『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第八部「アンデッド・ヴォルケーノ」 作:城元太
グスタフの荷台に無造作に積載された残骸は原型を留めず、再生可能とは到底思えない。小次郎は残骸を常陸国司に引き渡すと同時、その目前で十七門突撃砲により焼却処分を行う心積もりであった。
これ以上人の魂を喰うゾイドを跳梁跋扈させるわけにはいかない。そして堂々と、共に戦ってきた藤原玄明に対する追捕状撤回を要求する。腐敗しているとは言え、筋道立てれば公儀にも和解の道があると信じて。
常陸国府の建物が見えると同時、五郎将文の報せが飛び込む。
〝兄上、大軍が国府を取り囲んでいます〟
陣頭指揮をしていたディバイソンより告げられた状況は、小次郎を幻滅させるに足る光景であった。
「叔父上は、小勢で参じた俺がそんなに恐ろしいのか」
国府の回廊を覆い隠す程、ゾイドの群れが寄り集まっている。官牧より召集された量産型ランスタッグ。寺社の警固職より呼び寄せたであろうコマンドウルフ、ケーニッヒウルフ、シャドーフォックス。伴類特有の小型ブロックスであるジーニアスウルフやレオブレイズ。赤い装甲がぼろぼろになった、嘗て石田荘平国香の配下であったと思われるレッドホーンの機体まで散見された。
軍勢の中に、全身に無数の
〝兄者、いくらなんでも村雨ライガー単機で抜け出すのは危険だ〟
狡猾な貞盛の術中に嵌められたと理解はしていても、激情を抑えることが出来なかった。三郎の制止も聞かず、小次郎は正面に進み出て、村雨ライガーの風防を跳ね上げ名乗りを挙げた。
「下総石井・陸奥鎮守府前将軍・従五位下・故平良持が嫡子、平小次郎将門。常陸介藤原維幾殿の移牒に応じ参上した。直に維幾叔父と談判がしたい。これでは府内正殿(本庁)に進入することもできぬ。何卒国司殿との目通りを願う」
豪胆な小次郎の宣言に、烏合の国府軍はあからさまに動揺する。
程なくして、軍勢の中ほどを掻き分けフィラソードが現れた。バラッツと呼ばれるカミキリムシ型ブロックスゾイドである。剥き出しの操縦席には、煌びやかな大鎧を纏った若者が乗っている。
「将門よ、軍を率いて参内するとは無礼であろう」
本来であれば軍を構えている以上自らも名乗りを以て応じるべきなのだが、フィラソードに乗る若者は道義を弁えず一方的に「無礼」と罵る。虚勢を張っているためか、膝が小刻みに震えていたが。
「バイオヴォルケーノを持参したことは褒めてやろう。だが軍を率いて来る必要はあるまい」
二の句が告げず唖然となった。己が側に大軍を構えておきながら、相手を責めたのだ。加えて、近隣には未だ
「もう宜しかろう為憲殿。まずは移牒の名義人である維幾殿を願う」
従弟の素性を知る小次郎の、素気無く返した言葉が、虚勢を張り続けていた藤原為憲の琴線に触れたらしい。
「父の名代としての私を蔑ろにするのか! 話にならぬ。戦の牒を送る。さっさと矢合わせの準備をせよ!」
〝話にならぬ〟とは何方が言う科白だ、と小次郎は舌打ちする。そして最初から仕組まれていた謀略を嗅ぎ取っていた。早々と為憲が激高したのは、貞盛が相手の未熟さに付け込み何かを吹き込んでいたからに相違ない。
だが談判に応じないのであれば、相応の対処をするまでであった。
「経明、五郎、手筈通りだ」
グスタフから牽引台が外され、国府軍の前に取り残される。石井勢の陣形の正面に鋼鉄の猛牛が四肢を踏み締め、頭部のツインクラッシャーホーンを振り翳すと、盛り上がった背中の砲身に光が宿った。
〝メガロマックスを放ちます、参りますぞ五郎殿〟
〝承知しました〟
