「お嬢様、何か言い遺すお言葉などはございますでしょうか?」
「えっ、どういうことなの?」
我が家つきの列車の車掌にいきなり変なことを言われて戸惑ってしまう。
なんなの?私死ぬの?というか車掌に止めを刺されるの?
「ご、ごめんなさい、何か気に障るようなことをしてしまったのかしら……?」
「え? ああ、いえいえ。そういうわけではございません。お嬢様にはいつもご贔屓にしてもらっておりますので不満などはございませんとも」
「だったらなんで今みたいな質問を……」
夏休み、ということで我がオカルト研究部は旅行も兼ねて冥界へと向かっている。まあ行き先は私の実家なのだけれど、オカ研の大半は私の眷属なのだから連れてゆくことも吝かではない。それよりも重要なのはそれ以外である二人との仲をもう少し縮めたいという目的であったりするのだ。
今回の小旅行に連れ出して個人的に心の距離を縮めたかったわけだが、あわよくばイッセーにも眷属になってもらいたいという下心がなかったりもするとは断言は出来ない。というかちょっと狙っている。
そもそもが彼の正体が赤竜帝であったわけなのだから、というわけではない。彼のことは嫌いでは無いしライザーのことに関しては若干の恩もある。そして彼は自他共に認める女好きであるらしいのだから、肉体的には一番成熟している(というよりは抜きん出ている)私か朱乃あたりに好意を抱いていてもおかしくないはずなのだ。それならば、未だどこの所属にもなっていないのならば、一番近しいであろう私が彼を所有していたとしても問題は無いはずだ。そのはず、なのだ。
――なんであの子は私たちにアプローチを微塵も仕掛けないわけ!?
女の子が好きだというのは間違っていないはず。小猫やアーシアにも相応に対応しているし、時にはエッチなネタも振っていたりする。そういうときは相手が嫌がらなければセクハラではないから、適度な対応のできる小猫に、時に困惑しつつも受け入れ態勢もあるけれど若干意味のわかっていない様子のアーシアとの仲は中々良好に見える。……実はギャスパーにもそういうことをしていて距離が近かったらしいというのも驚きだけど、まあそれは今はいい。そもそもそういう距離感を測り兼ねている所謂草食系男子とは違う、という部分はノーマル系むしろ男性的といえば男性的で女子に興味を持っているのならば問題はありません、って指南書にも載っていたし。
だったら、一番興味を持つであろう女性の身体が、特に顕著である私や朱乃にそのスキンシップをしようとしないのはどういうわけなのか。ライザーみたいなどろどろのハーレムをぐいぐい作り出そうなんていう性格で無いことは好印象なのだけど、普通に眼中にありません、みたいに言われているみたいで正直不満が残るのよね。
その原因を考えてみたのだけど、やはり距離感が遠いんじゃないかっていう結論に達したわ。
そこで前々から企画していた実家への招待を兼ねての小旅行! いつもとは違う空気を味わせつつ開放的になった彼の積極性を私たちが受け入れることで心の距離だってぐーんと縮まる!
なんて完璧な計画! さすがは恋の指南書! しっかりと読み解いた甲斐があったというものだわ!
そうして冥界へと行ける列車でイッセーは珍しくテンションが上がっていたみたいだし(なんか列車での旅行ということでちょっと困惑していたみたいだけど、どうしてかしら?)、計画通りと心の中で呟きつつ普段は近寄らせてもらえないような彼の隣というレア席もゲットできたしもう万々歳!
