とある魔術の絶対値数(スカラオペレート)   作:Ωウエポン

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行間 ‐ 1

 

 

 

 学園都市には窓のないビルという建物がある。

 そして文字どおり、その建物には窓も、ドアも、階段も、エレベーターも、通路もない。

 

 建物としては役に立たない、あるいは機能しない筈のビルは大能力者(レベル4)である空間移動(テレポート)がなければ入ることが出来ない。

 

 だが窓のないビルは核シェルターを優に越す強度を誇る演算型・衝撃拡散複合素材(カリキュレイト=フォートレス)で出来た最高の要塞だった。

 

 その内部の部屋では奇妙な電子音とも言える物が鳴り響く。

 部屋の四方の壁はある種のプラネタリウムの様にモニタやボタンが光り、幻想的なでもありながら不気味さを出している。

 反対に、部屋の床は数万と及ぶ電子機器から這い出したコード、ケーブル、チューブが乱雑に、またあるところでは規則正しく並び、まるで血管の様に中央に集まっていた。

 

「ふむ……」

 

 そしてその部屋の中央で緑色の手術衣を着て、弱アルカリ性培養液に満たされた巨大ビーカーの中に逆さに浮いている、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』。

 

(それぞれが生誕、合流し16年。また、かのモノが堕ちてはや17年の月日か……)

 

 学園都市統括理事長、アレイスターは出るはずがない場所から出てきたオレンジ色の空間が基板の液晶、複数のモニタを使って理科の実験の様に観察をする。

 

(まゆ)に籠るのも、その羽の鱗片はどう動くものか、スリルという不安はあるがな)

 

 だがその思考に対して楽しげに笑う。そして観察対象、モニタに映るそれは『ヒト』に違いはなかった。

 

 

 

『世話しないな。もう一つのプランを設け、そこまでして“陥落した座席に侍る者”が欲しいか、アレイスター』

 

 

 その声には、今、語り掛けられる側以外は違和感を覚える。

 はっきりとだが聞こえるが従来の法則とは違い、最もポピュラーな伝達手段とする空気の振動を必要とはせず、また声の主は能力者ではないことを、今、語り掛けられる側は知っている。

 

「……こうまでして彼を観察するのは何時ものことだ。それにプランの興は未《ま》だだ。この件に突然あなたが出てくるのは早い。いや、そもそも場違いではないかな」

 そんな突然の発言にも慣れたかの様に返答する。

 

『そこに問題は見当たらない。私が現出するのは価値と興味が沸いた時のみだ。知っているだろう? まあ、今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()()がな』

 

 これは、簡単に言えば意志疎通。学園都市統括理事長ですら敬意を表す『あなた』というモノの存在はここにはない。

 

『此を考えると、十字教はイエスとモーゼ……いや、五書を混ぜたことからソロモンの時代より可笑しくなりはじめたな。四大属性の歪み以前に深刻か』

 

「例えるなら、『神の火(ウリエル)』が該当するか」

と、アレイスターは火が、水が、風が、土が、四大属性が歪み、世界が危機的状況に陥りつつある……、それをさらりと受け流し、言う。

 

「あれは元々タナハの領域だ。根となる旧教(カトリック)は知らず知らずの内に使っているようだが――」

 正式では、ユダヤ神秘主義の崇拝する大天使だった。

「――、この件に関してもそれが言えたな」

 

 そう言いながらオレンジ色の基板で浮かび上がる液晶の画面が変わり、多くの少年のみが掲載されてあるリストが出てくる。

 それは、一人一人が、学園都市に居る生徒ではなかった。

 

 

「十字教内の一部、完全なる知性主義(グノーシズム)英国非公開団体(フリーメイソンリー)陰謀論の秘密結社(イルミナティ)の一部は漕ぎ着け、後釜となる者を捜している」

 

 だが、それも暗中模索にしか過ぎないと語尾に呟く様に言い、薄く笑う。

 

