覗き込むいろは。

 その視線に思わず目を背けてしまう。

 体勢を整えて、比企谷の耳元に手を当てる。

 きっと、あの時と何一つ変わらないあざとい笑顔でいろはは言った。

 

 

「陽乃さんとの恋愛相談ならいつでも乗りますよ♪」

 

 

「ばっ!? おま! ちが!」

 

 

 不意の発言に言葉が詰まる。

 顔を見ると、やはりあの頃と何一つ変わらない笑顔がそこにはあった。

 

「相談待ってますねー」

 

 いろはの背中が小さくなっていく。

 いつの間にか伸ばされた右腕は頼りなく落ちていく。

 白いため息はやっぱり空気に溶けていく。

 

 

「……余計なお世話……でもないか」

 

 

 いつかは終わる魔法だとしても。

 それが悲しい終わりだとしても。

 崩れては立て直してを繰り返して。

 想像じゃない未来に。

 変わらない景色の中から。

 魔法の外に行けるように。

 

 

 

 

  #24 魔法/1

 

 

 

 




 少しずつかもですがまたよろしくお願いします。
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