「『花束を我が主に』」
「『血の花を我等が地に』」
「『果て尽きるまで』」
「『枯れ果てるまで』」
「『未来永劫咲き誇れ』」
暗闇の中で人影が蠢いた。
「はぁ。」
息が切れるのが早くなったように感じる。
以前までは山道を1時間走ったところで息が切れることは無かったのだが。
「お姉ちゃん?」
氷華すら疲れた様子が無いと言うのに。
「…大丈夫だよ。」
私は笑顔で嘘を吐いた。
「なァ。暁角。」
「どうしたの?宵角。」
「この機械さァ!何かに使えると思わねぇか?けひっ。」
機械とは言うが、ただのガラクタじゃないか。
「また君は任務と関係の無いものを…」
「お前だってそうだろ?女をいたぶってた時、笑ってたぞ?けひひ。」
否定はしないが。
「それとこれとは別だよ。任務を楽しむのは悪くないでしょ?」
「違いねェ。けひひ。」
「それに、やられっぱなしは性にあわないしさ。」
月を見上げて暁角は呟いた。
「ほんっと…デタラメだよね。」
髪についた砂をたたき落としながら、風弓は呟いた。
「自然現象すら無視するとか、もう手に負えないわ。」
髪を手で整えなが練融も呟く。
「痛いわー。私居なかったらどうなってたかな。」
天癒だけは少し違っているようだが、3人共核炎のデタラメさにもはや呆れていた。
火だけでも厄介なのに、氷まで。
「…とりあえず今日はベッドで寝たいわ。」
「あら。じゃあ泊まってく?」
「そうしたいなー。」
目的地も決定したところで、3人は立ち上がった。
「やぁっと追いついた。逃げ過ぎよ。」
「だってお前の攻撃びっくりするほど範囲広いし。」
「巻き込まれたくないし。」
「俺はこいつらに付いてっただけだ。」
「卑怯者。」
核炎の鋭利な刃が3人の心を抉る。
「はぁ…もう疲れたのよ。寝るね。」
「お、おう。飯は?」
「要らない。食べる気も起こらない。」
そういうとどこかに行ってしまった。
「…どこで寝るんだ?」
「木の上。」
「…大分怒らせちゃったかな。」
「多分な。」
流石にやりすぎたようだ。
「よし、謝ってくる。」
「…儂は行かんぞ。巻き込まれとうない。」
「俺も腹減ったし。」
「…そうか。」
豪胆な2人に呆れながら、狂歌は核炎を追った。
ちなみに氷華は晩飯に夢中だった。
「…ふー」
動悸がいつもより激しい。
体の火照りが収まらない。
「………」
幹に体重を掛ける。
数百、数千と繰り返してきた行為だ。特に気にする必要も無い。
「う、わっ」
だが危うく落ちそうになってしまった。
もう数秒手を枝に掛けるのが遅れていたら真っ逆さまに落ちていたことだろう。
「…大丈夫かな。」
流石に不安を感じる。
これからの事を考えている内に、視界が闇に包まれていった。
核炎はすぐに見つかった。
「…ほんとに寝てる…寝られるもんなのか。」
すぅすぅと寝息を立てて眠る彼女の顔は身体相応に子供らしかった。
「これでもそう年齢は変わんないんだもんなぁ…」
頬をつつきながら感嘆の声を漏らした。
「ぅうん…」
少しくすぐったかったようだ。
「ふふ。おやすみ。」
彼女を起こさないように、そっと木から飛び降りた。
「っ…うぅ」
忘れていた記憶が蘇る。
生きたまま喰った男の顔。
生きながら焼かれた女の顔。
彼らに共通するのは苦悩の表情。
そして「
護るモノがある自分こそ正しいのだと、そう盲目的に信じてきた。
護るには力が要る。
護り続けるにも力が要る。
だから禁忌に手を出した。護る為に。
「…ほんと、寝つき悪い…」
自分の体を今だけは恨んだ。
あまりの辛さに口角が上がっていた事すら、気づかないまま。
「やぁ。核炎さん。」