『ほう、グノーシスも、か』

「あぁ、あなたが不可解に感じるのもわかる。かの存在に否定的で有りながらも創るのは別ということだ。いかにも異端宗派(マーヴェリック)らしい身勝手な考えだ」

 

 人間に理解できないならば、人間を超えた肉体を手に入れれば良いという人々がいた。

 “人間は精製途中の神であり、己を鍛えあげる事で神の肉体を手に入れ神の業を自在に操る事ができる”と謳い、同宗教側からも危険視されても、その人間の欲望を駆り立てる信仰で信者を増やしてきた。

 それが、完全なる知性主義(グノーシズム)

 

『最後に消える前に言っておこうかアレイスター、――』

 意志疎通のみで語り掛ける側はそう言って、

『――君と私の価値観は違う。現出すれば奴は容赦ない』

 

 そう言われ、学園都市統括理事長は面白いと、少し考えるように黙ってから、

 

「その言葉に返そう。すでに四十万と三千七百十二通りの予備プランを準備し、繊細の注意は払って抜かりはない。それに私以上に進んでいる者などは居ない」

 

 

 そうして会話を終えた後に、フッと何かの概念が消えた。その『人間』以外は誰も居ないはずなのに。

 

 

 

「ふふ……」

 誰も居ない窓のないビルでアレイスターは静かに笑う。

 

(安全過ぎても面白くはない)

 まったく、此処へ来てこれ程に直に出てみたいと思ったことはないな、とアレイスターは考え、

 

(『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の存在を意義する者の証明ほど、危険で、甘い蜜を啜るような感覚からは、私ですら脱け出せないみたいだな)

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 正宗……

 

 

 

「はぁ……、はぁ、クソッ! イッ! …………が、ァ……は……げほッ!」

 

(っんだよ、この……痛み、は……)

 

 時のスカラーを操ったその日の夜……。いや、1日を通り越して現在の時刻は、

 

 深夜の02:43分

 

 全身から来る、考えられないような激痛、関節と関節が音をたてながら削られていくような感覚にみまわれた。

 こんな感覚は正宗にとって初めてだった。無論、時のスカラーを操るのは初めてではなかったが、

 10秒間の間に、自分の体がレールガン――音速の3倍でさえもカタツムリより遅いスピードに見えたのに対して、自分は普通に走るような感覚にするくらいの運動エネルギーや運動量を操っていた。

 

 それは能力の限界などではなく、不意に自分の体の限界を越えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 結局、その日は学校に行くことが出来ずに休むこととなった。

 そして、夕方くらいに同じ寮の住人でもある上条当麻と土御門元春がお見舞いという名の……、

 正宗の貯蓄(お菓子やジュースやカップ麺)を食い荒らしに来たので、痛いのをそっちのけで追い払った。 それでも、授業ノートや配られたプリントを持ってお見舞いに来てくれたのは内心嬉しかった。

 

 正宗の部屋は当麻と土御門の階と同じで、エレベーターから一番遠い隅っこの部屋である。ただ他の部屋と違うのは部屋に窓がもう1つあり通気性がよかった。

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 御坂美琴……

 

「うがあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 お嬢様らしさのカケラもない雄叫びを出しているのにも理由があった。

 

 正宗と出会った次の日の夕方。

 昨日出会った正宗の事を調べるために美琴は早めに常盤台中学の寮に帰ってきていた。

 だがまだ美琴は正宗の名前も能力も知らない。

 そして机の前に座り、パソコンのキーボードを叩いて、

 

 書庫(バンク)

 学園都市の能力者、科学者、警備員の内容が全て載ってある総合データベース。しかしアクセスできるのは一部の風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)だけに限られる。

 と、そんな所に、自身の能力を行使してハッキングをしようとしているのだが、その手を、『守護神(ゴールキーパー)』という、(ちまた)では伝説の凄腕ハッカーに止められて敗北したのであった。

