凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第16話

「…時間切れ」

その声と同時に天癒達を包んでいた光が消え去る。

「流石に負荷が重すぎるわね。」

練融は手製の機械(ゴーレム)で男を押さえつけつつ天癒達の方に振り向いた。

「まだ動ける?」

「余裕よ!」

「えぇ。大丈夫。」

まだ余力はあるようだが、戦闘は出来ないだろう。

切り札として取っておいて良かった。

「さて、あんたのことだけど」

「…ははっ」

男が嗤う。

「何がおかしいのかしら?」

押さえつける力を強めながら問う。

「チェックメイト、だって?君は自分の足元を見ていない。」

「何を言っているの?」

べきん、ぼきんと男の骨が折れる音がする。

「かっ…!はは…!!君の目的(キング)は、今どうなってるのかな?!」

「…っ!?」

 

 

氷華が居なくなってどれぐらい経った?

今は何時だ?

彼女が、彼女の心臓が鼓動を止めるまで

 

あとどれぐらいの猶予がある?

 

 

 

息が冷たい。

骨が凍りつく。

筋肉が引き()る。

目から溢れる涙すら氷に変わる。

 

一度止まったら、終わってしまう。

会えないまま。

それは嫌だ。

 

 

 

「なァ…!?今頃もう咲いてるかもなァ!!」

「黙れ…ッ!!」

押し潰す手の制御を崩し、全力で叩きつける。

バキッ、という音と共に男の声は聞こえなくなった。

「天癒、風弓。」

「わかってるわ。」

「…掴まりなさい。」

背中の翼を広げた彼女達は

さながら救いを与える天使のようで、

 

そうあって欲しいと、練融は心の中で祈った。

 

 

 

「…寒くない?もう初夏なのに。」

急激に周囲の温度が下がった事に核炎は身震いした。

「確かに、何かおかしい。」

「なんだ…?」

冷気は森の奥から忍び寄ってくるような気がした。

 

「『爆炎か』」

「やめい。」

ゴン、という音と声にならない悲鳴。

「こんな所でそんなもん…燃えるじゃろう。」

「だって寒いんだもん!」

「何が原因なんだ?」

「………」

狂歌が先程から何も話さない。

「狂歌?」

「なぁ、クリア。」

彼らしくない神妙な面持ちで、

「氷華って、氷を作ったり出来るか?」

 

「な、何よ不躾に…」

「出来るか?」

「…で、出来るよ。で、でも、今は関係ない事じゃない。」

嫌な予感と寒気が心の奥に芽生える。

「ちょっと冷気の源に行ってみよう。」

早まる鼓動には気付かないフリをしつつ、狂歌について行った。

 

 

幾ら幾ら幾ら歩いても、彼女は見つからない。

どこにも居ない。

「さむい、さむいよ。さむい……!」

周りの植物すらも凍り付き始め、傷んだ体に追い打ちが掛かる。

遂に膝が折れた。

「もう…無理………」

手には氷柱が、指には霜が降りていた。

 

 

「どんどん寒くなるね…」

心にも思っていないことを口に出すのは現実逃避の表れか。

「ね、ねぇ。」

狂歌の服の袖を掴み、後ろを歩く。

「戻ろうよ、寒くて、」

震える声で、認めたくない現実を見るのが嫌で。

「ねえっ、狂歌…」

「…核炎。」

滅創の低い声を聞いても、震えが収まることは無かった。

「そっちは、行きたくない。いや……」

狂歌がこちらを振り向いた。

「ね、ね?戻ろ…」

「…誰だ。」

狂歌が自分ではなくその背後を見ている。

「え?」

「おやおや。気付かれちった?ひひ。」

気味の悪い笑い方と共に男が木の影から現れた。

「あんた達が探してるのは、この子だろ?」

その手の中には体の半分以上が凍った氷華が横たわっていた。

「氷華!!」

「ひひっ。ご明察。そろそろ開花するよ、この子。ひひ。」

「氷華から手を離せ。」

「嫌だね。ひひっ。」

凄んだ所で意味は無し。

ならば実力行使に移るまで。

 

「『爆炎核』」

瞬時に右手に魔力を集め、撃ち出す。

「急だね、お嬢さん。けひひっ。」

だが男は無傷。その左手には1本の大太刀が握られていた。

 

「それは儂の作った太刀…一体どこで拾った?」

「知らねぇよ。ひひ。親分から貰ったんだ。けひっ。」

気味の悪い笑い方を続ける男は、愉快そうに返答した。

 

「誰が作ってようが誰が使ってようが何処で拾ってようが関係ないわ。全部吹っ飛ばす。」

核炎が右手のコアを握り締め、

握り締め、

握り潰す。

 

 

「っ、ァあぁ"!!!!?」

黒い液体が核炎の周囲に飛散し、彼女の口から悲鳴が吐き出される。

「これだから後先考えないバカは…なぁ。」

「…ふふっ。だいすき、でしょ?」

「あぁ。」

狂歌に肩を借り、体を立て直す。

そして右手に残った液体と固体全てを口の中に放り込み、噛み砕く。

 

雷轟が森に響き渡る。

核炎の青かった目は黒に変化し、周囲には薔薇の花弁が散っていた。

「あんたの人生にピリオドをぶち込んでやるわ。覚悟なさい。」

 

 

「けひっ。これは、ヤバそうな、けひひ。」

男は太刀を眼前に構え、核炎に備える。

「意味無し。」

核炎が目の前に現れると同時に拳を振るう。

それだけで刀は融解し、使い物にならなくなる。

「まだ刀を折っただけ。戦意喪失するには早いわよ。」

「ひひひ。それはそっちの都合でさ。」

右手と左手に魔力を集結させる。

「『裏神核(ヒノカグツチ)』」

発生する豪炎の火柱。

 

「じゃあな、お嬢さん」

移動術を発動させようとする男の前に立ち

「さっきの言葉は撤回ね。遅い。」

術式を溶かしつつ、男を神炎の檻に閉じ込める。

「『滅炎牢獄(バルカンレイジング)』」

「けひゃひゃひゃ!!!カミサマとやらはとことん俺に手厳しいな!!今から殴りに行ってやるから待ってろよ!!ひゃひゃひ」

「…煩い。散れ。」

拳を男の鳩尾に叩き込むと、男は消し炭と化して消えていった。

 

 

 

「…おはようございます。」

「良かった〜〜無事だ〜〜〜〜」

核炎の魔術の余波で、氷華を覆っていた氷はほぼ溶けていた。

それを涙ながらに喜び、氷華を抱きしめる核炎。

苦しそうだが、満更でも無さそうだ。

その証拠のように背中に手を回していた。

「核炎。コアは大丈夫なのか?砕いていたが。」

 

 

「食べて体の中で再生させたから大丈夫。」

 

その場に居た全員が絶句した。

 





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