凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第13話

「うぅん……」

頭が重い。

目を覚ますと、そこは青い光以外が暗闇に包まれた部屋だった。

足元から照らされる光以外は何も見えない。

「………ここ…どこ……」

どれほど寝ていたのだろうか。

手足が拘束されてるのだから穏やかな睡眠では無かったとは思うが。

そして足元を覗いてみると、案の定大量の『凍花』が咲いていた。

不快だ。

これがあるから自分は自由に生きられないのだと思うと不快で不快で仕方が無かった。

だが

「…これが無かったら…あの人にも会えなかったのかな」

きっと彼女にも会えなかったのだろう。

そう考えると、不思議と悪くないと少しは思えた。

彼女の胸の中で寝た夜は心地よかった。

また会いたいと思う事ぐらいは

「許してくれるよね。神サマ。」

 

 

 

「この辺りかしら。」

練融は森の入口近くに降り立ち、2人を待った。

 

 

数分待ってみたが来ないので、向こうが見つけてくれるだろう、と安楽的な思考のまま、散策を開始した。

「…なんで桜が…」

一言で言うと季節外れ。

季節もう時期夏に差し掛かるというのに、桜が咲いていた。

「考えられるのは核炎達だけど…する意味が無いわね。ただの偶然かしら…」

考えるだけ無駄か、と思考を止め、奥に進む。

 

それからは特に何事も無かったが、時折焼けた枯葉や、無残に殺された野兎などが転がっており、あまり見るのに気は進まなかった。

その時、

「練融。」

「やっと見つけた。見つからなかったらどうしようかと思ったんだから。」

「見つけてくれると思ってね。ごめんなさいな。」

「もう…ねぇ、あの桜見た?なんで咲いてるの?」

「そうよ。もうすぐ夏よ?」

「私に聞かれてもなぁ…」

どう返したらいいのか。

「よう。ねーさん達。」

「こんにち…え?」

誰だ?

 

 

 

「まだ抜けないの?この森…」

「思った以上に大きいな。この森。」

「足疲れたー。」

「飛べばいいじゃろうて。」

「そっちの方が疲れるの!」

「文句ばっかりだな……」

ぎゃあぎゃあと口論を交わしている核炎と殲撃を横目に、滅創は先を進む。

2人の声が聞こえない当たりまで進むと、別の音が聞こえてきた。

「…歌?」

 

 

 

「誰…か。」

「…なんかまた変なやつにあった気がするぞ。」

「………」

2人は気づいていないようだが、練融は気づいていた。

この男の金髪の間にある1本の茶髪。

即ち同族。

「特に名乗るような名前は無いんだけどな、俺には。」

「なんでもいいけど…何か用?」

「おぉ。そうだったそうだった。ねーさん達、超越者だろ?」

一瞬にして張り詰める空気。

「…何故それを?」

「んー?俺もだからだよ。」

ヘラっと笑う青年の目は全く笑っていない。

「核炎…の知り合いか何か?」

「…核炎…?なんでお前が……や、何かやらかしたとか…いやでもこいつは…」

ブツブツとなにか呟いているが、小さすぎて何も聞こえない。

「ねぇ。どうなの?」

痺れを切らした天癒が苛立ちを隠さずに問い返す。

「ん?あぁ。まぁ知り合いっちゃ知り合いなんだが━━」

「じゃあ特に教えることも聞くことも無いわ。」

風弓はコアを弓に変え、天癒は空を飛ぶ。練融もサポートに回れる程度には体に力を入れる。

「なんでこうなんのかなぁ…はぁ、まあいいや。」

肩から下げていた三味線の様な楽器を手に持つ。

それが奏でられるのと風弓の矢が放たれるのはほぼ同時。

「『月堕矢』」

「『狂奏曲』」

あとコンマ数秒で彼に突き刺さろうとしていた矢は宙で止まり、地面に落ちた。

そして鳴り響く不協和音。

「『篭目 篭目 籠の中の鳥は 何時何時出会う 』」

「『夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの少女 だァれッ』!!!」

耳が割れるような声量と、思わず耳を塞いでしまう轟音。

歌を歌い、楽器を引き鳴らしながら姿を消した━━━否。

背後に回られた。

「ねーさん達には勝てないと思うからさ。まずは1番めんどい君から殺るね。」

風弓の背中にナイフが突き立てられる。

「見たところ攻撃してきそうなのは君だけだし、用事も出来た。じゃあな。」

そう言い残し、颯爽と姿を消した。

 

 

「傷は浅いわ。これならすぐに癒せる。」

「そう、良かったわ。」

刺された箇所は筋肉のみで、神経は傷つけられていないようだ。

「痛いのに良かったとか言われても複雑なんですけど!!」

頬を膨らませながらそう講義する風弓に

「死なないよりはマシでしょう?」

と練融が冷静な言葉を掛ける。

「それに、核炎とも知り合いのようだし…一筋縄で行くような相手じゃないことは確かでしょう。」

「そうよ。特にあの歌。何なのよ。耳がおかしくなるかと思ったわ。」

「矢も刺さらなかったし、とことん頭おかしい奴ばっかね。天然モノは。」

 

 

 

