『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第八部「アンデッド・ヴォルケーノ」   作:城元太

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第九拾八話

――ノウマク サンマンダ バザラダン センダンマカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カン マン――

【如何した泰舜殿、尊意様の祈祷中だぞ】

【御無礼承知の上で奏上仕った。火急の報告がある。不死山の内部に異常が現れたのだ】

【噴火は小康状態に移行している。間もなく此度の噴火も収まるであろう。わざわざそれを言いに来たのか】

【その様な事を申しているのではない。内部に超高熱のゾイドコア反応がある。熱量から推測して要塞型ゾイド級、それもホエールキングを凌駕するほどの規模なのだ】

【まことか。溶岩の中で生きられるゾイドなど、デススティンガー以来聞いたことがないぞ】

【浄蔵殿の言う通りである。真・オーガノイド以外で溶岩の中で生存できるゾイドなどおらぬ。泰舜殿の話は常軌を逸しておる】

【そのオーガノイドシステムを搭載するゾイドであるとすれば、如何(いかが)する】

【御坊は何を言いたいのだ。よもや北天竺の黄金竜の伝承ではあるまいな】

(むべ)なるかな。空海和尚が召喚した〈善如竜王(ぜんにょりゅうおう)〉のことである】

【台密(※天台密教)の我らが東密(※真言密教)の伝承など軽々しく口にすべきではない。加えて不死山内部でのゾイドコア反応と、何の因果があると言うのだ】

【拙僧は気付いたのだ。北天竺とは西域、つまり西方大陸北エウロペを示すのではないかと。北エウロペの神々の(オリンポス)火山の中、培養中に山体崩壊を起こすほどの爆発を遂げたゾイドの名はご存じであろう。空海和尚が召喚したという黄金竜とは、機獣化が間に合わなかったオーガノイドシステム搭載のゾイドコアが、不死山に遺棄されたことを示しておったのだ。

『死竜』と『不死』山。

 附合するとは思えぬか】

【世迷言も大概にせよ。善如竜王が死竜であるなど、牽強附会(けんきょうふかい)に過ぎぬわ】

【クリムゾンヘルアーマーを精錬するパイロディクティウムやパイロバキュラム等の超好熱性科学合成無機独立栄養生物もまた、溶岩の坩堝に於いて増殖する生命体である】

【突然何を申す。バイオリーチングを行う流体金属細胞のRNAを書き換える為に利用した古細菌に過ぎぬ、ゾイドとは程遠いではないか】

【明達殿、クリムゾンヘルアーマーは流体金属装甲細胞をヘイフリック限界を越えて維持するため、古細菌にテロメラーゼを混入してある。思うに、流体金属細胞が不死山の風穴に流出し、眠っていたコアを活性化させたのではないか。

 最初に拙僧が太元帥法(たいげんのほう)での祈祷を奉じた際から、既にヴォルケーノとは別のコアの脈動を感じていた。皆気付いておられたか、炊いた護摩の量が異様に消費され続けていたことを】

【量子転送された物質が、死竜成長の糧となっているというのか】

【左様に考えるのが妥当である。彼奴は目覚めておる。テロメラーゼを含んだ流体金属装甲を纏う、最大最強最悪の死竜が】

【信じられぬ】

【信じられん】

【信じられぬぞ】

【もはや将門どころではない。至急、ソラに奏上し小一条忠平様にギルドラゴンの御出陣を進言する。一刻の猶予もならぬ、早々に尊意様に将門を調伏してもらわねばならぬのだ】

 

――ノウマク サラバ タタギャティ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン――

 

 凶悪な鉤爪と鎬を削る三郎のソードウルフが悲鳴を上げる。

〝兄者、此奴また手強くなっているぞ。ダブルハックソードでは支えきれぬ〟

 前肢に装備した二連装衝撃砲(ショックキャノン)の連続射撃によって辛うじて引き離すが、剣狼のエレクトロンハッカーが空を向き防御態勢をとれない間隙目掛け、バイオヴォルケーノのブレイズハッキングクローが振り上げられる。

 丹色の狼と赤い竜の間に、鋼鉄の猛牛が突入した。鈍く光る超硬角の先端が、剥き出しのバイオゾイドコアを貫く寸前、ヴォルケーノは驚異的な反応速度により空中高く舞い上がった。バーニングジェットを噴出し四肢を広げ、天空を舞う姿は猛禽そのものであった。

 ディバイソンは後肢を曲げ、空中の標的目掛け火砲の豪雨を注ぐが、赤い竜は他愛なく砲撃を躱し着地する。 

〝十七門突撃砲では狙いがつかぬ、再度超硬角で攻める〟

 突入姿勢をとる猛牛を、碧い獅子が制した。

「伊和員経の機体がメガラプトルに超硬角ごと切断されたことを忘れたか。ディバイソンでは分が悪い、経明たちは一旦後衛に下がり、伴類を引き連れセイスモサウルスを討て。ここは俺がやる」

 小次郎の言葉に従い、ディバイソンは村雨ライガーの背後より、群がる国府軍を蹴散らし、北に位置する地震竜隠形鬼(いんぎょうき)に向かう。直後にムラサメブレードを中段に構えた村雨ライガーとバイオヴォルケーノが跳躍し斬り結んだ。

 甲高い金属音を轟かし互いに跳び退く。碧い獅子の太刀と赤い竜の鉤爪との剣撃は互角であり、間合いを取って睨み合う。その時石井勢の後裔から、リーオの角と槍とを翳す白き鹿の群れが現れた。

