『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第八部「アンデッド・ヴォルケーノ」 作:城元太
利根川沿いに点在する田畑を踏み躙り、百姓宅を吹き飛ばし、進路上の屋敷森も薙ぎ倒しながら、バイオヴォルケーノは肉薄してきた。
河原を目指して右寄りに身体を傾ける村雨ライガーの行く手を、赤い骸骨竜が遮る。振り下ろされるブレイズハッキングクローと、跳ね上がるムラサメブレードが切り結び火花を散らす。重心低く四肢を踏み締める村雨ライガーが競り勝ち、ヴォルケーノの鉤爪は弾かれた。僅かに仰け反る瞬間を狙い、碧い獅子が前肢のストライクレーザークローを横殴りに叩き込む。だが次の瞬間、赤い竜の姿が掻き消えた。
〝上です〟
ソウルタイガーの遂高が絶叫する。回避のため横殴りの勢いを借り、ムラサメブレードを突き立てたまま横転した。天空より降り注ぐブレイズスパイク。再び竜の爪がムラサメブレードと火花を散らし、押し返された反動を利用し空中で一回転すると、互いに体勢を整え睨み合う。
小次郎の予想は完全に裏切られていた。
――上野権介たる者が操るゾイドが、牒も送らず矢合わせもせず、況してや領地領民を害してまで戦うことはないだろう――
だが敵は知行地が荒れることなど歯牙にもかけず、只管に小次郎達を狙って来たのだ。
ヴォルケーノは頭部を緩慢に巡らせ両腕ごと鉤爪を突き出した。村雨ライガーの頭部を襲う素振りで、切っ先を向けていたムラサメブレードを頑強に抑え込む。白刃を掴んだ骸骨竜の身体が僅かに宙吊りになった直後、間髪入れずブレイズスパイクを頭部操縦席に叩き込む。
「見せかけか」
村雨ライガー頭部のカウルブレードが一斉に逆立ち、辛うじて脚部の鉤爪を刎ね返す。しかし赤い骸骨竜は碧い獅子の抗いを嘲笑うかの如く、ブースターの加速を伴う重い足蹴りで村雨ライガーを投げ飛ばした。
激しい振動に小次郎の顔が歪む。悲鳴のような軋みを上げて、村雨ライガーは横臥した。
無防備に脇腹を晒す碧い獅子に、赤い竜が止めの一撃を加えようと接近する。間隙に、白虎が強引に割り込んだ。ソウルバグナウとブレイズハッキングクローが噛みあい、ヴォルケーノとソウルタイガーの押し合いの構えとなって留まる。
〝将門殿、早く、早く立ち上がってくれ。長くは持たぬ〟
村雨ライガーの身を起こした小次郎は、碧い獅子の全身が田圃の泥濘で塗れていることに気付いた。踏み
――これ以上田畑を荒らすことは許せぬ――
小次郎の怒りが頂点に達した。
「将門ライガー!」
霰石色の輝きを纏い、無限なる力を有する獅子が降臨した。
ドラグーンネストの艦橋で映し出される映像に、二振の太刀を
「小次郎よ、その強さが己を滅ぼすことにまだ気付かぬのか」
竹馬の友であり父の仇、そして数多くの部下を殺された。それでもまだ小次郎を心底から責める気持ちに成らないのは、自分自身の未練なのかと自問する。
「
貞盛は映像に背を向け、惑溺を断ち切るかの如く格納庫へと続く扉に消えて行った。
小次郎はヴォルケーノの背後に
――神が悪を守るのであれば、俺は迷わず神を討つ――
霰石色の獅子は、組みあったままのソウルタイガーとバイオヴォルケーノに向け突貫していた。小次郎の呼吸を読んだ遂高が絶妙の間合いでソウルバグナウを解く。勢いを削がれ前傾姿勢で白虎のレーザーネストに斬り込む赤い竜の腕に、将門ライガーのムゲンブレードが振り下ろされた。玻璃の飛び散る音が響き、利根の水面に紫水晶の破片が飛散する。
〝リーオの太刀を防いだだと!〟
