凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第24話

『なんだ、また来たのか』

闇から低く重い声が発される。

『また禁忌を犯した同族が』

その声は瞬くまに硬質な否定の声に変わり

『同族喰らいの馬鹿者が』

段々と怨嗟の声に変わっていく。

『私と同じ轍を踏む気か』

 

 

 

 

核炎の葬儀は簡単なもので済まされた。

元々葬儀場などを用意する時間や金は無く、ただの火葬という形で。

 

 

…核炎を喰った訳だが、遺体は表面だけをどうにか修復して、バレないように工作した。

そして、自身の体には何も変化が起こっていない。

変わった部分と言えば、1つだけ。

毎晩悪夢にうなされるようになった、という事だけだ。

喰った次の日の朝は、寝汗でびっしょりになっていた。

また次の日は悪夢の内容をどうにか理解出来るようにはなっていた。

そのまた次の日からは、耳元で囁かれる声に耐える日々だった。

罵言雑言を、複数人から。

 

『禁忌を犯した阿呆を我々は許さぬ』

禁忌だと言われていたことは知ってる。

『私情を挟み、わざわざ禁忌を犯したお前を許さぬ』

私情しかないだろうな。本来ならそうすべきでは無いんだから。

『………』

核炎を喰ってから1週間経った頃には、会話できるほどまでになっていた。

彼女もこの様な思いをしていたのだろうか。

夜に離れて寝ていたのも、悪夢にうなされる自分を見せたくなかったからだろうか。

『…馬鹿』

低い声の中に高い声があることには、気づき始めていた。

 

 

 

「火すら出ねぇか。やっぱり継承は出来ねぇのか?」

彼女が爆発や炎を起こしていた時にしていたポーズを取ってみたり、能力を使ってみたりしたが、炎が出ることも、体が炎に纏われる事も無かった。

練習すればどうにかなるというものでも無いはずだ。

 

 

喰った事を隠して、3人で氷華を探しながら各地を転々とした。

東京。神奈川。千葉。茨城。埼玉。

「ここはこんなもんか。そろそろ沼だな。」

「じゃな。何か目星でも付けばいいんじゃが。」

「そうだな。」

狂歌も既に立ち直って、氷華を探すことに集中している。

滅創はあの時以来涙を見せることも、悲しみに暮れる姿を晒すこともなかった。

自分も早く慣れなければいけないのだろう。

もうすぐ夏だというのに、自分の右側が━━いつも彼女が居た辺り━━が妙に寒く感じた。

 

 

 

『未だに諦めぬか』

『お前に継承する資格も度胸も有りはしない』

『諦めろ。お前と彼女は同じ器では無い』

何か、おかしい。

今まで罵るだけだった声が少し焦るような声音に変化した。

『直にお前の身を滅ぼすぞ』

『最後の忠告だ』

声が聞こえなくなる。

本来ならここで目が覚めるはずなのに

『…私の事は早く忘れて、諦めて、残りの人生を過ごしなさい。』

聞き覚えのある声が

 

 

「核炎!!!」

目が覚めた。

覚めてしまった。

折角、やっと彼女に会えたというのに。

あの声が妙に耳に残って離れなかった。

「忘れろ」や「諦めろ」はまだ分かる。

「残りの人生を過ごせ」というのはどういう事だろうか。

 

 

「…って事が昨晩あったんだけど。」

「寝ぼけてんのか、お前。」

呆れられた。個人的には核心を突いていたと思うのだが。

「アイツは死んだ。もう会うことも声を聞くことも出来ねぇよ。」

飯を掻き込みながら、狂歌が返答する。

「いや、そもそもの話なんだが俺らに寿命ってあるのか?」

「あるにはある。が、天寿を全うした者は聞いたことがない。」

滅創が答えてくれたが、新たな疑問が

「なんでだ?お前だって老齢だろ?」

「老衰するのは大体…そうさな、2000から3000年の間と言われておる。それまでに殺された、あるいは戦いで死んだ奴が大半なのだ。」

「てかそもそもなんでこんなに長生き出来んだ?人間は100年も生きれば長い方だと聞くが。」

「それは魔力とコアの恩恵じゃな。魔力には多大な生命力が混じっておる。それが体を巡りながら吸収されていくのだ。」

「へぇ。」

なるほどそういうカラクリが。

「黒華が生きておれば今頃3000歳は超えておったんじゃろうがな…」

遠い昔の記憶を思い出そうとする老人は放っておいて

「じゃあなんで核炎は残りの人生、って言ったんだ?」

「だからそれはお前の思い違いとか勝手な妄想なんかじゃねぇの?」

それにしては生々しすぎた。

納得するような理由を見つけられないまま、今日も行動を開始する。

 

 

 

 

『奴ら、しぶといな。』

『けひひ。いつまで経っても探しまくってやがる。そろそろおねんねの時間だってのにな。ひひ。』

 

 

 

 

「あちぃな…」

森の中とはいえ、木々の間から差し込む日光で充分温度は高くなる。

彼女が居たなら今頃暑い暑いと騒いでいたのだろうか。

 

「…そろそろ衣替えの時期かもしれんな。」

と思っていると、唐突に辺りが暗くなり始めた。

「日が雲に隠れたか。当分は凌げそうじゃの。」

辺りがどんどん暗くなる。

陽の光が薄れていく。

 

「…流石に暗くなりすぎじゃねえの?」

もはや夜とそう大差無い程度まで暗くなった。

「……確かにな。何も見えん。」

「明かり…荷物すら見えないな。待つしかないか…」

滅創や狂歌の声がどこから聞こえてくるかは分かるものの、姿は全く見えなかった。

謎の現象に呆れつつ、地面に座り込む。

「早く進みてぇなぁ。」

「まぁ良い休憩と思えば丁度いいじゃろ。」

「さっき休憩したばっかりだろ。」

『そうだね。』

『いい休憩になる事を祈ってるよ。』

 

聞き覚えのない声が間に割って入る。

「誰だ?」

右や左。上かどうかすら分からない。

頭の中に直接語りかけられたような感覚。

その声は反響し、森の中に響く。

『誰かって?』

『君なら知ってるんじゃないのか?焔。』

身に覚えのない事を言われる。

「…何か知ってるのか?殲撃。」

「いや、聞いたことの無い声だ。」

『━━酷いなぁ。忘れるなんて。』

暗闇が一気に晴れる。

 

『いっぱい夢の中でお話ししたじゃないか。焔。』

『僕らと』

『私たちと』

『俺らと』

『儂らと』

 

『なのに、忘れるなんて。』

見えるのは5人の人影。

全身黒で塗り潰された人型の謎のモノ。

 

「…誰だって言ってんだよ。いい加減ハッキリさせやがれ。」

多少の怒気を混じらせながら凄むと、中央の人物意外は多少たじろいだ。

『まだ分からないかな?君が夢の中で話していた人物。それが僕らだよ』

『いい加減にしろ』

『禁忌を犯した事を忘れたか』

『大罪人が自分の罪を忘れるとは』

『同族として情けない』

 

夢の中で話した人物。

という事は彼女も

「…誰がどうだかなんだか知らねぇが、核炎は。あいつは居ねぇのか。」

『なんだ、彼女に用があるのかい?』

『ならば罪人にふさわしい最期を見せてやろうか』

『『『最悪の人形劇の始まりだ』』』

 

5人の声と同時に、また辺りが暗闇に包まれる。

そして闇が晴れた時、その中心に居たのは

『…やっほー。』

笑顔で手を振る核炎だった。

 

 

 

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