 

「こんのおぉぉぉ!!!!」

 

 決してパソコンが悪いわけではないが、美琴の負けず嫌いの性格からか、とばっちりを受けて今にもパソコンは放り投げられそうだった時、

 

 ガチャッと部屋の扉が開いた。

 

「ただいまですのお姉様」

「おわぁぁ! おお帰り黒子!」

 

いきなり同居人(ルームメート)で後輩である白井黒子が帰ってきたので慌ててパソコンを下ろした。擬人的に、た、助かった~とパソコンはいうのであった。

 

「はぁ~……、お姉様!」

 

「へ!? ななな何?」

 

 突然の黒子の帰宅、突然の呼び出しに美琴の心は動揺していたのでこんな声になった。

 

「今日はアンチスキルとの合同会議がありましたのよ」

 

「ふ、フゥーン。それで?」

 

「昨日の夜に自動販売機が壊されるのと、その目の前の道路が破壊されたという事件で……『常盤台中学の女の子と、ある少年が破壊した』と言うことが報告されましたの」

 

 ギクッと、美琴は少し肩を震わせて反応してしまった。

 

「やっぱり、昨日のことからお姉様でしたのね……」

 

「あ、あんたまさかバラしたの!?」

「そんなことするはずがありませんわ、黒子はきちんと『お姉様と私は昨日の夜を共にしていました』と伝えておきましたわ」

 

「ご、ごめ~ん、って、何かそれ、変な伝え方なんだけど……」

「お気になさらず」と彼女はとっても裏がありそうな笑顔で言った後「それではお姉様。その殿方のこと何か知りませんの?」

 

「あ……、うん。実はさ、…………」

 

 そうこう話し、大体10分ぐらいたった。

 

 

「……と言うわけなのよ」

 

「それはまさか、お姉様は「負けてない!!!」

 

「いえ、そうではなく、その殿方様に逃げられた……というわけですのね?」

「う、うん……」

 

「名前もわからないんですわよね?」

「し、仕方無いじゃないの! あまりにもデタラメな能力だったから、その……聞くのをそっちのけで勝負しようと……」と言いながら、美琴は段々小さくなっていった。

 

「確かに聞く限りではデタラメな能力ですの。大能力者クラスの炎で道路を溶かし、お姉様の電撃を消し、そして空間移動(テレポート)。まさか『多重能力者』なんて代物が実在、……いえ……でも………」

 

 語る黒子が全てを否定することはなかった。いや、まだできないのだった。御坂美琴以外にも見た人はいた。あの不良たちであった。

 

だが、『殺人事件』や『強盗』の類いではなかったので直ぐに捜査は打ち切られた。詰まる所、この事件は信用性に欠ける不良達が『ウソを言っているのではないか……』ということになり、幕を閉じたのだ。

 警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)が『書庫(バンク)』を捜しても一瞬にして高熱の蒼い炎を出す能力者など居ないのは明らかであったし、溶かした能力者の捜査はしたが、事件の幕が閉じたと同時に捜査を打ち切ってしまい、結局分からなかった。

 もちろん道路が溶けたという証拠だけは残っていた。まるで誰がやったかは分からないが地上に跡形が残る『ミステリーサークル』の様に迷宮入りとなったが、それ程の実力者が『発火能力者(パイロキネシスト)』の中にいる、という噂が広がり

 

 新たな都市伝説

 

 8人目の超能力者――裏のLEVEL5――と言われ始めた。

 

 

 




『大天使:ウリエル』
・その意味は「神の炎」「我が光は神」「神の光」などだが、正典(旧約聖書)には天使として直接含まれておらず、『カトリック教会』では認可されていない。しかしユダヤの神秘主義的文学において重要な天使とされている。
・天使としては、旧約聖書外典『エチオピア語エノク書』『第四エズラ書』、新約聖書外典『ペトロの黙示録』で、その名が言及されている。

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