【完結】D.Gray-man ー太陽ノ聖女ー   作:春風駘蕩

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2.禁断の力

「なんで……なんでG4が……⁉︎」

 突如現れた黒塗りのトラック、そしてそこから降りてきた黒い戦士を目の当たりにし、表情を強張らせたセレナが無線越しに声を上げる。声は明らかに震えていて、ひどく動揺していることがわかった。

『セレナさん、あれは一体……?』

 様子がおかしい上司の声にトラッシュは無線越しに尋ねるが、セレナは動揺したまま答えを返してくれない。カメラ越しに目の前に現れた存在が信じられないようで、その姿を凝視しながら「ありえない」「どうして」などとぶつぶつ呟いている。

 そんな状況では指示を仰ぐこともできず、トラッシュはオペレーターの助力なしでアンノウンたちに立ち向かわねばならなくなり、仮面の下で冷や汗を流した。

『ーーーフッ』

 一方、現れたG4は集っているアンノウンたちを見やると小さく鼻で笑い、太もものホルスターからG3-Xと同じ小銃を抜くと片手で構える。照準を瞬時に絞ったG4は近づいてくるアンノウンたちに次々に脳天貫(ヘッドショット)をお見舞いしていった。

「キシャァァ⁉︎」

 正確な射撃を食らったアンノウンたちは、G4に向かいながらつんのめったように足を止め、そのままガクリと膝をついてうなだれ、頭上に天使の輪を出現させる。G4は一発たりとも外すことなく迫ってきていたアンノウンたちの眉間を貫き、一瞬のうちに爆散させてしまった。

 続いてG4は小銃をしまって自らアンノウンの群れへと近づいていく。ズシンズシンと重い足が地面を踏み砕き、浅く足跡をつけていく。

 警戒心をあらわにし、距離を取ろうとジリジリ後退していたアンノウンたちだったが、G4が踏み込み、一気に接近してきたことでその足は止められた。

 一瞬で目前にまで迫ったG4が拳を振りかぶり、アンノウンの鼻先へと放つ。体重の乗せられた拳撃はアンノウンの顔面を陥没させ、一撃で硬い外殻を貫いて沈黙させる。殴られたアンノウンは大きく吹き飛ばされた。

 G3-Xはその光景に、装着者の実力の高さを感じて戦慄する。

 今の所、G4とかいうあの武装のスペックは確かにG3-Xを超えていることは測れたが、それはあくまで武器の性能。使う人間によって結果は変わるものだ。

 それをあの戦士は、完全に使いこなしている。ただでさえ強力で、暴走する可能性すらある武装の性能を余すところなく発揮し、圧倒的な破壊力を見せつけていた。味方であることは確かだが、恐怖すら感じる力を振るっていた。

 単純な素手での戦闘にて、暴れまわるG4。そこへ、運んできた黒塗りトラックの荷台から何かが落とされた。

 事前に指示を受けていたらしいG4は、トラックの下に戻ってそれを受け取る。白く塗られた、円筒状の物体が四つ備えられた武器をG4は軽々と担ぎ、アンノウンたちに照準を合わせた。

 ギガントと呼ばれるミサイルランチャーを構えたG4が、その脅威を勘で察して逃げ始めるアンノウンたちに向けて、無慈悲にもトリガーを引いた。

 ギガントのミサイルの一機が後部から火を噴き、ドシュッと音を立ててアンノウンたちに向かって飛行する。ちょうどよく、他よりも先に逃げようとした為か港の出口で塊になっていたアンノウンたちに、ミサイルの弾頭が衝突した、次の瞬間。

 ーーーズドォォォン‼︎

 凄まじい轟音とともに爆炎と衝撃波が発生し、あらゆるものを吹き飛ばした。地面にも衝撃は走り、小規模の地震のようにあたりを揺らして地割れを生じさせた。

 アレンたちもその余波を受け、爆炎の眩しさに顔を覆いながら戦慄の表情を浮かべる。

 ようやく風が収まり、爆炎が上がる方を見てみればさらにアレンたちは目を見開くことになる。

 爆炎の下には、何も残っていなかった。クレーターのように深いくぼみが生まれ、マグマのように地面が高熱で熱されてドロドロに溶けている。当然、ミサイルの直撃を受けたアンノウンたちは塵一つ残ってなどいなかった。

「……なんて、威力だ」

 燃える地面を見ながら、唾を飲み込んだアレンが呆然と呟く。G3-Xの武器も大概に思えたが、あの黒い戦士の武装はそれをはるかに超える力を持っている。

 ふとアレンは、傍で警戒している緑の怪人の方を不安げな表情で振り返った。

 ジャックも同じことを考えているようで、凄まじい力を持った黒い戦士の方をじっと見つめたまま動かない。現状で下手に動けば狙われると思い、逃走する時期を見計らっているようだった。

