訓練場から出た俺は、神機を指示された場所に置いて足を廊下の先へと進める。向かう先にいるはずの同期の少年の顔を思い浮かべつつ、
≪…やっぱりあの台詞から始まるのかね?≫
若干の期待を未だ見ぬ少年に込める。
が、個人的には寧ろあの通りではなく、しっかりと残っていて欲しいのだが…無理だろうなぁ。というか、人に勧めるぐらいならガムの残りの数ぐらい把握しておけと思う。
≪まぁ、会えば分かるか≫
考えててもしょうがないし、さっさとエレベーターへと入り込み、エントランスのボタンを押す。指定した階に到着すると、左手にある階段を音を鳴らしながら降りる。
さっきまでいたはずの受付嬢のヒバリさんが何故かおらず、いるのは例の人物一人だけ。足を交互に揺らしている……少し落ち着けよ。
≪お~、本当にゲーム通りの服着てるんだな≫
と、ある意味当然のことに軽い感激を覚えつつ、
「なぁ、隣座って良いか?」
声を掛けてみる。
黙ったまま勝手に座っても良いのかもしれないが、そこはこんな成りでも一応極東(日本)人。こんな世界になっても、いや、こんな世界だからこそ礼儀は大切だと思う。
「うん?ああ、どうぞどうぞ」
こちらを見上げながらやや驚いた表情で口に何か――十中八九ガム――を含みながら答えてくれる黄色い少年。
「サンキュ」
軽くお礼を言いながら、俺も隣に腰を下ろす。
ふぅー、疲れた。ようやく座れた。適性試験からずっと、立ちっぱなし歩きっぱなしだったからな。身体的にはそれほどでも、精神的に結構きてるものがある。
ようやく座れたことに安堵し、俺が気を緩めていると、
「ねぇ…ガム食べる?」
隣の少年が予想通りの言葉で話しかけてきた。
お、きたきた。いや~、何か感慨深いものがあるな。
本当に、俺もGOD EATERの世界に主人公として参加したんだとこの台詞を聞いていると思えてくる。
「ああ、もらう」
頭を縦に振り、催促する。
そして隣の少年は残りのガムを入れていたズボンのポケットを漁り始めたわけなのだが、
「あ、切れてた」
「おい!?」
予想通りの結果に。
分かってはいたものの、つい突っ込んでしまう。
「いや~、いま食べてるのが最後だったみたい。
ごめんごめん」
気楽に謝ってくるが、
「いや、許さん」
「え?」
「自分から食べ物を勧めておいて、なかっただと?
いくらなんでもそんな冗談はこの御時世やったらいかんだろうが!!」
本心としては、別にそんなことで一々目くじらを立てたりはしていないが、若干からかうつもりで言ってやる。
「い、いや、そんなこと言われても。
もうガムだって切れてるし…」
初対面の俺――しかも、同い年――に突然説教をかまされて混乱している少年――藤木コウタ。俺だって彼の立場に立ったら混乱するだろうから、そのことについてとやかく言いはしない。
「なら、今度会った時何か食べ物をおごる様に、以上!!」
「え?あ~、え?
い、いいけど…」
俺に押し切られる形で了承してしまったコウタ。……彼の未来が少々、いやかなり心配である。ゲームだったら家族想いの、明るい良い少年なんだけど。
「ってのは冗談として…」
俺も、この辺りでおふざけを止めることにする。このまま続けても、藤木少年が可哀想だ。
「はいぃ!?」
俺の突然の変わりように驚くコウタ。うん、まぁ、そんな反応で当然だろう。
が、コウタの驚きなどスルーして、
「お前も適合者だろ?
俺は、眞城クウヤ、よろしくな」
先に自己紹介を済ませてしまう。
「あ、ああ、そうだよ。
俺は、藤木コウタ、よろしく」
若干ビビりつつ、自己紹介をしてくるコウタ。そんなに、脅えられるようなことしたっけな、俺…?
頭を捻りながら悩んでいると、
「いや~、ビビった。クウヤって何歳?
