凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第15話

溶けて 消えて 凍って また溶けて 消えて 凍って

溶けて 消えて 凍って また溶けて 消えて 凍って

凍って 凍って 凍って 凍って 凍って 凍って

 

いつしか溶けなくなっていた。

 

 

 

 

「クソっ!この非常事態にあのバカはどこに行って…っ!!」

オフィス内を走る東西の手には一向に繋がらない携帯電話が握られていた。

そしてもう3回目に至る発信をした際、繋がるべき相手を見つけた電話は、相手の声を東西に届ける。

『はい。どうしましたか、社長』

練融の落ち着き払った声は、今日に限って東西の気持ちを逆撫でした。

「どうしたもこうしたも無い!今すぐに戻ってこい。緊急事態だ。」

『何があったのですか。』

東西は一度喉を鳴らしてから、現在の状況を伝えた。

「氷華が消えた。」

 

 

 

花は咲く時に1番輝くという。

その前の蕾や咲いた後の萎れた花弁などは、目にも止められない。

こちら側がした努力を全て素通りされた上で、結果のみを讃えられる。

本望であった。が、同時に報われない。

輝きを失った途端、朽ちていく自らの身体と共に忘れ去られる。

倦怠感と共に体の機関が朽ちていく感覚。

我々以外には感じる事すら出来無いだろう。

 

 

 

「消えた…?それはどういう。」

唐突に東西から寄越された連絡に、練融とて動揺せずには居られなかった。

『分からない。だが消えたからには再び取り戻さねばならない。』

間違えてはいない。が、

「相手が誰か分からない状況で動くのは危険では?」

『それもそうだが…何か心当たりでもあるのか?』

心当たり、と聞かれるとやはり核炎達だ。

しかし自分達とは昨日この森で戦ったばかりで、流石に向こうも消耗しているはず。

その状況下で動けるのだろうか?

「いえ、心当たりはありませんが、用心するに越したことはないかと。」

結果、核炎達ではないと判断する。

『一理ある。だが昨日私が去った後から今現在発見するまでの間の犯行だ。まだ犯人は近くにいるかもしれない、そうだろう?』

氷華が1人で逃げた訳ではなく、誰かが助けに来た、もしくは共犯という見立てているようだ。

「そうですね。では調査してみます。」

『頼む。一刻も早く見つけ出してくれ。』

そこで東西の声は途切れた。

「…面倒がまたひとつ増えた。」

携帯電話をポケットにしまいながら練融は呟いた。

 

 

 

咲いて、枯れて、また咲いて、枯れる。

幾度と無く繰り返す破壊と再生。

その都度内側から虫に食われているような苦痛が体を襲う。

歩く事が精一杯だった。

背中(・・)の重みが本当に恨めしい。

だが止まる訳にも行かなかった。

ガシャリ、ガシャリと鉱物が擦れるような音を立てながら、まだ歩かねばならない。

 

 

 

 

「今日こそこの森は出たいなー」

「そうじゃな。」

「森の中って落ち着くよな…つい寝ちまう。」

殲撃が欠伸しながら言う。

全くもって同意だ。永遠に眠れる。

「寝たら叩き起すからな。」

先日加わった仲間は意地の悪そうな笑顔でそう言ってきた。

 

「で、出口なんだけど…」

「どこにあるんだ?」

数分歩いた辺りでそもそも出口を知らないことを思い出した。

「…飛べばいいんじゃないか?」

「おお!」

「その手があったか!!」

核炎と殲撃が同時に振り向いた。

「普通に考えれば思いつきそうじゃが…」

「ま、まぁそれは置いといて、行くぞ核炎!」

「ほーい」

二人同時に飛び立って行った。

「あ、核炎パン」

ある事を伝えようと狂歌が声を掛けると、天から降ってきたコアで顔面を強打されていた。

 

 

「…で。こっちをまっすぐ行って右に曲がれば出られるよ。」

物言わぬ屍と化した狂歌を横目に、核炎から道を教えて貰った。

ちなみに彼女の顔は真っ赤だった。

「ふぐぉおぉ……」

それは人間が出していい声ではないぞ。狂歌よ。

次服買う時はズボンにしよう、という核炎の声も殲撃にはしっかり届いていた。

 

 

 

「氷華を追いかけるって言っても…まずは手がかりを探さないと暗中模索もいいとこね。」

練融は天癒達と別れ、東西から申し渡された任務を遂行しようと、フロスト社のフロントまで戻ってきていた。

「凍花でも落ちてたら一番いいのだけど…」

都合のいいことはそうそう起こらない。

「薬使っても追えないだろうしなぁ…」

取り敢えずといった感じで氷華が元居た場所に移動する。

「無いわよね…」

氷華が拘束されていた部分に残されているものは凍花以外なかった。

中々無理難題を押し付けられた、と練融は心の中で愚痴った。

ここに居ないなら、社外以外ありえないだろう。

そう思い、ドアの方に体を向けた瞬間、

 

「はろー。超越者のお姉さん。」

と声を掛けられた。

お姉さん、と呼ばれて良かった試しが無い。

 

 