〝ランスタッグのスラスターランスとブレイカーホーンであれば暫しは持ちこたえられる。その間にエヴォルトを〟

「忝い」

 小次郎が叫ぶ。

「疾風ライガー!」

 炎の繭に包まれた碧い獅子は、瞬時に緋色の獅子へ変化していた。

 

 バイオヴォルケーノの戦闘力は桁違いに向上していた。敏捷性、腕力、跳躍力、剛性。孰れも以前のそれと比較にならない。妖しい輝きを増したクリスタルスパインはリーオの刃を撥ね返し、クリムゾンヘルアーマーへの斬撃を完璧に防いでいる。国府防衛にかき集められたシャドーフォックスがヴォルケーノに接近し、牽制の為のレーザー徹甲バルカンを放とうと身構えた時だった。

 横一閃にブレイズハッキングクローが薙ぎ払われ、哀れなシャドーフォックスは胴体ごと真っ二つに切り裂かれる。狂気に憑かれた赤い竜は敵味方見境なく襲いかかったのだ。恐れを成し後退する国府のゾイド群を尻目に、勇猛果敢に白い鹿が挑む。ブレイカーホーンを真正面に構え、左右より赤い竜を挟み込まんと突進する二機のランスタッグを、バイオヴォルケーノはまたも驚異的な跳躍で躱していた。着地直後にスラスターランスの衝撃を払い除け、腰を屈めてブレイカーホーンを掻い潜り、冷徹に頸を切り落とし二機のランスタッグを葬っていた。

「待たせた、玄茂」

 藤原玄茂のランスタッグの脇に緋色の獅子が並ぶ。

「あとは任せろ。(ぬし)はセイスモサウルスを頼む」

〝承知した〟

 言葉途中でムラサメディバイダーを翳しブレイズハッキングクローを受け止めると、ランスタッグはそれぞれに伴類を率いて、残る地震竜へと向かっていった。

 最初から最強の将門ライガーにエヴォルトするのを避けたのは、ゼネバス砲による超長距離砲撃を封じるため、敢えてバイオヴォルケーノの囮となるのが狙いであった。ヴォルケーノと組み合えばゼネバス砲は撃てない。疾風ライガーは優速を生かし、ディバイソンやランスタッグがセイスモサウルスの潜む場所まで到達する時間を稼ぎ出し、多治経明や藤原玄茂が地震竜達を葬る事を託したのである。

 一方で小次郎は、ムラサメナイフをヴォルケーノの爪と斬り結びながら、奇妙な既視感に苛まれていた。

――ノウマク サマンダ バサラナン タラタ アボギャ センダ マカロシャナ……

「この戦い方は――」

 若年にして初陣の藤原為憲の動きとは思えない。バイオヴォルケーノは明らかに別の意識に支配され操られている。

……ソワタヤ タラマヤ ウン タラタ カン マン――

「――桔梗のものだ」

 赤い竜の動きは、嘗て都の洛外で村雨ライガーと刃を交えたロードゲイルと酷似していた。

「為憲の心身を媒介とし、桔梗の技をヴォルケーノに送り込んだというのか」

 機体の強化に加え、輪廻転生を繰り返し培われた桔梗の技が小次郎を襲う。頼みの疾風ライガーの俊敏さも、今のヴォルケーノには抗い難く、次第に圧されていく。

「せめて多治経明がセイスモサウルスに到達するまで」

 HYTブースターを最大出力で稼働させながら、小次郎はヴォルケーノと付かず離れずの距離を保つ。数回目の方向転換で、小次郎は疾風ライガーの風防越しに奇怪な光景を目にしていた。

 まだ視界に残っていたランスタッグ部隊に率いられる伴類のゾイドが、突如として最後尾から次々と燃え上がっている。遠景から判るのは、虚空より落雷の如き白い閃光が発せられ、その度にコマンドウルフやレオブレイズが黒焦げになって斃れていく様子だった。

 小次郎はバイオヴォルケーノとは別の殺気が戦場を駆け巡っているのを察知した。光学迷彩で姿を消し、消音装置によって戦場の喧騒に紛れているが、因縁ある跫は忘れようもない。

「ライガー零、太郎だ」

 小次郎の呟きに応じたかの如く、炎上したコマンドウルフの硝煙の奥、幽鬼の如く透き通る輪郭を浮かび上がらせるゾイドがある。機体両脇に雷光を纏う獅子、先にパンツァーの具足を排除した後、また新たな具足を纏った闇の獣王〝イクス〟であった。

 小次郎は疾風ライガーで追撃する衝動に駆られるが、状況がそれを許さない。逆上するほど、狂おしいほどに貞盛との決着を望む一方、過剰な迄に強化されたバイオヴォルケーノとの闘いによって、武士(もののふ)としての小次郎の意識は研ぎ澄まされていた。

「五郎、聞こえるか。光学迷彩で姿を消したゾイドが追撃してくる。GPS三次元電探(3Dレーダーシステム)を作動させ、敵影を把握し部隊に送信せよ」

〝了解しました兄上〟

 雑音混じりの往信を受け取ると、小次郎は唇を大仰に舐めて操縦桿を握り直す。

「太郎、お前との決着は後回しだ」

 棟梁として、惣領として小次郎は成長していた。疾風ライガーの機体が輝く。

「将門……ライガー!」

 虹の壁を越え、霰石色の獅子が降臨した。

 

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