『
暗闇から幾度と無く繰り返される重低音に呼応するように、2つの影が現れた。
「はぁい。」
「けひひ。お呼び、ですかね。けひっ」
「『月煌花』」
その2人の体を月の光が包み込む。
「『貴様らに華束の加護があらんことを。』」
その声と同時に暗闇が晴れ、1人の男はネオンの煌めく都市街へ、また1人は宵闇の支配する森へと姿を消した。
「…なんであんた達がここに?」
「それはこっちのセリフよ。さぁ、その子を大人しく渡す事ね。」
相容れぬ邂逅。
氷華を保護した直後に練融達が現れた。
「氷華は私のよ。あんた達には渡さない。」
「こっちにも意地と用事があるのよ。諦めたりはしないわ。」
「…何やら面倒になりそうじゃな。儂は失礼するぞ。」
「あ、俺も。」
「おいおいお前ら…じゃあ俺も。」
「…え。私一人?」
しかも今は戦闘の直後で疲れ切っているのだが。
「はぁ…氷華。あのおっさん達に付いて行きなさい。」
と促すが
「やだ。」
抱きついて離れない。
「そっか。はぁ…」
頭を撫でつつどう対処しようか考える。
とは言っても交渉など専門外な上、代替案など考えつく筈もないので選択肢は1つなのだが。
「とっとと消えてもらいたいもんね。」
拳を作り、人差し指のみを突き出す。
コアが無くなった今はもうこうするしかない。
「『爆炎弾』」
指に魔力を凝縮させ、撃ち出す。
「おっとと。『
が、予想外の障壁に阻まれる。
「いつまで経っても自分が優勢だと思い込んでるのは、ただの馬鹿だよ。」
背後からの声に一瞬反応が遅れる。
「『
「あっぶ…!」
氷華を抱いて真横に飛ぶ。
何とか回避出来たが何度も出来るとは限らない。
「随分余裕が無いじゃない。」
それを読んでいたとしか思えない
「氷華、花貸して。」
「え、え?」
「…出ないか。クソっ!」
これもまた飛んで避ける。
「…アイツ、左手に持ってた玉はどこにやったんだ?」
風弓と天癒が核炎の相手をしてくれている間に練融は思考の海に浸る。
以前はあれから撃ち出される技が大概だった筈で、対応もそれに合わせたもので十分だったはずなのだが…
指から爆発を撃ち出したり、などの単数攻撃ではなく範囲攻撃を使っていた彼女が使わない理由。
「使えない…って事もあるのか?」
何かしらの要因で能力に制限が掛かっている可能性。
もしくはもう使えなくなった可能性。
あくまでも希望論だ。それを信じ込んで油断するのは危険すぎる。
が、その場合最早彼女に勝つことなど容易では無いか。
ただでさえ3対1の人数的には劣勢に立たされている状態で、単騎撃破しか不可能。
「この勝負、貰ったわね。」
笑みを抑えることは出来なかった。
「くそっ。くそっくそっくそっ!」
飛んでくる矢を叩き落とし、
まだ1発も当たっていないことは奇跡としか言いようがない。
「お姉ちゃん…」
「だ、大丈夫。大丈夫だからね。」
この子に不安を感じさせてはいけない。
氷華を一度抱き直す。
「氷華、お花作れる?」
「お花…?」
心細そうに見つめる少女の顔を覗き込みながら、希望を込めて伝える。
「そう。氷のお花。お姉ちゃんに作って欲しいの。」
「…分かった!作る!」
「ありがとう。」
愛らしい笑顔を見せてくれた。
「さて、もうひと踏ん張り行きましょうか。『爆炎刃』」
右手に身の丈ほどの刀剣を作り出し、握り締める。
必死に頑張っている弟子がいるのだ。
ここで踏ん張れない師匠など、存在する価値も無い。
何やらボソボソと呟いた直後から核炎の動きが変わった。
攻撃してくるようになった。
多少のかすり傷や攻撃は無理やり押し切り、氷華にだけは攻撃を当てないように攻撃しているようだ。
「でもそれじゃ、弱点を晒し出しているようなものよ。」
相も変わらず矢の雨と
が、攻撃範囲が広くなったことによりそれはどうにかなる。
問題はあそこで突っ立っているアイツだ。
何をする気か知らないが何かしらを狙っているのは間違いないだろう。
「よっ。」
小さな声と共に矢を叩き切り、そのまま機械に回し蹴りを叩き込む。
「馬鹿みたいな硬さね…」
衝撃で足が痺れるほどの硬度。一体何で作ったらそれほどまで硬質になるのか。
「多少はやり甲斐あるじゃない。」
自分にとって強敵とは超えるべき壁。
その壁を叩き潰すのが何よりも楽しいのだ。
「ちっ、埒が明かない…」
「そろそろ天使化も解けそうだしね…っ!」
眼前まで迫ってきた核炎の刃を間一髪で避けつつ、話し掛ける。
「練融。どうする?」
一度練融の元まで後退し、指示を仰ぐ。
「氷華が居る側を狙いなさいな。でも彼女も戦闘のプロだし、簡単に行くとは思えないわ。」
「了解。」
「ほいほーい!」
戦闘が始まって既に10数分。
そろそろ決着は着くだろうか。
「もう、鬱陶しい!!」
同時に何本も飛んでくる矢を切り、
何度繰り返せば終わるのだ。
機械さえ壊せば、あとは何とか出来るのだが…
「お姉ちゃん!出来た!」
と、そこに天使の一声が。
「お、よくやった。えらいえらい。」
氷華の頭を賛辞と共に撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。
「さてさて。余興はこれまでよ。」
刃を消し、地に降り立つ。
そして氷華から貰った凍花を、
「氷華、あーん。」
「はいっ!」
「…もうちょっとゆっくり入れて欲しかったなぁ。」
「ご、ごめんなさい…?」
「ふふ、冗談だよ。」
あぁ、本当に弟子というのは可愛らしい。
決着は一瞬だった。
核炎が唐突に動きを止めたかと思いきや、その左手から氷を生み出した。
右手からはいつも彼女が使っている緋色の炎。
相反するはずの2つの属性は互いを打ち消し合うことなく、敵対者を殺す牙と化す。
「『氷牙緋奏』」
氷柱と火柱の竜巻が3人と
「じゃあね。またやられたくなかったらもう来ないことだよ、おバカさん達。」
そう吐き捨てると、核炎と氷華は先に行ってしまった薄情者達を追った。
余談だが、核炎の弱点はコアと脳。
普段は体外にあるはずの弱点が体内にある彼女。
最早コアを狙う事すら不可能に近いだろう。
「けひ。また好き放題やっちまいやがって。ひひ。」
戦闘の一部始終を見ていた宵角は
『我等が華束に繁栄を。』
『尽きる事無き栄華を。』
『枯れ果てぬように。』
『朽ち果てぬように。』
『咲き誇れ、華束達よ。』
重低音で斉唱が繰り返される。
月はまだまだ沈まない。
過去最高にゴーレムって書きました。