 するとその考えが伝わってしまったのか、G4はゆっくりと敵の位置から視線を外し、ジャックの方へと向けた。同時にその手が、太もものホルスターの方へと伸ばされていく。

「ヴァーーー」

 自身に向けられた視線にいち早く気づいたジャックは、仮面の下で大きく目を見開くと即座に離脱しようと両足に力を込めて身構える。しかしそこから跳躍し、逃走しようと動いた時。

 ガンッ、と凄まじい轟音が鳴り響いたと思った直後、空中に翠色の破片と赤い雫が飛び散っていた。

「ーーー⁉︎」

 ジャックは言葉を失い、破片と液体、そして視界に入る青空を思わず凝視してしまう。

 目に映るものが何かわからず、混乱したまま後ろから引っ張られていく体の感覚に呆然となる。引っ張られているのではなく、跳ね飛ばされた体が地面に落ちて行こうとしていたのだと理解したのは、背中から激しく打ち付けられた時であった。

「ヴァッ、ヴァアアア‼︎」

 ジャックは地面で転がりながら、自分の胸に襲い掛かる激痛にのたうちまわる。外殻を砕かれ肉を抉られた怪人は、これまで受けたことがない痛みに血反吐を吐いて苦しむ。

 撃たれた。そう理解するよりも早く、ジャックは激痛の走る体に鞭を打って体を転がし、G4の追撃の射撃をかろうじて避ける。

 しかしG4の射撃の腕は凄まじく、超人的なジャックの動きを先読みしてほとんど外すことなく命中させてしまう。たった数秒のうちに、ジャックの体には無数の銃瘡が刻まれ、おびただしい量の血が噴き出した。

「シェリッ………ジャック‼︎」

 銃弾を受ける恩人にアレンが悲鳴のような声をあげる。一瞬だけ本名を呼びそうになるも、G3-Xが警察の人間であることを思い出してすぐに言い直す。

「アレンくん……! またこんなところに‼︎」

 つい最近会って忠告したばかりの青年が、再び危険な場所にきていることにようやく気づいたトラッシュは仮面の下で顔をしかめる。

 しかし現状では保護するわけにはいかない。G4がはたして味方かどうかわからないのにこの状況に介入して良いものか、若干混乱しているトラッシュには判断がつけられなかった。

 全身に傷を受け、ジャックはがくりとその場に膝をつく。ポタポタと血が地面に滴り落ち、みるみるうちに大きな水溜りを作っていく。その度にジャックの呼吸は荒くなっていき、逆に体の動きは鈍くなっていった。

 G4はジャックの前まで無言で歩み寄ると、ジャックの眉間に向かって小銃を突きつける。グリッと狙いを外すことがないようめり込ませるように押し付け、無理やり顔を上げさせると引き金に指をかけていく。

 ジャックは失血で朦朧としているのか、反応することもできずにいた。

「やめろ!」

 突然の事態に呆けていたアレンはハッと表情を変え、ジャックに加勢しようとイノセンスを振るう。ジャックが敵と思われているのは確かだが、幾ら何でもこれでは一方的すぎる。

 しかし本気の力を込めた一撃は、G4に片腕の防御で止められ、逆に鉤爪を掴まれて引き寄せられる。

「うッ……くっ‼︎」

 常人離れした力で振り回されたアレンは目を見張り、それでも足を踏ん張ってG4を拘束する。銃を持った腕を封じたまま、なんとかジャックから引き剥がそうと鉤爪に力を込める。

 膠着状態が続くと思われた時、鈍い衝撃とともにアレンのイノセンスが急に引き剥がされた。見ればイノセンスの手のひらの部分にG4の拳があり、そこを中心に凹みが生じている。

 不安定な体勢からパンチを繰り出し無理矢理拘束を解いたのだと気づいたときには、アレンの鉤爪は反対にG4に掴まれ、壁に向かって投げ飛ばされていた。

「うわっ⁉︎」

 背中から激突したアレンは壁に放射状の亀裂を走らせ、そのまま地面に倒れ伏す。イノセンスを盾にすることもできず、岩の塊を直接ぶつけられたかのような激痛を味わうこととなった。

「アレンくん!」

 思わず駆け寄ろうとするトラッシュ。だが一歩踏み出そうとした彼の目前の地面に向けてG4は銃を撃ち、それ以上の接近を許さない。

 G4は再びアレンの方を向くと、ふらふらと立ち上がろうとしているアレンに向かって銃口を向ける。敵を全て葬るという命令を忠実に全うする機械のような動きの前に、負傷したアレンは呻き声を上げたまま動けずにいた。

