激ウマ…いや、激マズ日和   作:黒鋼

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小籠包を夕飯で作ったんですが、皮が破けて……それでも美味いは美味いんですがやっぱりどこか残念な気分に。
餃子の皮じゃなくて、自作するべきなんだろうか?


11品目 繭じゃなくて鬼と虎

 準備も完了し、ミッションが実施される【嘆きの平原】へと俺は向かっていた。まだ車を運転できないので近くに向かうヘリに同乗させてもらってである。物資運搬が目的のヘリの中にいるゴッドイーターは何故か俺一人。護衛用に2、3人は同乗させるものだと思っていただけに、このメンバーは驚きではある。

 だが、それ以上に俺が不安に思っているのは、

 

≪……ミッション名が『破壊の繭』じゃなかった……≫

 

 ということ。受付のヒバリさんから言い渡されたミッション名は『破壊の繭』ではなく何故か『カウボーイ』。CLIENTの部分がフェンリルではなく、『破壊の繭』のように雨宮リンドウとなっている辺り芸が細かいとは思う。討伐対象はオウガテイル4体であり、先日突如勃発した堕天種が入り混じった『悪鬼の尾』よりか難易度は下がるが……

 

≪ヤバいって≫

 

 確かに、ミッションの実施場所は【嘆きの平原】だけれども、この展開はまず過ぎる。なんせこのミッション、ゲームでは難易度1のミッションのくせにヴァジュラが乱入してきやがるのだ。ヴァジュラと言えば、ゴッドイーター無印版のパッケージを飾ったアラガミであり、難易度3のミッションを受注するために倒さなければいけない大型アラガミであり、新人ゴッドイーターが越えなければならない壁とされるアラガミである。

 

 つまりは、現在の俺にとっては盛大な死亡フラグ以外の何物でもない。

 

 まだ、ミッションを受け始めて2回目の新人である俺が相手取る様なアラガミではないのだ。念のため言っておくが、現在の俺の装備は【ナイフ改・ファルコン・支援シールド】であり、絶対的に火力も防御もヴァジュラを相手取るには足りていない。バレットも初期に配られたレーザーのみ。一応全属性分持ってはいるけれど、こんな物でどうにかなる相手ではない。

 身体能力を特典で上げてもらっているからといって、素の火力が低いのではどうしようもない。先日のヴァジュラテイルの様な小型アラガミ程度ならどうにかなるが、大型アラガミとなると流石に誤魔化しようがなかったりする。

 

≪かといって、今更ミッションを受けない訳にもいかない≫

 

 “ヴァジュラが出るかもしれないから帰ります”なんていう台詞は、ベテランならともかく新人の俺が言ったところでまともに取り扱ってもらえるはずもない。ゲーム中ではミッション中止はメニューから出来たし、実際、状況次第では撤退も当然可能ではあるが、少なくともミッションが始まる前から撤退することは、現状不可能である。

 ……一応、サクヤさんの(推定)スキルも思い出してみるが……見事に遠距離型衛生兵のスキルばかりなので攻撃に関してはあまり期待できない。勿論、死ににくいという点では非常にありがたいのだけれど。

 となると、

 

≪……やっぱ、逃げるしかないよな~≫

 

 “勝てる”なんて馬鹿な事は考えない。ゲームと現実は違うのだ。ゲーム上だったら難易度1に乱入してくるヴァジュラぐらいどうとでもなるが、現実はそうはいかない。アラガミの唸り声も、被捕食者としての自身の立場も、自身に向けられる殺気も、全て無視できるわけがない。俺に出来るのは、ただ、それらの全てを受け止めた上で、ゴッドイーターとして自身に出来ることをやるだけだ。

 だから、アラガミに対抗する1人の人間として、

 

≪……少々ズル賢い手を使わせてもらうとしますか≫

 

 神機を握る手に込める力が意識せずに上がる。

 ……は、精々死なない為には、何だってやってやるさ。

 

 

 

♦ ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 

「こんにちは、君が眞城くんね?」

 

