動悸と冷や汗が同時に襲い掛かってくる。
あれはおかしい。
同族とは、天癒や練融とは違う。
「『今サら怖気づイたノ?あハは葉ッ』」
相も変わらず不気味な声でこちらに語り掛けてくる。
今すぐに逃げたいという衝動に駆られるが、唯一冷静な脳がそれは1番危険だと警笛を鳴らしていた。
恐らく逃げた、いや背中を向けた瞬間殺される。
ならば今するべきことは
「クソッタレっ!!!」
コアと意地を弓に変える。
「ほんで、お主はどこで核炎と会うたんじゃ?」
昼飯を作りながら、滅創が狂歌に問う。
核炎は数十分前に山菜を取りに行ったところだ。
「んーと。数百年前にこことは違う森であいつが倒れてて、それを介抱した。そっからかな。」
「襲撃の時か。アイツが1人になるのにそう時間は掛からんかったろうな…」
「そうだ。その事について聞きたいことがあった。お前ら、襲撃を受けたって言ってたな。」
「言ったが。」
「その時の記憶がある奴は?」
「儂だけじゃよ。核炎もこいつも幼かったじゃろうし、覚えとらんだろ。」
殲撃を指差しながらそう答える。
「ならお前に聞くけど、最後に『咲いた』か?」
その問いを境目に、静寂が場を支配する。
「…何故それを知っている?」
「何故も、どうも、ただ心当たりがあるだけだ。とりあえず俺の質問に答えてくれ。」
「…『咲いた』。が、1輪だけだ。それ以上は咲いていない。」
「そうか。名前は?」
「名前…?確か…黒華。核炎の曽祖父だ。」
「アイツの…色は。」
「赤黒だ。夜だったからな、赤だったかもしれんが。」
そこまで聞いて、ふむ、と狂歌は考え込むような姿勢を取った。
「ん、ぁあ。特にお前らをどうこうするつもりも言いふらすつもりも無い。そこは信用してくれ。」
「儂らとて心配はしておらなんだがな。ところで心当たりとは?」
「他にも『咲いた』奴らを知っていてな。弔いに回ってる。」
少し話が中断されたところで、すかさず殲撃が
「狂歌?だったっけ!あんたの能力ってどんなのなんだ!!?見せてくれよ!」
と大声でまくし立てた。
「そういえば、儂にも興味がある。見せては貰えんかの?」
「はぁ〜?しょーがねぇなぁ〜!」
狂歌は満更でも無さそうな顔をしつつ、そばに立てかけてあった楽器を手に持つ。
狂歌の能力は歌を歌う事で発動する。
だがもちろんただの歌ではなく、呪歌である。
多くは大昔に歌われていた童謡。
童謡や昔話に暗い結末があるものは少なく無く、呪歌には向いているのだ。
そして歌には心を動かす効果がある、というのは身に覚えがあるだろう。
狂歌はその効果を能力によって最大限引き出す事により、相手の精神状態を悪化させたり、硬直させたり、あるいは仲間を鼓舞する事で一時的な興奮状態にし、強化したりする。
「帰ってこないわね。」
「遅いね。何かあったのかな。」
「探しましょうか。」
と練融が岩から腰を上げた瞬間
どかん、という破壊音と共に背後の岩が砕け散った。
「あっぶなぁぁああぁっ!!!?」
そして大量の土煙の中から現れたのは風弓。
「あ、あんた何してんの!?」
「戦闘?また?」
慌てるように問い掛けてくる天癒と呆れたような練融。
「助けて2人とも!!!」
「『アー、?名ん、だ。あンた。たちも…イタん打。?』」
電子音のような声が聞こえる。
そしてその声の方角から現れたのは、豹変した核炎。
「…あんた何したのよ。てか何してるのよ。」
「後で説明するから!!撃退しないと殺される!!!」
涙目で叫ぶ風弓を横目に、天癒が
「はぁ…練融。アレ頂戴。」
「仕方ないわね…制限時間は3分。それまで。」
と言いながら1本の試験管を天癒に投げた。
「はいはいっ、と。」
そしてその中身をぐいっと呷った。
「ほら、あんたも。」
