凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第25話

にこにこと手を振る彼女の姿が懐かしい。

たった1ヶ月ほど見なかっただけなのに。

 

 

 

「核炎……核炎か…?」

狂歌が目を見開く。

うわ言の様に彼女の名を呼ぶ。それに対し

『…狂歌』

核炎の声は冷たく硬いものだった。

『ごめんね。』

そしてその口から紡がれる謝罪の言葉。

『今貴方に構ってる時間は無いの。』

小さな白い手がこちらに向けられる。

『…『爆炎核』』

 

 

日光すら凌駕する光が彼女の右に浮かぶ球体から生み出され

━━━爆発した。

 

「…核炎……?なんで………」

明らかに生前の彼女と同じ技。

回避には成功したものの、大きく吹き飛ばされてしまった。

威力も健在。

『やっぱり避けられた。流石だね。滅創。』

笑顔を崩さない彼女は、今も尚問い掛けを続ける。

『…皆して、黙って。酷いなぁ。』

冗談じゃない。

「こちとら驚きの連続でな。まともに頭が働かねぇんだよ。」

震えた声でそう返すと

『あぁ、そうだ。殲撃。』

 

 

『私は美味しかった?』

 

 

 

 

「…なんで生きてやがる?」

宵角は木の上に立ち、核炎を見下ろしながらそう呟いた。

あいつは自分が確かに殺したはずだ。

確認こそしていないが、殺したという手応えはあった。

だが彼女は今笑顔で喋っている。

「なんだ、よく分からねぇな。」

考えることが苦手な彼は、そこで思考を打ち切った。

 

 

 

 

「…貴様、やはり喰ったのか。」

『あ、気づいてたの?』

「薄々な。お前から出ていた血は葬儀の時には既に固まっていたのに、血の匂いがしたのはおかしいと思っていた。」

手で口元を抑えながら ふふっ、と笑う彼女の姿は見慣れたもので

『そっかそっかぁ。やっぱり滅創は流石だね。』

「餓鬼にはまだまだ負けんわ。」

笑みを収めて

『じゃあ、貴方からかな。滅創。』

唯一生前と違っている部分を握りしめ

 

『ばいばい。』

別れの言葉を口にした。

 

 

 

滅創が戦闘出来るのは約2分。

つまりその間で核炎を無力化し、拘束する。

━━もしくは殺さねばならない。

120を数えている間にそんな事は出来るのか。

 

 

ただでさえ彼女は同族の中でも最強クラスだと言うのに、圧倒的ペナルティを抱えたまま、そのような戦闘に入るのは火の中に飛び込むのと大して変わらない。

だから

「俺もやってやんよ。」

狂歌の声と

「3対1で丁度いいんじゃねぇの。はは。」

殲撃の乾いた笑い声は頼もしいものだった。

 

 

 

「そろそろおっぱじめそうだな。んじゃ退散するかな。」

「おぉっとお待ちをぉ。貴方には用があるんだー。」

自分の上から投げかけられる声に、驚く間も無く飛来する短剣を避ける。

「すごいすごーい!よく避けられたね!」

「…なんだ?お前。」

投擲されたものとは釣り合わない幼い顔。

「私?私はねー。『十色』って言うの。覚えなくても別にいいよ!」

「んで?喧嘩でも売りに来たのか、嬢ちゃん。」

刀の鞘を払い、いつでも切り掛かれるように構える。

「喧嘩?あはは!違う違う!」

急にボクシング選手のような構えを取り、軽いフットワークを始める。

「事情聴取、だよっ!」

忽然と姿が消える。

「『氷爪』」

 

背後から声が聞こえ、脳に到達するまでの数コンマの内に走る

背中への痛み。

「当たっちゃった?『雷蹴』」

続いて脇腹への痛み。

「がは、ひひっ。」

が、こんなものは受け慣れている。

 

「油断してんなよ、糞餓鬼!!」

彼女が蹴った辺りを薙ぎ払う。

が、そこに既に彼女は居ない。

「遅い遅い〜『炎牙』!」

腕に走る焼け付くような痛み。

「ぺらぺら喋ってんじゃ、ねぇよ!!」

呼吸を整え、刀を持っている手を掲げる。

 

「『断捨り』」

「遅い。━━━『爆炎核(・・・)』」

刃が彼女の体を喰う前に、新たな技が彼女から繰り出される。

「何故、お前が、それを……!?」

消えゆく意識の中、答えを知ることのない質問を投げ掛けた。

 

 

お姉ちゃん(・・・・・)の技、見よう見まねだけど上手くいったね。」

 