俺より年上に見えるけど…」
ビビりは治まったのか、先程までの様にコウタが気楽な調子で話しかけてくる。
最初から名前で呼んでくるとは、流石。台詞が違う気もするが…まぁ、些細な問題か。
「15だが…」
「嘘ぉっ、同い年!?」
返事を返すと驚愕される。
「…そんなに驚くことか?」
中身はともかく、年相応の外見だと思うんだけどな。
「いや、てっきり17、8に見えたから…
まぁ本人が言うならそうなんだよな~
んじゃあ、改めて、よろしくな後輩!!」
「後輩?」
「ああ、一瞬とはいえ俺の方が先に適合者になったんだから、俺の方が先輩だろ?」
「なるほど…」
まぁ、そうかもしれないが、ほとんど変わらないと思うぞ。
「まぁ、よろしくコウタ」
「ああ、よろしくなクウヤ」
ガムの件や、なんやかんやでゲームとは違う出会い方だったような気もするが、まぁ、それが当然か。俺はこうして俺のまま生きているんだから。
そのままコウタと雑談をしていると、
カン、カン、カン
鉄板の上をヒールで歩く人の足音が聞こえた。音の方に視線をやると、
≪おおう、ツバキさんだ。
本当にあんな服着てるんだな…≫
雨宮ツバキ教官の凛々しい御姿が。
右手を腰に当て、左腕でクリップボード?を抱えたままこっちに向かって来ているのが分かる。
今更着ている服を説明するつもりはないけれど、男なら誰もがあのトップスのスーツの間から覗く豊かな胸元に視線が惹かれると思う。下手なグラビアよりよっぽどエロい格好である。
だが、それ以上に俺にとって疑問なのは、下。
彼女のボトムスは腰の部分の両側がザックリと開いているのだ。紐が布地の間に掛かっているとはいえ、
≪下着とかどうしてるんだろうか…?
まさか、ハイテナイなんてこと!?≫
到底下着を装着しているとは思えない。いや、紐とかだったら有り得ない話じゃないけれど……かなり無理があるだろうな。
上ならまだ良い…いや、健全な思春期の――精神年齢30超えとか言わない!!――男性としては全くもって良くはないが。まだ、背中と脇バックリのサクヤさんとか、下から乳が覗いているアリサとか、ツバキさんみたく、あるいはそれ以上に胸元が開きまくっているジーナさんとか知っているから。
けれど、下はない。
ズボン、という一見鉄壁のガードを身に着けているかと思いきや、ツバキさんは肝心な部分の横が開いてしまっているため、逆に妄想が膨らむ!!それは、カメラをローアングルにすれば中身の見えてしまうミニスカのアリサ――いや、アリサもハイテナイ疑惑満載だが――やアネットなど比べ物にならない破壊力を生み出すのだ!!
閑話休題
俺がツバキさんの方を見ているのがコウタにも分かったのか、コウタも雑談を止めツバキさんの方に視線を向ける。ついでに言っとくが、視線は当然の様にスーツの間から覗く豪勢な胸元へ。まぁ、年頃の男子としては当たり前の反応だ。
ツバキさんもそんな視線には気付いているだろうに、全く気にする素振りを見せず、受付の前を横切り、真っ直ぐ俺たちの座っているシートへと向かってくる。
そうして、俺たちの前で立ち止まって一言。
「立て」
問答無用の上官命令。俺にはマゾっ気なんて無いから分からないが、その類の人なら聞いただけで背筋に電流が奔るんじゃないかと思えるぐらいの上官口調。
「はい」
俺は分かっていたということもあり、返事を返してすぐに椅子から立ち上がる。
「は、はい!!」
ゲームでは戸惑っていたコウタも、俺につられたのか、はたまたツバキさんの威圧感をもろに感じ取ったからか、やや緊張しながらもしっかりと返事を返してその場に立つ。
うん、二人揃って最初から叱られなくて良かった、良かった。
……ただ、コウタ、お前はどうして上を向いて立ってるんだ……
胸元に視線を向けないためなのかもしれんが、逆に何言われるか分かったもんじゃないぞ?
