『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第八部「アンデッド・ヴォルケーノ」 作:城元太
上野の国府は、
だが一方で、朝令暮改の裁定を繰り返すソラに対しては、少しでも潔白を示す証書を残し、杓子定規の言い逃れをする必要もある。鬼石から宮鍋までは下総に向かう間道の途中でありゾイドへの負担も少ない。幸いなことに桔梗の病状は安定しており、バンブリアンの操縦席で多岐と戯れる姿を遠目に見れば、健やかで仲の良い歳の離れた姉妹にしか見えない。良子と小太郎のみを先に帰すことも考えられたが、レインボージャーク単機で行動させることに、小次郎は激しい不安を感じていた。
〝将門殿、突撃揚陸艇ネプチューンの飛来を如何に思いますか〟
村雨ライガーに揺られ上野国衙に向かう小次郎に、並走するソウルタイガーの
〝真壁、服織の戦にて、バイオゾイドの胎内より出でた土魂とは異なり、バイオヴォルケーノなるバイオゾイドは生身の人が操っていた、加えてそれを上野
ネプチューンがいるということは、近くにドラグーンネスト本体が潜んでいる筈。あの巨体を何処に潜めているのかと〟
「気になるのはそれだけではない。ドラグーンネスト級の要塞型ゾイドを派遣する以上、相応の人物が指揮を執っていると考えるべきだ。坂東の山野に精通し、俺の素性も良く知り、尚且つ都の討伐隊を率いることの出来る者とは」
〝左様な都合の良い武将など、今の都に居りますでしょうか〟
「居る」
坂上遂高からの返信に暫しの間が空く。小次郎の言うその人物が誰か推察できたからである。
〝将門殿、宿世の仇とはいえ、御自重くだされよ〟
「判っている」
判っている、と口に出した小次郎の喉は、異様に渇き切っていた。
上野と越前の境より流れ出でて、下野、常陸、下総に至る坂東の大河、利根。群馬郡に程近いその濫流に、泥濘に塗れた巨大な塊が滞留していた。
耕作地を持たず
「中州が、動いている」
澱みの中に浮かぶ幾何的な造形は、畿内に散在する古代帝の陵墓を偲ばせる。しかし巨大な塊は流れに遡って緩慢に移動している。外皮に纏った泥濘を隠れ蓑にして澱んだ流れの中に半身を浸す。時折水面から浮上する大木の如き歩脚が、塊が数多くの肢を持つ巨大
格納庫内に韻々と動力音が響く。見上げる先には、漆黒に塗られたライガー
「皮肉なものだ。亡き父国香より譲り受け、宮仕えの為に帝に献上したお前と、この様な形で再会するとは」
「
零の拡張性は確かに村雨ライガーを上回る。だがそれだけだ。機体性能からすれば、ライガー零を凌駕する機動性と火力を有したブラストルタイガーを、エヴォルトを成し遂げた疾風ライガーは殊も無げに切り刻んだ。結城法城寺から奇襲をかけた良正のアイスブレーザーを一刀両断にした将門ライガーは更に強力である。余程精強なゾイドと操縦者でなければ、小次郎に太刀打ちできないことは己自身が一番思い知らされている。
「貞盛殿、平将門がそんなに恐いのか」
必要以上の大声が響く。振り返れば、古代の土偶の如き具足を纏った兵が、太郎貞盛の背後から近寄って来ていた。
「
「
加えて貴公は、バイオゾイドが如何に得体の知れない代物なのかを御存知か。俵藤太の
貞盛の言葉に、藤原
到着した上野国衙は、小次郎の参内に介の藤原
辟易したのは、門前で待ち構えていた住民達の歓迎であった。
「将門様、どうか、坂東を束ねてくだされ」
「不死山の灰が降り積もって、今年の作付けは全滅です。何卒将門様のお口添えで、租調の減免を
「未だに野盗が
村雨ライガーとムラサメソードの峰に留まるレインボージャーク、ソウルタイガーとバンブリアンは身動きも取れない程に群衆に囲まれた。
民を重んじ、民を愛する小次郎であったが、群衆が口々に唱える訴えを聞く間に言い知れぬ違和感を抱いていた。
この者達は、時の為政者を頼り、自ら何かを成し遂げようと考えていない。普段より見知った下総の民であれば、小次郎を慕って集まってくれるのもわかる。だがこの者達は、一度として顔を見たこともなかった平将門という剛の者に
不利となれば負け戦の時の伴類の如く、掌返して散会するだろう。
一抹の虚しさを抱き、遠く広がる赤城山の山裾を風防越しに見据えた刹那、小次郎は赤城山の麓を流れる利根の濫流より浮上する陵墓の如き巨体を捉えた。
〝ドラグーンネストが現れました〟
逸早く異常を感知し、坂上遂高はソウルタイガーを身構えさせる。小次郎達の動きに気付いた群衆は、最初は何人かが利根の河原を指差し、そしてその先に横たわる巨大な陵墓がゾイドと知ると、途端に悲鳴を上げ
「レインボージャークは国衙の裏へ行け。バンブリアンは地上からの攻撃に備えレインボージャークを援護。遂高、奴の
〝見えます、あれがネプチューンに相違ありません〟
巨大
「バイオメガラプトル――否――あれが、バイオヴォルケーノか」
全身に紫水晶の剣を纏い胸部バイオゾイドコアを赤く明滅させ、クリムゾンヘルアーマーの赤い構造色で全身覆われた骸骨竜が、またも小次郎の前に立ち塞がったのだ。
「
〝承知〟
村雨ライガーは村雨ブレードを逆立て疾駆する。
ソウルタイガーは前肢ソウルバクナウを剥き出しにして村雨ライガーに続く。
赤い竜は頭部をゆっくりと右回りに巡らせると、禍々しい嗤い声を響かせ、脚部付け根のバーニングジェットを噴き上げ碧い獅子と白虎に向かい突入していった。
――オン アク ウン――
設けられた三角炉の護摩壇に紅蓮の焔が燃え上がる。血の色を想わす赤黒い袈裟を纏った僧が頻りに
数は百八。
人形に記された名は〝平将門〟。
怨敵となる名を書き入れた憑代を火中に投入しつつ、大威徳明王の真言と印を切り跡形も残さず焼き尽くす。次第に減って行く人形の間に、丹(硫化水銀)で彩られた鉄製の小振りな武具が並べられていた。
――オン シュチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ――
鉄粉が火の粉を舞い上げ護摩壇を照らす。
――怨敵、調伏――
赤い骸骨竜に模した焔が護摩壇に燃え上がっていた。