そのままの君が好き。 作:花道
ふわり、羽のように心がざわつく。
感情表現豊かに陽乃は真っ赤に染まる。
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そのままの君が好き。
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「この後どうします?」
MAXコーヒーを飲みながら、比企谷八幡は陽乃に尋ねる。
陽乃は右手の腕時計に視線を落とす。
13時を少し過ぎていた。思い返せばまだ昼食を食べていなかった。
ちびり、とブラックコーヒーを陽乃は飲む。
陽乃の身体は変わらず華奢なままだ。体質なのか、一度減った体重を戻すのに、苦労する。
それでもお腹は減るし、やっぱりご飯は食べたい陽乃。
お腹辺りに手を当てて、
「お昼ご飯でも食べに行く?」
陽乃は目線を上げで、尋ねる。
「そうですね。なに食べます?」
比企谷は同意して、陽乃に聞く。
「なにか食べたいものある?」
さらに陽乃が聞き返す。
「俺は別に。陽乃さんの好きなもので良いですよ」
陽乃は思う。この問いかけは永遠に終わらないと。どちらも遠慮した結果、大して食べたくもないものを食べる羽目になる。
そうなるくらいなら、陽乃はいつもある場所へ提案する。
「じゃあファミレスにする? そこなら色々あるし」
「……じゃあサイゼでお願いします」
「わかった。サイゼね」
そうして二人はまた歩き出す。
行き先はファミレス。
お洒落や高級からかけ離れた場所。
それでも不思議とそんな空間が嫌いじゃなかった。
あの家にいた頃はあまり行かなかったが、出て行ってからちょくちょく食べに行くようになった。別段美味しいわけじゃないけど、暖かい料理は嬉しかった。
影は重なる。
隣は居心地が良い。
歩く速度は変わらない。
焦らず、ゆっくりと、目的地へ向かう。
土砂降りの雨がいつしか砂漠の心に小さなオアシスを作った。
いつか乾くかも知れないが、それぐらいの余裕は今の陽乃にはある。
指先が触れ合う。
陽乃は少し、離れる。
頬がほのかに赤く染まる。
視線を逸らす。
陽の光は変わらず二人を照らしている。
雲が呑気に浮遊している。
空はこんなに広い。
特に意味なんてなかった。
そう。意味はない。
意味もないのに不意に陽乃は彼の手を握った。
突然の行動に、比企谷は陽乃の方に視線を送る。
陽乃は視線を逸らしたままだ。
顔は合わせない。合わせられない。
きっと、そこには真っ赤な花が咲いている。
だから、合わせない。
色んな理由を思い浮かんでは、考えて、そして勝手に否定する。
比企谷八幡がどんな表情をしてるのかも解らずに、そのまま彼の手を引く。
でも、そんな陽乃でも、一つだけ解ることがある。
37℃の温もりが掌にじんじんと伝わってくるということ。
これだけは確かに解る。
耳まで赤く染まる陽乃。
その様子を静かに見守る比企谷。
二つの影が重なったまま、彼と手を繋ぐ。
ブラックコーヒーを飲み干す。
なぜか、少しだけ甘く感じた。
♯8 手を繋ぐ。