そのままの君が好き。   作:花道

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♯8 手を繋ぐ。

 

 

 

 ふわり、羽のように心がざわつく。

 感情表現豊かに陽乃は真っ赤に染まる。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  そのままの君が好き。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「この後どうします?」

 

 

 MAXコーヒーを飲みながら、比企谷八幡は陽乃に尋ねる。

 陽乃は右手の腕時計に視線を落とす。

 13時を少し過ぎていた。思い返せばまだ昼食を食べていなかった。

 ちびり、とブラックコーヒーを陽乃は飲む。

 陽乃の身体は変わらず華奢なままだ。体質なのか、一度減った体重を戻すのに、苦労する。

 それでもお腹は減るし、やっぱりご飯は食べたい陽乃。

 お腹辺りに手を当てて、

 

「お昼ご飯でも食べに行く?」

 

 陽乃は目線を上げで、尋ねる。

 

「そうですね。なに食べます?」

 

 比企谷は同意して、陽乃に聞く。

 

「なにか食べたいものある?」

 

 さらに陽乃が聞き返す。

 

「俺は別に。陽乃さんの好きなもので良いですよ」

 

 陽乃は思う。この問いかけは永遠に終わらないと。どちらも遠慮した結果、大して食べたくもないものを食べる羽目になる。

 そうなるくらいなら、陽乃はいつもある場所へ提案する。

 

「じゃあファミレスにする? そこなら色々あるし」

「……じゃあサイゼでお願いします」

「わかった。サイゼね」

 

 そうして二人はまた歩き出す。

 行き先はファミレス。

 お洒落や高級からかけ離れた場所。

 それでも不思議とそんな空間が嫌いじゃなかった。

 あの家にいた頃はあまり行かなかったが、出て行ってからちょくちょく食べに行くようになった。別段美味しいわけじゃないけど、暖かい料理は嬉しかった。

 影は重なる。

 隣は居心地が良い。

 歩く速度は変わらない。

 焦らず、ゆっくりと、目的地へ向かう。

 土砂降りの雨がいつしか砂漠の心に小さなオアシスを作った。

 いつか乾くかも知れないが、それぐらいの余裕は今の陽乃にはある。

 指先が触れ合う。

 陽乃は少し、離れる。

 頬がほのかに赤く染まる。

 視線を逸らす。

 陽の光は変わらず二人を照らしている。

 雲が呑気に浮遊している。

 空はこんなに広い。

 特に意味なんてなかった。

 そう。意味はない。

 意味もないのに不意に陽乃は彼の手を握った。

 突然の行動に、比企谷は陽乃の方に視線を送る。

 陽乃は視線を逸らしたままだ。

 顔は合わせない。合わせられない。

 きっと、そこには真っ赤な花が咲いている。

 だから、合わせない。

 色んな理由を思い浮かんでは、考えて、そして勝手に否定する。

 比企谷八幡がどんな表情をしてるのかも解らずに、そのまま彼の手を引く。

 でも、そんな陽乃でも、一つだけ解ることがある。

 

 

 37℃の温もりが掌にじんじんと伝わってくるということ。

 

 

 これだけは確かに解る。

 

 

 耳まで赤く染まる陽乃。

 その様子を静かに見守る比企谷。

 二つの影が重なったまま、彼と手を繋ぐ。

 ブラックコーヒーを飲み干す。

 なぜか、少しだけ甘く感じた。

 

 

 

 ♯8 手を繋ぐ。

 

 

 

 

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