唐突で、有り得ない申し出だった。
「……もう
冷たく鋭い視線と共に殲撃に現実を突きつける。
「さしずめ喰って能力継承でもしようとしたんじゃろうが……魔力など残されておらん。不自然な程にな。」
そこで1度区切り、額に手を当て、溜息を吐く。
「…お前も核炎もそうだが、同族を喰らうことに━━いや、禁忌を犯すことに躊躇が無さすぎる。」
「もう古のシキタリを守る暇も余裕も無いのかもしれん。だが我々は生まれ落ちた時からそれを禁じ、その禁忌を犯した人物達を蔑んで来た。」
「お前は、ただ『寂しい』という理由だけで核炎を喰おうとしているのではあるまいな?」
川の端に立ち、碌でもない事を考えた。
「どうしたらまた会えるだろうか」と。
ふと思いついたその考えを馬鹿らしいと投げ捨てることも、また具体的な案を考え付くことも無い。
ただ居もしない神とやらに祈る事しか。
瞬きの後に、何事も無かったかのように彼女が隣に居ればいいのに、と。
そんな無力な自分が浅ましく、恨めしい。
とても寒い。
「ねーねー。おねーちゃーん。」
「何。雪鈴。今忙しいのよ。」
「なんか電話鳴って」
言われて初めて聞き親しんだ曲では無い別の曲が流れていることに気づいた。
「はい、もしもし。サティラです。」
『おう。海堂だ。今すぐ招集しろとの指示が上からあってな。今すぐ来れるか?』
「大丈夫です。すぐに向かいます。」
『あぁ。今回は詰所ではなく内閣府に来いとの事だ。くれぐれも間違えるな。』
「はい。」
スマートフォンの画面をタップし、食卓の上に置く。
「雪鈴、私出掛ける用事が出来たから少し留守番しといて。」
「えー。…わかった。」
「ご飯は好きに食べて。」
そう言っただけで食欲旺盛な義妹は目を輝かせ
「分かった!!お仕事頑張ってね!!」
現金なヤツ、とため息混じりに呟き、練融は身支度を手早く整えた後、玄関のドアを開けた。
天癒と風弓には核炎らの監視を頼んでいる。
奴らの行動が不可解な上に予想出来ない為、監視は必須だ。
「…別にそういう訳じゃない。」
「では何故死んだ者を喰おうとする?能力継承も出来ないただの骸を。カニバリズムにでも目覚めたか?」
滅創の容赦ない追求に、喉が詰まる。
言いたい事は沢山あると言うのに声にならない。
「…喰ってみなきゃ継承出来ねぇとも限んねぇだろ。それともこんな愚かな事をした奴が過去に居るのか?」
やっと口から出た言葉はただの自己嫌悪で、子供の言い訳の様なものだった。
「……では聞くが、狂歌にはどう説明するつもりだ?『能力継承出来ると思ったから食べてみた』とでも言うつもりか?」
今度こそ反論の余地が無い。
「儂にはあいつの事はよく分からん。が、少なくとも赤の他人に自分の伴侶を喰わせたいと思うはずが無かろう。」
そもそも喰うという選択肢自体がおかしい事なのだがな、と付け足した滅創を見、再び答えを探す。
答えが存在するのかは知らないが。
そもそも何故喰いたいと思ったのか。
普段の自分ならそのような事は考えずにただ涙を流しているだけだ。
過去の自分なら核炎が死んだのを良い事に、最強は自分だ、などと吹かしていたのかもしれない。
では今の自分が考えている事は何なのか。
禁忌を犯してまで能力継承をするのでは無く、ただ、
彼女の生きた証をどこかに遺して置きたくて。
誰にも渡したく無くて。
ただ自分だけが知っている場所に、核炎が生きたという証明を。
「…何も言い返さないのなら葬儀の手筈をするぞ。」
切り株から腰を上げた滅創を目端で見送り、今自分がしようとしている行動を、遠くから他人事の様に見つめている自分が居た。
「━━は?死んだ?」
練融は目を見開いた。
上官に向けるべきではない言葉遣いをしている事すら自覚せず、質問を投げ掛ける。
「どこで?誰に殺されたと?」
「察しが良くて助かるな。場所はここから少し南の森の中。殺した犯人は不明だ。目撃者も居ることには居るらしいんだが、なんせ夜でよく見えなかったらしい。」
自分達以外に核炎の居場所を知ってる奴が居たという事実は、まだ理解出来る。
転々と移動する彼女らをただ追跡すればいいだけの話だから。
だが死んだというのはあまりにも突拍子過ぎて
「確定情報ですか?」
「あぁ。上も認めてる。間違いは無いだろう。」
上層部が認めたからと言って確かだという保証は無いが…
「分かりました。」
ならばもう彼女らは核炎達を監視する必要が無い。
底抜けの強さを持つ核炎に対してあの3人は自分達で対処出来る。
「そこでお前には、念の為核炎が死んだ事を調査して貰いたい。死体があれば引き上げ、持ち帰れ。いいな?」
やはり不確定なんじゃないのか、と思った事は口に出さず、練融は頷いた。
血と、贓物の匂いが懐かしい。
手を差し込めば差し込む程冷え切った血液が腕を濡らす。
体を揺らしている間にいつの間にか彼女の瞳が開いている事に気付いた。
虚ろな目だった。
生前の彼女がこんな目をする事は無かった。
例え落ち込んでいようが、苦しかろうが、その目には光が点っていたし、その消えない光に堪らなく惹かれた。
そんな彼女に、憧れた。
「俺はお前みたいになれるかな?」