凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第20話

「餓鬼だな。やっぱり。」

宵角はいとも容易く回収することが出来た幼い体を小脇に抱え、そう呟く。

暁角からの通信が途絶えた。

流石にもう油断している程の余裕は━━━

「あらぁ。何してるのかしら?」

「…やはりな。すっ飛んでくると思ったぜ。」

「あいつしか居ないのは何か不自然だと思ったのよね。案の定だわ。」

両者微笑みながら会話をする。

しかしその胸の内にある感情は真逆。

一触即発の張り詰めた空気。

「まぁ。今私は気分が良いから?今すぐ氷華を手放せば見逃してあげるけど。」

「傲慢なこったな。口から血垂らしといて。」

「……負けたあんたには、ゲホッ…言われたくないわね。」

口から出た鮮血を拭き取る。

「そうかい、そうかい。だったら殺ろうじゃねぇか。その方が良いだろ?なぁ。」

「…当たり前よ。『爆炎刃』」

再び炎の刃を手に持つ。

しかしその大きさは彼女の腕ほどしか無かった。

 

 

 

 

 

「疲れたわぁ。帰ってくるの何日ぶりかしら。」

最近は任務や招集が立て続きに起こったために、住処であるマンションに帰ることが出来なかった。

「おじゃましまー…何この部屋。」

「え?」

「物少なすぎでしょ。私たちの家でももうちょっと物あるわよ…」

練融の部屋にあるのは、1つのテーブルと椅子。そして布団。

この3つだけだった。

「まぁ越して来たばかりだし。」

「それにしてもよ…」

「…ねぇ。」

何故か最初からあまり良くない印象を抱かせてしまったようだが。

「まぁとりあえずお風呂入って。一応何着かは服もあるし。」

「服までなかったら驚きね。」

そこまででは無い。

「じゃあお先。」

「はいはい。」

先に風弓が入るようだ。

「布団邪魔ね。しまっておきましょ……あれ?」

布団を敷いたまま出ていっただろうか。

如何せん何日も前だから覚えていない。

「しまったはずなんだけどな、っ」

そこで誰かが寝ていた。

「へ、ぇっ」

奇妙な声が喉から飛び出る。

「どうしたの、そんな素っ頓狂な声上げて………知り合い?」

天癒も人影に気づいたようだ。

「…ん…ん……?ん!!」

声を上げて起き上がる。

「もう!遅いわお姉ちゃん!!」

 

 

「ひぇ…」

はたまた素っ頓狂な声が飛び出す。

「お、お姉ちゃん…?練融が、か?」

頬を膨らませて怒っている少女の顔と練融の顔を行き来しながら、天癒は震えた。

ちなみにこのあと風弓が風呂から出てきて驚愕のあまり気絶した。合掌。

 

 

「…というわけで、お姉ちゃんのとこに来ました、妹の『雪鈴』です!」

元気いっぱいな挨拶ありがとう。じゃあ寝ろ。

と言いたかったが、まず状況を説明して貰わないとこの微妙な空気が解けることは無いだろう。

「はぁー……どうやって来た?どこから来た?」

とりあえず疑問を投げ掛ける。

「徒歩で!お姉ちゃんと最初に会ったとこから!!」

はい元気いっぱいな返答ありがとう。よし寝ろ。

と言いたい。切実に。もうとにかく寝てほしい。

「…はぁ……まぁいいわ。何時まで居る気?」

面倒な縁を持ったものだ、と過去の自分を叱責する。

自己すら守れないのに、この子をあいつらから守れるだろうか?

「いつまでも!」

「馬鹿なことは言いなさんな。」

右手で手刀を作り、頭に振り下ろす。

「いったぁ…あ……」

呻く幼女を横目に何度目になるか最早分からないため息を吐く。

「ほんとだもん!」

「………そう。」

もう苦笑しながら受け流すことしか出来ない。

 

 

「で、あの子とはどういう関係なの?」

やはり向けられる追求の目。

「…前にあるとこで会ってね。その時に数週間ぐらい世話してやったら、懐かれた。」

「ふーん…あの子、親居るんじゃないの?」

「大声で泣いてるあの子の横で死んでたわ。」

「そう。」

人の死を悼むことは出来ても、悲しむ資格は無いと考えている彼女らには、あまり死というものは心に響くものではない。

特別仲の良い関係でなければ余計に。

「それで、人情溢れる練融お姉さんが助けてあげたと。ご立派ぁ。」

「茶化すな。」

再び手刀。

呻く奴がまた1人増えた。

「間違えてはいないけど。」

そう付け足しておく。

「…もう日付も変わってるわ。寝ましょう。」

「ね、ねぇ、私永遠の眠りにつきそうなんだけ、ど」

呻き声が響くが、3人とも務めて無視をした。

 

 

 

 

 

「…ふっ、ふー…」

肩で浅く息をしながら、どんどん熱くなる胸を抑える。

痛い。裏を使った時ほどでは無いが、重く鈍い痛みが心臓から這い上がってくる。

その痛みが動きを鈍らせる。

「どうしたァ!まだまだ終わってねぇぞ!!」

大上段から振り下ろされる大太刀を避ける。

最初の頃は気にしていたが、今は膝についた泥を拭えるほどの余裕はない。

怒涛の連続攻撃、という言葉がピタリと当てはまる程途絶えない太刀筋。

焼いても溶かしても斬っても全て再生してくる。

「流石に滅創が作っただけあるわ…ねっ!」

懐に潜り込んでの一閃。

逃げ回っているだけでは勝てないということが自分が1番理解している。

そろそろ自分の体力が尽きることも。

なら今の間に攻撃しなくては。

 

そしてその焦りが隙を生む。

男と目が合った。

やばい、と頭が警報を鳴らす。

「残念だったな、お嬢ちゃん。」

胸とは違う━━━腹部に衝撃と痛みが走るのを最後に、意識が消失した。

 

 

 

「ひひひ。呆気なく逝っちまいやがって。」

自分の太刀が捉えた彼女の命を薄ら笑い、男は消えた。

 

 

 

 

太陽が登る。

彼女とすれ違いに。

 

 

 

 

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