男は単純だった。
「自らよりも強いヤツと闘いたい」
それが行動理由であり、生きる糧であり、生き甲斐だった。
戦闘に快楽を興じ、血飛沫に悦を見出し、鉄の匂いに血を沸かせた。
そんな彼が『彼女』と出会うのは、ある意味必然だったのかもしれない。
「…見ぃーちゃった。見いちゃった…!!」
小躍りしそうな体を抑え、小さくガッツポーズを決める。
今最強と謳われた同族は死んだ。
この目で、しかと見届けた。
「山河サンに…報告報告…!!」
月夜の中彼女は走行を開始した。
「んだよ。また死んだのか。」
巨漢が話し掛ける目先には誰もいない。
ただ少しの炭と、巨木があるだけ。
『いやぁ。参ったよ。これで3回目だね。』
だが声は確かに聞こえた。
「死に過ぎてもあんま良くねぇぞ。能力の固定化が出来なくなるからな。」
『それは僕が1番分かってる━━━よっ」
炭が吹き上がったかと思えば、元の男の姿に戻る。
「…またちっちゃくなったのかな。お前が大きく見えるぞ。宵角。」
「けひひひ。明らかにちっちぇな。暁角。」
男…暁角の能力は『
どのような能力が発現するかは本人にさえ分からない、が。
一つだけ確立された絶対的な能力がある。
それは「体を再生出来る」ということ。
ただの再生ではなく、細胞の一欠片や髪の1本さえあれば人間の体全てを復元できる。
記憶や人格はそのままに。
そして再生した際、「ルーレット」が回る。
能力の━━いわゆる「抽選」だ。
ある時は多属性を操る魔術師。
またある時は精神操作を得意とする呪術師。
そして今回は━━
「…なんだ。ただの身体強化か。」
『格闘家』を発現した。
「ただの、ってぇのは間違いだな。体は全てに於いて基本だぜ?」
「それは分かってるけど…痛いのは嫌じゃないか。」
彼は痛みを極端に嫌う。
「こないだ━━って言うほど前でも無いか━━女の子達と戦った時あるだろ。あの時なんて体がぺしゃんこに潰れたんだからな。痛いのなんの。」
「あぁあれは不様だったな!けひひひっ!」
「煩い……ところでその剣はどうした?」
「あー?やっぱ分かるか。」
「そりゃあ魔力が増大しているからな。以前とは比べ物にならない程に。」
鞘から刀身を顕にする。
「あのガキを喰ったんだよ。この刀が。」
「…あのガキってのは?僕が戦ってた奴?」
「そうじゃねぇの?火使ってたし。」
「………喰ったって?」
「殺した後に刀身の色が変わった。んで死体からは魔力のカスも感じなかったし、喰ったんじゃねぇかと。」
「…へぇ。そんな力あったんだ。」
正直驚きだ。
ただの刀では無く、霊刀に近い神器だったとは。
「この刀すげーんだぜ。斬る瞬間だけすげぇ熱くなる。今もちっとはあったけぇけどよ。」
「使い心地は?」
恐らく予想通りの返答が帰ってくるだろうが。
「最高。何でもかんでもスパスパ切れる。」
「だろうな。」
「山河サーン!」
「…来たか。『十色』。」
「来たよ来たよ〜!今回は大事なお話もあるし、ね!」
ノックもせず部屋に入ってくる子供を山河はため息混じりで応対した。
「まぁいい。まずは報告を。」
椅子から立ち上がり、応接間のソファーに腰掛けながら、紅茶の入ったティーカップを傾ける。
「あ、そーだったね!『超越者』が1人死んだよ!」
「ガフッ」
思わず紅茶を吹き出す。
「うわー。きたなーい。」
「…今、なんと…?」
信じられないものを見る目で彼女を見据える。
「だーかーら。超越者が死んだって。」
「誰が。」
恐る恐る追求する。
「核炎。」
「なんだと!?」
これは夢か。
「どういう事だ!なぜ彼奴が死ぬような事が」
「はいはいすとっぷー。」
口に手を当て、黙るよう促される。
「説明はこれからだよ〜!」
「なるほど。弱ったところを追い詰められ、隙を突かれて殺されたと。」
「まぁそゆことだねー。呆気なかったよ。」
クスクスと笑う彼女をぼんやりと見つめながら、もう一つの疑問を投げかける。
「殺した奴は?」
「さぁ?逃げちゃった。私も流石にそこまで追えないよー。」
「…ふむ。」
今やるべき事は何か。それを最優先で考える。
「とりあえずお前は核炎を殺した奴を追え。いいな?」
「はいはいりょーかーい。じゃあさっそく!」
ドタバタと部屋を出ていく十色を視線で見送り、ソファーに深く腰掛ける。
「……本当か?」
逆に気持ち悪い程の朗報だった。
今までは核炎対策に追われ、眠れぬ夜を過ごしていた。
「………とりあえずは、会議だな。」
重い━━いや、昨日よりは幾分か軽くなった腰を上げ、山河は重厚な扉を押し開けた。
全世界の政府に激震が走った。
『特級危険人物である超越者の1人である、核炎が死亡』という唐突すぎる一報は、各国の上層部を引っ掻き回すのに十分な情報だった。
すぐさま世界各国の首脳は画面越しながらも一堂に会し、会議を開始した。
「…そろそろ泣き止め。阿呆。」
涙を流し続ける男は見るに堪えない。
「……………ぉう。」
核炎の遺体から顔を上げた男は、目を真っ赤に泣き腫らし、視線は錯誤していた。
「顔、洗って、くる。」
フラフラと立ち上がり、川の方向へ向かう。
「…葬儀の準備を、してやらねばいかんの。」
「いや、それは必要ない。滅創。」
振り向くと、俯いた殲撃が立ち上がっていた。
「俺がアイツを喰ってやる。」