 殺される。

 そう分かったアレンが最初に考えたことは、ジャックが今無事であるかどうかだった。

「ヴァアアア‼︎」

 しかしその時だった。引き金を引こうとしていたG4とアレンの間に、黒い影が割って入って来たのだ。血まみれで息も乱れた翠の怪人が、我が身を顧みることなくアレンを背中にかばったのだ。

 銃口の前に、ジャックが咆哮をあげて立ち塞がる。だがそれを意に介する様子もなく、G4は無言のまま引き金を引いた。

 無情にも放たれた銃弾の雨、それらは寸分たがわずジャックの体を貫き、無数の穴を開けていく。

「ヴァッ、ヴァゥッ……ヴァアアアアア‼︎」

 アレンの前に颯爽と立ち塞がったジャックの仮面の中心に、G4が放った銃弾が食らいつき貫いていく。

 言葉を失ったアレンの目の前で、銃弾を受けたジャックの体がグラグラと揺れ、あたりに血飛沫が飛び散っていく。腕に、足に、背中に穴が開き、後ろにいるアレンにも鮮血が浴びせられる。

「ーーーヴァ、ぁ」

 呻き声を漏らし、ジャックは荒い呼吸のままなおもアレンの盾となり続ける。ジャックはすでに満身創痍となりながらも、決してアレンの前からは退くことはなく、膝をつくこともない。大量に失血して意識も朦朧としているはずなのに、ガクガクと震える足で立ち続け、アレンを守ろうとしていた。

 誰がどう見ても、そこにいるのは人殺しの化け物などではない。

 人を守ろうと抗い続ける、一人の戦士だ。

「シェリーさん……やはりあなたは……!」

 アレンは悲痛げに表情を歪め、ジャックを見上げる。やはりこの人は人間の敵などではない、人を守るために命だって投げ出すほどに優しい人だ。一瞬でも、狂気を隠した殺人鬼なのではないかと疑った自分が恥ずかしくてならない。

 だとすればこのまま守られたままではいられない。一刻も早く負傷した彼女を下がらせ、G4から逃れなければ。あまりにも多くの血を失った彼女を離脱させて手当てをしなければ、命に関わる。

 アレンの声に反応したのか、それとも無事を確認しようとしたのか、ジャックは今にも倒れそうになりながらゆっくりと振り向いていく。壊れた機械のようにぎこちなく、赤い目がアレンの方へと向けられていく。

 だがその時、聞きなれない声がその場にいた全員の耳に届いた。

『ーーーやりなさい、仕留めるのよ』

 女の声が、G4のヘルメットに装着された通信機から漏れ聞こえた。まるで誰かにゴミの処理を命じるような、感情一つ感じさせない冷たい声で、女の声はG4に向かって命じた。

「え…………?」

 トラッシュはその声を、つい最近に聞いた覚えがあった。わずかな時間ながら、自分に向かって向けられた記憶のある声を思い出し、思わず黒塗りのトラックの方に視線を向ける。

 その直後だった。がんっ、と鈍い音とともに、ジャックの頭部が激しく揺れたのは。

「ーーー⁉︎」

 視線を外していたトラッシュも、呆然としていたアレンも、その光景に言葉を失う。

 体を大きく傾けさせ、のけぞるようにして倒れていくジャック。顔を覆っていた仮面には大きなヒビが入ってくだけ、破片が宙に血液とともに飛び散っていく。

 その向こうに、小銃を構えたG4がいた。煙を上げる銃口をジャックに向けたまま、感情の見えない赤い目を光らせている。撃ったのだ、すでに瀕死の怪人を。

 目を見開くアレンの目の前で、バキン、と。

 硬い殻が砕け、その中からばさりとたくさんの金糸が溢れ出すのが見えた。

 その光景に、誰もが声を失って凍りつく。

「ーーーあ」

 呆けた声が、アレンの口から溢れる。

 金糸の中に覗くのは、思った通りの見知った女性の顔。しかしその顔には、彼女の目と同じ色の液体がこびりついていた。

 思わずアレンが手を広げて迎え入れると、力を失ったシェリーはその中に倒れ込んでくる。異形の鎧を纏った彼女の顔を覗き込むと、虚ろに開かれたその目は何も映してはおらず、虚空に向けられている。

 白い肌には額から流れ落ちた血が付着していて、左右のコメカミには、貫通するかたちで深い穴が開いていた。

「……シェリー、さん?」

 アレンは思わず、腕の中にぐったりと収まっている女性の方を揺らし、目を見つめながら呼びかける。

 だが目から光を失い、多くの血を流した彼女が、アレンの声に答えることはなかった。アレンの腕の中でただの屍のように揺られるままで、血に汚れて乱れた長い金髪を垂らしていた。

「シェリーさん‼︎」

 アレンの声が、硝煙の匂いが漂う港に響き渡って行った。

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