『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第八部「アンデッド・ヴォルケーノ」 作:城元太
常陸国衙に遠雷が轟く。不死山噴火に伴い発生した火山雷の雲が、気流に運ばれ坂東の地を覆っていた。
天空を埋める密雲の下、
ヴォルケーノは鉤爪とクリスタルスパインの峰を巧みに使い分け、将門ライガーの二振の太刀を悉く跳ね除ける。
遠景に、伴類のゾイドが矢継ぎ早に斃れ、算を乱して敗走する様子が覗える。貞盛の操る闇の獣王イクスは的確に――そしてこれ見よがしに――石井の軍勢を切り崩し、小次郎の心を掻き乱そうとしている。小次郎の気質をよく知る竹馬の友だからこそ採る戦術である。
「三郎、五郎と共に行け」
小次郎は敢えて、三郎将頼のソードウルフに貞盛追撃を命じた。
〝承知した。こそこそ闇討ちをする敵を討つ。兄者も無事でいてくれ〟
竹馬の友以上に気脈を通ずる歳近い舎弟は、兄を信じ、兄の言葉に従い、丹色の狼を空間に潜む敵に向けた。五郎の名を唱えたことが、ディバイソンから送られるGPS
既に国衙への強訴の目的は霧散し、本格的な戦の様相を呈している。小次郎は避け難い宿星の巡りを覚悟した。
赤い竜と決着をつける。
「頼むぞ、将門ライガー」
小次郎もまた、声に出して応えていた。
人馬一体ならぬ人ゾイド一体、それは藤原為憲の心身を
将門ライガーが七色に輝き、猛烈な速さで分身を始める。ヴォルケーノは見知った技として
閃光の射線上から影は消え、射撃の死角となる背後に再び七色の獅子が現れる。将門ライガーの機動性もまた、飛躍的に向上していた。幻影を反対側に残し、本体を移動する技を得ていたのだ。
だが目標を失った赤黒い閃光は国衙周囲の名田に降り注ぎ、繁る稲穂の漣を焼き尽くす。闘争意識の塊と化した竜は敵を斃すことのみに執着し、周囲に被害の及ぶことなど歯牙にもかけない。必殺の攻撃を躱されたにも関わらず、竜は戸惑うことなく二射目の発射体勢を整え虹色の影を追う。
振り向きざまに放つ閃光を弾き飛ばし、七色の影が一斉に斬撃を叩き込んだ瞬間であった。竜と獅子との周囲を、再び集束荷電粒子砲の衝撃が飛来した。小次郎は藤原秀郷のもう一つの真意を悟る。目障りなバイオゾイド・ヴォルケーノを、平将門ごと消滅させ、公儀の威を借り坂東に覇を成すつもりなのだ。
四方から注がれる荷電粒子の砲撃が、将門ライガーの進路を遮る。そして荷電粒子の炎に焼かれようとも、構わず鉤爪を突き立て襲い来るヴォルケーノの捨て身の連携攻撃に、主と一体となった将門ライガーさえ圧され気味となる。
(経明、五郎、玄茂たちのセイスモサウルス制圧はまだなのか)
四匹の地震竜を葬るのが容易ではないことも判っている。それでも四方同時攻撃では支えきれない。ほぼ無差別に飛来する荷電粒子砲は、国衙の回廊を突き破り、幾つもの棟をも炎上させ、立ち昇る黒煙が更なる雷雲を招いていく。虹色の獅子は、雷鳴とゼネバス砲と鉤爪の鈍色の輝きに囲まれた。
ふと見た国衙の壁に、凭れ掛かる小さな体が見えた。足元に黒焦げの亡骸が横たわる。焼け出された子供が、母親だったらしき物体にすがる惨たらしい光景であった。
獅子の背後から一閃の砲撃が飛来するのを察知する。南に位置するセイスモサウルス水鬼のゼネバス砲である。今閃光を避ければ確実に、子供は荷電粒子の奔流に呑まれ蒸発する。しかし回避しなければ、獅子は確実に直撃を被る。
動けなかった。小次郎は心中で叫んでいた。
(ライガーよ、済まぬ)
眼前に白いゾイドが割り込み、飛来した荷電粒子の閃光全てを吸い込んだ。吸い込んだエネルギーを放出し、集光版が薄紅色に輝く。
「レイ・エナジー・アキュムレーター……ソウルタイガー、遂高か」
〝遅くなり申した将門殿〟
〝御無事でしたか小次郎様〟
「桔梗まで」
白黒の愛らしいパンダ型ゾイドも伴っている。
「バンブリアン、盲た其方が如何にして此処に」
〝わたしもいっしょだよ〟