 俺がヘリから降り、現場に到着すると、先に来ていた先輩ゴッドイーターの橘サクヤさんがこちらに声を掛けてきた。足音が聞こえたのだろうか?(サクヤさんは戦場となる平原を見下ろす様に前方に視線をやっていたはずだ)黒い布地で全面を覆った服装は裸エプロンかと見間違うほど大胆に体の背部や側面(乳含む)を晒しているのだが。世界が違えば、痴女一歩手前の服装である。そんな変態一歩手前の格好はツバキさんとある意味同じなのに、ツバキさんの様な冷厳さとは違い、春の様な優しさを感じさせるおっとりとした大人の女性の声なのだ。つい、頬の筋肉が弛みそうになる。それが分かったので、必死に顔に力を入れて真面目さを装う。

 

「はい。橘さんですね……?」

 

 そのまま、返事を返す。以前に一度顔を合わせているため、互いに顔は見知ってはいたけれど、こうしてしっかりと言葉を交わすのは初めてだ。

 

「ええ、今後ともよろしくね。

 それと、サクヤでいいわ」

 

「ありがとうございます。

 じゃあ、サクヤさん、とお呼びさせていただきますね。

 俺のこともクウヤでいいです」

 

「ふふ、構わないわ」

 

 ミッション前だというのに、まるで緊張した様子が見受けられないのは、流石ベテランの神機使いだ。俺なんか、ヴァジュラの事を抜きにしても、戦場に降り立つとあって、未だに緊張しっぱなしなのだ。

 

「ちょっと緊張してる?」

 

「え、ええ。少し」

 

 ややびくつきながら首を縦に振ると、ポンとサクヤさんが背中を叩いてくれた。

 

「肩の力抜かないと、いざというとき体が動かないわよ」

 

「リンドウさんにも似たようなこと言われたんですけど……中々慣れなくって」

 

 苦笑交じりで返事を返すと、サクヤさんも笑いながら、

 

「まぁ、まだ2度目だものね。緊張するな、というのも無理な話か……でも、初陣は済んでるんだから多少は慣れたんじゃないかしら?」

 

「……まぁ、それなりに、で良いなら」

 

「今はそれで十分よ。そういった面をフォローするために、私たち先輩がいるんだから」

 

 微笑みながらこっちを見て、そう励ましてくれるサクヤさん。頬の肉が緩まらない代わりに、恥ずかしさで自分でも分かるほど顔が熱くなった。照れ隠しのつもりでソッポを向く。そんな俺を見てくすくす笑うサクヤさん。なお一層顔が熱くなる。ああ、もう。からかわれているのは分かっているのに、反応してしまう自分が恨めしい。

 

「さて、と……そろそろブリーフィングを始めましょうか」

 

 一頻り俺をからかったサクヤさんの顔が柔らかな女性のそれから神機使いとしての冷厳なものへと変貌する。眼前に広がる戦場を睥睨し、周囲に気を張り巡らせる。

 

「はい。今回のターゲットはオウガテイル4体でしたよね」

 

 そんな先輩の変化につられ、自然と俺の表情も硬くなる。神機を握る手にも力が籠る。

 

「ええ。ここは戦場なのだから気を抜いて良い訳ではないけど、ヴァジュラテイルを相手に初陣を飾ったあなたならいくらか気楽にいけるでしょうね」

 

 ああ、情報はなんだかんだで回っているのね。まぁ、同じ部隊のメンバー、それも自身が今後背中を任せることになるかもしれない人間の情報なのだから知っていて当然か。

 

「……今回は、遠距離型の神機使いとの戦い方に慣れるのが目的ですか?」

 

 敢えてサクヤさんの称賛を無視し、ブリーフィングを進めることにする。極東人らしく謙虚に受け答えしていれば良いのかもしれないが、自分の実力を把握していないと思われるのも遠慮したかった。

 

「そうね。昨日はリンドウと近距離型同士の連携をやったと思うけど、今日は逆のやり方を学んでもらおう、という訳。

 遠距離型の神機使いと組むのは今日が初めてなのだし、わたしが後方からバックアップ、キミが前方で陽動の遠距離型の神機使いとペアを組む場合の基本戦術でいくわ。

 それから、注意事項として、くれぐれも先行しすぎないように後方支援の射程内で行動するように。OK?」

 

「分かりました。

 ……質問良いですか?」

 

「ええ、良いわよ」

 

「サクヤさんの有効射程距離はどれぐらいですか?」

 