「歌?」

「聞こえんか?」

うっすらと人のような声が聞こえなくもないが、自分にはわからなかった。

「ならそっちに行ってみる?」

「そうじゃな。罠かもしれんが、他に手掛かりは無いしな。」

「罠なんて踏んでからぶっ壊せばいいのよ!!」

ふふん、と胸を張る。

何故か2人が呆れたような視線を向けてくるが、気にせずに進むとしよう。

 

数分程掛けて声がする(らしい)方向に進んでみたが

「でもいくら歩いても歌なんて聞こえな、い?」

「ん?」

切り株に座っている青年。

「どうした?核炎…誰だお前?」

「え?」

殲撃の声など耳に入らない。

「お前…核炎か?」

「狂…歌……?」

「きょうか?」

「誰じゃ?」

走り出す。

「きょーぉーかーーー!!!!」

「おっと」

あぁ、久々のこの感触。

 

 

「てなわけでこいつの、旦那です。こいつには狂歌と呼ばれてます。」

「こいつって言わないで!!」

「はいはい。」

「…開いた口が塞がらないというのはこういう事を言うんだな。滅創。」

「……うむ。」

核炎に伴侶が居たとは思わなかった。

というかこんな奴を好きになる物好きが

「なんか失礼な事考えてない?」

「いえ何も。」

無駄に鋭い。

そして笑顔が怖い。

「あ、もちろん超越者です。あんたらとは違う所で育ったけど。」

「なるほど。それで見覚えがない訳じゃ。」

「あんたは?」

「滅創。一応集落があった頃は長老だったが、今はただの老いぼれじゃ。」

「集落があった?今は。」

「襲撃を受けてな。消し飛んだわ。もうただの森と化しておる。」

「ほーん……」

質問した割には興味が無さそうだ。

「で?ここいらで何してんの?」

「いや、核炎の弟子…氷華を探しておってな。」

「氷華?……どんな字で書く?」

「氷に華じゃが。」

「…ふむ。」

「狂歌?」

何か考え込んでいるが、全くもって検討が付かない。

「あぁ。何も無いよ。ただ珍しい名前だなって。」

笑うと子供のようで、人懐っこさを感じさせる。

「俺もあんたらに付いてってもいいか?」

「いいよ!!!」

「お前には聞いてない」

「なーんーでー!!!」

ぎゃあぎゃあと核炎が騒ぎ出したが、務めて無視して

「儂らは構わんぞ。好きにしろ。」

「あんがとさん。」

「やった!!」

いちいち煩いなこいつ核炎は。

 

 

「華…か。」

 

 

 

 

「んで。アイツはなんなのよ。」

風弓は不機嫌さを隠さずに2人に問う。

「知らないわよ。私だって初めて会ったし。」

「同じく。」

満足のいく答えではない。

「やられてばっかは性にあわないわ!!」

空に飛び立つ。

「あ、どこ行くの!」

「ちょっと散歩!!」

「気をつけて。」

 

 

「散々だわ!ほんとにもう…」

風弓は飛びながら愚痴を吐き続ける。

「私だって弱くないし、1人でも勝てるんだし…!!」

「あ。」

「あ。」

見覚えのある顔が目の前に。

 

 

なんでこいつ核炎とこんなに短期間に何度も会うのだろうか。

「…誰だっけ?」

「…誰でもいいでしょ。」

誤魔化して逃げるか攻撃するか。

だが戦ったところでこいつに勝てるとも思えない。

「ふーん。まぁいいけど。じゃあね。」

…え?

「今あんたに構ってる暇は私には無いの。」

 

 

背中を向けて離れていく核炎を見ていると、無性に悔しくなってきた。

警戒すらされないのがどうしようもなく悔しい。

自分がこいつにとって取るに足らない程の存在だと認めたくない。

「私…だって……!」

気づかれないように、静かにコアを弓に変える。

そして弦を引き絞り

「『光陰矢』」

自分の持つ最速の技で、アイツの心臓を貫いてやる。

 

 

弦を離すと視認出来ないほどの速度で核炎に矢が迫る。

そして奴の左胸を矢が

貫いた。貫けた。

 

「やった…!!!あはは!!油断するからそうなるのよ!!」

自分は弱くはない。奴に通用する技もあるのだ。

奴が強いのなら隙を晒した時に攻撃すればいいだけの話で

「…『あ"ー…い"っだいな"ぁ……』」

 

矢を受けた核炎がこちらを振り向く。

そして刺さったままの矢を

引き抜いた。

「『せっかくあの人に会えたのに、さぁ。』」

そして胸に手を当てる。するとみるみる傷が塞がれていく。

口から血を流し、地面に血の池が出来るほど出血しているというのに。

「『残念。私の弱点ハこっちじゃないの。』」

嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。

「だ、だって!!私は確かに心臓を貫いて…」

「『いつ私ガここに心臓があルって、言った?』」

彼女の声に混ざるノイズのような音。

「『これデ私の体を傷つケたのは2人目。覚悟シナさい。』」

彼女のコアが黒く染まる。

人だけではなく、獣や、機械。色々な声が混ざり、もはや聞き取れない程の雑音と化した彼女の声が問い掛けてくる。

 

 

 

 

「『亜ナたは、ドんナ風に死ニたい可シラ?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞きたくない。

 

 

 




新キャラの狂歌さん登場です。
詳細はまた次回に。
今月中に投稿できれば、と考えています。
では。
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