「よろしい。
これから予定が詰まっているので簡潔に済ますぞ」
が、ツバキさんも怒ることなく、話を進めてくれる。自分でもその格好が周囲に与える影響を分かってくれてるのかもしれない。まぁ、それなら、ちゃんとした服を着て欲しいものだが。
勿論、思うだけで口には出さない。
出したら最後。きっと、地獄のアナグラ生活が幕を開けるのだ
「私の名前は【雨宮ツバキ】、お前たちの教練担当者だ」
ええ、よく存じております。
原子炉の爆発に巻き込まれても死ななかったこととか…ていうか、どうしてあれであの3人は死んでないんだ?周囲のアラガミは全滅してるのに……うん、気にしたら負けなんだろう。
若干冷や汗の垂れてきた俺と、相変らず上を向いたままのコウタを気にすることなくツバキさんは話を進めていく。
「この後の予定はメディカルチェックを済ませたのち、基礎体力の強化、基本戦術の習得、各種兵装の扱いなどのカリキュラムをこなしてもらう」
あい、まむ。
心中返事を返しつつ、言われた内容について少々考えてみる。
基礎体力の強化は、まぁ、なんとなく想像がつく。
オラクル細胞投与によって身体能力はかなり強化されているだろうが、それらを扱う体力がなければ意味がない。ゲームでは今一何をしたのかよく分からないものだったが、現実として考えると、何よりも重要な訓練だと思う。
基本戦術の習得は、ゲームでいうスタングレネードを使ったのとか、部位破壊とかバーストモードのチュートリアルだろう。
訓練用の動かないヴァジュラに攻撃を当てて結合崩壊をさせてみたりとか、バーストモードによって身体能力が上がった時点での闘い方などが学べるはず。確かに、ゲームと違ってアラガミを倒すのに精一杯なら、一々全部位結合崩壊なんて考えてられない。
それなら、一番攻撃が良く通る場所は知っとかないといけないだろう。……まぁ、ゲームと同じなら大体の弱点部位や属性、攻撃方法は知ってるが……
各種兵装の扱いは、基本中の基本。
幾ら身体能力が高くても、神機を使わなきゃアラガミは倒せないんだから。
となると、どの組合せが良いかってことだよな…
旧型神機と違って、新型神機はそれぞれの兵装が3種類ずつあり、それらを組み合わせることによって、様々な対応が可能になってくる。
刀身は、ショート、ロング、バスター
銃身は、アサルト、スナイパー、ブラスト
装甲は、バックラー、シールド、タワーシールド
それぞれに秀でた面があり、劣っている面がある。2からはブーストハンマーと、チャージランスとか言うのが増えたみたいだけど…残念ながら発売前にこの世界に来てしまったのでよく知らない。まぁ、恐らくまだこの時点では開発されてなかったんだろうから、考えなくて良いだろう。
疑問なのは、漫画内で見受けられるブーメラン型の神機とかだけど、まぁ、使うつもりはないから良いや。とりあえず、一番安定してるのは、最初の組み合わせでもある、【ロング・アサルト・シールド】の組み合わせだと思うが……
あ、因みに俺がゲームでよく――というか、ほとんど――使っていた組合せは【ショート・スナイパー・バックラー】の軽装装備の組み合わせだ。防御よりも、回避が専門だったな。
……無印の頃なんて、後半になると防御力は有って無い様なものだったから……
そうなると、下手に動作の遅いタワーシールドよりバックラーの方が良かったのだ。出来れば、この世界でもこの組み合わせで行きたいとは思うんだが、これだと一発デカイのを喰らうとすぐ死ぬ可能性が高い。
だから、回避しつつ防御力もある程度有った方が良いから、
≪【ショート・スナイパー・シールド】かな≫
タワーシールドでも良いが、それだと動きが鈍くなる可能性があるので、シールドが良いと思う。貫通特化で、破砕がほぼゼロになってしまうのは分かっているが、
≪スナイパーで遠くから打ち抜く方が安全だし≫
ブラストを使って誤射姫の仲間入りはしたくない。ゲームだと笑い話?で済んだけど、実際にあんな頻度で爆発を喰らったりすれば死ぬ可能性が高いと思うから……
それに、もしゲーム通りに進んだとしたら、ウロヴォロスの単独討伐、なんて言う無茶をやらなければならないのだから、遠距離狙撃に慣れておきたかったりもする。
≪破砕は、ソーマとかブレンダンに任せよう、うん。
銃破砕はカノン…いや、エリックもいるけど、ああ、そう考えるとやっぱり助けた方が良いのか!?≫
とまぁ、俺が勝手に今後の方針を頭の中で決めているうちに、
「今までは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。