 後方支援の射程内で行動しろというのだから、それぐらいは把握しておかないと。無印の頃までのサクヤさんだったら逆にその射程範囲外で活動したいところだけれど、そんなわけにもいくまい。回復弾の範囲からわざわざ出るなんて自意識過剰にもほどがある。

 俺の質問にサクヤさんが考え込む。

 

「そうね……バレットにもよるけれど、戦闘中の限界距離は大凡500m程かしら。といっても、限界だから実際の戦闘可能範囲は100~200m程度に落ちるけれど」

 

「それは、アサルトやブラストでも同等ですか?」

 

「……いえ、流石にスナイパーよりも落ちるわね。

 私もスナイパー専門だから実際のところどうなのか詳しくは分からないけれど、これまでの経験から言ってアサルトは50~150m、ブラストは10~50m程が有効距離でしょうね。勿論、個人ごとの職種による戦い方や、セットしているバレットによって変わってくるから必ずしもその距離で考えていいわけではないけれど……参考になったかしら?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「詳しく知りたかったら帰ってからツバキさんに聞くといいわ。ツバキさんなら元遠距離型の神機使いだし、教官としてたくさんの神機使いを指導してきたから私なんかよりもよっぽど詳しいはずだから」

 

「分かりました。今度、訓練の時にでも聞いておきます」

 

 次の訓練の予定は今のところ不明だけれど、難易度1から難易度2に移る際にチュートリアルが一つあったはずだから、そのあたりで一度訓練は入るはずだ。その時にでも聞けば良いさ。それまで今回みたいに遠距離型の神機使いと組む予定はなかったはずだし。

 

「うん、そうしなさい……それで、他に何か質問はあるかしら?

 無ければこのままミッションを始めるわ」

 

 そう言ってサクヤさんは視線を俺から平原へと向け直す。平原は先ほどまでと同じように不気味なほどの沈黙を保っている。平原の中央では竜巻のように大気が黒々と蜷局を巻き空に向かっているというのに……この沈黙は何なのか。

 俺もサクヤさんと同じように視線を平原と向け、考える。

 リンドウさんとのミッションではかなり自由にやらせてもらったけれど、あれはリンドウさんだからできたことだろう。サクヤさんと戦うときに同様のやり方をしていいとは考えにくい。

 

≪……けど、それならさっきサクヤさんが言ってた基本戦術で十分だよな≫

 

 俺も実戦で遠距離型と組むのは初めてなのだから、ベテランゴッドイーターであるサクヤさんの言葉に反対する理由などまるでない…………あくまで、ブリーフィングの段階で、ではあるけれど。実際に戦い始めたらどうなるかなど組んでみないと分からないのだから。主に、乱入してくるであろう馬鹿虎のせいで。

 

「……じゃあ、質問じゃないんですけど、一つ良いですか?」

 

 さて、

 

「何かしら?」

 

「近接で始める前に、遠距離型の戦い方とか狙撃のやり方を教えてもらえないでしょうか?」

 

 ゲーム上では不可能なやり方で一つ行かせてもらいましょうか。

 

「ギャウンッ!!」

 

 スコープの向こうでまた1体、水色のレーザーがオウガテイルを貫き、オウガテイルが地面に倒れこむ。

 

「そうそう、スナイパーならまずは相手の足を止めることを優先して。これは、小型でも大型でも通用するやり方だから。

 もし、アサルトとかブラストに転向するつもりならまた違ってくるけど、それはその時に他の神機使いに聞いてちょうだい」

 

「はい!!」

 

 サクヤさんのアドバイスに従い照準を倒れていない他のオウガテイルの脚部に合わせ、引き金を引く。神機の先から再度水色のレーザーが発射されるも、今回は残念ながら脚部には当たらず、足元の地面を穿つ程度に止まった。

 

「う~ん、惜しいわね。まぁ、素質はあるみたいだから気にしなくていいと思うけど、もしも狙撃がどうしても出来ないっていうんだったらホーミング性能の付いたバレットを使うようにするといいわ。あれならよっぽど下手じゃない限り当たるから」

 