と、いうところで列車は急停止。
慣性に投げ出された私が彼に覆いかぶさってしまうという、彼が言うようなラッキースケベ?とかいう展開になったときはドキドキしたけど、イッセーも気にしていなかったみたいだし気を取り直して。
車掌を呼んで原因を問い詰めたところで返ってきたのが冒頭の返答だった。どういうことなのかしら……。
「まず、お嬢様はご存知かもしれませんがこの列車は冥界と地上との次元の狭間である空間を通過します。そこまではよろしいですか?」
「ええ。けど、それと今の台詞とどういう関係が……」
「次元の狭間は今現在原因不明の火災でとんでもないことになっておるのですよ」
「――どういうことなの」
ほっほっほ、と自棄になったみたいに乾いた笑いを発しながら、彼はとんでもないことをのたまっていた。
「次元の狭間の、我々が関わらない深層みたいな部分があるのですがね、言うなれば人間が概念で語るような地獄みたいな部分が。八層くらいになっているとかわたくしめは漫画で読みました」
「そ、そう、なんだか物知りね」
「お褒めに預かり光栄にございます。で、その概念がおそらく次元の狭間にも適応するのではないかと当初は次元の狭間の開拓に勤しんでいたのですよ、我々悪魔も」
正直初耳すぎるけれど、所詮私は地上に住まう身だし、話題を持ってこられなくても仕方ないのかもしれない。彼の言葉を止めることなく、無言で続きを促す。
「深層の部分に繋がったのでしょうなぁー……。以来時たまとんでもない影響が表層でしかない此処とか使い魔の森とかに出るわけです」
「それが、火災?」
「はい。まあ百聞は一見にしかず、ちょいとご覧ください」
そうして締め切りの窓を開いて見て、
――絶句した。
列車の周りをぐるりと、壁のように大きく空すら覆い兼ねない炎で囲まれていたのだ。
列車とは距離はあるけれど、その炎の壁が徐々に近づいてきているし、遠いはずなのに余波で肌がちりちりと炙られているみたいな感覚に恐怖すら覚える。
炎炎炎炎炎炎炎炎
炎 炎
炎 列車 炎
炎 炎
炎炎炎炎炎炎炎炎
↑図にするとこんな感じで……。
……あれっ、もう詰んでない?これ?
「――とまあ、こんな状態が時たま」
「ちょ、なんでそんなに暢気にしてられるの!?」
普通に逃げ場が無いってどういうこと!?
「大丈夫でございますよお嬢様」
「何処が……! って、ああ、助かるのね……。よかったわ……」
そうね、考えてみれば彼はこういう事態に何度も遭遇しているっぽいし、きっと生き延びる方法が――、
「紙と墨と硯はサービスでご用意できますので」
「遺書ってこと!?」
火に巻かれたら一緒に消し炭になるわよねそれ!?
「落ちついてリアス、こういうときこそ貴女の魔力の出番ではないかしら?」
「そ、そうね! だ、大丈夫よ、落ち着きなさいリアス=グレモリー、グレモリーはうろたえない! 今こそ滅びの魔力であの炎たちを逆に消し去って……!」
「いえお嬢様、調査の為にあの火災の原因を探りに行ったフェニックスの次男様が一歩足を踏み入れた瞬間に煤に変わってその場で復活するたびに煤になり続けていて助けだすことも出来ない状況になっているという噂もございます」
「不死鳥を殺す火ってどういうこと!?」
もう駄目だわ……。
さすがに誰もが己の死を自覚できたのだろう。祐斗は呆然と炎の壁を見詰めて乾いたような笑いを浮かべて、ギャスパーはダンボールの中に納まってがたがた震えている。朱乃は震えている小猫をあやすように抱きしめて……、こんなときにも発揮される母性というのはある意味凄いわね。
「……悪魔になっても火事は怖いのか?」
「悪魔だとしても死ぬときは死ぬのよ、覚えておきなさいゼノヴィア。……もう意味なんて無いかもしれないけど……」
「そうか。困ったな」
マイペースね貴女は……!?
「ごめんなさい、私が貴方たちを旅行になんて連れ出さなければこんなことには……って、あら? イッセーとアーシアは?」
気がつくと二人の姿が消えていた。
……そうね、こんなときだからこそ、二人っきりでいたいとか、そういう風に考えるのかもしれないわね。あーあ……、私も素敵な彼氏とか、ほしかったなぁ……。
「二人なら真っ先に外へと出て行ったが?」
「止めなさいよ!?」
さすがに自殺は駄目でしょ!?
☆ ★ ☆ ★ ☆
出て行ったという場所を聞くと列車の屋根の上だと聞いた。
続くはしごを登り、天板を開けると正面へと目を向ける二人の姿がそこにあった。
「ペルソナ! タカマチナノハ!」
以前に見たとてつもない魔砲を放つ、サイドテールに白い何かの制服みたいなロングスカートを着たアーシアへと姿を変える。一緒にあらわれた機械的な杖を上へと向けると、
「受けてみて!デイバインバスターのバリエーション!」
ゴッ! と周囲の炎が見る見るうちにアーシアの杖先へと集まってゆく。
――まさか、それを撃つつもり? でも――、
「――っ無理です!さすがに全部は収束し切れません!私の制御力じゃ打ち抜ける威力には全然足りてません!」
そう。集められた炎は欠片程度しかない。
炎の壁、いや炎の囲いの全体の1パーセント程度しか集まって無いのだ。
「いや、それでいいんだ。アーシア、それを俺に向けて撃て!」
イッセーの言葉に驚き、剣を構えた彼の方を見、
「バスター!」
――って、一瞬の逡巡もなくぶっ放した!?