ツバキさんの話が佳境に入っていた。
つまらないことで死にたくなければ、私の命令には全てYESで答えろ、いいな?」
ゲームでは最初のシーンだったため、全くもって実感が湧かなかったが、今なら分かる。アラガミに喰われる人たちを目の前で見ながら、隠れている自分をどれだけ情けなく思ったか。必死に助けを求めてくる人たちを振り切って逃げた自分をどれだけ責めたことか。けど、今ならそんな人たちを助けることができる。
それが、ツバキさんの言葉で改めて分かったから、
「はい!!」
今迄にないぐらい力強く返事を返すことが出来た。
「はい!」
コウタも若干空回りしている節はあるものの、元気よく返事を返している。ここで変に弱い返事を返すよりは全然マシだ。
そんな新人二人の力強い返事にツバキさんはある程度満足そうに頷きつつ、
「よし、いい返事だ。
早速メディカルチェックを始めるぞ」
次の指示を矢継ぎ早に口にしていく。時間が詰まっているのは事実のようだ。
俺の方を見ながら、
「まずはお前だ。
ペイラー・サカキ博士の部屋に一五○○までに集まる様に」
そう言ってくる。
「はい」
「それまで、この施設を見回っておけ。
今日からお前らが世話になるフェンリル極東支部、通称【アナグラ】だ。
メンバーに挨拶の一つもしておくように」
「はい」
ほんとに“はい”しか言ってないな俺。ツバキさんの影響力がそれだけ凄いってことなんだろうが……
改めて彼女の力強さを感じている俺たちを置いて、ツバキさんは去って行った。
彼女が区画移動用のエレベーターに乗り込み、姿が見えなくなると、
「はぁ~」
気が抜けたのか、コウタはその場に座り込む。
「おっかね~人だな。
こう、いかにも軍人って感じでさ」
「まぁ、そりゃそうだろ。
新人担当の教官が優しくても駄目だろうし」
これでカノンみたいな性格の人が教官だったとしたらそれはそれで逆に怖い。
「というか、コウタ、人の、それも上官の話はちゃんと聞くべきだぞ?
体反らすなんてどうしたんだ…?」
分かってはいるけど、一応聞いておく。
「だって、あの胸で、あの服装だぞ!?
クウヤは何も感じなかったのかよ!?」
座ったままだけど、興奮した様子で熱く語り始める藤木少年。周囲に誰もいないから良いけど、ここにもしもアリサがいたら凄まじい勢いで引かれてるぞお前。
「勿論、気にはなったさ。
けどそれ以上に気になるところがあったからな!!」
それに便乗する俺も俺か……
「それ以上!?
あの谷間以上に気になる所なんてあったのかよ!?」
俺の言葉に驚愕するコウタ。
フフフ、まだまだ甘いなコウタよ。そんなんではこの【アナグラ】の女性陣と付き合っていく――別に男女の関係ではなく――など不可能だ!!
「そう、それはあのボトムスの両側だ!!」
「なん、だってぇ~!?」
「フフ、胸元にばかり視線が行っていて気付かないとはまだまだだな」
驚くコウタにそのまま、前述したツバキさんの服の素晴らしさについて熱く語って聞かせてやる。そう、雨宮ツバキちゃん、【ツケテナイしハイテナイ論】である。………いや、アリサもそうだけどさ。
それがどれだけ世の男子に素晴らしい夢を与えてくれるのかについても。
「そ、そうか、目の前にあった“あれ”は囮で本命は…」
「そう、決して見せない露出プレイにある!!」
本命に見える囮だからこそ誤魔化されるが、まず間違いなく上は囮で下が本命だ!!
女子に聞かれたらほぼ間違いなくドン引きされるであろうトーク。そして、ツバキさんが聞いたらまず間違いなくぶち殺されるであろう背筋が凍りつく恐怖感。昼間っから【アナグラ】のエントランスで何してるんだろうな、俺たちは。
「フッ、分かったらそれで良い」
震えるコウタを見据えながらも、本当はもっと話していたかったが、流石にいい加減人が来るだろうと思い、無駄に格好つけて話を切り上げる。
「俺はそろそろ行くぜ、コウタ、お前はどうする」
「ああ、俺も適当に回ってくるよ」
「そうか、じゃあ後でな」
「おう!!」
互いに右手を挙げて、更に親指も立てる。出会って僅か1時間も経っていないが、掛け替えのない友を手に入れることが出来たぜ!!
そんな充実感を感じながら、俺はエレベーターを使ってそれぞれのフロアに移動することにした。
ただ今の時刻一三○○
博士の部屋に行くまで後2時間程度はある。さぁて、どっから巡ろうかな。
実際、ツバキさんのあの服は一体どうなっているのやら……
NPCとして連れていくときは完全防御なのに、教官になったらあんなにエロくなるなんて。