 

 

「…何故奴に『氷華』を任せた?」

スクリーンに映し出された光景を見た暁角は敷かれたキーボードを叩き壊しながら問うた。

『色んな能力で攻め立てたのはお前だろ?それを彼女が吸収しただけだ。』

暁角の後ろの鎧からくぐもった声が発される。

「…クソが」

 

 

 

 

『3対1?レディーファーストって考え方、無いの?』

「男勝りな奴が良く言うよ。」

軽口を叩き合いながら、交差する拳。

『相変わらず女としては扱ってくれないのね。殲撃。』

右ストレートを受け止めながら、ジャブを繰り出す。

「俺よか強い奴を女扱い出来るかよ。」

案の定片手で払われ、依然彼女の優勢は揺るがない。

 

 

「…隙がないな。」

2人の戦闘に割って入る隙が見つからない。

「隙は見つけるものじゃなくて作るもんだ。お前はそこで見てろ。」

「無駄に頼もしいな。頼んだぞ、狂歌。」

「無駄には余計だ。」

珍しく、軽口を叩いた。

現実逃避したくなるほど、精神が追い詰められているのだろうか。

自分が使える時間はたったの2分。

その2分が訪れるまでに腹を据える必要がある。

 

 

 

「俺も混ぜろよ。」

背後からの声を聞いた瞬間に核炎と距離を取った。

そこに割って入るように狂歌が現れる。

『…最初に殺っときたかったなぁ。貴方は。』

「物騒だな。相変わらず。会った時と変わりゃしない。」

狂歌が相手をしてくれている間に息を整える。

ある時刻まであと

━━━5分。

 

 

『私、徒手は苦手だから。最期苦しいかもしれないよ?』

「そうか。随分余裕だな?」

細い腕を躱し、襟首を掴みながら話しかける。

『だって、貴方より強いもの。』

投げる為に一呼吸入れた一瞬の隙を突かれ、形勢が逆転し、浮遊感に包まれる。

「おっとと…」

なんとか空中で立て直したものの、着地してすぐには動けない。

『……それに、手で人を殺した事が無いから。』

逆に襟を掴まれ、また投げられる。

「怖いか?」

焦らずに再び体勢を立て直す。

彼女は動きを止めて

『…知らないわ。』

俯いてそう答えた。

 

 

「…あと1分。」

閉じていた瞳を開け、彼女の姿を追う。

「『命刈鎌(デスサイス)』」

手に黒い鎌を持つ。

両手で柄を握り締め、構える。

「あと30秒。」

 

 

 

『爆炎核』

いくら撃っても当たらない。

 

『爆炎弾』

いくら撃っても

 

『氷牙緋奏』

いくら

 

『神ノ恒星』

撃っても

 

全て狂歌を素通りし、周りに火の海を作るだけ。

狙っているのに。

命を刈り取るために。

殺す ために

『………っ』

 

何故殺さねばならない

 

 

 

 

「3秒」

体勢を低く構える。

「2秒」

全身の筋肉に力を入れる。

「1秒」

 

 

「ゼロ」

 

 

 

 

 

 

 

『………あ、は』

黒い鎌が赤で染まる。

そそり立つ刃に赤が浮かぶ。

『…油断、しちゃった。』

ボトボトと地面に滴る血液が、大きくなっていく。

『もうちょっと、上手く殺れないの?』

喋る度に口から血液が溢れる。

「…文句言うな。」

余りにも場違いな質問に、滅創は低い声で答える。

『終わりかぁ。』

 

 

 

また涙が溢れる。

『…死にたくないとは…げほっ。思わないけど、早すぎるとは思うんだよね。』

こんな状況になっても依然気丈な姿を見せる彼女に

『寂しくないわけ?』

「馬鹿野郎。」

ごちん、という音が辺りに響く。

『いった。何すん』

「…寂しくない訳ないだろ。」

抱き締める。

だんだんと冷たくなっていく伴侶の体を。

 

 

『…ふふっ。前はお別れ言えなかったけど、今回は言えそうね。』

「お前は…寂しくないのか。」

『寂しくなんかないよ。』

か細い力で抱き締め返される。

『いつも、げほっ…上から、見てるから。』

 

『殲撃、滅創。狂歌。』

恐らく最後になるだろう彼女の声は震えていた。

 

 

 

『じゃあね。』

 

 

 

 

 

 

 

「今度こそ言えた。ふふっ。」

小さな声は音になることなく、消えていった。

 

 

 

 




作者泣きそうです。
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