 首を縦に振り了承の意を示すと、神機の銃身を移動させ、スコープ越しに周囲を見渡す。

改めて現状の説明だが、現在俺は、ゲームではスタート地点であり、先程サクヤさんと合流した場所である【嘆きの平原】の南部(ゲームで言うエリアA地点)にある高台からサクヤさん監修の下、狙撃訓練を行っていた。

 この位置ならオウガテイルにも気づかれにくいし、仮に気づかれたとしてもオウガテイルなら攻撃が届きにくい位置なので安心して狙撃に専念できる。まぁ、ヴァジュラテイルとかヴァジュラだったら余裕で攻撃が届く位置ではあるけれど……ついでに言えば、ゴッドイーターの合流地点とされていることからも分かるように、非常に見通しが良く、戦闘エリアの状況が瞬時に分かりる位置であり、更にはもしもの時は撤退し易い位置でもあるのだ。

 訓練や初陣の時にも遠距離型で射撃はしたけれど、あれはあくまで補助的な要素が強い。訓練の時は捕食した後の予防線だったし、先日の初陣にしたって開幕の一撃のみである。せっかくGOD EATERというバレットの攻撃力が半端ない――[ないぞう]とか[のうてん]とか――世界にいるのに、遠距離攻撃が補助という戦闘スタイルは勿体なさ過ぎる。そのため、スナイパー使いの先輩に色々聞けるうちに聞いておくつもりなのだ。特訓していただけるというのなら尚のこと。俺は、遠近どちらか一方に特化するつもりなどまるでない。折角の新型神機なのだから両方のエキスパートになってやるさ。

 話を現場に戻そう。

 

≪……まだ、ヴァジュラは見当たらないな。このまま出てこないなら助かるんだが≫

 

 そう思いながらも決して気は抜かない。確かに今のところはオウガテイルしか出てきていないし、このミッションが前回とは違い良い意味でゲームとは違う展開になってくれた方が個人的には非常に助かるのだが……前回の例を考えると、そうなる可能性の方が非常に低いことは分かっている。

 ……俺、ホントに何か悪いことしたっけ?

 

「……どうかした?」

 

 心中で思いっきり溜息を吐きながら今後について頭を悩ませていると、銃撃を止めた俺をサクヤさんが不思議そうに見つつ話しかけてきた。

 

「いえ、サクヤさんみたいな美人のお姉さんに二人きりでご指導いただけるなんて……と、思いまして」

 

 考えていたこととは真逆のふざけた調子の返事。まるで考えていなかった訳ではないので嘘ではないことは分かってほしい。

 

「あら、御上手。でも、ミッション中なんだからそういう台詞はあまり使わないようにね」

 

 あっさりと流すあたりに大人の女性の余裕を感じる。くそう、今になってリンドウさんが羨ましくなってきたぞ……!!

 

「……はい」

 

 敢えてやや物足りなさそうに返事を返しつつ、再度スコープの照準を合わせ直し、八つ当たり気味に引き金を引く。

 

「ギャンッ!!」

 

 再度放たれた水色のレーザーは今度は地に倒れていたオウガテイルとこちらに向かって来ていたオウガテイルの2体を纏めて貫き、双方を黒い塵へと変えた。

 

「お、2体纏めてなんてすごいじゃない。

 ……さてと、対象の半分も討伐できたことだし、それじゃあ、そろそろこのミッション本来の目的に戻りましょうか」

 

 監視に徹していたサクヤさんの言葉に、

 

「了解、しました」

 

 神機を剣形態へと変化させながら、躊躇いつつも了承し、高台から飛び降り、戦場である平原へと降り立った。

 

≪……出来れば、残りのオウガテイルも狙撃で終わらせたかったけど……仕方ない≫

 

 サクヤさんの着地音を聞きながら、少し後悔。

 今回のミッションの目的の一つである“遠距離型と組んだ時の近接戦闘の仕方”をやる前にミッションを終わらせる訳にはいかないのも分かるし、狙撃訓練も――ミッション中ということを考えれば――十分行ったから切り上げるのも分かる。だから否定する要素などまるでないのだが……

 

≪……はぁ、仕方ない。こうなりゃヴァジュラが出てこない事を願うだけだ≫

 