「…これ嫌いなんだけどなぁ。仕方ないか。」
風弓も続いて飲み干した。
「さて、ここからはあんたの思う通りにはさせないわよ!!」
「クリアちゃん遅いなー。おっさんの昔話にも飽きたぜー。」
「クリ…あぁ核炎の事か。」
「俺からすれば核炎って名前の方が不自然なんだけどな。」
と言いながら狂歌は立ち上がった。
「探してくるわ。」
「『あ、ギ…がぁ。』」
「ふふーん。」
ドヤ顔を見せる風弓。自分の援護が無ければ危なかった癖に。
「ほらほら。早く離れる。結界だっていつまでもつか分かんないよ?」
「大丈夫だって!」
なんとか三人がかりで核炎を結界の中に閉じ込めることには成功した。
成功したのだが
「…これ、どうすんの?」
と練融が自分の疑問と全く同じことを口にした。
このまま放置、が1番いいだろうか。一刻も早く逃げた方が良いのは違いない。
「放置、かなぁ。二度とこんな奴と戦いたくないから殺したいけど、殺せるとも思えないし。」
変に手を出して噛みつかれるのは避けたい所だ。
「じゃあそうしましょう…か?」
「あらあらクリアちゃーん。どうちまちたかー?」
見覚えのある顔。
「あ、あんた…さっきの!」
「…クリア…?」
急に現れ、核炎の頬を叩いている。
すると
「…あぁもう。ちょっとドジっただけよ!!」
核炎が元の姿に戻り、平然と対応した。
…あれ。これ不味くないか?
「狂歌様。出して!」
「やーだ。」
「なーんーでー!!」
しかも仲間のようだ。
ますます不味い。
「逃げるわよ。」
「それいいわね。」
「賛成。」
意見合致。
「もう!なんで普通に出してくれないのよ!!」
「えー。だって面白かったんだもん。」
「私はちっとも面白くないんだけど!!」
怒る核炎と、それをさらりと受け流す狂歌。
「はいはい。ちょっとこっち見て。」
「ん?んぅ。」
核炎の口を手で塞ぐ。
「はい。こんなもん食べちゃだーめ。」
「あーー!!!返してよー!!」
そして口の中から1つの鉱石を(無理やり)取り出す。
「だー…めっ!」
そして投擲。
「あー!!!!」
そして崩れ落ちる核炎。
「ほれ。行くぞ。」
失意の核炎を小脇に抱え、滅創達の元へ戻ることにした。
「こいつ、コアの一部食ってやがった。」
核炎が昼食を腹いっぱい食べ、昼寝に入った後に滅創に伝える。
「ほう…?誰の?」
「知らん。知らんが、魔力の濃度的にはコアで間違い無い。」
「で、何か問題でもあったのか?」
「まぁ、そこら辺は説明しようか。」
コアはエネルギーの塊だ。
超越者全員に備わっている器官で、基本的に男性には体内に。女性は体外に存在する。
能力を行使する際には、このコアのエネルギーを消費し、魔力を撃ち出す。
撃ち出すだけでなく、声に乗せたり、剣に纏わせたり、物質化したりなどと、様々な用途がある。
そしてその用途の中に、服用するというものがある。
コアを食べることにより一時的なドーピング効果のようなものを付与し、使用できる魔力を短時間高めることが可能。
だが同時に制御も難しくなるため、暴走する可能性もある。
今回の核炎がそうだ。
「それに、能力の重ね掛けも可能になる場合がある。それは能力が類似してる奴のコアを食った場合に限られるから早々無いけどな。」
「ふむん。儂も知らなかったな、それは。」
「そりゃ俺が見つけた用途だからな。知ってたら逆に驚くぜ。」
「やぁ。氷華ちゃん。」
男は拘束された氷華に挨拶する。
「僕がキミを助けてあげる。」
拘束具が破壊される音。
「あとはお好きにおやり。」
自由になった彼女は、行動を開始する。
「
「ん…もう夕方?」
「おう。おはよう。核炎。」
「あ!おはよう!狂歌!!」
彼女もまた、元気な挨拶と共に、活動を開始する。