見慣れない男が木の上に立っていた。
月の光に照らされて、その男の青色の目が光る。
「早速だけど、死んでもらうよ。」
そしてその右手には鈍色の大鎌が握られていた。
「『死神』暁角。お命頂きに参りました!」
そして言い渡される死刑宣告。
「そんなの、認めるわけないじゃない。」
受け取るつもりなどハナから無い。
「『爆炎だ』…ん?」
体から力が抜ける。
足に力が入らず、立つのすらままならない。
「…何したの?」
「別に?ただちょっと『疲労を引っ張った』だけだよ。」
笑顔で返された。
「立てなくたって戦えるわ。」
拳を握り、人差し指のみを突き出す。
「麻痺か昏睡でもさせることね。『爆炎━━━」
「無駄だよ。」
前に出した腕を握られた。
…見えない速度で。
「ふーん。やるじゃない。」
「随分余裕だね。怖くないの?」
「これぐらいの修羅場なんて幾らでもくぐってるわ。」
「へぇ…」
既に掴まれていた左手と、右手を奴の右手で同時に抑えられ、押し倒される。
「…何する気?」
「こっちの方がやりやすいんだ。何をするにも、ね。」
「……あっそ。」
手からしか爆発を起こせない事は無い。
だが今の体制だと自分も爆発に巻き込まれる可能性が高い。
狙うとすれば、相手が体を起こした瞬間。
「さて、じゃあ頂こうかな。安らかにお眠り。お嬢さん。」
「口上が長いわね。とっととやればいいでしょ。」
暁角が体を起こす。
あと2秒。
あと1秒。
これなら、いける。
「なーんて。わざわざ隙を晒すとでも思った?」
こちらの心を読んでいるかのように、途中で動きを止める。
「お嬢さん、意外と隙だらけだね。なんでこんなやつに宵角は負けたんだろ。」
「そいつが弱かったからでしょ。」
「あぁ。そうだね。でも僕はキミより強い。」
随分傲岸不遜な態度だ。
「だから何よ。寝込みを襲っといて。」
「確実な方法を取ることの何がおかしいんだい?自分より弱い相手に挑む時に油断するのは能無しだよ。」
…心に刺さる事を言ってくれるじゃないか。
「ま。本番はこれからだよ。夜が明けるまで存分に楽しもうじゃないか。」
今夜は眠れなさそうだ。
心の傷というものは。
体の傷と違って癒えるのに時間が掛かる。
そして時が経って、忘れたとしても。
またすぐに息を吹き返す。
完全に癒えることなどそう無く、
ただ隠れているだけなのだ。
だから今回はそこを突かれた。
「ぁ、やめっ…ろ…!」
自分の頬を熱いモノが伝う感触を不快に感じつつも、抵抗の手は止めない。
「嫌だよ。だってキミにはこれが1番確実なんだから。」
「っ、う……ぁ……!」
また眠れない夢を見る。
殺した奴は夢に出てくる。
1人殺せば夢の中で1度殺され、2人殺せば2回殺されて。
3人殺せば3度殺され、4人殺せば4度殺される。
自分が犯した罪を償うことすら許されずに、ただ報復を受ける。
夢は自分が深層心理で見たいと願うものを見ると言うけれど。
私は救われたいだけじゃないのだろうか。
「っ…はっ…!!」
幾度目かの覚醒。
まだ下腹部には重いモノが乗っている。
「あ、また起きた。」
意地の悪い笑みを浮かべながら手を差し出してくる。
「い、いやだ。やめて。」
またアレを味わうのは嫌だ。
「まだまだ。嫌だとも言えなくなるまで、壊してあげるよ。」
また意識が暗闇に堕ちる。
1番最初は焼いて殺した。
2回目は殴って生きているまま喰った。
3度目は炙って喰った。
4度目は意識があるうちに
もう5度目からは覚えていない。
だが、相当な殺し方をしたんだろう。
現に自分は苦しんでいる。
その報復なのだろう。
夜が明ける気配はまだまだ無い。