「多岐!」
図らずも戦場で、小次郎は愛娘の声を聞いた。
〝母うえもレインボージャークでたたかってるよ〟
「遂高、これは一体どういうことだ」
未だに集光版を薄紅色に光らせる白虎が寄り添う。見遣れば、ヴォルケーノの動きが停止していた。ソウルタイガーによって守られた将門ライガーと異なり、西から撃ち込まれたセイスモサウルス金鬼のゼネバス砲を浴び、右半身に広範囲の焼け焦げが刻まれ活動を停止し、僅かな時間的猶予を得られていた。
〝奥方様は仰せられました。
修理を終えたソウルタイガーが陣に加わった程度で、上兵である員経殿のデッドリーコングや好立殿のサビンガを欠く以上、万一
『坂東の女は戦場に立つことを恐れぬ』と申され、御自身はレインボージャークで出撃、桔梗殿には多岐様を伴わせ、『孝子の眼となり父を助けよ』と命じられました。
奥方様は今頃、再びパラクライズの威力を見せつけんと、多治経明殿と共に勇んで地震竜征伐に赴いている頃です〟
「馬鹿者どもめ……」
言った後、小次郎は目頭が熱くなるのを覚えていた。
――ノウマク サンマンダ バザラダン センダンマカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カン マン――
赤い竜が恐るべき回復力で再生し立ち上がる。クリムゾンヘルアーマーは赤い構造色を復活させ、クリスタルスパインの峰も生え揃う。小次郎はしかし、周囲の変化に気づいた。
ゼネバス砲が止んでいる。
それこそが、良子たちが死力を尽くした証であった。完全撃破は敵わぬものの、セイスモサウルスの超長距離射撃を妨げる戦闘行動は可能である。無数の小口径機銃弾幕など撥ね返す重装甲のディバイソンが地震竜本体に突入、横倒しとなり晒した腹部荷電粒子インティークファンを超硬角で貫く。更に戦陣に加わった良子のレインボージャークがパラクライズを放ち、セイスモサウルス隠形鬼の砲撃を沈黙させたのだ。同様の攻撃は西に構えるセイスモサウルスにもランスタッグ部隊によって展開され、程なく金鬼の砲撃も停止させた。残る二匹の地震竜も敵への近接戦闘態勢を取り、無防備に長距離射撃を行うことは出来なくなった。
百万の味方を得た小次郎は、再びヴォルケーノに対峙する。
「坂東武者の誇りとゾイド乗りの名誉にかけ、バイオヴォルケーノを倒す」
将門ライガーは竜に向かい、一直線に突入した瞬間だった。
小次郎の視界が暗転する。否、視界ではない。意識が闇に包まれる感覚である。
覚えがある。〝無限なる力〟を得た時だ。
闇の中に立ち昇る紫雲の上、マグネーザーを回転させる雷神マッドサンダーと、反荷電粒子シールド上に立つ貴人の姿が垣間見えた。
精神空間に、厳粛な声が響く。
〝平将門、汝と汝の今の村雨ライガーでは、あのバイオゾイドに完全な止めは倒せぬ。倒したところで地獄の亡者の如く、何度でもまた蘇るであろう〟
あの時と同じ声だった。
「火雷天神、では如何にすれば、あのバイオヴォルケーノを永遠の眠りに就かせることができるのですか」
小次郎の心の叫びが、清浄な空間に木霊する。
〝よいか平将門。此度に限り、汝に我の技を委ねよう〟
〝コジロウ、オレノカタナヲテンニムケロ〟
それは将門ライガーの声であった。
「刀を天に向ける、ムラサメブレイカーとムゲンブレードのことだな」
〝ソウダ、ニホントモダ。ソレダケデ、オレハマタツヨクナル。ムゲンナルチカラガ、オレタチヲツヨクスル〟
「俺たちを、だな」
暗転していた視界が再び復帰する。瞬きする程の時間が経過していた。小次郎は獅子の言葉に従い、二振の太刀を上段十字に構える。雷光閃く密雲の下、獰猛な赤い竜がバーニングジェットを噴射し迫って来る。
雷光が獅子を打ち、将門ライガーが青白い光に包まれた。
加速を増す将門ライガーに雷霆が宿り、全身に稲妻を纏って疾駆する。恰も地上に顕現した火雷天神の如く。
「お前に俺は倒せない。なぜなら、ゾイドは心で動かすからだ」
将門ライガーは