ヴォルケーノ上腕より生えた紫水晶の角、クリスタルスパインは、ムゲンブレードの斬撃に破砕されたが、白刃がクリムゾンヘルアーマーに達することはなかった。
「ここは俺がやる。遂高はドラグーンネストからの増援を防げ」
〝ネプチューンは隔壁を閉じました。増援はおりません〟
疾駆する将門ライガーの風防より、遂高の言葉を確かめるべく僅かに振り向いた。小次郎の眼にも隔壁を閉鎖し防御態勢を整える巨大喇蛄の姿が映る。子飼や堀越での戦と異なり、単機出撃の独断専行なのだ。小次郎がドラグーンネストに心を奪われた一瞬の隙を突き、これまで目にした事の無い閃光が飛来していた。
光圧が大気を切り裂き、衝撃波が将門ライガーに迫る。バイオヴォルケーノ胸部より突き出た紫水晶の峰が分かれ、露出した銃身から赤黒い蛇の如き光の帯が延々と伸びていた。小次郎は天賦の才により、寸での処で赤黒い光を回避する。だが閃光が伸びる先に、薄紅色の集光板を輝かすソウルタイガーが残されていた。
「逃げろ遂高、それは荷電粒子砲ではない」
咄嗟に集光板が閃光を無力化できないのを看破する。しかし、白虎に身を
粉塵を撒き散らし、ソウルタイガーが
「遂高!」
小次郎の問い掛けに応えは無く、利根の流れが白虎と同じ色の波涛を立てるばかりであった。
許さぬ。
ヴォルケーノは小次郎の逆鱗に触れてしまった。
獅子が獰猛な叫びを上げる。双眸に怒りを湛え、バイオヴォルケーノを中心に緩やかな歩調で回転を始めた。
河岸丘陵から河原へ、そして川面へ。
取り囲む獅子の群れから強烈な斬撃がヴォルケーノ頭部に打ち込まれる。三つのクリスタルスパインが同時に崩壊し、竜は堪らず二三歩身を退く。後退した機体の反対側から同様の斬撃が放たれ、後肢付け根のバーニングジェットと腰中央の紫水晶が飛散した。
クリムゾンヘルアーマーに次々と刀傷が刻まれていく。取り囲む円環の中心から逃れようと、ブレイズハッキングクローを振り上げ獅子の影に斬り込んでも、次の瞬間死角方向から鋭い斬撃が加えられる。バイオヴォルケーノはその度によろめき紫水晶の峰を失う。
度重なる斬撃に紫水晶の峰が砕かれ、ヴォルケーノは
竜は狙いを定めぬまま、虹色の壁に閃光を放った。
メタルZiの鎧が光を拡散させる。大輪の菊花が花弁を散らし、赤黒い帯は黄橙色の火花と化して利根の河原と川面に乱れ飛ぶ。大地を
虹色の旋風となった将門ライガーの白刃が一斉に振り下ろされた。流体金属装甲が鮮血が
将門ライガーの歩みが停まり、再び影が一つとなった時、バイオヴォルケーノは骨格だけの文字通り骸骨となって立尽くしていた。
赤い流体の飛沫に塗れ、二振の太刀に竜の表皮を纏う将門ライガーは鬼神さながらの容貌であった。だが容貌とは裏腹に、小次郎の呼吸は穏やかな脈動を取り戻していた。
蛮勇に任せた野盗の如き襲撃とはいえ、操るは公儀上野権介だ。ここで息の根を止めるのは簡単だが、後の申し開きに面倒が掛かる。既に将門ライガーの威力を示すこともできた、そして。
〝思わぬ不覚を取りました。面目次第も御座らぬ〟
飛び込んできた声から、遂高の無事を確認出来たからでもあった。
怒りの昇華と共にエヴォルトが解除され、再び碧い獅子へと姿を戻す。ムラサメソードを背部に戻し、満身創痍で
頭上に翼を持つ黒い獅子が現れた。
そのゾイドに見覚えがあった。石田荘で叔父
「太郎なのか」
国香が供した
一瞬であった。村雨の前に翼を
「お前はいつもそうだ。正面から衝突するのを避け俺を嘲笑うのだ」
村雨の跳躍力では空を舞う零に達し難く、小次郎は無為に歯噛みをして蒼空を見上げるほか手立ては無い。
「太郎貞盛、お前は、お前という奴は……」
その具足がソラより下賜された唐皮、