「紅蓮剣!」
でもそれを切り裂いた!
し、心臓に悪いわ……。
というか、今のやり取りの意味は何? 炎を切り裂ける威力を出せる剣戟なのは凄いけれど、炎の量的にそれですらすずめの涙に思えてくるし……。
『――覚えた』
不意に、剣がしゃべった。
「よし、なら問題ないな。いくぞ」
『ああ、任せろ相棒』
何かを確認しあうイッセーと剣。その剣をイッセーは前へと構え、
『卍、解!!!』
えぇ!? 此処であの鎧になる――って、違う?
イッセーの姿は変わってない。変わったのは剣のほうだった。
なんだか刀身が真っ赤に染まっていて、今までよりも凶悪な威圧感を醸し出している……。なんなの、あれは……? この私が、恐怖をあの剣自体に感じているというの……?
「紅蓮龍牙帝の剣」
変化した、いいえ、生まれ直したその剣を、イッセーは高く振り上げて――、
「一刀一剛力――、108煩悩(ポンド)砲!」
そう叫んで前へと、炎の壁へと向けて剣を振り下ろす。
――次の瞬間には炎の壁は消し払われて、冥界へと続く列車の線路が残るだけだった。
「――いや、今のどう見ても月牙天衝でしょ」
遅れてやってきた祐人がそう呟いたけど、窮地を救ってくれた彼の後ろ姿に見惚れる私にとっては実にどうでもいいことでしかなかったという。
☆ ★ ☆ ★ ☆
オカルト研究部の小旅行に誘われる俺とアーシア。正直嫌な予感がびんびんに感じたのだが。連れ出された先で乱●パーティとかいう可能性が無きにしも非ずでちょっとだけ引きかけたのが俺である。あとは見も知らぬ土地に連れ出されて……崖下へ突き落とされる?船越さんの出番だな!ちょっとしたミステリーツアーみたいな雰囲気に充てられたアーシアを見捨てることは出来ず、ブルーシートとヘッドライトとスコップとロープと軍手を誰も所持していないことを確認しつつ列車にて出発する俺たち。……行き先は冥界?つまりは地獄?生きたまま地獄へ連れ出されるとか番人であるはずの由美子さんはナニヲシテルンダ。というか列車で行ける地獄ってなんだ。地続きなの?どういうツッコミを入れるべきか迷ったが発車してしまった今となっては時既に時間切れ。開き直ってヒャッハーしてやるぜヒャッハー!
ぽよんぽよんな爆乳を押し当てられるというラッキースケベに珍しくも遭遇してしまいどっきどきな俺を他所になんだか外が大変なことになっているらしい。火に囲まれた?ん?此処が次元の狭間?……思い当たる節が若干ある。あと小猫の弱点が火であるとかで普段以上にガクブルな彼女に申し訳が立たないので、俺が処理をするつもりで外へと出る。マハラギダインでも当てようか?………………。更に凶悪な威力となって襲い掛かる炎に頭を抱えて蹲る。手加減がいけなかったのか?でもあんまり強すぎると到着地点も消し炭となるしぃ……。そこにアーシアが登場。節制のペルソナで火を集められないかと問いかける。――。全部は無理みたいだ。――っティンときた!今こそ第一の卍解の出番!
『説明しよう!紅蓮龍牙帝の剣とは!封印される
その後、車内に戻ってみたらやたらともじもじしているリアス先輩がなんだか可愛らしかったのが驚きであったりする。……今更さっきのエロハプニングを恥ずかしがってるのか?どうやら本気で男慣れしていない乙女らしかった。なんだか学園中に蔓延っている両刀使いの噂の出所が俺であるとは、今更言い出せなくて申し訳が立たなくなってきた……。やめて!そんなに恥ずかしそうな仕草を見せないで!何気に普通の乙女の反応に慣れていなかったらしい、こんな新たな自分なんて知りたくなかったYO!
予想外に長くなった
あれ?これ赤竜亭であってるよね・・・?