 心中泣きそうな気分になりながらゆっくりと歩を進める。ゆっくりと、焦らずに、幸い戦闘エリアが【嘆きの平原】なので視界を遮るものはほとんど存在しないから、軽く首を振るだけで周囲の様子が手に取るように分かる。もっとも、平原の中央にある小高い丘?(山?)とその中央から吹き上がる黒い竜巻のせいで、丘を挟んだ向こう側の様子や丘の上の様子はまるで分からないのだが。

 丘に沿って時計周りに平原を進む。

 

「……おかしいわね」

 

 サクヤさんがそんな言葉を漏らしたのは、対象を見つけることなく丘を半分ほど過ぎた辺りに差し掛かった時のことだった。

 

「何がです?」

 

 そう言われても俺には何のことやらまるで分からない。

 実戦経験がないというのもそうだし、仮にアラガミと遭遇していないことがおかしいのだとしても、ゲームでは平原を半分回ったとしても遭遇しないのは特に不思議ではなかったから、俺はおかしいとはまるで思わなかった。

 それも、傍から見ればおかしいことだとまるで気付かなかったが。

 

「初めにキミがオウガテイルを2体仕留めているんだから、残りの2体もとっくに警戒しているものだと思っていたんだけど……」

 

「警戒してたら行動に何か変化でも起きるんですか?」

 

「ええ。視覚や聴覚などの索敵能力が飛躍的、とまではいかないけれどそれなりに上がるわ」

 

「……成程」

 

 人間だって仲間がやられたら周囲を警戒し始める。それは、些細な物音に気が向くことや、物陰の変化に気が付くなど、能力が上昇というほどのものではないが、いずれにせよ自身の周囲の変化に気付きやすいということだ。そして、アラガミという一種の野生動物とも言える存在であるのならその変化は人間などとは比べ物にならないはず。

 そして、この平原は非常に見通しが良い。警戒している敵がうろついているのだとしたらエリアの半分も来ているのに見つからないのは確かに些か不自然ではある。

 

≪……まさか、ね≫

 

 脳裏でゲームの最初のイベントムービーが再生される。

 ヴァジュラの死骸に群がるオウガテイルと、それを襲うもう一体の新たなヴァジュラ。それを影に隠れて見るゴッドイーターたち……つまりはそういうことだ。

 と、そこまで考えた時、

 

――ぐううぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

 「…っ!?」

 

 平原一体を強烈な衝撃が襲った。サクヤさんも突然の衝撃に身を強張らせ、顔からは先程までの困惑すら消えている。

 

≪……やっぱ、やらないと駄目なのね≫

 

 分かっていた事とはいえ、期待を裏切られた気がしてがっかり。

 サクヤさんの能面を横目に、俺は黙って神機を構えなおす。ついでに、腰に着けているポーチをそっと確認。

 

≪数は8。サクヤさんがいくら持ってるのか分からないが、足しても精々15前後だろう≫

 

 全部使っても可能かどうか分からないが、やるだけやるしかない。

 覚悟を決め、視線をサクヤさんの顔から衝撃の届いて来た前方に移す。すると、見計らったかのようにそいつが丘の上の獣道から姿を現した。

 

 平原へと降り立ったそいつは6枚の血を想起させる赤色のマントを背に靡かせ、強靭な四肢で地面を踏み抜いた。四足の体躯はオウガテイルやコクーンメイデンなどよりも余程普通の獣の様だが、大きさが違う。人間とは比べ物にならない巨体。体の前方についている頭部だけでも人の体躯と同等。その頭部は虎に似た顔であり、上部は硬化して兜のように見える。

 

 間違いない、ヴァジュラだ。

 

 強靭な体躯は黒い体毛に覆われ、そいつの周囲の空間はパチパチと音が響いている。

低い唸り声を漏らす口からは赤い液体が滴り落ち、白い脚や頭部など体の欠片がいくつかこびり付いている。

 

≪……やっぱり、こいつが喰ってたのか≫

 

 なんとなく予想が付いていた事とはいえ、現実として直視しなければいけなくなるとまた違ってくる。

 

「……仕方ない、行きますか」

 

 次の獲物を見つけた虎の双眸を正面に見据え、俺は一歩踏み出した。

 




本文中の射程距離云々は私の勝手な推測ですので、つっこまれてもあまり反応できないと思います。
次回は、珍しくシリアスの予感……!!
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