ディバイソンの照準に、バイオヴォルケーノの残骸が捕らえられた。
狙い定めた突撃砲が唸りを上げる。十七の閃光が集束し、集束した閃光が再び拡散する。拡散した劫火は、忌むべきバイオゾイドの残骸を灰燼へ昇華させようと殺到した。
〝前方から多数の熱源、残骸方向へ零距離射撃。誘導弾頭だ〟
三郎の声は、連鎖する炸裂音によってかき消された。
信じ難い光景であった。バイオヴォルケーノの残骸に殺到したメガロマックスの閃光が、無数に飛来した弾頭によって全て相殺されたのだ。国府の前殿に、全身から陽炎を揺らめかせる獅子がある。
バーニング・ビッグ・バン。
二基四門のハイブリッドキャノン、背部・胴体・尾部に装備された四十二もの
「それに乗ってはならぬ!」
声を枯らして叫んだところで、従う筈もない。胸部操縦席に為憲が滑り込むと同時に、ヴォルケーノの残骸が妖しい光を放った。量子転送を行う不動明王の一字咒が響く。
――ノウマク サンマンダ バザラダン カン――
クリムゾンヘルアーマーが渦を巻いて再生を開始する。千切れていた四肢が引き寄せられ、胴体に繋がり脈動する。
小次郎はムラサメブレードを展開し、ヴォルケーノを討たんと跳躍した。
(完全再生までには若干の猶予があるはず。再生途上で徹底的に切断し、搭乗した為憲を引き摺り出せば済むこと)
白刃を煌めかせ、ヴォルケーノの間合いに踏み込んだ瞬間、小次郎は大気を切り裂く光が迫る気配を察し、咄嗟に身を躱した。地磁気によって僅かに弧を描く閃光が、絹糸の如き眩い光を放つ。地表に達した瞬間、激しい爆炎を上げて地表を焼き払った。
〝
ディバイソンの後方警戒席より五郎が叫ぶ。
「俵藤太の増援か」
遥か遠方に、長大な頸と尾、山嵐の如き武装を備えた地震竜の姿が霞んで見える。光芒は正確に村雨ライガーの周囲に飛来し、小次郎の行く手を遮った。
切断されたままのヴォルケーノの頭部の双眸に不気味な光が宿る。顎を使って胴体頚部に這い寄ると、流動化したクリムゾンヘルアーマーが触手の伸ばして縺れ合い、見る間に接続を完了させた。両手、両足、両肩、そして背中に、無数の紫水晶クリスタルスパインが一斉に生え揃い、ブレイズハッキングクローが以前にも増して凶悪な輝きを放つ。
「手遅れだったか」
僅かに首を左に傾け巡らせ、またもや赤い骸骨竜が復活を遂げていた。
「メガレオンより報告、
派遣したセイスモサウルスの機体名を唱え、藤原千晴が駆け寄り片膝を付く。張り詰めた
「桔梗が随伴しておらぬ為、情報収集に遅れが生じました」
「捨て置け。間もなく尽きる命、新たな器に魂が還れば良いだけのこと」
秀郷は鏃の先端を僅かに舐めて二の矢を番えていた。
「今更だが、セイスモサウルス四匹は惜しいことをした」
千晴が父の言葉に怪訝な顔をする。
「仰せの意味が解せません。隠形鬼や金鬼は土蜘蛛退治に名を馳せた手練れの地震竜。幾ら将門が精強とは申せ、国府軍と合力すれば、容易く成敗されるはず」
弦を離れた二の矢は巻藁の的より逸れ、
「奴等では将門に勝てぬ。それに儂が鬼どもを送ったのは、将門を討つ為ではなく、討たれる為だと判らぬか」
未だに訝しむ千晴を顧みず、秀郷は無言で射場を後にする。周囲を圧する気迫に、問うことが出来ず残された千晴に、的場から矢を抜いていた下人の悲鳴が聞こえた。
「騒々しいぞ。何事だ」
狼狽する下人が指差す先、
「皮肉なものだ、蜈蚣に百足が湧くとは」
山間より吹き降ろす風が千晴の頬を打つ。矢道から望む那須連峰が、艦の移動に伴い緩く揺れている。広大で平坦な甲板の一角に
超巨大航空母艦・蜈蚣型ゾイド要塞〝アースロプラウネ〟は、無数の歩脚を波打たせ、下野