「…何者?」

警戒は最大限しているが、最終的な目標は逃げ切ることだ。戦うメリットなどこちらには無い。

黒髪に黒目の男。。身長は168ぐらいだろうか。茶色の髪は見当たらないので、超越者では無い可能性もあるが、自分のように隠している可能性もある。

「そんなに警戒しなくても、取って喰いやしないよ。」

そう言われてはいそうですかと警戒を解くバカが何処にいる。

「…んまぁいいや。氷華ちゃんを探してるんだよね?」

「何故それを?」

「逃がしたのが僕だから。」

 

「何故逃がしたの?」

「誰かが来るとは思ってたけど、まさか超越者が来るとは思わなかったよ。てっきり氷華ちゃんの味方だと思ってた。」

「……質問に答えて。何故逃がしたの?」

「ワガママだなぁ。『咲く直前だったから』って言っても分かんないでしょ?」

「咲く…?」

何のことだ。

「『咲く』って、何?」

「んー…まぁいいや、教えてあげるよ。」

 

「超越者の人達の中に、希に『華』が生まれるんだ。何かしら2つ名に華が付いてることある。」

「『華』とは?」

「んとね。魔力を制御できない人達の事。花みたいに定期的に開花させて発散させないといけなくて、割と不便みたい。萎れて力が出ない時もあるみたいだね。」

これだけならまだ脅威では無いが

「制御出来ない、って言ってもただ未熟なせいじゃない。魔力が多すぎるんだ。意志とは関係無しに魔力を作り続け、放出し、溜め込む。」

「そして歳をとる事にそのサイクルは加速していく。幼い頃は数十年に1回だった周期が数百年を生きる内に1週間に一度になったり、もっと経てば1日に一度起こるようにもなる。」

「そしてそのうち体の方が耐えきれなくなる。老衰した人達や幼すぎる人達は特に、ね。そしてその人達は死に際に『咲く』」

 

 

「自身の魔力を放射状に爆散させながら、巨大な美しい華を咲かせる。超越者最大にして最強の魔術。それが『開花』だよ。」

 

 

「咲く華の種類によって範囲や効果は違う。だけど絶大な威力を誇る事は間違いない。」

と彼は自慢げに言った。

 

 

「人の死が…何がそんなに面白い。」

「凄いじゃないか!死に際に種族として最高の死に方が出来るんだぜ?歪み切った種族として最後に自身のアイデンティティを周囲に知らしめることが出来る。人間冥利に尽きるだろう!」

間違いなく狂っている。

「それに、この死に方をした人達は苦しい思いを数百年してきたんだ。これ以上我々のエゴで生き永らえさせる必要も、義理もありはしないだろう?」

「だからといって!!人の死を喜んでいい理由には為らない!」

練融は叫んだ。

目の前の狂人にはどうしても同意出来ない。

自身のやりたい事をやる、がモットーの彼女にとって、こいつのやろうとしていることは1番許せない事。

だからこそ

「今あんたを殺せば、あんたから氷華の居場所を聞き出せば彼女は救える。だから私はあんたを殺す。」

「物騒なお姉さんだなぁ…戦闘型でも無い癖に、粋がらない方が身の為だよ?」

確かに練融は戦闘向きの能力を持っているわけでも、体を武器に出来るほど鍛えている訳でもない。

だが絡め手は得意な分類に入る。

「誰も私が戦うとは言っていないでしょう。」

1人で勝てないのなら数人で掛かれば良い。

複数対単数が有利なのは確実。

「天癒!!風弓!!」

呼びかけに応じて、天癒と風弓が現れる。

「人使い荒いなぁ…!」

「ほんと、ワガママ!!」

「『天魂薬(エンジェルハート)』」

 

 

「なるほど。『錬成』ね。」

しかし敵が増えた事は彼にとって脅威ではない。

問題は能力相性。彼に通用するかどうかのみ。

通用しないのならば勝利は確実。

 

 

「いつまで余裕ぶってるつもりかな?」

だから油断した。

彼女らの進化があまりにも想定外で早すぎた為に。

「がっ…!!」

天癒の右手に握られている刀剣での一閃は腹部に吸われていった。

飛び散る鮮血と焼け付くような痛みが彼を再び冷静にさせる。

「遅いっ!!『月神矢(アルテミス)』!」

今度は頭への衝撃。視界が赤で覆い尽くされる。

冷静に状況を判断できるほどの余裕すら消し飛ばされ、痛みにのたうち回る。

「っああぁぁ!!!」

手当たり次第に攻撃する。

火。氷。風。雷。毒。

だが全て練融の作り出した機械(ゴーレム)に止められてしまった。

「チェックメイトよ。クソ餓鬼。」

 

 

 

 

「おねえ、ちゃ…ん」

彼が止まった所で状況は変わらない。

最早手遅れになるほどまで氷に侵食された氷華の体は今にもその生命活動を停止しかけていた。

 

だがその体を溶かし、動かし続けるのは1つの感情。

バキン、バキンと音を立てて凍り続ける血管の痛みや、呼吸をするだけで肺の中が冷気で覆われる苦しみも、

 

 

『彼女なら溶かせる』という一途な希望。

 

 

 

 

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